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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【46話】カーテの情報戦略

ラーヴワスの長い… とても長い話しを聞いたギルエは若干疲れた顔をしていた。ラーヴワスの話しについては完全に信じてはいなかっただろうが、否定もしきれずにいたようだった。


「どうじゃ? わしの仲間にならんか?」

ノブナガの問いにギルエは少し考えて答えた。


「私は騎士だ。 騎士は王国の剣であり、王国と王国に住む王国民を守る為にある。 もし私が貴殿と共に歩めば王国民は不安の夜を過ごす事になるだろう。 それは私の求めるところではない。よって、私は王国に戻らなければならないのだ… 再度、貴殿らと刃を交えてもな」

ギルエは覚悟を決めた目でノブナガを見ていた。


「ふむ… そうか。 なら致し方あるまい。 次、会うのは戦場になるじゃろうな」

ノブナガはニコっと笑い右手を差し出した。


ギルエは一瞬、戸惑うような顔をしたが、すぐに凛々しい顔に戻り力強い声で答えた。


「ああ、次は負けない」

ギルエはノブナガの手を取り、固く握手を交わし安土城を出て行った。



ギルエが去り、さっきまで賑やかだった安土城には静けさが訪れていた。


ギルエが王国へ帰った後、ノブナガの下にはミツヒデを筆頭にいつものメンバーが集まっていた。


「兄貴、ギルエを帰してよかったのか?」

セミコフはノブナガの横にドカっと座りながら尋ねた。


「ふむ。ギルエが仲間になればよかったのじゃが… まぁ、致し方あるまい」

ノブナガは酒をクイっと飲みながら答えると、


「致し方… って」

セミコフは少し不満そうにボヤいていた。


「セミコフ、お主はギルエが王国に帰るのは不満か?」


ノブナガの問いにセミコフは少し口を尖らせながら答えていた。

「いや、不満とかじゃねぇけどよ。 あいつはロイヤルナイツなんだぜ? 仲間にならないなら、いまここで殺しといたほうがよかったんじゃないのか? って思っだんだ」

セミコフの考えは間違いではないだろう。

せっかく捕虜として捕まえた敵国の重要人物なのだ。

このまま帰せば、また戦力を集めて襲撃してくるだろう。

しかも一度戦った相手だ。

こちらの手札もバレている。

それなりに対策してくるのが当たり前だ。

それならここで殺すか、殺さないとしてもせめて王国との取引きに利用すべきだと、普通は考えるものだ。


だが、ノブナガはそのどれもしなかった。

ただ話をして、『致し方ない』と帰してしまったのだ。

セミコフでなくても不満に思うのは当たり前だろう。


「あやつはラーヴワスから話を聞き、王国の裏の顔を知った。 今は騎士としての責務から王国に帰らなければならないと考えておるようじゃが、王国への帰り道でたくさんの王国民と触れ合いながら帰る事になるじゃろう。そうしているうちにいろいろと考える事になるじゃろう。 此度の戦に備え、カーテが各町で仕込んでおるからの…」

ノブナガは不敵な笑みを浮かべながら、くくくと笑いを堪えていた。


不意に名前を出されたカーテは一瞬理解が及ばす間の抜けた顔をしていたが、すぐにノブナガの意図を理解し得意気な顔になり話し出した。


「あぁ、オレ達、商人としての情報操作は完璧だぜ。 あいつが王国に着く頃には、王国に対する不信感がピークになっているだろうな」

カーテは親指を立て、その美丈夫な顔立ちで爽やかに笑って見せた。


「情報操作って、一体何をしたんだ?」

セミコフがカーテに尋ねると、興味深そうにティアやソレメルたちが集まってきた。


「ふふふ。 オレ達はただ町でひとつのことを言っただけさ。 『メルギドでは種族に関わらず、みんなが楽しそうに暮らしていた。 あんな活気ある町は見た事がない』とね」


「え? ただそれだけ?」

ティアは不思議そうにカーテを見ながら尋ねる。


「ああ、それだけだ」


「それだけで、ギルエに王国に対する不信感を持たせる事ってできるの?」

ティアはカーテが言っている事が理解できずに、食い入るように尋ねていた。


「それか出来るんだ。 オレ達、商人はいろんな町に行っていろんな人達に出会う。 それはどこの町に住む人でも理解しているだろう? だから、あまり町から出ない人にとってはオレ達が持ってくる情報は刺激のある話しなんだ」


「うん。それは分かる。 あたしも他の町の話を聞いて胸を躍らせた事もあるわ」


「そうするとだ、人間は『見たこともない町』と『今の自分の生活』を比較し始める。 だれもが今よりいい暮らしがしたい、少しでも贅沢がしたい、面白おかしく生きてみたい…って考えるからな。 そうしているうちにメルギドに行ってきたという人物が現れる」


「うんうん」と、頷きながらいつの間にか集まってきていたパルやチカムたちも真剣にカーテの話を聞いていた。


「メルギドに興味を持った人は、当然メルギドはどうだったか?と聞くだろう。 そして、オレが話していたように『メルギドでは種族に関わらず楽しそうに暮らしていた』と聞く事になる。 そりゃ当然だ。 事実なんだからな」


「そうね。 この町じゃ、ヒトも獣人も、魔族まで仲良く暮らすようになったわ」

ティアはラーヴワスをチラッと見ながら、カーテの言葉を肯定した。


「それを聞いた人間は、オレ達の話が真実であると確信する。 すると、今の生活に何かしら不満を持っているヤツは、なぜ自分はこんな生活をしなければならないのか? メルギドに行けば自分も幸せになれるんじゃないか? と、考えだすんだ。 それと同時に『自分が抱えている不満』の原因は何か?と考える」

カーテは人差し指を立てて、まるで推理小説の探偵が自分の推理を披露するように話していた。


「うん。そうだよね。 あたしがその町の人なら、たぶん同じように考えると思う…」


「そしてしばらく日が経つと、オレがメルギドの話をする前に町の人間から『メルギドに行った事はあるか?』と聞かれるようになったんだ。 そんな時にあの事件だ。 キシュリの姉さんを殺した王国の使者と騎士がノブナガのアニキに殺された… ってやつ。 あの事件は衝撃的で、あっという間に各町に広がった」

カーテはだんだん興奮してきたのか、身振り手振りが大きくなってきていた。

そしてティアやパル達は、どこかの英雄譚を聞く子供のように目を輝かせていた。


「そして、キシュリの姉さんの葬儀だ。 メルギドではただ『獣人の女ひとり』が殺されただけで『ヒト族』が使者と騎士を殺し、その『ヒト族』は処罰を受けるどころか英雄のように扱われている。 しかも、『獣人の女ひとり』のために町が葬儀を行い、メルギドだけでなく近隣の町や村からヒトや獣人、亜人、魔物まで集まって悲しみにくれていた…」

カーテは一息ついて、言葉を続けた。


「普通… いや、今までは獣人が1人殺されようが、誰も気にも留めなかった。 しかし、メルギドは違った。たった1人の獣人でさえ、こんなにも大切に想ってくれている。 町で虐げられながら生きる獣人達は、メルギドは理想の町だと確信しただろう。 そしてヒト族も同じように理想の町だと考える者が増えるだろう。 そんな時、更に衝撃的な噂が飛び込んできた」

カーテはニヤリと笑いながらティア達の顔を、くるりと見た。


「衝撃的な噂?」


「そうだ。 葬儀の後、メルギドだけじゃく近隣の町の人々が集まり王国に対して武器を持った事だ。 そりゃぁ、凄かったぜ。 獣人1人のために町が泣き、更に王国に刃を向けたんだからな。 しかも、獣人だけでなく、ヒトや亜人、魔族… 今までの王国では考えもつかない行動だっただろう。 でも、メルギドは違う。もしかしたら、メルギドが人間達が生きる『真の姿』、『理想の姿』ではないのか? と町じゃあちこちで議論されるようになったんだ」


「そうだったんだ… 知らなかった…」

ティアは目を丸くして、カーテの話を聞いていた。



「そして、オレ達は王国に勝った。それも圧倒的にな。 この噂もあっという間に王国中に広がっているだろう。 それを聞いた王国民がどう考え、どう行動するのか… オレは楽しみで仕方ない」

カーテは腕を組みながら、本当に楽しそうに話していた。


「で、それとギルエが不信感を持つのとどう繋がるの?」

パルは不思議そうにカーテに尋ねる。


「ん? ああ、そうだった。 町の人間がメルギドを『理想の姿』だと考えているところに、『メルギドに敗れたロイヤルナイツのギルエ』が現れたらどうする?」

カーテは逆にパルに質問を返す。


「え? んー… パルなら、たぶん遠くから見るだけかな? 」

パルは人差し指を口元に当てながら答えた。


「そうだな、ほとんどの人間がそうだろう。 だが、それはこれまで英雄だったギルエにとっては耐え難い状況となるだろうな…」


「んー たしかに。そうかもしれないね」

パルはギルエの状況を想像しながら答えていた。


「そんな状況下でも、なかには空気を読まずに話しかける奴がいるんだ。 なぜ負けたのか? それでも最強と謳われたロイヤルナイツか? ギルエが負けるなら、誰が自分たちを守ってくれるのか? ってな」

それはカーテがこれまでいくつも見てきた状況だった。

いろいろな町で商売をしてきたカーテは、魔物や獣人、盗賊団に襲われた町もたくさん見てきた。

王国騎士団も完璧ではない。

負ける事もあるし、そもそも襲撃に間に合わない事もある。

そうすると、必ず町の人々は騎士達を責めるのだ。


「更には町を離れメルギドに向かう人々とも出会い、王国を否定するヒト族まで見聞きする事になる。 行く先々の町で憐れみの目で見られ、責められたギルエはどんどん自分を責める事になるだろう。 そして、ギルエもまた『人間』なんだ。 王国の裏の顔を知ったギルエは、今の状況を作ったのは王国の責任だと考え始めるってわけだ」

カーテはドヤ顔で一通り説明すると、最後にこう付け加えた。


「まぁ、全部ミツヒデ殿の策だけどな」

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