【27話】利用された猩猩
タイトルを変更しました
キャラの名前を間違えてたので修正しました。
キーノではなく、キーヌでした。
失礼しました。
「ノブナガさま、この度、我々の協力者となりましたソレメル殿でございます」
ミツヒデはそう言うと横にずれ、ソレメルにノブナガの正面に座るよう促した。
ソレメルは促されるままノブナガの前に座った。
「ソレメル殿、此度は我々と共に戦うと決意頂き、誠に感謝致す」
ノブナガはそう言いながらソレメルに握手を求めた。
「こちらこそよろしくお願いします」
ソレメルはノブナガと握手を交わし、凛々しく笑っていた。
「ノブナガさまもよくご存知ですが、改めてご紹介します。 ソレメル殿はメルギドの町長であり、民からの信頼もある優秀な人物です」
ミツヒデの紹介に照れながらソレメルが頭を下げる。
「ソレメル殿には秘書と呼ぶ女の家臣と、役員と呼ぶ男の家臣がおります。 どの家臣もとても優秀で、この者たちでメルギドの内政や王国への対応、近隣の町との外交などを行なっております。 此度、ノブナガさまのご意向やこれからの王国について議論した結果、ソレメル殿はノブナガさまの協力者と相成りました」
ミツヒデの説明にノブナガは「うむ」と答え、ソレメルを見た。
「わたしはノブナガさまの考えに感銘を受けました。 ついこの前まで、月女族の皆さまに酷い仕打ちをしていた私たちが言うのもおかしいとお思いでしょうが、わたしはヒトも獣人も、半獣人、亜人種もみな同じ人間だと考えておるのです。 王国はヒト種族と一部の亜人種以外はケモノか奴隷として扱っております。 過去はヒトも獣人達と共に生きていたと言うのに…。 なぜ、こんな世界になってしまったのでしょう? わたしはこの世界を本来あるべき姿に戻す必要があると考えておりました。 しかし、わたしには力が無かった。 正義を叫ぶとしても力が無いと叫べないのです…」
ソレメルは少し俯いて、拳を握りしめていた。
「そんな時、ミツヒデさまからお話をお聞きしたのです。 ノブナガさまのお考えは、まさしくわたしが考える正義でした。 わたしはノブナガさまと出会う為に、メルギドで町長になったのではないかと思うほどなのです」
ソレメルは熱く語ると、ふと自分の熱に気がつき「あ、申し訳ありません…」とつぶやいて座り直した。
「ソレメル殿、其方の気持ちよくわかった。 ぜひ、ワシに力を貸してくれ」
ノブナガはソレメルを見ながら微笑んでいた。
ソレメルもつられるように微笑むと、言葉を続ける。
「ノブナガさま、改めて紹介します。 我がメルギドで自警団として活躍しているホニード団長です。 バハカイ副団長とユソルペ副団長と共に町を守っています。みな、とても強く頼りになる者たちです」
ソメレルか自信を持ってホニードを紹介すると、ホニードは若干ドヤ顔になりながら頭を下げていた。
「うむ。ホニード殿の力量はよく知っておる。 ホニード殿、これからは戦友としてよろしく頼む」
ノブナガが軽く頭を下げると、ホニードも同じように頭を下げ
「ノブナガ、おまえが仲間だというだけで、オレたちはどれほど心強いか。 こちらこそ頼む」
ホニードとノブナガはすでに戦友としてお互いを認めていたのだろう。「くくく」と笑い合っていた。
「ところでノブナガさま、あの者は一体?」
ミツヒデはチラっとラーヴワスを見て尋ねる。
「おお、そうじゃった。 ラーヴワス、近うよれ」
ノブナガがラーヴワスを手招きすると、「ん? オレ?」と言いながらラーヴワスがノブナガの前にやって来た。
ノブナガに皆の方に向くように合図をされ、ラーヴワスがソレメルたちの方を向いくと、形の良い胸がプンルを揺れた。
「皆のもの、こやつはラーヴワス。ワシの戦友じゃ」
そう紹介するが、ホニードやカーテなど男たちは固まるようにラーヴワスを見ているだけだった。
「ノブナガさま、女性をそのような格好で皆の前に立たせるのは如何なのもかと…」
イルージュの言葉にノブナガも、ハッと気が付いてラーヴワスを見た。
ラーヴワスは洞窟で会った時のようにボロ布を体に巻きつけているだけで、ほぼ半裸の状態だった。
「おお! これはスマン。 イルージュ、こやつに何か着る物を用意してやってくれんか」
ノブナガの指示にイルージュは「承知しました」と答え、軽く会釈するとノブナガの後ろに座っているキシュリを見た。
「キシュリさん、ラーヴワスさまに着る物を譲って頂けますか? 大きめの布で作ったあの着物でしたら、身体の大きさに関わらず着ることができるでしょう」
キシュリはどの服の事言っているのか考えると、すぐに理解したようで
「はい。 あの着物でしたらラーヴワスさまにお似合いかもしれませんね。 すぐにご用意します」
キシュリの答えにイルージュは微笑みで返すと、キシュリはそれを確認しラーヴワスを八角堂の上、望楼へ案内した。
キシュリとラーヴワスが望楼へ行くのを確認し、イルージュは改めてノブナガに頭を下げた。
「ノブナガさま、女の準備は少しお時間がかかりますので、ご了承のほどよろしくお願いします」
「うむ、構わぬ。 ワシもうっかりしておった。礼を言うぞ」
「いえいえ。 滅相もごさいません」
イルージュは口元を隠し、微笑みながらノブナガを見ていた。
「みな、ラーヴワスが戻ってくるまでに、少しだけラーヴワスについて説明しておこう」
ノブナガはそう言うと、王都で冒険者登録した事、ゴブリン討伐のクエストを受け、そこでラーヴワスと出会った事などを話して聞かせた。
「なるほど… そのような事が…」
ミツヒデは、ふむ…と頷きながらノブナガの話を聞いていた。
そんな話をしていると、望楼からキシュリとラーヴワスが降りてきた。
ラーヴワスは赤い和服のような着物の上に、金色に赤い花の模様が散りばめられた羽織をはおっていた。
ラーヴワスのボリュームある赤い髪と、赤い顔にはよく似合う和服だったが、それはまるで能の演目にある猩猩そっくりだった。
「ラーヴワス… お主ほどその着物が似合う者はおらんじゃろう」
ノブナガは、驚きの顔でラーヴワスを見ながら褒めて(?)いた。
「た… 確かに…」
ミツヒデもまた、驚きを隠さずにノブナガの言葉を肯定する。
「そ… そうか? オレ、変じゃないか?」
ラーヴワスは自分の格好を見ながら、少し照れているようだった。
「うむ。 その格好が似合うのはお主と猩猩だけじゃろう」
ノブナガが「くくく」と笑っていると
「左様でございますな…」
ミツヒデも笑いを噛み殺していた。
「……ショウジョウ? ってよく分からんが、絶対に褒めてない事は分かるぞ」
ラーヴワスがノブナガとミツヒデを睨みながら文句を言っていると、それを誤魔化すようにノブナガがイルージュに話しかけた。
「イルージュ、この着物はどこから手に入れたのじゃ?」
「はい。 この着物はキーヌが、ノブナガさまが初めてハーゼ村に来た時の格好を思い出して作ったのです。 この布を体に巻きつけるような着物でしたら、痩せた方も太った方も着る事が出来るでしょうと、キーヌは楽しそうにしていましたわ」
イルージュは、当時のキーヌを思い出しながら微笑んでいた。
「なるほど… 素晴らしい出来じゃ。 キーヌに伝えておいてくれ」
「ありがとうございます。 キーヌも喜ぶことでしよう」
ノブナガの言葉にイルージュは、まるで自分の事のように喜んでいた。
「さて、改めて紹介しよう。 こやつはラーヴワス。 猿系の幻獣人で、元アクロチェア王国 騎士団のロイヤルナイツの1人じゃ」
「ラーヴワス・リナワルスだ。 よろしく頼む」
ラーヴワスが軽く頭を下げると、ソレメルやホニードたちがザワザワと小声で話し合っていた。
「うむ。 みなが不思議がる事も仕方あるまい。 こやつはロイヤルナイツ創立時の者でな、当時はヒト種族だけでなく獣人も騎士になれたそうじゃ」
「まぁ、そうは言っても、オレはロイヤルナイツを追われた身だけどな」
ラーヴワスは自笑しながら、ボサボサの髪の中に手を突っ込んで頭をかいていた。
頭を掻くたびにナニかがポロポロと落ちるのだが、誰もそこには触れないでいた。
「ラーヴワス殿、ひとつ教えてくれ。 これでもオレはガキの頃騎士団に… いや、ロイヤルナイツに憧れていた。 ロイヤルナイツは王国の高貴な貴族しかなれないと聞いていたが、ラーヴワス殿は王国の貴族なのか?」
ホニードは真剣な目でラーヴワスに尋ねる。
「いや、オレは貴族でもなんでもない。 そもそもアクロチェア王国の人間ですらなかった」
「え? それじゃ… なぜ?」
ホニードはラーヴワスの意外な答えに驚き、目を見開いていた。
「あぁ、まぁ、話せば長くなるのだが… 簡単に言うと、オレは実力でロイヤルナイツに選ばれた。 そして、アクロチェア王国の王に裏切られたのだ」
「王に?」
「ああ、オレは… オレたちは濡れ衣を着せられ、オレの仲間は全員殺された。 オレだけが、生き残ってしまったんだ…」
ラーヴワスは眉間に皺を寄せ、握り拳を固めながら話していた。
「うむ。 こやつはこう見えて800年以上生きておる。 そして、アクロチェア王が『ヒト種族至上主義』を掲げる為に利用されたのじゃ」
ノブナガの言葉にホニードやソレメルたちは息を呑んでいた。