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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【32話】大義

「おお、これが安土城か…」

プレヤダスは目の前に聳え立つ安土城を見上げながら息を飲んでいた。

プレヤダスの背後に控えているマージら騎士たちも、思わず息を飲み安土城を見上げていた。


「お待ちしておりました」

プレヤダスたちが安土城を見上げいると、城内へ続く門が開かれ1人のキツネの獣人の女が立っていた。

キツネの獣人は桜色の和服を着ており、両手は下腹部辺りで指を揃えていた。その指は細く白い美しい指で、まるで絹のように繊細に太陽の光を反射している。


「おまえは?」

プレヤダスが少しうわずった声でキツネの獣人に声をかける。


「うち… ん」

女は小さく咳払いし、失言を誤魔化すとニコっと微笑み言葉を続けた。


「わたくしは、この安土城 城主ノブナガさまの娘、キシュリでございます。プレヤダスさまをお迎えにあがりました」

キシュリは静かに答え、微笑みを浮かべてプレヤダスを見つめていた。


「プレヤダスさま、彼女がこの城の姫、キシュリ姫でございます」

ソレメルはキシュリを改めて紹介すると、キシュリの方に向き


「キシュリ姫、ノブナガさまはどうしたのですか?」

と、尋ねた。


「あい、申し訳ございません。 ただいま、別のお客さまのご対応をしておりまして… すぐにこちらへ向かうとの事でごさいます」

キシュリは申し訳なさそうな表情を浮かべると、プレヤダスに深く頭を下げた。


「そうですか。 プレヤダスさま、申し訳ありません。城主ノブナガもすぐに参りますので、わたくしが先に城内のご案内をさせて頂きます」

ソレメルは頭を下げ、プレヤダスの言葉を待っていた。


「ふむ。 構わん。わたしはこの安土城というもの見に来たのだ」

プレヤダスが鼻から息を吐きながら少し偉そうに答えると、ソレメルはにこやかに顔を上げた。


「ありがとうございます。 では、さっそく中へどうぞ」

ソレメルが先頭に立ち、プレヤダス達を城内へ案内しようとした時、右手の方から子供の声が響いた。


「あ、姫さまー!」

声の方を見るとノブナガに連れられた獣人の家族が見えた。

獣人の家族は父と母、そしてワンパク盛りの男の子が2人いた。ノブナガは家族を連れながら、少し疲れたように笑っていた。


「まぁ、いつも元気ね」

キシュリはクスクスと笑いながら、子供たちに小さく手を振っていた。

子供たちは満面の笑みになると、母親の制止を無視してキシュリに向かって走り出した。


「姫さまーー!!」

子供たちはプレヤダスたちが目に入っていないようで、真っ直ぐキシュリに向かって走ってくると、そのままキシュリに抱きついてきた。

その時の子供たちは小さな、それはとても小さな水溜まりがあることに気が付いていなかった。

そう、その水溜まりはそこに居た大人たち、キシュリやソレメル、イルージュでさえ気にも溜めないような小さなものだったのだから。



「あらあら、まぁ…」

キシュリは子供たちを受けとめ、プレヤダスたちの邪魔にならない方向へきれいに受け流すと、そっと肩に手を置いて微笑んだ。


「今日はゴメンね。 また遊んであげるから、お母さんの所に行ってくれるかな?」

キシュリはそう言うと、プレヤダスの方を向いた。

そこには鬼のような形相で、大きく騎士剣を振り上げたマージが立っていた。


「え?」

キシュリは一瞬固まると、すぐに理解し子供たちに覆い被さるように抱きしめて倒れ込んだ。


「この! 獣人のガキが! プレヤダスさまの神聖な御御足を汚すなど言語道断!! 万死に値する!!」


騎士剣を振り上げるマージの背後で、不機嫌そうな顔で自分の靴先を見ているプレヤダスがいた。


プレヤダスの靴の先には、小さな、とても小さな泥水の滴が着いていた。

それは先程、子供たちがキシュリに向かって走ってきた際に踏んだ水溜りの滴だったのだ。

この場の誰もが気にもしないような小さな水溜まりを、子供たちは走ってきた際に水溜りを踏み泥水を跳ね、あろう事かプレヤダスの靴にかけてしまっていたのだ。


激昂したマージは、大きく振り上げた騎士剣でキシュリごと子供たちを斬り殺そうと勢いよく振り下ろした。


「ああああぁぁぁ!!!」

振り下ろされた騎士剣はキシュリの背中を大きく斬り、桜色の着物はみるみる赤く染まった。


「きゃぁぁぁ!!」

獣人の母親は叫び、父親は体が硬直し動けずにいた。


マージは再度、騎士剣を振り上げるともう一度キシュリごと子供たちを斬り殺そうとしていた。


「キシュリ!!」

ノブナガは勢いよく走り出すとあっという間にキシュリとマージの間に体を滑り込ませ、マージが振り下ろした騎士剣を刀で受け止めた。


「貴様! 邪魔をするな! そのガキは殺さねばならん!」

マージは騎士剣を持つ手に力を込める。


「お主! なぜこんな事をするのじゃ!」


「貴様こそ、なぜそんなケモノを庇う! ヒトの子だろう! そこをどけ!!」


「ケモノ? お主、まさかと思うが、ワシの娘を… そこの子供らをケモノと言ったのか?」


「ケモノだろうが! そもそも、この町にはケモノが多過ぎる! 臭くてかなわん!」

マージは騎士剣を持つ手に、更に力を込める。


「ぬらぁぁぁ!」

ノブナガがマージの剣を弾くと、マージは2〜3歩下がり騎士剣を正面に構えた。


「おい、子供。 お前もヒトの子だろう。 お前がそのキツネ女をなぜ娘と呼ぶのか知らんが、邪魔をするなら一緒に殺すぞ」

マージは真剣な… いや、残虐な目になりノブナガを睨む。


ノブナガは刀を構えチラっとキシュリを見ると、キシュリは背中から大量の血を流し、震えながら子供たちを隠すように抱きしめていた。


ノブナガは大きく息を吸い叫んだ。

「ティア!! すぐにアネッサを連れて参れ!!」


ノブナガの叫びに呼応するように、ノブナガの背後に数名の武装した月女族が現れた。


「パルか」


「はっ。 ティアさまは巫女さまの元へ向かっています」

月女族の1人がノブナガの横で頭を下げる。


「うむ。 パル、ソレメルとイルージュ、そしてキシュリを守れ」

ノブナガは鋭くマージを睨みながら手短に指示を出す。


「承知しました。 チカム!」

パルはキシュリの横につき、チカムと呼ばれた少し幼さが残る月女族が残りの者を連れてソレメルたちを背後に庇うように立ち並び、腰に携えた短い刀を逆手に持ち構えた。


「マージとやら、お主は許さぬ」


「許さないだと? 許さないのはこっちだ! 抜刀!」

マージの号令に応え、プレヤダスを守る騎士たちが騎士剣を抜いた。


ノブナガは刀を持つ手に力を入れると深く腰を落とし、大地に足の指を食い込ませるかのように力を溜める。

それと同時にノブナガを中心に圧倒的な死のイメージが広がった。


「な…っ!?」

マージを除く騎士たちはその死のイメージに畏れ、数歩後退りしていた。


「貴様ら! 騎士が畏れをなしてどうする! 我らはプレヤダスさまの、そして王国の剣だ! 王国の敵はすべて我らが排除するのだ!」

マージが檄を飛ばすと、騎士たちは剣を構えなおし腰を落とした。


「ゆくぞ!」

ノブナガはマージに向かって飛び出すと、マージは振り上げた騎士剣で迎撃する。

ノブナガは振り下ろされた騎士剣を弾くと、そのままマージの胴を斬りながら横をすり抜けるように駆け抜け、そのまま残りの騎士に向かって突撃した。


騎士剣を弾かれたマージは両手を上げ、ガラ空きとなった胴から大量の血を吹き出し、その赤いハラワタを地にばら撒いていた。


「ひっ ヒィィィ!」

なす術なく腹から血を噴き出すマージを見た騎士たちは騎士剣を放り出すと、我先にと逃げ始めた。


「チカム! 逃すな!」


「はっ!!」

ソレメルを守っていたチカム達は逃げ出した騎士たちに向かって飛び出し、手にしていた短めの刀で騎士たちの首を斬り確実に息の根を止めていた。

チカムたちは鎧を纏う騎士たちには、自分たちが持っている短い刀では刃が立たない事を理解していたのだ。

だから、装備の薄い首や関節部分を狙う。

チカムたち月女族は確実に暗殺者としてのスキルも身につけていたのだった。


自分を守るために連れてきた騎士たちが、あっという間に殺されたプレヤダスは青褪めた顔でノブナガを見ると、そのまま腰を抜かし座り込んでしまった。


ノブナガはプレヤダスを無視しキシュリの下へ歩いていく。

無視されたプレヤダスは、ノブナガとの距離が空いたことで少しだけ正気を取り戻すと、震える手でノブナガを指差して叫んだ。


「き… 貴様! 何をしたかわかっているのか!? これは王国に対する反逆だぞ!」


ノブナガはチラッとプレヤダスを見るだけで、無言のままキシュリの下へいくと優しくキシュリを抱き起こす。

キシュリの下には獣人の子供が2人、体を小さく丸めて震えていた。


「お主ら、もう大丈夫じゃ。母の下へゆけ」

ノブナガの優しい声に獣人の子供は、恐る恐る顔を上げ震える足で必死に母の下に走っていった。


「キシュリ… よくやった。 大義であったぞ」

ノブナガの慈愛に満ちた優しい声に、キシュリはうっすらと目を開け弱々しく微笑んでいた。

キシュリを支えるノブナガの手は、キシュリの血で真っ赤に染まっていた。


「とぉ… さま。 うち… でも、誰かを… 救えました」


「うむ」


「とぉ  さま。 うち…」


「うむ。 少しだけ待て。 もうすぐアネッサがくる。だから、少しだけ頑張れ」


「……はい」

キシュリは少しだけ微笑んだあと、力無く手を落とした。


「………くそっ」

ノブナガは小さくつぶやいて、キシュリを抱きしめるしか出来なかった。



「ノブナガ!!」

その時、オオカミゾンビに跨ったアネッサと、それに併走するようにティアが物凄い勢いでやって来た。


「ノブナガ! いったい…」

アネッサは辺りの惨状を目にし言葉を詰まらせたが、すぐにノブナガに抱かれたキシュリの姿を見つけた。


「キシュリちゃん!?」

アネッサはキシュリの下に慌てて走りよると回復魔法で傷を治そうとするが、ソレはもう間に合わないと悟り魔法を解除してしまった。


「アネッサか… キシュリは… ワシの娘は幸せだったのじゃろうか?」


「…うん。 キシュリちゃんはいつも幸せそうな顔をしていたわ」


「……そうか」

ノブナガはキシュリを優しく下ろすと、仰向けに寝かせ手を胸の上に重ねさせた。


「キシュリ。 大義であった」

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