【14話】真相
勢いよく蹴り開けられたドアは派手な音を立てて壁にぶつかり、蝶番が壊れたのか傾いたまま止まった。
ドアを蹴ったであろう人物はショートソードを片手に持ち、簡易なプレートメイルと王国のシンボルが入った盾を装備していた。
ショートソードを持った人物の横からボウガンを装備した数名の男たちがなだれ込み、ドアの前にはショートソードを装備した兵士が3人、その兵士の両脇には左右に3人ずつのボウガンを装備した兵士が合計6人、臨戦体制を取ってこちらを警戒していた。
「何者だ!」
ユラオドは『答えが分かりきった事』を聞いていた。
明らかに王国の兵士たちであり、その目的は獣人たちと、その獣人を匿うユラオドの逮捕だ。
「ククク。 ユラオドさん、分かっているでしょ? 諦めて投降して下さい。貴方はとても優秀な方だ。 魔法武器研究所としても、貴方を失うのは損失なのですよ」
ショートソードを構える兵士の背後から、ゆらりとローブを着て片手にスタッフを持った痩せ気味の男が現れた。
「き… 貴様は… ズエドム! どうしてここが?」
ズエドムは陰湿な笑みを浮かべると
「ユラオドさん、言葉を間違っちゃダメですよ。 ズエドム様……でしょ? 貴方は私の部下なのですからね? ククク」
「黙れ! 誰が貴様のようなヤツに従うか! この外道が!」
「おやおや? 私の聞き間違いかな? 上官に歯向かうような言葉が聞こえたような? もし、聞き間違いじゃなければ貴方の母親が大変な事になるのですが…?」
ズエドムはにやにやしながらスクロールを取り出した。
「これはメッセージの魔法が書かれたスクロールです。 もちろん、このメッセージの魔法が発動すればどこに届くのか…… わかりますよね?」
ズエドムはスクロールをペラペラと揺らしながらユラオドに見せつける。
「……っ」
ユラオドは歯軋りしながら黙り込み、ズエドムを睨みつけていた。
「おお、怖い怖い。 そんなに睨まないで下さいよ。 貴方が素直にそこの獣人たちをこちらへ渡せば話しは終わるのですから」
「この人達は、ワタシたちの仲間だったじゃないか。 なぜ、こんな事をするのだ?」
「なぜ? それはそいつが王国を裏切るからですよ」
「違う! この人たちは真面目に働いていた! ウソをついていたのは王国じゃないか! そもそも、ワタシは最初から武器に魔法を付与するのは不可能だと、何度も訴えていた!」
「ええ、知ってますよ。 だから、私が魔法武器研究所の所長に抜擢されたのです。 まぁ、貴方には多少は感謝しているのですよ?」
「……どういう意味だ?」
ユラオドが困惑した顔でズエドムを見ていると、
「ああ、知らなかったのですか? 武器に魔法を付与出来ない事は、魔法武器研究所の職員ならみんな知っている事です。 …が、王国は『出来ません』なんて言えませんよね?」
ズエドムは兵士たちの前に出て来ると、左右を歩きながら得意気に話し出した。
「……」
「だからね、私が王へ進言したのですよ。『獣人に武器を鍛えて直させ、少し研究所で預かり魔法を付与したと言ってそのまま返却すればよい』とね。 ヒトはね、思い込めばその武器がノーマルでも、魔法を付与した武器と同じように威力を発揮させるものなのです。 つまり、それが『魔法』なのですよ! 私たちは『武器に魔法を付与している』のです!」
ズエドムは両手を広げ、天を仰ぎながら恍惚な表情をを浮かべていた。
ふっと、真顔に戻ったズエドムは言葉を続けた。
「それにね、私たちの研究が進み本当に魔法を付与できるようになれば、それで問題はないのです。 まぁ、もし万が一、付与できないなら獣人たちのせいにすればよいのです…」
ズエドムはニヤぁと、陰湿な笑みを浮かべ獣人たちを見下していた。
「な…… なんだと?」
オレは赤い棍を強く握り、奥歯をギリギリと噛み締めていた。
「ズ… ズエドム… 貴様… 貴様が…!!」
ユラオドは目を赤く充血させ、まるで血の涙を流すかのように怒りの表情になる。
「ええ、みなさんが頑張ったおかげで戦士達は『魔法の武器』を手に入れ、王国には金が集まり、私は一気に所長となる事ができました。 全ては貴方のおかげです」
くくくと、ズエドムは笑ながらユラオドを挑発するように見ていた。
「貴様は… 研究員としても最悪だった…。 貴様は魔法の武器作成についても後輩たちの手柄を横取りし、全て自分の研究成果のように見せていた。 貴様のせいで何人の職員が涙を流してきたか… だが、それだけならまだいい。 悔しいが、誰も血を流さないのだから… だが! コレは許せん! 何人の獣人の命を奪ったと思っている! お前のくだらない出世欲の為に、いったい何人が死んだと思っているんだ!」
ユラオドは叫びズエドムの襟首を掴み、ガタガタと揺らす。
「ああ、私は話し合いに来たのに… これは仕方ありませんね。 やってください」
ズエドムがそう指示した瞬間、背後に待機していた兵士たちがボウガンを発射した。
「ぐぎゃ!」
「ぎゃ!!」
「あぁぁぁ!」
ユラオドの背後にいた獣人たちはボウガンで撃ち抜かれ、次々と血を流してながら倒れていく。
ラーヴワスは近くにいた子供を庇い、背中に数本のボウガンを受けていた。
「や! やめろ!! やめてくれ!!」
ユラオドの叫びに、ズエドムが手を上げて兵士達に待機命令を出す。
「わかりましたか? まぁ、貴方は優秀だ。最初にも言いましたが、貴方を失うのは研究所としても避けたいのです。 素直に裏切り者たちをこちらに渡しなさい」
「…っ! くそっ!」
ユラオドが歯軋りしていると、ラーヴワスがゆらりと立ち上がりズエドムの前に立った。
「オレはラーヴワス。 ロイヤルナイツの1人だ。 連れて行くならオレだけにしろ。 コイツらは関係ない。全てオレが指示した事にすればいい」
背中に数本のボウガンが刺さったまま、ラーヴワスは赤い棍を支えにして立っていた。
「おお! 貴方はあのラーヴワスさまですか! みなさん、聞きましたね? 全ての責任はこのラーヴワスだったのです! さぁ!連行しなさい!」
ズエドムの命令に兵士たちは、なんの躊躇い見せずにラーヴワスを床に抑えてつけて確保する。
「いやぁぁ! やめて!」
「ラーヴワスさま! ラーヴワスさまぁ!」
獣人たちが泣き叫ぶ中、ラーヴワスは兵士達に連行されてしまった。
「ズ…… ズエドム…… その方達には手を出さないでくれ… 頼む…」
ユラオドも兵士に後ろ手にされ、部屋から連れ出されてしまった。
「ええ、もちろんですよ」
ズエドムは、ユラドムの言葉に微笑みながら答え、2人が兵士に連行されるのを見送っていた。
「さぁ、獣人のみなさん。 貴方たちにはもうひとつ仕事があります。 一緒に来るのです」
ラーヴワスもユラオドも居なくなったのを見計らい、ズエドムは獣人たちをロープで縛り連行したのだった。
真相を知ったラーヴワスは監禁され、ただ死を待つだけの身となっていた。
そこに現れたユラオド。
次回 ユラオドの使命
ぜひ、ご覧ください。
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