幼馴染みの涙の理由を本当は知りたくて
俺が見たのは幼馴染みの彼女が泣く所。
俺の部屋の向かい側に彼女の部屋がある。
そんな彼女の部屋に目をやると彼女が泣いていた。
俺は彼女に気付かれないようにゆっくりカーテンを閉める。
そんな俺に彼女は気付いた。
彼女は急いでカーテンを閉めた。
俺もカーテンを閉めた。
彼女が泣いていた理由なんて分からない。
彼女が泣くなんてよっぽどのことがあったのだろう。
次の日、彼女に会っても昨日の涙の理由は言わなかった。
彼女がなかったことにしたいのならそうしよう。
しかし、涙の理由は知りたかった。
それから何日か過ぎたある日、彼女が俺に言った。
「ちょっと私に付き合ってくれる?」
「何?」
「彼氏のフリをしてくれる?」
「彼氏?」
「今から家庭教師が来るの」
「家庭教師が来るのに俺は彼氏のフリをしてどうするつもり?」
「私に合わせてくれればいいから」
「仕方ないなあ」
そして俺は彼女の部屋で過ごす。
「まだ?」
「もうすぐ来るからちゃんと彼氏として演じてよ」
「分かってるって」
『ガチャッ』
ドアが開いて爽やかイケメンが入ってきた。
「あれ? 友達来てたの?」
「先生。彼は私の彼氏なの」
「彼氏がいたんだね」
「そうだよ。先生も彼女を作らないと寂しいでしょう?」
「そうだね。でも今はいらないかなあ」
「今は夢の為に作らないの?」
「そうだね」
彼女は家庭教師と楽しそうに話している。
彼女はこの家庭教師のことが好きなんだと思う。
でも、何で俺を彼氏として紹介したんだ?
「今から勉強するからあなたは帰っていいよ」
「えっ」
「あっ、忘れてた」
彼女はそう言って俺に抱きついてきた。
「ちゃんと合わせてよ」
彼女は小さな声で俺に聞こえるように言った。
「それじゃあ。また明日な」
「うん。じゃあね」
そして俺は彼女の部屋を出る。
彼女は何がしたいんだ?
俺は自分の部屋に帰って彼女の部屋を見る。
彼女は楽しそうに家庭教師と話している。
なんかイライラする。
俺はカーテンを閉めた。
その日の夜、彼女が俺の部屋の窓を叩いた。
俺は窓を開ける。
「さっきはありがとう」
「うん」
「何で何も聞かないの?」
「興味ないから」
「何それ。なんかむかつくから教えてあげる」
「だから興味ないって」
「先生が好きなの」
「あっそ」
「もっと興味を持ってよ」
「俺に何て言ってほしい訳?」
「何も言わなくていいよ」
「そう」
「ただ聞いてほしいの」
「分かった」
「先生は私のことなんか何とも思ってないのよ」
「そうだね」
「先生は私が先生のことを好きなのも知らないのよ」
「そうだね」
「だから彼氏がいるって言えば少しは私のこと気にしてくれるのかなあって思ったけど意味なかったよ」
「そうだね」
「どうしたらいい? 先生を好きでいていいのかな?」
「そうだね」
「その返答はおかしいわよ」
「話を聞くだけでいいんだろう?」
「そうだけど。今はあなたの言葉がほしいの」
彼女は俺を見つめて言った。
「俺に何を聞きたいんだよ?」
「あなたは先生のことを忘れさせてくれる?」
「は?」
「先生のことは諦めないとダメなのよ」
「何で?」
「先生は私がほしいものをくれないから」
「ほしいものって何?」
「愛」
「俺もお前にはあげられないけど?」
「あなたには愛を求めてないよ」
「じゃあ、俺は何をすればいい訳?」
「先生を忘れさせて」
そして彼女は涙を流した。
彼女の心は苦しさでいっぱいなんだ。
いっぱいになって涙として流れ出てるんだ。
俺にどうしろと?
俺に何ができる?
あの日も今みたいに泣いていたのか?
一人で苦しんで泣いていたのか?
「こっちに来い」
俺は両腕を広げて彼女を呼んだ。
「でも」
「大丈夫。俺がいるから」
「そっちに行けば何か変わるの?」
「変わるよ。お前は一人じゃない。一人で泣く必要はない。だから寂しくはないんだ」
「分かったよ」
彼女は俺に向かって飛び込んできた。
俺は彼女を受け止めた。
「怖かった」
「大丈夫だって言っただろう?」
「だって、あなたがちゃんと私を受け止められるなんて思わなかったもん」
「もう、昔の弱い俺じゃねぇよ」
「昔は弱くて私が助けてたのにね」
「俺はもう、男だよ」
「うん。身長も伸びて、声も低くなって、体つきもしっかりして、私にはもうあなたを助けることができないよ」
「次は俺がお前を助けるんだよ」
「そうね」
「意味分かってんの?」
「ん?」
「俺がお前を守るんだよ」
「守る?」
「お前の心を」
「私の心?」
「忘れさせてやるよ。お前が苦しんでいる原因をな」
「先生を?」
「そう」
「あなたにできるの?」
「どれだけお前の隣にいると思ってるんだよ?」
「生まれてからずっとね」
「そうだよ。俺ができない訳ないだろう?」
「その自信はどこからくるのよ」
彼女はそう言って笑った。
「もう忘れただろう?」
「あっ」
「お前は笑ってればいいんだよ。俺の隣で」
「あれ?」
「何だよ」
「あなたってこんなに格好よかったかな?」
「俺に言われても困るんだが」
「ねえ」
「ん?」
「キスしてよ」
「はあ?」
「先生のことを忘れられるかもしれないよ」
「そんなことで忘れるかよ」
「忘れさせる自信があるんでしょう?」
「それは他の方法だよ」
「もしかしてキスで忘れさせる自信がないの?」
「お前は自分で何を言ってるのか分かってんの?」
「分かってるよ」
彼女は真剣な顔になる。
「私はちゃんと自分の気持ちを知りたいの」
「自分の気持ち?」
「先生が好きなのかあなたが好きなのか」
「後悔しないのか?」
「しないよ。あなたは私の大切な人なのは確かだから」
「目を閉じろ」
「うん」
彼女は目を閉じる。
本当にキスをしていいのか?
こんなやり方でいいのか?
俺は彼女を抱き締めた。
「どうしたの?」
「間違ってるから」
「え?」
「ちゃんと同じ気持ちでキスをしたい」
「そう」
彼女はそう言ってクスクス笑った。
「何で笑うんだよ」
「私より大きい体なのに言うことが可愛くて」
「お前、俺をバカにするのか?」
「してないよ。体は大きくなっても中身はそのままで優しいなって思ったの」
「俺が?」
「あなたは昔から優しかったから」
「お前だからだよ」
「私にだけ優しかったの?」
「そうだと思う」
「曖昧な言い方ね」
「俺だってお前のことをどう思っているのかよく分からないんだよ」
「私もだよ」
「こんなに近くにいたのに分からないこともあるんだな?」
「近すぎたのよ。近すぎて気付けなかったのよ」
「そういうことか」
「うん」
「もう、忘れたか?」
「うん。もうあなたのことしか考えられないよ」
「そんなことを簡単に言うなよな」
「あれ? 照れてる?」
「うるさい」
「可愛い」
彼女は俺を見上げて言った。
可愛いのは君だよなんて俺は言えないがその代わりにキスをした。
「さっきしないって言ったじゃない」
「もう、気持ちは同じだろう?」
「もう。大好きだよ」
「俺も」
その後、彼女は窓から自分の部屋に戻ったのだが大変だった。
ずっと怖いと言っていつまでも自分の部屋に戻ろうとしなかった。
親には俺達のことは秘密にしようと二人で決めたから移動手段が窓になったのに。
彼女は怖がりいつまで経っても動かない。
仕方ないな。
「これ以上、俺の部屋にいるならお前に手を出すぞ」
「えっ。ちょっと待って、まだ心の準備ができてないの」
「それってどっちのこと言ってんの? 自分の部屋に戻ること? それとも俺に手を出されること?」
「ん? どっちも」
彼女は可愛く笑って言った。
「早く部屋に戻れ」
俺は彼女の背中を押した。
「分かったよ」
彼女はやっと自分の部屋へ戻った。
俺が彼女に手を出す前に戻ってくれてよかった。
「ねえ」
「何だよ」
「私に欲情したの?」
「お前なぁ」
「また今度ね」
「は?」
「今度、私をあげる」
「だから。簡単にそんなこと言うなよ」
「簡単に言ってないよ。私もあなたを好きだから。触れてほしいからよ」
「分かった」
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
それから彼女は俺の部屋へ窓から来るようになった。
「ねえ」
「ちょっと待て」
「行くよ」
「ああ。来い」
俺は両腕を広げる。
そこに向かって彼女は飛び込んでくる。
それが彼女が俺の部屋へ来る方法になった。
俺達の関係は秘密だからだ。
読んで頂きありがとうございます。
いつもと違った一面を見た時の変化を書いてみました。
楽しく読んで頂ければ幸いです。
楽しくなかった方はごめんなさい。
また、明日の朝6時頃に新しい短編作品を投稿するので気になった方は読みに来て下さい。