第0話 始まりの転移
異世界転移物です。
読んでいただけたら幸いです。
「..........ただいま」
....................。
15年振りの故郷に対して精気の無い声を投げ掛ける。
「門番は...昼寝中か」
門番は詰所ので酒瓶を抱えて眠っていた。元帝国騎士団長の面影は全く無く、ぐうたらという言葉の似合うおじさんと化していた。
門をくぐって広場を突っ切り、奥の実家の方へと歩を進める。以前は活気の絶えない賑やかな故郷が15年経った今、閑散としていた。
.....今この街に住んでいるのは、ごく少数の獣人とハーフエルフが3人とぐうたら門番1人...。
「.....やっぱり殆ど誰もいないか」
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12歳の頃、騎士になるべく両親と兄妹達の期待を一身に背負い、帝国のあるエステリオ地区へと出発。
最難関と云われる、テレナリス帝国・騎士学校の入学試験を楽々とパスし、騎士科を首席で卒業。卒業後はそのまま騎士団へと所属した。
期待の新人と言われた俺は入団後直ぐに数々の活躍をして見せた結果...なんと、俺は齢19という若さで近衛兵を任されることとなった。
そして近衛兵を3年程勤めた頃、第2王女様に見初められ恋仲となった。国王はこれを認めてはいなかったが、数々の活躍を称え俺に異例中の異例で侯爵を叙爵し、良しとするものであった。しかし当然異議を唱える者も多く存在し暫くは保留とされていた。
半月たった頃、国王はある条件を持って第2王女様との婚約を認めると命令を下した。
その条件とは、単身でエステリオ地区の外れに聳えるソブラン山にある竜の巣へ赴き、そこに住まう伝説の竜を打ち倒し、見事竜の首を取って寄越せば認めるというものだった。
俺は竜を打ち倒すべく意気揚々とソブラン山へ直行。
.....しかし、そこには竜はおろか魔物すら見当たらなかった。俺は山の隅々まで探したのだが、竜の巣など何処にも無かったのである。
この事実を帝国に持ち帰り王へ報告。しかし、王は
事前に大臣の息のかかった親衛隊からの報告により、伝説の竜の目撃情報が上がっていたという。その事から俺を臆病者と罵り国外追放処分とした。
そんな事があって、第2王女様からも見放され俺は失意の元故郷へ帰るのだった。
帝国から故郷までは馬車を用いても、最低2ヶ月は掛かる。のだが、追放者への対応は辛辣で馬車は使えず俺は数万キロもの距離を徒歩で帰る事となった。
「俺に魔法を行使する力があれば、もう少し楽になると思うんだけどなぁ...」
確かに魔法と言うモノは優秀で、騎士の中でも使える者は多く剣に魔法を纏い戦う者も居た。しかし、俺は魔法を行使出来なかった...しかし、それ以上に戦闘能力は高かった。
帝国から数十キロ離れた森でテントを張り、焚き火の前で呟く。今までの給金や装備等は全て取り上げられてしまったが、森で採った果物や川魚、猪風の魔物等で生活は可能なのが唯一の救いだ。これで荒地に放り込まれてたらと思うと更に悲しくなってくる。
ふと、中身の乏しい鞄の中に身に覚えのない手紙が手に当たる。それは、第2王女様から俺への手紙だった。
そこには今回の件の詫びと、真実が書かれていた。
全ては平民の出である俺に侯爵を叙爵された事に対する大臣や公爵達の妬みと、行き遅れになりそうな第1王女様の妹への嫉妬が合致した結果、俺はその者達に騙されたとの事。やはり竜は存在していなかったと言う。
それから、第2王女様がキツい態度で俺を見放したのは、俺への想いを隠す為だったと。
「.....姫様.....」
それから手紙にはこう記されていた。
王妃様は全て知っていたが、病に伏していた為行動出来ず申し訳ないと。侯爵という爵位だけ叙爵させて頂きます。どうか生き延びて欲しいとの事。大事な愛娘が愛した騎士様へ。と...。
.....しかし、爵位だけあっても仕方ない気がするが、有り難く頂いておこう。
まぁ、結果的にその爵位のお陰か、道中なんとか素手で倒した大型の魔物を行商人に売る際、かなりの高額で取引をしてくれた。そのお金で故郷までにある村等で装備を整える事が出来たし、宿に泊まる事も出来た。
そして、半年も経たずに故郷へ帰る事が出来たのだが.....。
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実家には乱雑に置かれた本やボロボロの家具が倒れていた。その家具の上に紙が一枚、こう書かれていた。
『お前は一族の恥だ!! 親子の縁は切らせて貰う!!』
.....と。
道中聴こえていないフリをしていたが、臆病者と言われ、国外追放された俺の噂は至る所から聞こえていた。
俺の故郷・オソマリ地区のムニグマ街の住人はその噂を聞くや否や飛び出す様に地区外へ。数日でもぬけの殻となった。今は行き場を無くした達の集う廃墟となっている。
門番のおじさんは気にしなかっただけなのかな?
いや、酒が飲めれば何処でも良いのか...
などと考えながら実家を後にして再び門をくぐると
「もういいのか?」
門番のおじさんがさっきとは正反対に凛々しい表情で声を投げかけてきた。
「正直者のお前の事だ。何か騙されでもしたんだろう?」
ズバリ的中だ。察しのいいおじさんは、やっぱり元テレナリス帝国騎士団長様であると再認識する。
「.....例え騙されたとしてもそれは、俺の経験不足なだけだから」
「..........いつでも帰って来いよ」
「..........うん」
俺は振り返らず帝国とは反対方向へ歩き出す。
別に泣き顔を見られたくないからとかそういう事ではないのでそのつもりで。
暫く街道を行くと国境砦が見えてくる。
俺は砦には行かず横道に逸れて狭い洞窟へと向かう。
その洞窟には転生の祠という古くからある神様が祀られている場所がある。
そこで願うと何年後かに転生出来たり、人相を変えたりすることが出来るというなんとも眉唾な伝承が残っている。
「こんな所に来るまでじゃないけど、祈願くらいにはなるだろう...」
そうこうしていると祠に辿り着いた。
「..........洞窟の外壁とかここまでの道のりはかなり荒れ果てたものだったけど、この祠は物凄く綺麗なものだな」
誰かが毎日かは分からないけど掃除にでも来ていたのかと思うほど綺麗な祠だった。それとも本当に神様が居て、その力が何か影響でもしているのだろうか?
《その通りです。若き騎士よ》
「えっ!! な、何だ!?」
《私はこの祠に住まう神----ここに私が居る限り廃れることはありません》
「.....本当に神様が居たのか。じゃあこれ以上ない程の祈願になるな」
《いいえ...貴方にこの世界は相応しくない。これより貴方には魔王の支配する異世界へ転移していただきます》
「ん? 転移って...どうしてでしょうか? それに相応しくないって...」
《この世界では貴方の内に眠る魔力を発現出来ないのです。故にこの世界で貴方は魔法なる物が扱えないでいます。》
「俺に魔力が!? でも...姫様や王妃様へ恩もあるし、侯爵って言う爵位も無駄になっちゃうんじゃあ...」
《否定します。異世界においても貴方の爵位は侯爵のまま。更に、異世界で生き行く術を授けましょう。異世界が貴方を待ち望んでいるのです。》
「そこまで言われたら行かないわけにはいかないな。姫様を守る権利はもう俺には無いんだ。今度はその魔王とやらを倒しに異世界に行くとしますか!!」
《了承と受け取ります。転移魔方陣展開----------------------------成功。転移が開始されます。「...お気をつけて」》
「...っ!? 行ってきます」
騎士侯爵は転移魔方陣で異世界へと旅立った。
「..........どうか、神のご加護がありますように」
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異世界へ続く.....。