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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【43話】戦利品

「次だ! 撃て!!」

ミツヒデの怒号とも思えるような号令に、魔道銃部隊は次々と入れ替わりながら発砲していた。

その弾幕は途切れる事なく、王国戦士達の体勢を立て直す隙を与えなかった。



「おい、アレはなんだ?」

ロシェはリムンドに尋ねるが、リムンドがその答えを持ち合わせているはずもなくお互いに顔を見合わせているだけだった。


「まぁ、とにかくワシらが王国に勝てる。 それは間違いなさそうだな」

リムンドはバトルアックスを握りしめ不敵な笑みを浮かべていた。


「ああ、コッチについて正解だぜ」

ロシェも好戦的な目で王国軍を睨み、笑っていた。


「よく言うぜ。 さっきまで逃げようとしていたクセに」


「うっせーよ。 オレは楽して金が稼げりゃそれでいいんだよ」


ふたりは腹から笑いながら、突撃の指示が出るのを今か今かと待っていた。


その時、空にひとつの光の球が打ち上がりゆらゆらと落ち始めると、すぐに少し離れた場所から同じ光の球が2つ打ち上がり、同じようにゆらゆらとゆっくり落ちてきていた。


「アレは?」

ロシェが不思議そうに空に打ち上がった3つの光の球を見ていると、王国軍の側方と後方で戦闘が始まった。


「な… なんだ? 何が起きてる?」


リムンドやロシェだけでなく、冒険者や義勇兵たちは何が起きているのか理解が追いつかず動揺が広がり始めていた。

だが、明らかに王国軍の勢いは無くなり、さっきまで王国軍から飛んできていた魔法の密度も激減していた。



その頃、ノブナガ軍中央ではティアがノブナガに報告していた。

「ノブナガ、パルとチカムから合図があったわ。 魔族部隊と不死の部隊が攻撃を開始したよ」


「うむ」

ノブナガは馬上からティアの報告を受けると、抜刀し天に振り翳し叫んだ。


「全軍、突撃!  いくぞーー!」




「者共! 突撃だ! いけー!」

その時、獣人部隊や義勇兵、冒険者たちをとりまとめるセミコフの号令が飛んだ。


「「おおおぉぉぉぉ!!!」」

セミコフの号令に弾けるように獣人部隊、義勇兵、冒険者たちは突撃を開始した。



同じ頃、ミツヒデも魔道銃部隊に次の号令を叫んだ。

「魔道銃部隊! 銃剣装備!」


号令に反応し、先程まで途切れる事のなかった弾幕が止まり魔道銃部隊は魔道銃を槍のように構え、次の号令に備えた。


「いけーーー!」

ミツヒデは抜刀し、魔道銃部隊を率いて王国軍へ突撃を開始した。




王国軍は三方からの攻撃に対応しきれなくなっていた。

後方ではアネッサが召喚した大量のアンデットがその圧倒的な数を利用した攻撃を叩き込み、更には死亡した騎士や魔法使いたちがアンデッド化し王国軍を襲い始めた。


側方の王国軍戦士達はギルエが参戦した事により状況が好転するかと期待したのだが、ラーヴワスの圧倒的な力の前にギルエが倒れたのを目撃して、我先にと逃げ始めていた。


そして、正面ではノブナガを先頭に月女族、獣人部隊、義勇兵、冒険者、そして魔道銃部隊が王国軍に斬り込んでいた。




「くそ! なんなんだ! これは一体なんなんだ!」

苛立ちを隠すこともせずヤールガは、この状況を見ていた。

その時、ギルエの応援に行った騎士のひとりが息を切らして帰ってきた。


「だ… 団長!! ギルエさまが討たれました!」


「な… なんだと?」

ヤールガは目の前が真っ暗になるような感覚に陥り、改めて現状を見渡した。

戦士達は我先にと逃げ出し、魔法使い達は魔力切れを起こし始めている。

騎士達にはまだ戦う意志を感じるが、この状態を打破出来るほどの数はいない。


(くそ… もうダメか)

ヤールガの頭の中には、この言葉しか浮かばなかった。


その時、ヤールガの目の前にノブナガとティア、数人の月女族が現れた。


「ノブナガ殿…」


「ヤールガ殿。 わしはお主を気に入っておる。どうじゃ? わしと共に来んか?」

ノブナガは馬から降りると、ヤールガに静かに話しかけた。


ヤールガの周りには数人の騎士がおり、ノブナガの申し出に戸惑いながらヤールガの答えを待っていた。


「…ノブナガ殿。 わたしは… いや、我が騎士団は貴殿に感謝している。 あの時、わたし達はフルークを前に心が折れてしまった。 貴殿が居なければ、我が騎士団は全滅していたでしょう。 そして、チトナプをはじめ周辺の町は甚大な被害を受けていたでしょう」


ノブナガは、ただ黙ってヤールガの話に耳を傾けていた。


「ノブナガ殿。 わたし達は貴殿と共に戦える事を夢見ていました。 ですが、それは『騎士団』として… なのです。 我らは王国の剣。 王国に仇成すものは、我らが斬らなければなりません。  …例え、貴方でも」

ヤールガは覚悟を決めた目でノブナガを見ていた。


「…そうか。 ならば致し方あるまい」

ノブナガも覚悟を決め、刀を抜いた。


「ノブナガ殿。 ひとつ頼みがある」


「うむ。 申してみよ」


「この状況で、何を… と、思うでしょうが… わたしと一騎討ちをお願いしたい」

ヤールガは騎士として、そして1人の男としてノブナガに挑む事を望んでいた。


「…うむ。 承知した」

ノブナガはヤールガの申し出を受け刀を正中に構えた。


ヤールガも騎士剣を抜き、上段の構えでノブナガと対峙する。


「ノブナガ殿、来世では仲間として会おう」


「うむ。 次は共に戦う仲間として会おう」

ヤールガとノブナガは少しだけ微笑むと、同時に動いた。


ヤールガは身長差を活かし上段からノブナガを袈裟斬りするように斬りかかった。


ノブナガはヤールガの懐に踏み込むと、下段からヤールガの首を狙って斬りあげる。


決着は一瞬だった。ノブナガの刀はヤールガの騎士剣を斬り、そのままヤールガの首を斬ったのだ。


「ヤールガ殿… さらばじゃ」


ヤールガの首は騎士剣と共に落ち、大量の血を噴き上げながら倒れた。


「敵将の首を取ったぞーーー!」

ノブナガの叫びを聞き、王国軍はノブナガ軍がいない方向へ散り散りに走り出し敗走した。



「我らの勝利だ! 勝鬨をあげよ!!」

王国軍の敗走を確認し、ノブナガが叫ぶ。


「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」

ノブナガ軍は追撃を止め、武器を天高く掲げ勝鬨をあげた。

開戦から半日も経たず、ノブナガ軍は王国軍から勝利をもぎ取ったのだ。

ノブナガ軍の損耗は軽微であり短時間での勝利を収めたこの戦は、後にノブナガ軍の完全勝利であったと伝えられる事になる。

そして、この戦は各国には衝撃を与えた。その反面、これまで虐げられてきた獣人や亜人達には希望と勇気を与えたのだった。




ノブナガ軍の勝鬨を聞いた門兵達は、閉ざされた門を大きく開きノブナガ達の帰還を両手を振って迎えていた。


「凱旋だ」

ノブナガ軍は門兵達の声援を受けながらメルギドに続く街道を進んでいた。

少しして、アネッサとチカム、ヒカムが帰還し、その後、ラーヴワスとパル、キカム、そして魔物… いや、魔族達が意気揚々とメルギドに帰還していた。


安土城に避難していた町の人達もノブナガ達を一目見ようと、町の中心を通る大通りに集まってきていた。


「うむ。 民が無事でなによりじゃ」

ノブナガは町の人々の笑顔を見ながら、満足そうに大通りを進み安土城へ帰っていった。


安土城ではソレメルと第一秘書のヘルトエが、ノブナガの帰りを待っていた。

「ノブナガさま、この度の勝利、おめでとうございます」


ソレメルが恭しく頭を下げると、合わせるようにヘルトエも丁寧にお辞儀をしていた。


「うむ。 出迎えご苦労」

ノブナガは馬から降り、ソレメルの正面に立った。


「宴の準備が出来ております」

ソレメルが満面の笑みでノブナガを見ると


「宴じゃと? 準備がいいな」

ノブナガは少し驚いたようにソレメルを見ていた。


「ええ、ノブナガさまが『圧倒的に勝つ』とおっしゃっていましたから。 当然の準備でございますよ」

ソレメルは笑いながら答えていた。


「ふむ。 なるほどの」

ノブナガはニヤリと笑いながらソレメルの肩をポンっと叩くと、自警団や冒険者、獣人部隊、魔族部隊たちの方に振り向いて叫んだ。


「お主ら、宴じゃ! たらふく飲め!!」


「「うぉぉぉぉ!!」」

ノブナガと共に戦ったヒト種族、獣人族、半獣人に魔物たち、全ての『人間』たちが手を取り合い、最高の笑顔で笑い合っていた。



ノブナガが優しい笑顔で戦士達を見ていると、同じように優しい笑顔を浮かべたミツヒデがやってきた。


「これがノブナガさまが見たかったモノなのですね」


「うむ」

ノブナガは短く答えると、クルリと安土城の方に向き歩き出した。


「さぁ、宴じゃ」


「はい!」

ミツヒデやティア、ソレメルたちはノブナガの背中を追うように安土城に向かって歩いていった。



ノブナガと共に戦った戦士達が大広間に用意された酒や料理を楽しんでいる頃、ノブナガやミツヒデなど幹部メンバーは天主に集まり食事をしながら、これからについて話し合っていた。


「ねぇ、ノブナガ。 あたし達はこれからどうなるの?」

ティアは少し不安そうな表情を浮かべていた。


「うむ。 わしらの力は列国に知れ渡った。 特に魔道銃という新しい武器には注目が集まっているじゃろう。 此度の戦で勝てたのは、アクロチェア王国がわしらを軽視していたところによるものじゃ。もし、それなりの準備をして来ていたら、今回のようには勝てなかったじゃろう」

ノブナガは盃に注いだ酒を一息で飲み干すと、深く息を吐いた。


「左様でございますな。 此度の戦、ほぼ不意打ちに近いものでした。 次はこう上手くはいかないでしょう」

ミツヒデもまた深く息を吐き、両腕を組んで考えていた。


「そ… そうなの?」

ティアはノブナガとミツヒデの顔を交互に見ながら、さらに不安そうになる。


「まぁ、確かに今回の勝ちは、王国がオレ達を見下していたのも大きい。でもな、いくら不意打ちだとしても、オレ達が強くなければそれは不意打ちにもならないんだ。 オレ達は強い! オレ達には魔道銃がある! そして、オレ達にはノブナガの兄貴がいる!」

セミコフは椀に並々と注いだ酒を、グイッと飲み上機嫌で話していた。


「ああ! そうだ! オレ達は強い! それに、ここにはヒトも獣人も、半獣人、魔物でさえ関係ないんだ! みんな仲間なんだ! オレは… オレは、それが嬉しい…」

カーテは途中から泣き出してしまっていた。


「おいおい、カーテ! そんな泣く事かよ。 オレだって… オレだって… うぉぉぉぉ」

セミコフまで泣き出し、ノブナガやミツヒデは柴田勝秀の嘘泣きを思い出し苦笑いを浮かべならも、嬉しそうにその光景を見ていた。



「お、もう始めてたのか」

その時、ラーヴワスが自前の甕を小脇に抱えながら天主に姿を現した。


「ちょっと、わたしたちの料理も残ってるんでしょうね?」

ラーヴワスの背後からアネッサが不機嫌そうに現れ、パルやチカム、ヒカム、キカムが少し身を小さくしながら立っていた。


「おお、お主ら帰ったか! さぁ、お主らも食え!」

ノブナガは満面の笑みでラーヴワス達を迎え、給仕達がラーヴワスたちの料理と酒を運んできた。


「あ… あの、巫女さま? 私たちもよろしいのですか?」

パルが小声で尋ねると


「当たり前じゃない。 もし、ダメなんて言うやつがいたらわたしが許さない」

アネッサはフンっと鼻から息を吐いて、ノブナガ達を見渡していた。


「当たり前じゃ。お主らの分も用意しておる。遠慮せず食え」

ノブナガはニコニコと笑いながら、パルたちを手招きしていた。

パルは少しオドオドしながら用意された料理の前に座ると、少し遠慮気味に一口食べた。


「…美味しい!」

パルの呟きを聞き、チカムたちもお互いの顔を見て頷きあい料理に手をつけた。


「っ! すごく美味しい!」


「でしょ? あの時の焼き魚も美味しかったけど、この料理はもっと美味しいね!」

パルは幸せそうに笑いながら、料理を次々と口に運んでいた。それを見たチカムたちも、緊張が解け幸せそうな表情で料理を食べ始めた。


「うむ。 腹一杯食うのじゃ」

ノブナガも幸せそうにパル達を見て笑っていた。




「あ、思い出した」

ラーヴワスは不意に声を上げると、ノブナガの正面に移動してニヤリと笑った。


「ん? なんじゃ?」

ノブナガが不思議そうにラーヴワスを見ていると


「ノブナガ、土産の戦利品を持ってきたんだ」

ラーヴワスはそう言うと、ソレメルの秘書であるヘルトエを呼び


「部屋の外に置いてるやつ、持ってきてくれ」

と、天主の入り口付近を指差して指示した。


「畏まりました」

ヘルトエは丁寧に頭を下げて、ラーヴワスに指示された方へ歩いて行き、天主を出たところで固まってしまった。


「あ… あの、ラーヴワスさま? お土産って…」

ヘルトエがオドオドと尋ねると、ラーヴワスは笑いながら


「ああ、ソレだ。 早く持ってこい」

と、ヘルトエを急かしていた。


ヘルトエは『土産』を取るため少しだけ姿が見えなくなるが、すぐに『土産』を持って天主に入ってきた。


ヘルトエの手にはロープが握られており、そのロープの先にはボコボコにされたギルエがロープでグルグル巻きにされて引っ張られてきた。


「おい、ノブナガ。 土産だ。受け取れ」

ラーヴワスは満面の笑みで、そう言っていた。

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