第3話 接敵
異世界逃亡生活 2日目
頭が痛いし腹が鳴る。
昨日ほとんど寝れなかったせいか、早くも体調を崩したみたいだ。変わりといってはなんだが、【敵意感知】と【隠蔽】のスキルが両方とも上がった。【敵意感知】はLv3へと上がり、半径100メートルの敵意を感知できるようになった。【隠蔽】スキルはLv2となり、俺自身を対象にした時は3分間隠れる事ができるようになった。1分から3分への成長なので、中々いいと思う。
さて、今日は食糧と水の確保を目的に行動したいと思う。というのも、昨日は何も食べていないし、水も少ししか飲んでいない。このままでは餓死エンドか脱水症状エンドを迎えそうである。貴重な生き返りストックをそんな理由で消費はしたくない。
空腹も水分不足も解消できるであろう、果物が狙い目だ。昨日の探索時点で、キノコはちらほら見つけていたが、それ以外の食べられそうなものは1つも見つけられなかった。今日もキノコ以外の食べ物が見つからなければ最悪キノコを食べることになるが、キノコは当たり外れが大きいから怖いので正直遠慮したい。
ナイフを持ったことを確認し、探索を開始する。
昨日探索していた所とは別の所を中心に探索しよう。
【敵意感知】の範囲が広くなっているので、昨日よりは安全に探索出来ると思う。……しっかし、この【敵意感知】スキル、おやすみモードとかないかな? この世界、モンスター多すぎてアラームが鳴り止まないんだけど。
範囲広がったおかげで、鳴りやすくなってるんだけど。
いやまぁ、わかるよ? 必要だよ? でもさ、これから先もこの生活が続くとなると厳しいんだよね……
そんな事を思いながら探索していると、拠点から数kmの所に小さな川があることが分かった。ここにたどり着くまでに今までよりも多くモンスターを感知した所をみると、モンスター達もこの小川で喉を潤してるのかもしれない。となると、ここに来る時は結構用心しながらこないとだな。
「まぁ、何はともあれ…… 水だぁ!!」
昨日は岩肌からじんわりと染み出ているのを飲んだだけなので、こうしてガブガブと飲めるのはかなり嬉しい。
「昨日みたいに腹壊さなければいいけど… まぁ、こんだけ綺麗な水なら大丈夫だろ!」
なにか水を保管出来るようなものがあればなぁ…… 水筒とか、桶とか、樽とか。うーんどうにかならんものか…… サバイバル系の動画とか見たことないから知識が無いぞ…… ぱっと思いつくのは竹を加工することだけど、景観的にここら辺に竹が生えてるとは思わない。
となると、桶か樽を作ることになるが、作り方とか知ってるわけが無い。形状的に、木の板の束を縛ってるのかな? あれ考えた人凄いわバケモンだよ。俺の技術じゃ無理だぜ……
「んんんん、どうしたものか…… なんか他に水を組めるもの…… あっ! 土器! 土器があるじゃん! 縄文時代から使われてるし、今の現状でも作れるんじゃないか?
……作り方はあやふやだけど」
形づくって土焼いたら出来んのかな? んー、やってみないとわかんないけど、絶対、火は必要だよな……
まぁとりあえず、土器は最有力候補として考えておこう。
小川を見つけたことで、当分の水の心配が無くなったので、残る当面の課題は食糧問題である。小川を離れた後、2時間ほど散策しているが成果は振るっていない。
見つけたものといえば、赤いキノコや、赤と黄色の縞模様の木の実、黄色いキノコに青いキノコ、紫と緑の斑点模様の木の実に、黒いキノコ、半透明のキノコ……
うん、ほぼキノコしか見つけられてないな。
しかも絶対全部食べちゃダメなやつだ。俺の勘……というか見た目でわかる。拾った木の実も絶対毒あるだろうに……
「あれれ? なんでこんな所に人間がいるんだい?」
その声は俺の目の前から聞こえた。さっきまで誰もいなかったはずなのに、何故か分からないが、いつの間にか目の前に女性がいたのだ。赤と黒を基調とした服が、女性の不気味さを一層感じさせている。
一拍遅れたように【敵意感知】が反応する。俺はすぐに【隠蔽】を使用し、後方へ全力疾走する。
「ん? あはは! ダメダメそんなんじゃ! 丸わかりよ~
……ほら、そこ! 」
女性の掛け声と共に、俺の足元に魔法陣が現れる。
魔法陣からは無数のツタが現れ、俺はあっけなく女性に捕縛されてしまった。
「あはは! なーんで逃げるのよ? 私、そんなに怖いかしら~? 容姿には結構自信あるんだけど。瞬間テレポートして突然話しかけたのがダメだったかしら? 」
女性は顎に手を当てながらブツブツと呟く。
「ま、いいわ。それで…… 人間。お前は何故ここにいるんだい? 臆病ビビリでコソコソと生き長らえてるしか脳のない人間族なら、こんな場所にはこないと思うのだけど」
……どうやら目の前の女性はすぐに俺を殺すつもりは無いらしい。【敵意感知】は未だに発動しているが、コミュニケーションが取れない相手ではないようだ。
「お、俺は奴隷商人に連れられて… で、でもモンスターに襲われて、俺はここに……」
「ふーん、なるほどね。ここらで奴隷商人ってことは、クライフかしら。……つまりお前は、だれの持ち物でもない、フリーの人間族ってことね?」
女性は不気味に嗤うと、その目は妖しく光ったように見えた。俺の【敵意感知】もより一層けたたましくアラームが鳴り、この状況がいかに悪いかを認識させる。
「お前は知らないだろうけど…… ここ最近じゃ人間族の数が減っちゃって中々手に入れられないから、人間族は希少なのよ!? 私ってばラッキーだわ! いや~ 人間族の肉を食べるの、何年ぶりかしら~」
こ、こいつ、俺を食べる気か!?
クソ、嫌だ嫌だ嫌だ! こんな所で死にたくない!
「ん~ なによ、暴れないでよ…… 傷ついちゃったら鮮度が下がっちゃうでしょ? ……1回気絶させようかしら? 」
俺は精一杯もがいた。しかし、ツタをちぎろうと頑張るが全くちぎれる気配もせず、 体を上下左右に少し動かすのが関の山であった。
「あははは!痛くしないから、安心して人間!」
「嫌だ! やめてくれ!!!」
女性の手が真っ赤に光り、もうダメかと腹を括った時。
不意に少女はピタっと手を止め、俺の右側の方を凝視していた。俺の右側には、さっき採取していた毒々しいキノコと木の実がポロポロと点在してるだけのはず……
しかし、俺の右側にはキノコと木の実は無かった。代わりに、今の俺と同じ位の歳の女の子が、何かを頬張りながら、いつの間にか存在していた椅子にちょこんと座っていた。その女の子は幸せそうな表情をしているが、それとは対照的に、俺を食べようとしていた女性は忌々しそうにその女の子を睨んでいる。
「……なんでアナタがいるのかしら? 邪魔するつもり?」
「ん? いやいや、美味しそうなキノコと木の実があったものだから、ついついね」
「……それで、アナタは私の邪魔をしに来たのかしら? もしそうなら……」
「そうなら…… なにさ? え、もしかして戦うつもり?」
「い、いや……」
女性は明らかに少女を怯えているようで、先程までの強気の姿勢はどこかへ行ってしまっている。
「さーて! じゃ、さっさとどっか行ってくれないかな《人喰い》? 僕、この子にちょっと聞く事出来たからさ~」
「わ、私の獲物……」
「なにか文句あるの? 」
「あ、いや…… それじゃ!」
女性は血相変えて逃げてしまった。
……そして残される俺と少女。
どうしよう…… あの女の子、俺を食べようとした女性に睨みひとつで勝ってしまった女の子だよ? 絶対逃げれないよね? 一応、この子からは【敵意感知】が反応してない分、あの女性よりはマシだとは思うが……
「さてさて! ごめんねごめんね、大丈夫? あ、そのツタ取ってあげるね~ ほいほい!」
少女が手を動かすと、俺を縛っていたツタが朽ち果てた。
「さて、自己紹介しようか。私はユキ・パワーズ! ユキって呼んでね? 」
「あ、あぁ…… お、俺はレン・アルベルト」
「レン君だね! 了解了解。さて、レン君も気になってるだろうし、本題といこう!」
ユキがそう言い、手を振るうと、椅子とテーブルが出現した。ユキが座って座ってと言うので、言われるがままに座る。
「私があの《人喰い》を追い払ってまで君を助けた理由がはね…… あのキノコさ! キノコ!! 」
「……キノコ?」
一瞬、目の前の少女が何を言ってるのか分からなかった。助けた理由はキノコです、分かった?って言われてもわかんないよ。え、これ俺の理解力が低いわけじゃないよね?
「あの、キノコのために助けたってこと? 俺の事を?」
「そだよ? 私、キノコ好きなんだ。美味しいでしょキノコ?」
「キノコのお詫びで助けてくれたって事?」
「いや? キノコを食べたことは全く気にしてないけど? 置いとく方が悪いじゃん。地面にあったら拾った人のものだよ?」
ダメだ、益々わからん。
キノコのために助けたのに、キノコを食べたことは全く気にしてないってどういう事だよ?
「……あの、ユキさん、もうちょっと詳しく説明してもらっても?」
「ユキさんじゃなくてユキって呼んで? なんか嫌なんだよね敬称つけれるの」
「わ、わかった…… それでユキ、詳しく説明してくれないか?」
「んーとね、レン君がもってるキノコの中に、クリスタルキノコっていう希少なキノコがあったんだよ」
クリスタルキノコ…… あ、あの半透明のキノコの事か?
クリスタルといえば確かにクリスタルかもしれん。
「あのキノコ、幻のキノコって言われててね? 文献では知ってたんだけど、僕も見るのは初めてでさ! 太古の昔には流通してたらしいんだけど、今はどんなに探してもなかったんだよ~!でもでも! 空中ぶらり中に、地面に転がってるのを見た時には心臓飛び出るかと思ったよ……! ……実際、心臓止まって助けるの遅れちゃったしね」
まじか、幻のキノコとか呼ばれてたのかあれ。
綺麗だな~と思って収穫してたんだけど、収穫しといて本当に良かった…… でも、普通に生えてたよねあのキノコ? ……というか、
「あの、そこにもクリスタルキノコ? 生えてますよ?」
「えっ!!?? どこどこ!? どこにあるの!?」
「いや、だからそこに……」
俺はクリスタルキノコをずっと指さしてるのだが、ユキはまるで見えてないように辺りを必死に見回していた。埒があかないので俺はクリスタルキノコを収穫すると、ユキは心底驚いた様子で俺とクリスタルキノコを交互に見る。
「なっ!? 認識阻害? 透明化? 僕が見抜けないレベルで? ……いや、それは無理だ僕だぞ僕? 僕を騙せるのなんて《嘘つきの霊》位のはず……」
「あ、あの、ユキ?」
「いや、そもそも何故レン君が見つけられるのさ、そこだよ、そこが問題だ! スキルを使われていようとレン君が見抜けているのが問題だ! ……となると、何らかの制限系かな?」
「ユキ? ねぇ、聞いてる!?」
「……レベル制限? いや、それなら今まで見つからなかった説明にならない。特殊なスキルがなきゃ見つけられないとか? ……いや、レン君のステータスを確認した限り【不死鳥】以外は普通のスキル。【不死鳥】もただ生き返るだけのスキルだし……」
なんか今、さらっと俺のもってるスキル言ってなかった? 鑑定スキルとかもってるのかな……
それよりも、どうしようこの状況。ユキは一心不乱にクリスタルキノコを見ながらブツブツと考察を続けてるし…… あっ、【敵意感知】が働い……
「僕、忙しいんだからどっか行ってて犬っころ!!!」
……反応、消えましたね。これは逃げたのかな、それとも睨みの圧力で死んだのかな……
「そうか! 分かった、分かったよ! 」
「……正直、このまま終わらないのかと」
「あはは、ごめんごめん。でも、なんでレン君にだけ見つけられるのか分かったよ!」
ユキは深呼吸して呼吸を整える。
「ずばり、レン君が人間族だからだね!」
作者はキノコ苦手です。




