【36話】ほころび
義勇軍と冒険者軍の指揮者を、ホニードからセミコフに変更しました。
すいません。。。
天主ではミツヒデとアネッサ、イルージュやソレメルなど主要な人物が集まり、ノブナガを囲んで床に置いた地図を見ながら戦の策について相談していた。
「ノブナガさま! アクロチェア王国が挙兵しました!」
戦の準備を進めていたノブナガの下に、カーテは息を切らして走ってくるとそう叫ぶように報告した。
「うむ」
ノブナガは静かに地図から目を離すと、そこにいる全員をクルリと見渡して立ち上がった。
ミツヒデ達はただ黙ってノブナガを見上げていた。
「皆のもの、戦じゃ!!」
ノブナガの声にミツヒデ達は、パンっと自分の膝を叩き
「おう!!」
と、叫び応えた。
「カーテ。 状況を報告せよ!」
ノブナガが鋭い目でカーテに指示を出すと、カーテは膝をつき手短に報告を始めた。
「アクロチェア王国の兵は王国騎士団が500名、戦士団が2000名、魔法使いが1500名、それにロイヤルナイツが1名で、今朝、王都を出発したところです」
「全部で4000名… こちらの倍か…」
アクロチェア王国軍に対し、ノブナガ軍は月女族20名とメルギド自警団100名が3部隊、獣人軍の戦士300名と魔法使いが100名、半獣人が150名。魔物軍1000名。そして鉄砲隊が100名。ただ、半獣人100名は商人になりすまし各地で情報収集を行っていた。よって、現在メルギドにる戦力は合計1870名。
これにアネッサの屍軍と雇われた冒険者となるが、屍軍と冒険者の数は流動的でその時の状況により兵力は変動するためノブナガは数には入れていなかった。
とは言いながら、アネッサの屍軍に関しては戦力として期待はしているのは事実だった。
その証拠に、今回の策では屍軍の働きにより勝敗が左右するとも言えるものだったからだ。
「お主ら、アクロチェア軍がメルギドに到着するまで、あと1ヶ月ほどかかるじゃろう。その間に戦の準備を整えるのじゃ」
「はっ!」
ミツヒデ達はその場で頭を下げ、ノブナガの指示を待った。
「カーテ。 お主は各地で情報収集している仲間を使い、各町の者が我らの仲間になるよう仕向けるのじゃ。 目的は共に戦う事ではない。アクロチェア軍に兵站の供給など協力させないことじゃ。 もちろん、共に戦うと言う者がいれば拒む必要はない。義勇軍として迎え入れろ」
「承知しました!」
カーテは膝をつき答えた。
「ミツヒデ。 お主には魔道銃の準備と鉄砲隊の指揮を任せる」
「承知っ」
ミツヒデは胡座で両拳を床について深く頭を下げていた。
「ホニードとセミコフは装備を整えておくのじゃ。 そして、セミコフ、お主には集まった冒険者と義勇軍の指揮を任せる」
「おう!」
ホニードは右拳で左の掌を叩き、セミコフは自分の膝をパンっと叩いて戦意の高さを表していた。
「ラーヴワスは手筈通りに陣を張るのじゃ」
「ああ、任せときな」
ラーヴワスはニヤリと笑い答える。
「アネッサ、お主はチトナプへ向かえ。 この戦の勝敗は、お主ら屍軍の働きにかかっておるのじゃ。 任せたぞ」
ノブナガが鋭い目でアネッサを見て指示を出すと、アネッサは少し不服そうな顔をしていた。
「なんじゃ?」
「あのさぁ。 その屍軍ってやめてくれない? なんかわたしも屍って言われてるみたいてムカつくのよね」
アネッサはリッチである事にプライドを持っているようだった。アネッサとノブナガが知り合った頃、ノブナガに屍と言われた事にすごく怒り、ノブナガとミツヒデは『アネッサに屍は禁句だ』と思わせるほどだったのだ。
ノブナガもそれを思い出した。
「では、なんと呼べばよい?」
「そうね… ノブナガ、あんたは『魔王』なんでしょ? だったらわたしは『不死の女王』にするわ。 だから、わたしの軍は『不死の軍』と呼びなさい」
アネッサは少しドヤ顔で答えていた。
「不死の軍… か。 なるほど、それは良い。敵を心理的にも追い詰める事ができそうじゃ。 わかった、お主の軍は不死の軍と呼ぶ事にしよう」
ノブナガは不敵な笑みを浮かべながら答えていた。
「ソレメル、お主は町の民たちを安土城と月女族の村に避難させるのじゃ。 食糧と水、そして塩を蓄えておけ。万が一、篭城戦となった場合を想定しておくのじゃ」
「承知しました」
ソレメルは頭を下げて答えると、すでに頭の中で避難の方法や食料などについて考え始めていた。
ノブナガは刀の鞘で床を突くと、刀を抜き天に掲げて叫んだ。
「アクロチェア王国はヒト以外の民をケモノと呼び、私欲を肥やす事しか考えぬ者どもじゃ! 我らがコレを正し、ヒトも獣人も魔族も全ての人間が等しく、幸せに生きられる世を作るのじゃ! 正義は我らにある!!」
「おうっ!!」
ミツヒデ達は立ち上がり、ノブナガの言葉に力強く答ていた。
その頃、アクロチェア王国の王都アクロザホルンを出発した騎士団の中、ひとりぼやき続ける男がいた。
その男は周りの騎士よりも立派な白い鎧を纏い、腰には双剣を装備していた。
見た目は20歳くらいで、短髪に浅黒い肌。
どちらかと言うと四角い骨格の男は、馬に乗った騎士に話しかけていた。
「はぁ、なんでオレがこんな仕事しなきゃなんねーんだよ。 オレは帝国や法皇国相手に暴れてぇんだ。こんな田舎町の奴らを相手にするなんて弱い物イジメみたいじゃねーか。 この手の仕事は熾天使のリダが好むやつだろ? なぁ、そうは思わねーか?」
男に声をかけられた騎士は苦笑いを浮かべながら答える。
騎士の少し豪華な鎧には歴戦の跡があり、これまでの激しい戦いを物語っていた。
「仕方ありませんよ。 リダさまは今、ガザム帝国との戦争に参加されておりますから… 我々としてはロイヤルナイツのひとり、『濁流のギルエ』さまと共に戦える幸運を得た事が幸せでございます」
「幸運ねえ。 て、ゆーかさ。なんでオレは『濁流』でリダは『熾天使』なわけ? 他のやつも『大楯』とか『巨神』とかカッコいいのにさ… まぁ、『ヘビ使い』なんてやつもいるけど。 オレもそんな二つ名がよかったよなぁ。 つかさぁ、リダのどこが『天使』なわけ? あいつの性格からしたら『悪魔』じゃん。あんな性格ブスのどこが『天使』なんだよ。オレの方がよっぽど『天使』だと思うけどなぁ…」
ギルエと呼ばれた男は軽くため息をついていた。
「ロイヤルナイツの皆さまは、その専用の武器と一緒に名前も受け継ぐのですよね?」
「ん? あぁ、そうだよ。 なんでもこの武器はロア・マナフさまから授かった物らしくてさ、オレたちにしか使えないらしいよ。 昔、試しに使ってみたいって言った騎士に貸してみたけど全然ダメだった。 ただ双剣を振り回してるだけで、とても乱舞とは言えないものだったし、武器の威力もガタ落ちだったんだよなぁ。 ヤールガくんも使ってみる?」
ギルエは双剣をポンポンと叩きながら懐かしい思い出話でもするようにあっけらかんと話し、まるでオモチャでも貸すように双剣をヤールガに差し出した。
「そ… そんな滅相もごさいません!」
ヤールガが慌てて手を振り、ギルエの申し出を断るとギルエは「そう?」と言いながら双剣をなおした。
「わたしのような下級の貴族は辺境防衛を任され、命尽きるまで魔物から王国民を守る事が使命なのです。 それがまさかロイヤルナイツの方と一緒に戦えるなんて夢のようなものです」
「そんなもんかねぇ。 ところでヤールガくん。 君はロイヤルナイツが本当は6人いたって言ったら信じるかい?」
ギルエはニヤニヤ笑いながらヤールガに尋ねた。
「6人…? ロイヤルナイツは5人じゃなかったのですか?」
ヤールガは… いや、ほとんどの騎士はロイヤルナイツに憧れを抱いていた。彼らはその憧れからロイヤルナイツのこれまでの活躍や、家柄まで熟知していたのだ。
だが、6人目のロイヤルナイツがいたなんて事は一度も聞いた事がなかった。
「ああ、そうだ。これはオレたちロイヤルナイツと一部の王族しか知らない事なんだがな。 昔、ロイヤルナイツが結成された時は6人いたらしい」
ギルエは真剣な顔で、正面を見ながら言葉を続けた。
「その6人目のロイヤルナイツは『猩猩』という二つ名だったそうだ。 その見た目は赤い髪と赤い顔で赤い棍を武器にして暴れまわっていたそうだ。 実はあの獣王ザザンを倒したのはそいつだという話もあるが… 真実は分からない。 ある時、そいつは魔物を連れて王都を襲った。 あの獣人が魔物を連れて王都を攻めてきた事件だ」
ギルエはさっきまでのふざけたような口調ではなく、真剣に話していた。
「あ… あの最悪の事件ですか…」
ヤールガも初めて知る事件の真相に生唾を飲む。
「ああ。 そしてオレたちの先祖、ロイヤルナイツの5人が猩猩から王都を守った。 その時、猩猩はロイヤルナイツから除名されたって話しさ」
「なるほど… あれ?と、言う事はその6人目のロイヤルナイツは『獣人』だった…?」
ヤールガは手を口に当て、ギルエを見る。
「そうだ。 ロイヤルナイツに獣人がいた…と、いうことになる。 今の王国からは信じられない事だろ?」
ギルエは子供のように目を輝かせながらヤールガを見ていた。
「確かに… その話しが本当なら、昔はヒトと獣人は一緒に戦った… いや、同じ王国民として暮らしていた…と、いう事に?」
「そう。 同じ王国民として信頼していた獣人の裏切り。 だから、当時の王はヒト至上主義を掲げたんだろうな。 だがな、オレはそこがナゾなんだ」
ギルエは真剣な目でヤールガを見る。
「ナゾ?」
ヤールガがギルエが何を言いたいのか分からずキョトンとしていると
「ああ。 獣人が裏切った。その首謀者かロイヤルナイツの6人目だった。 そして5人のロイヤルナイツが王都を守った」
「はぁ…」
ヤールガの気のない返事にギルエはキッと睨むようにヤールガを見る。
「王国はなぜそれを隠す必要がある? 裏切り者を倒し王都を守った英雄なら、そう言えばいいじゃないか。 それがオレたちロイヤルナイツの者と、王族の一部にしか知らない理由はなんだ? 本当は王国にとって不都合な話しなのではないのか? だが、この話の中に王国にとって不都合な内容がひとつもない。 だったらなぜ隠す? この話にはまだ隠されている事があるのではないのか?」
ギルエの話にヤールガも理解が追いつき、
「確かに… 我々が知っている歴史との違いは6人目のロイヤルナイツがいたという事実だけ。 だったら6人目がいた事を隠す必要はないですよね… なぜ、その部分だけが消されてしまったのでしょう…」
「そうなんだ。 オレもいろいろ調べたんだが、未だに分からない。 何か大変な事が隠されているとしか思えないんだ…」
「たしかに…」
ギルエとヤールガはナゾを考えながら行軍を続けるのだった。