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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【21話】優良案件争奪戦

ヤールガと別れ、ノブナガとアネッサは町の大通りを歩いていた。


ヤールガオススメの紅茶は一杯、銅貨2枚だったのでノブナガのポケットには銀貨9枚と銅貨6枚が入っていた。


「のう、宿屋の相場はいくらじゃ?」

ノブナガはポケットのコインを握りながらアネッサに尋ねる。


「そうね… 一泊2食付きで銀貨1枚ってところね」


「ふむ… 今、銀貨は9枚。 2人なら4泊しかできんか。 メルギドまでの食料も考えると… 足らんの」


「そうね… メルギドまで野営を続ければ行けるかもしれないけど… ギリギリでしょうね」


ノブナガは自分の刀の柄の先で、長い尾羽をフリフリしながら機嫌良さそうにしているマナをジト目で見ると、ボソリと呟いた。


「やはり、売るか…」


「ピッ! ピー! ピーピーピー!!」

マナはピキっと固まると、その小さな体でどこから出るか不思議なくらい大きな声で鳴いていた。


「ははは、冗談じゃ」

ノブナガは笑いながらマナを見ており、隣でアネッサも笑いながらマナを見ていたが、アネッサの目は笑っていなかった…


「ピ… ピィ…」

マナはノブナガに媚を売るような声で鳴いていた。


アネッサとノブナガは、「ふぅ」とため息をついていた。見ると、足下には夕暮れを示すように影が伸びている。


「とりあえず、今日は宿屋に泊まるとするか。 明日、またギルドに行ってクエストで金を稼ぐしかあるまい」

ノブナガの意見にアネッサも素直に頷き


「そうね。 次はちゃんとクエスト達成してお金を貰いましょ」


「そうじゃな…」


2人はそのまま大通りを抜けて、宿屋が並ぶ通りに向かい1人銀貨1枚の一般的な宿屋に泊まる事にした。



翌朝、2人は手早く朝食を済ませると、急いでギルドへ向かう。(と、言ってもアネッサはお茶を飲むだけで、朝食2人分をノブナガが平らげているのだが)

なぜこんなに急いでいるかというと、条件のいいクエストというのは数が少ないため『早い者勝ち』なのだ。


報酬が高いクエストは、当然リスクも高く冒険者の腕がよくないと自らの命を落とす事もある。

逆にりリスクが低いクエストは、報酬も少なく1日の宿屋代にもならない。

なので、冒険者はそこそこ報酬があって、なるべくリスクが低い『優良案件』を狙っているのだ。

ノブナガとアネッサなら多少リスクが高くても対応できるだろうが、困難なクエストだとクエストクリアまで時間がかかってしまうだろう。


なので、ノブナガたちも漏れなく『優良案件』を狙っていた。


冒険者ギルドはすでにたくさんの冒険者たちがクエストを張り出している掲示板に集まり、クエストの内容を吟味していた。


「むぅ、遅かったか?」


「だいぶ急いで来たつもりだったけど…」

アネッサも掲示板の前にたむろする冒険者たちに圧倒されていた。


「アネッサ、ワシは字が読めん。 お主、よいクエストを持って参れ」


ノブナガの偉そうな態度に、ムッとしながらアネッサは(字が読めないのだから、仕方ないわね…)と、自分に言い訳しながら掲示板に向かう。


目の前には屈強な男達が所狭しと集まっているため、アネッサの身長では掲示板は全く見えなかった。


(あー 朝からイライラするわね…)

アネッサは男達の背中を見ながら、イライラを募らせていく。


(そもそもアイツが字が読めたら、わたしがこんなムサイ男共の中に入らなくていいのよ…)


(てゆーか、アイツ変な字は読めるくせに、どうして普通の字が読めないのよっ)


(それに、なに?あの態度? 字が読めないなら、わたしに『お願いします』くらい言いなさいよねっ)

アネッサのイライラはどんどんヒートアップしていた。その時、背後から来た大柄な冒険者がアネッサにぶつかって…と、言うより押しのけて掲示板の近くへ体を無理矢理押し込んで入ろうとしていた。


「ちょ… ちょっと!! あなた!謝りなさい!」

アネッサの抗議の声に大柄の男はチラっと見ると「ふん」と鼻を鳴らし掲示板へ近づこうと、その大きな体を捻じ込んでいく。


『ぶちっ』

アネッサの頭の中で音がした瞬間、アネッサを中心に冷気が広がり始めた。


「っ!? なんだ?」

「え? さむっ!」

「なに? え? 寒い??」

掲示板に集まっていた冒険者達は、急な冷気に体を凍えさせ辺りをキョロキョロしながら異変の元を探そうとしていた。


「ねぇ、あなた。 ちゃんと謝りなさい?」

アネッサは異様なほど、冷静に、そして冷ややかに先程ぶつかってきた大柄な男の肩に手を乗せた。


男は振り向くと威圧しようと体を大きく見せ、アネッサを上から見下ろすように上半身をのけぞろうとした。

が、アネッサを視界し入れた瞬間にその行為を行なってはダメだと、男の本能が強烈に警報を鳴らした。


目の前にいるアネッサは、男から見れば小さく一瞬で握り潰せそうなほどか弱く見えた。

しかし、その身が纏うオーラは禍々しく、小さいはずのアネッサが自分の何倍も大きく見えたのだ。


男は一瞬後退るが、そこは冒険者のプライドが足を踏み留まらせる。

もし、男が『リッチ』というアンデッドを知っていたら、少しは違う対応をしていたかもしれない。

だが残念な事に、男はリッチというアンデットを知らなかった。

そもそもリッチと遭遇する事は稀で、よほど高レベルな冒険者が高ランクのクエストを受注した時くらいにしかリッチと遭遇する事はないのだ。

その高レベルの冒険者でさえリッチとの戦いは避け、出来れば交渉で終わらせたいと考えさせるほどの相手なのだ。


もう一度、言う。

残念な事に、この男は『リッチ』を知らなかった。

いや知識にはあるだろうが、そう認識する事が出来なかった。


「女! ここはお前のようなヒョロッちいヤツが来る所じゃねぇんだよ! 多少、魔法が使えるようだが、それくらいで良いクエストを取れると思うなよ」

男は精一杯の威圧を込めてアネッサにツバを飛ばす。


顔にツバがかかり、更にイライラが増すアネッサ。


「てめぇみたいな女は、その辺の酒場で酒でも運んでろ! 気が向いたらオレに酒を注がせてやるぜ? まぁ、どうしてもって言うなら夜の相手もしてやってもいいがな?」

男は調子に乗り、言わなくていい事まで言い出していた。


「……あんた。 死にたいの?」

アネッサが低い声でつぶやくと、美しい青い目が血のように赤く変化し全身から禍々しいオーラが一気に溢れて出してきた。

アネッサの赤く鋭い目で睨まれた男は、「ひっ」と小さく悲鳴をあげると数歩後退りする。

気がつくと掲示板の周りにいた冒険者達はアネッサと男から離れ、距離を取って様子を伺っていた。

ギルドの関係者もアネッサと男のトラブルを収めようと集まっていたが、あまりにもアネッサが恐ろしく近付けずにいた。



「ならんっ!!!」

その時、ノブナガがアネッサを一喝する声が響き、アネッサの目が元の『青い目』に戻り、溢れ出ていた禍々しいオーラが収まった。


「ノブナガ…」


「アネッサ、無用な殺生をしてはならん」

ノブナガはアネッサに歩み寄りアネッサの肩に手を置いて、優しく諭すようにアネッサに話しかけた。


「………」

アネッサが黙っていると、ノブナガはアネッサに暴言を吐いていた男の方を向いて話しかけた。



「そこのお主。 多少、冒険者としてチカラがあるようじゃが、相手のチカラも見抜けぬようなら早死にするぞ」


「な… なんだと?」

男はアネッサよりも小さな12歳ほどの子供に説教され、頭に血が上り真っ赤な顔になる。


「こ… この小僧が!! オレ様に舐めた口きいてるんじゃねぇぞ!」

男は激昂し拳を振り上げてノブナガに襲いかかる。


「キャー!」

「やめなさーい!!」

周りにいた冒険者やギルド関係者が叫ぶが、男は止まらずノブナガにその大きな拳を叩き込もうとしていた。


『ズカンっ!!!』

男の拳がノブナガに届いた瞬間、硬い物を破壊するような音がギルド内に響きノブナガが立っていた辺りからもうもうと土埃が立ち上っていた。


「じゃから、相手のチカラも見抜けぬなら早死にすると申しておろうが」

土埃が収まると男はノブナガの横の床に拳を突き立てたまま、白目を向いて固まっていた。


「殺したの?」

アネッサは男の生死にはあまり興味は無いが、とりあえず確認だけしておこうという感じで聞いてきた。

まぁ、もし殺してたら一言いってやろう…

それくらいの気持ちだったのだろう。


「いや、死んではおらん。少し静かにしただけじゃ」

ノブナガは体にかかった土埃を叩きながら答える。


「ふーん。 死んだらよかったのに。そしたら、わたしが有効に使ったあげたのに…」


「お主は、本当に恐ろしいヤツじゃな…」

ノブナガは苦笑いを浮かべながらアネッサと話していると、先程まで近寄れずにいたギルド関係の男がやってきた。


「お嬢さん、ぼうや、ケガは無いかい?」

どうやらギルド関係の男はアネッサとノブナガが、大男の冒険者に絡まれていたように見えていたようだった。


「む? ワシはぼうやではない。ノブナガじゃ」


「ノブナガ? ああ! え?じゃあ、貴女がアネッサ・ルートハイムさま?」


「え? ええ。わたしはアネッサ・ルートハイムよ」


「おお! 私は当ギルドの責任者をしているオルセンと申します。 あの男はよくトラブルを起こすヤツで… お二人ともケガが無いようでよかったです」

オルセンはアネッサとノブナガが無傷なのを見て、胸を撫で下ろしていた。


「それにしても床を殴って自爆するとは… この修理代も請求しなくてはいけませんね」

オルセンはギルド職員を数名呼ぶと、大男を縛りあげ壊れた床やイスなどの修理代を計算するように指示する。


「オルセン殿、ワシらを知っているのか?」

ノブナガが刀の柄に腕を置くと、マナはその長い尾羽をフリフリと揺らす。


「ええ、もちろんですよ。 ()()ルートハイムさまと、職業が読めないノブナガさま。 ギルドでは有名人ですよ」

オルセンは笑いながら答える。


「むぅ。どうもアネッサとの差を感じるが…」

若干、不満そうなノブナガと、勝ち誇り機嫌が良くなるアネッサ。


「お二人はクエストの受注を?」

オルセンは二人の微妙な空気を読まずに話を続けた。


「ええ、わたしたちはお金がいるの。 だから、手っ取り早く稼げるクエストを探しに来たのよ」


「そうでしたか。 では、ちょうど掲示板辺りも空いていますので、ゆっくりとご覧ください。 今日のオススメはこのメルギドへ向かう商人の護衛ですよ。 仕事も難しくなく、報酬もそこそこ。 いわゆる『優良案件』ですね」

オルセンは掲示板から一枚のクエスト受注用紙を剥がし、アネッサに手渡した。


「メルギドまでの護衛?」

アネッサとノブナガはお互いに顔を見合わせていた。

運良く『優良案件』をゲットしたノブナガたち。

だが、ノブナガたちにはクエストに出る準備金が足りなかった。


次回  『商人』ドナールと『武将』ノブナガ


ぜひ、ご覧ください。

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