【13話】盛者必衰
「さて、ティア。この国の事、町、ヒト、獣人… なんでもよい。この世界の事を教えてくれ」
ノブナガが切り出すと
「この世界… なんか話しが大き過ぎて解らないよ」
ティアは困った顔をしていた。
「ノブナガさま、お気持ちは分かりますが少々先を急ぎ過ぎております。 ここはわたしミツヒデにお任せください」
ミツヒデは胡座を組んで、両手を握って地面に着けて頭を下げた。
「…ふむ。 わかった」
ノブナガは素直にミツヒデの提案を受けると、ムシロの上で胡座を組んで状況を見守るように見ていた。
「では、まずはこの国について教えていただけますか?」
ミツヒデはティアの方に向き直り質問した。
「うん。 ここはアクロチェア王国で、ヒト種族の王様が治めている国だよ。 近隣にはアクスムーン法王国やガサム帝国などがあるの。アクスムーン法王国もガサム帝国もヒト種族が治めていて、お互いに睨み合う事で均衡が保たれているってカンジだよ。 北の方にある山脈にはドワーフの国があって、凄い武器や防具を作ってこの国やアクスムーン法王国、ガサム帝国に売ってるってウワサ。 その山脈の向こうには永久に溶けない氷の湖があるって話しだけと… あたしは見たことない。 この国の東には広大な森があって、そこはエルフの森だから誰も近づけない。もし森に入ればエルフの呪いで森から出て来れなくなるそうだよ」
ティアは地面に地図を書きながら説明した。
「アクロチェア王国に、アクスムーン法王国、ガサム帝国… か。 どの世界も『ヒト』は争っているのじゃな…」
ノブナガは神妙な顔で、地面に書かれた地図を眺めていた。
「ノブナガたちはアクスムーン法王国か、ガサム帝国から来たんじゃないの?」
ティアは、あまりに何も知らないノブナガ達を不思議そうに見ていた。
「ワシらは遠い異国から来たのじゃ。 おそらく誰も知らぬ国からな」
ノブナガがニヤリと笑いながら答えると
「誰も知らない……『イコク』? 『イコク』っていう国?」
ティアはますます不思議そうにノブナガを見ていた。
「まぁ、わたし達のことは置いといて、次にティア殿達の事を教えてくれますか?」
ミツヒデは優しい顔でティアに質問を投げかけた。
「え? あ、うん。あたし達は昔は火魔法を使っていたというのは前に話したよね。 あたし達『月女族』は昔は力も強く、火魔法を使う種族だったの。 その力で傭兵や、町の自警団などを生業としていたそうよ。 ノブナガ達と出会ったメルギドの町もあたし達のご先祖が守っていたの」
ティアは少し誇らしげに話し出した。
「それがなぜ?」
ミツヒデは今の状況とはあまりにも違う話しに驚いていた。
「300年くらい前かな? ご先祖さま達は徐々に力が衰えてきたの。危機を感じたご先祖さま達は、どうにか力を取り戻そうと必死になってた。 そんな時、村に巫女さまが現れたの。 巫女さまは舞う事でこの世界の唯一神であるロア・マナフさまと話しができるそうで、あたし達のために毎日舞ってロア・マナフさまへお祈りをしてくれた。 でも、あたし達はヒト種族よりも弱くなり、ついには火魔法も使えなくなってしまった…」
ティアは寂しそうな顔で笑っていた。
「盛者必衰の理… か」
ノブナガはボソっとつぶやいていた。
「じょう… え? なに?」
ティアがノブナガを見ると
「盛者必衰の理じゃ。どんな勢いのある者でも、やがて衰えてしまう…という意味じゃ」
「へぇ、ノブナガは難しい事を知ってるんだねぇ」
ティアは物珍しそうにノブナガを見ていた。
「ティア殿、続きをお願いします」
ミツヒデが声をかける。
「あぁ、ゴメンゴメン。力が弱くなったあたし達のご先祖はメルギドの町を守る事も出来なくなってしまったの。 そんな時、メルギドの町に傭兵団が現れたの。 傭兵団はそのままメルギドの町の自警団になって、町を守る仕事はあたし達から傭兵団に移ってしまった… ってわけ」
「なるほど。 しかし、ティア殿。貴方達獣人が今のように虐げられているのは何故ですか?」
「100年くらい前かな? 時の国王はヒト種族が最も優れていると考えていて、全てにおいてヒト種族を優先する政策を始めたの。 それがキッカケで獣人達は迫害され、虐げられるようになったの…」
ティアは悲しそうな顔で俯いていた。
「なるほど。それでメルギドの町のヒト達はあのような態度をとっていたのですね…」
ミツヒデはティアとの出会いの場面を思い出していた。
「うん。あたし達は弱いし、人数も少ない。だからあたし達はヒト様に従う事で生き延びてきたの…」
ティアは自笑しながら話していた。
「ティアよ。 ロア・マナフは何もしてくれんのか? 巫女が毎日祈りの舞を捧げているのであろう?」
ノブナガが問うと
「巫女さまがいつもお祈りしてくれてるから、あたし達はこれまで生き延びて来れたのと思う。 もし、巫女さまの舞が無ければ、あたし達はとうの昔に滅んでいたかもしれない」
ティアはニコッと笑って答えていた。
「ふむ…」
ノブナガは何か考え込んで黙ってしまった。
その時、家の入り口から子供が飛び込んできた。
「ティア姉さま! 早く逃げて!!」