【16話】ユラオドの遺言
ワタシは魔法武器研究員として働いていた。
もともと魔法の素質があり、魔法の道具に興味を持っていた事もあって研究成果は上々だった。
数年前に赴任してきたズエドムは、なんとなく鼻につく気に入らない上司だったが… それはどうしようもない事で、諦めるしかなかった。
(まぁ、毎日、好きな研究ができるのだから… これくらい仕方ないことさ…)
ワタシは、自分にそう言い聞かせて働いていた。
そうした日々が続いていた時、ワタシは偶然、魔法の武器の作成に成功した。
それは画期的な成果であり、いまの世界の勢力バランスをひっくり返す事ができるかもしれないものだった。
ズエドムは大喜びし王へ報告し、その後、魔法の武器の研究に大金が使われるようになった。
こうしてワタシは研究に研究を重ね、今のロイヤルナイツ達の武器を作成したのだ。
そんなある日、研究所で事件が起こる。
ワタシの研究成果がズエドムの手柄になっていた事が判明した。
ワタシは抗議し、王宮の役人たちへ直訴した。
が、結果は
『お前は、お前の上司であるズエドムが研究成果を横取りしたと言うが、アクロチェア王国所属の研究所の研究成果は全て王国のものであり、お前個人のものではない。それに王国はお前に相当の報酬として、多額の研究費用も支給している。 こんな場所で騒いでいる時間があるなら、更なる研究成果を持って王国へ恩を返せ』
と、まったく聞く耳を持ってくれる事はなかった。
ワタシは意気消沈し、ぼんやりと川の流れを眺めていた時、獣人のゼンさんが声をかけてくれた。
後で聞いた話しだが、当時、ゼンさんはワタシが自殺しようとしているように見えたらしく、かなり慌てながらもワタシを落ち着かせようと苦慮していたそうだ。
それから、ワタシはゼンさんと付き合うようになり、次第にゼンさんの家族や友人とも仲良くさせてもらえるようになった。
彼らはいつも
『オレたちが、今、こうして笑っていられるのは全てラーヴワスさまのおかげだ』
と、口癖のように話していた。
そんな話しを聞いているうちに、ワタシは少し顔を知っているだけのラーヴワスさんを勝手に友人のように思ってしまっていた。
ある時、ゼンさんから相談を受けた。
「ユラオドさん。 ちょっと頼みがあるんだが…」
ゼンさんは少し照れたように笑いながら話しかけてきた。
「ゼンさんの頼みなら、なんでも聞くよ」
「ありがてぇ。 実は、もうすぐラーヴワスさまが帰ってくるんだ。 長い… とても長い戦いがやっと終わって、オレたち獣人は、やっと穏やかに過ごせるんだ。 だから、オレたちからラーヴワスさまに労いの品を贈りたいんだが…」
「なるほど! それはいい考えだ」
「だろ? ラーヴワスさまはとにかく酒が好きでさ、食費の殆どが酒に消えるくらい呑むんだよ」
ゼンさんは、朗らかに笑いながら話してくれた。
「そんなに呑むのかい」
ワタシも釣られて笑ってしまう。
「あぁ、だからさ。 ユラオドさん、湧水のように酒が湧いてくる道具を作れないかな?」
「なるほど! 酒が湧き出る…… ええ? んー… どうだろう?」
あまりの発想にワタシは驚き、すぐに答えを出さずにいた。
「なぁ、頼むよ。 金はあるんだ。鍛冶屋として働いた金をみんなで少しずつ貯めたんだ。 なんとか足りると思うんだが…」
ゼンさん達、獣人は鍛冶職人として働き、王国から僅かだが給金を貰っていた。
その金額は、町のヒトたちが働いて貰える給金よりも少なく、自分たちが生活するだけで精一杯なくらいしか貰っていなかった。その僅かな給金から少しずつ、みんなで集めていたらしい。
「ゼンさん…」
ワタシは、みんなにこれほど愛されているラーヴワスさんが羨ましくて仕方がなかった。
「どうかな?」
「わかりました。 ワタシに任せて下さい」
ゼンさんから貰ったお金では、とても研究費用として足りないものだったが、そんな事はどうでもいい。
ワタシがソレを作り、ラーヴワスさんに使って貰いたいのだ。
ワタシは魔法の武器の研究の合間に、魔法の道具を研究するという名目で、『酒が湧き出る道具』の研究をしていた。
そんな平穏な毎日を送っていたある日、ゼンさんが殺された… と、ワタシの耳に届いた。
ワタシは研究中の作業を放り出して、無我夢中でゼンさんの所へ走っていった。
たくさんのヒトや獣人を掻き分けてその中心部に入っていくと、すでに事切れたゼンさんがうつ伏せで倒れていた。
「ゼンさん!!!」
ワタシはゼンさんに駆け寄り抱き上げるが、ゼンさんの目が開く事は無かった。
その時、周りにいた戦士らしきヒト達は、「やはりそうだったのか…」「おかしいと思ったんだ…」などと、ヒソヒソと話し合っていた。
その後、王国から『獣人達が王国を騙していた』と発表されゼンさんの家族や友人、昔から王国に住んでいた獣人たちが次々と殺されて始めた。
ワタシは友人であり、恩義ある獣人達を守るために奔走する事になった。
そして、ついにワタシにも今、『その時』が訪れていたのだ。
「ラーヴワスさん、ワタシは貴女の仲間を… 誰も救えなかった」
ユラオドは涙を流しながら、ラーヴワスの手を握っていた。
「そんな事はない。 お前は、オレの仲間を… オレの仲間の心を助けてくれた。 感謝する」
「そう言って貰えるなんて… ありがとう」
「オレがもっと強ければ… せめてお前だけでも助けられたのに…」
「いいえ、ワタシは… ゼンさん達に、たくさん助けて貰いました… ラーヴワスさん、この木のウロの中に… ウマの人形と… 甕がある。 その甕が… ふぅ ゼンさん達からの… 贈り物だ… 受け取って欲しい」
「…ありがとう。 大切に使わせて貰うよ」
「はは… よかった。 ゼンさん… 約束は守れた…よ…」
ユラオドの手から力が抜けて、ぽとりと落ちた。
「ユラオド? ユラオド!!」
オレは叫ぶようにユラオドを呼び、強く揺するがユラオドが目覚める事はなかった。
(くそ… どうしてオレは…)
仲間を失い、ユラオドも助けられない。
ロア・マナフさまに力を貰い、ザザンを倒し最強となったはずなのに…
オレは自分の非力さを呪うしか出来なかった。
ユラオドを木の影に寝かせ木のウロの中を確認すると、そこには子犬ほどの大きさのウマの人形と、小脇に抱えられる程の大きさの甕がひとつ。そして、一本の棍が置いてあった。
身をかがめてウロに入り、甕に手を伸ばすとそこにはメモが貼ってあった。
『この甕は酒が湧き出る魔法の道具です。使用するには魔力を込めた手で甕の底を3回叩いてください。 あと、試作品の棍を置いておきます。ラーヴワスさんの棍と同じ性能ですが、太さや長さは変わりませんのでご注意下さい』
(ユラオド… お前、初めから自分が死ぬと解っていたのか…?)
あまりにも用意がいいユラオドに、オレは涙が止まらなくなっていた。
(ユラオド、オレは生きる。 オレの仲間とお前に貰った命を、精一杯使うと約束するよ)
オレがウマの人形を手に取りウロから取り出すと、人形はみるみる大きくなり立派なウマになった。
「これが魔法か… すごいもんだ…」
オレは赤い棍は髪にさし、試作品の棍を手に持つと甕を抱えてウマに跨る。
「森の主… オデたちも、ついていく」
2体のゴブリンがウマの足元から、オレを見上げていた。
「…オレは弱い。 お前たちを守れないぞ」
「森の主… オデたちは守られたいのではナイ。 オデたちがついていきたいんダ」
「……ふん。 好きにしろ」
オレは素っ気なく答えると、ウマの腹を蹴り走り出した。
「ワカタ! オデたち勝手についていく! 森の主よ!」
ゴブリンたちもウマについて走り出す。
「オレはラーヴワス! 森の主ではない! ラーヴワス・リナワルスだ!」
「ラー… ラ… ラーさま!!」
ゴブリンたちはいい笑顔で、オレを『ラーさま』と呼んでいた。
「…ぷはっ ホント、お前らはバカだな。いいよ!オレはラーだ! それでいい!」
「オデたち、バカだー」
オレとゴブリンたちは、そのまま森の奥へと走り続けていた。
ラーヴワスの話しを聞いたノブナガは、ある提案をする。
次回、クエスト達成?
ぜひご覧ください。
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