【11話】絶望
王の策略は完璧だった。
まずはウワサを流し、実際に戦場でその威力をアピールする。
そうした下準備のあとの宣言だったのだ。
「アクロチェア王国の戦士に成れば、全員に魔法の武器を与える」
王の宣言の効果は絶大だった。
さまざざな戦場でロイヤルナイツの凄まじさを目の当たりにした者には特に効果的だった。
それでなくても、魔法の武器のウワサは人々を魅了していたのだから当然の結果だろう。
だが、一気に戦力の増強は出来たが、肝心の『魔法の武器』を全員に配るほどの余裕はアクロチェア王国には無かった。
そもそもそう簡単に魔法の武器が作れるはずもなく、『魔法の武器』と呼べる物はロイヤルナイツが所持している6つしか無かったのだ。
確かに試作品や少し切れ味が鋭くなった剣などはいくらかあるが、さすがに全員に配るほどは準備できていない。
そこで王は、戦士達が今使っている武器に魔法を付与する事にした。
その為には武器を預かり刃こぼれなどを直してから、魔法武器研究所で魔法を付与する… と、工程が必要だった。
次に問題になったのが、『鍛冶屋職人』が足りない事だった。
王国は足りない職人をカバーする為に、オレの仲間たちに協力を求めてきた。
「これから獣人と戦うことになる。 もし、戦場で家族や知人に会うと戦えなくなるだろう。 だから、獣人の皆さんには鍛冶屋職人として活躍して欲しい」
オレの仲間たちは、「ラーヴワスさんの力になれるなら、喜んで職人として働くよ!」
と、快諾し鍛冶屋職人として戦士たちの武器整備を行うようになった。
こうして集まった戦士達の武器は整備され、数日後、『魔法の武器』として手元に返ってくるようになった。
魔法が付与された武器の受け取りは整備を受け持った鍛冶屋で行われ、獣人の職人は戦士に王国からの注意事項を必ず伝えていた。
「魔法の武器も、使い続けると魔法の力が落ちてくる。 その時はまた鍛冶屋に持ってくるように。そうすれば再度、魔法を付与する事ができる。 ただ、次回からは有償となるがな」
王国も鍛冶屋職人や魔法研究員を養わなければならない。2回目からは有償となるのは当たり前だろう。
戦士たちは素直にお金を払って、2回目以降の魔法の付与作業を依頼するようになっていた。
こうしてアクロチェア王国の戦士達は全員が魔法の武器を持つようになる。
また、戦士達はいくつかの隊に分けられ、その隊長には王国から特別に魔法の武器を与えられた。
それは、魔法の武器を研究する際に出来た試作品なのだが、ノーマル武器とは比べ物にならないほど素晴らしい武器だった。
アクロチェア王国が急成長している頃、同じようにヒトを集め力をつけている国があった。
それが、アクスムーン法王国とガザム帝国だ。
この3つの国は統治の考え方が違っていたが、『ヒトの為の世界を作る』という目的は同じだった事もあり、お互いに協力しながら獣王ザザンを倒す準備を進めていた。
その頃の王は
「敵と仲良くするには、共通の敵を作る事だ… とは、よく言ったものだ」
と、口癖のように話していたものだ。
その言葉の通り、アクロチェア王国とアクスムーン法王国、ガザム帝国は同盟を組み、ヒト種族連合国として獣王ザザンとの戦いに挑んだのだ。
ついに始まったヒト種族連合国と獣王ザザンの戦いは熾烈を極めた。
獣王ザザン率いる獣王国20万に対し、ヒト種族連合国は15万。
数では獣王国に劣るが、戦士たちが持つ『魔法の武器』の威力でなんとか均衡を保っていた。
しかし、激戦が続けば続くほどその均衡も『魔法の武器』に付与された『魔法』の効果が低下しヒト種族連合国は徐々に劣勢となる。
アクロチェア王国は劣勢を挽回する為、武器輸送部隊を形成し戦場の武器回収と『魔法の武器』の供給を図った。
これによりヒト連合国の戦士たちは士気を取り戻し、少しずつ獣王ザザンを追い詰めていく。
一方、アクスムーン法王国とガザム帝国の戦士たちには魔法の武器がないためノーマル武器で戦い続けなければならないのだが、戦場では死んだアクロチェア王国の戦士から魔法の武器を奪い合う姿もチラホラと見られていた。
ある時、ヒト連合国内であるウワサが流れていた。
『アクロチェア王国の魔法の武器は、実はノーマル武器ではないのか?』
どうやらアクロチェア王国の戦士から奪った魔法の武器で戦ったガザム帝国の戦士が、今まで使っていた自分の武器とあまり変わらない… と、言い出したのが始まりだったようだ。
そのウワサは密やかに連合国の戦士達の間で広がっていたが、獣王ザザン軍との熾烈な戦いが続いていた事もあり、戦士たちに混乱を起こす程ではなかった。
そんな熾烈な戦いも終わりが訪れる。
オレたちロイヤルナイツは、ついに獣王ザザンと直接対決にこぎつけたのだ。
だが、最強と謳われたオレたち6人のロイヤルナイツでも容易に勝てる相手ではなかった。
獣王の爪は大地を抉り、その咆哮はまるで竜巻だった。
オレたちの戦いは3日3晩続き、ついに最後の時がやってきた。
大楯のリークがザザンの強烈な攻撃を防ぎ、モニカの変幻自在なチェーンによる死角からの攻撃でザザンを翻弄する。
ザザンが攻撃体制に入る瞬間、熾天使リダの光の矢が放たれた。1本の光の矢は8本に増えザザンの出足を鈍らせる。
ギルエの双剣とオレの赤い棍の連撃には、さすがのザザンも防御しきれずキズが増えていく。
そして、一瞬の隙を狙ったミナスリートの巨人の一撃がついにザザンを捉えたのだ。
ミナスリートの大剣はザザンを袈裟斬りし、その強靭な身体を切り裂いたのだ。
ゆっくりと… そして、オレたちを見ながら力なく倒れる獣王ザザン。
その目はミナスリートたち『ヒト種族』を呪っていたのか… それとも、『獣人のオレ』を恨んでいたのか…
オレには分からなかった。
「……やった? やったぞ! オレ達の勝利だ!!」
ギルエが叫び、それに応えるようにリークやモニカ、リダが雄叫びをあげる。
「ついに… オレは… オレは…」
オレは持つ手に力も入らず棍を落としてしまい、プルプルと震える両手を見ていた。
「ミス・ラーヴワス。 わたし達の勝利…… ですね」
ミナスリートはニコっと微笑んでオレを見ていた。
「オレは… オレが! 最強だぁぁぁ!!!」
オレは震える握り拳を振り上げ、腹の底から叫んだ。
そうしてヒト連合国と獣人ザザン軍との戦いは終わり、オレ達はアクロチェア王国へ凱旋したのだった。
「ミス・ラーヴワス、長かった戦いは終わりました。 貴女はこれからどうするのですか?」
王国への帰り道、ミナスリートは楽しそうに話しかけてきた。
「そうだな。 オレの目的は達成できた。オレは仲間たちと楽しく過ごすよ。 まぁ、とりあえずは酒が飲みたい」
「ははは、まったくだ! 王国に着いたら浴びるほど酒を飲みてぇな」
ギルエは豪快に笑いながら、オレの背中をバンバンと叩く。ギルエは力加減を知らないらしく、いつもコイツに叩かれると殴り返すほど痛いのだが、今日はその痛みも嬉しかった。
「それにしても、リーク殿の大楯は凄いですね。 あの獣王の攻撃を凌げるなんて…」
ミナスリートはリークに感嘆の声をあげる。
「いやいや、ミナスリート殿の一撃も素晴らしかった。さすが巨神と呼ばれるだけあります」
「モニカさんのチェーンは、相変わらず動きが予測できませんでしたわ。 わたくしの弓もアナタには当たりそうもありませんわ」
リダは、両手を合わせながらモニカのチェーン捌きを褒め称える。
「…そ、そんな そんなこと …ないです。 リダさんの …ゆ …弓は、美しくて… わ、わたし 憧れます…」
モニカは恥ずかしそうに話していた。
「とにかく、みなさんと戦えた事を誇りに思います」
ミナスリートの言葉に全員が共感し、固い絆を感じていた。
固い絆を噛み締め、明るい未来を思い描きながら帰還したオレを待っていたのは……
『絶望』だった。
意気揚々と帰還したラーヴワスは、王国に着いた時から違和感を感じていた。
その違和感はしだいに現実味を帯びてくる。
次回 絶望のはじまり
ぜひご覧ください。
感想、評価、ブックマークもよろしくお願いします。