【13話】王国のウソ
それはある帝国の戦士が言い出した事だった。
「アクロチェア王国の戦士が使っている『魔法の武器』は、俺たちが使っている普通の武器と同じではないのか?」
その言葉は各国の戦士たちの間で広がり、中にはお互いの武器を交換して試してみる者もいた。
しかし戦況は激しさを増すばかりであるため、アクロチェア王国の戦士たちは違和感を感じながらも戦場に身を投じていった。
そして戦況が好転し、ヒト種族の勝利が見え始めた頃だった。
ある獣人の鍛冶屋に戦士が現れて、こう言ったのだ。
「この魔法の剣は、本当に魔法の剣なのか?」
「はい。戦士さまの剣は私が鍛え直し、魔法武器研究所へ運びました。 そこで魔法が付与されております」
獣人の鍛治職人は額の汗を拭いながら説明する。
「ウソをつくな。 この剣は普通の剣となんら変わらなかった。 確かに鍛え直しておるから多少は切れ味が良くなっているが、それはノーマル武器と同じ程度だったぞ!」
戦士は怒りを露わにしながら抗議する。
「え? そんなはずは…」
「お前、適当な事を言って金を騙し取っているのだろう? この詐欺師が!!」
戦士は叫ぶととも、足下にあった道具箱を蹴り飛ばし工房内に鍛治道具をばら撒いた。
「っ!! まっ! 待ってください! 私は王国からの指示通りに仕事をしているだけです! 戦士さまを騙すような事はしません!」
「だまれ! この盗人が!」
戦士は手にしていた剣で獣人を薙ぎ払った。
「ぐあっ!!!」
獣人は胸を大きく切り裂かれ、大量の血を流しながらその場に倒れてしまった。
「…っ!! ちっ! オレたちを騙すお前ら獣人が悪いのだ!」
戦士は瀕死の獣人にツバを吐き、突然の大きな音で集まってきた獣人や戦士達を乱暴に押しのけて工房から早足で出て行ってしまった。
「ゼンさん! 大丈夫か? しっかりしろ!」
集まってきた獣人の中から、胸を切られた獣人『ゼン』の知り合いであろう獣人の鍛治職人が慌ててゼンに駆け寄る。
「はぁ… はぁ… ぐっ… 」
「一体何があったんだ? とにかく傷の手当てを!」
「はぁ… もう、ダメだ… ラーヴワスさん… すまねぇ」
「ゼン! ゼン!? ゼーーーーン!!!」
ゼンはそのまま息を引き取ってしまった。
「いったい… どうして…」
職人はゼンを抱きしめたまま泣き崩れていた。
集まった戦士達は、「そうか… やはり、そうだったのか…」と、呟きながらその場を離れていく。
その後、似たような事件が起き始めた。
鍛治工房に現れた戦士が、突然、『お前らは詐欺師だ』と、激昂して職人を斬り殺し始めたのだ。
そんな事が何度かあり、王国の兵士が戦士を取り押さえ連行する事もあった。
しかし、しばらくすると暴れていた戦士は何も無かったかのように釈放された。
当然、獣人たちは怒り王国へ抗議したが、相手にされず悔しい思いを募らせていた。
その後も戦士からの突然の攻撃は続き、獣人たちは鍛治職人としての仕事が出来なくなり始めていた。
しかし、根が真面目な獣人たちは『ラーヴワスさんのため、王国のため』と自らを奮い立たせ仕事を続けていた。
そんなある日、王国はある発表をした。
『王国の戦士たちに渡していた魔法の武器は、鍛治職人として働いていた獣人共が王国を騙し、魔法を付与する事なく戦士に渡していた事が判明した』
王国の発表は一気に町中に広がり鍛治職人の獣人だけでなく、以前から住んでいた獣人も王国に対する反逆者として人々から虐待を受けるようになった。
その発表に怒りを表したのが、魔法武器研究所の職員達だった。
職員達は王国が魔法の武器を戦士たち全員に渡すと言った時から、『不可能だ』と何度も抗議していたのだ。
そもそもひとつの魔法の武器を作るのに、どれだけの時間と魔力、技術が必要となるのか…
それに既存の武器に魔法を付与する『技術』はまだ確立していないのだ。
それでも王国は戦士達に魔法の武器を渡さなければならないと、研究員たちに魔法を付与する技術を開発しろと迫っていた。
結局、そんな技術が開発される事なく、偶然、ほんの少しだけ切れ味が増す程度の武器が出来るくらいしか研究の成果は現れなかった。
「しかたない。 獣人たちに戦士の武器を鍛え直させるのだ。 そして、しばらく研究所で武器を預かって、そのまま返せ。 その際、獣人達に必ずこう言わせるのだ」
『魔法の武器も使用していれば効果が落ちる。 その時はまた工房に持って来れば、魔法を付与して返却する。ただし、2回目からは有料となる』
王は文官達にそう指示し、魔法武器研究所へは引き続き魔法を付与する技術開発を進めるよう命令していた。
真面目な獣人達は、王国役員の指示通り武器を鍛えて直し、注意事項として必ずあの言葉を伝え続けていた。
そうした中、獣王ザザンとの戦いは激しさを増し武器に魔法を付与する必要性が、どんどん高まっていた。
だが、未だにそんな技術は確立されず、ただ武器を鍛え直して戦士に渡す事が続いていた。
もちろんそんな事を知らない獣人たちは、自分たちの仕事に誇りを持って必死に働き続けていた。
だが、そんな『ウソ』は当然バレる。
戦士たちの間で、魔法の武器はノーマル武器と変わらないのではないか?
と、ウワサが流れて始めたのだ。
慌てた王国は用意していた対策を遂に使ったのだ。
それが、あの発表だった。
―――――――――
『王国の戦士たちに渡していた魔法の武器は、鍛治職人として働いていた獣人共が王国を騙し、魔法を付与する事なく戦士に渡していた事が判明した』
我ら王国は、戦士たちの武器に魔法を付与して戦士たちをサポートしてきた。
しかし、サポートするにも金が必要であるため、仕方なく2回目以降の魔法の付与は有料とした。
ところが、金に目が眩んだ獣人たちは私欲の為に王国を始め、戦士や魔法武器研究所、さらには町の人々を騙し適当に武器を鍛えて直すフリをするだけで、戦士たちから金を騙し取っていた事が判明したのだ。
王国は私欲に走った獣人たちを決して許さない。
私利私欲に走った獣人には、天に代わって王国が裁きを下すものである。
――――――――――
王国が用意していた『対策』により、獣人たちは反逆者として王国から追われ、人々に捕まれば私刑を受ける状態となった。
こうして鍛治職人として働いていた獣人たちは、人々から逃げ隠れするようになった。
さらに魔法武器研究所の職員達にも圧力がかかり、獣人を庇うものや王国に刃向かうものは犯罪者として王国に捕まり処刑されていった。
それでも、一部の研究所職員は獣人達を地下室や廃墟などに保護し始めたのだ。
「ラーヴワスさま… 私たちは運良くユラオドさまに助けて貰えました。 でも、多くの仲間たちは王国の兵士に捕まりました…」
獣人の女が涙を流しながら、ユラオドの話しを補足した。
オレが髪に刺した赤い棍を乱暴に取ると、纏めていた髪が弾けるように広がった。
「ぶっ殺してやる!!」
激昂したオレは赤い棍を通常サイズに戻し、ドアに向かってズンズンと進もうとした。
「ラーヴワスさま! 待ってください!」
ユラオドがオレの腰にしがみつき引き止めた。
「離せ! オレは王国の為、王の為、ヒトの為に命懸けで戦ってきた! それが… その結果が… ふざけんな!」
「落ち着いてください! 今行っても殺されるだけです。 いくらラーヴワスさまが強くても、数には勝てません! とにかく、今は生きる事を… お仲間と生き延びることを考えてください!」
「……っ だが、どうしたら…」
「まずは町から逃げる事を考えましょう。 逃げて、その先で生きる事、できれば穏やかに過ごせる場所を見つけましょう」
ユラオドが諭すように、話しかけてくる。
「くそ… ザザンを倒し、オレが最強になれば… それで全てうまくいくはずだったのに… あの頃と同じじゃないか。 オレはまた逃げるしか出来ないのか…」
オレは膝をつき、溢れる涙を抑える事ができなかった。
「ラーヴワスさま、私たちはラーヴワスさまと生きてこれて幸せでしたよ。 私たちは、ラーヴワスさまが居てくだされば、それだけで幸せに生きていけるのですから」
獣人の女は微笑みながらオレの肩を抱いてくれていた。
「くそ… オレは… オレはいったい…」
『バンっ!!』
その時、勢いよく扉が蹴り開けられた。
勢いよくドアを開けたのは、かつてのユラオドの仲間だった。
その仲間から王国のウソの真相が語られる。
次回 真相
ぜひご覧ください。
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