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俺の異世界ハーレムがチート娘ばかりで、そろそろBANされそうです。  作者: EZOみん
第一章 ハーレムは一日にして成る。そう異世界ならね!
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第四話 リカバリー王、来美

 うかつだった。

 

 宵の口ではあったが、もう日は沈んでいたのだ。

 少しは用心しておくべきだったのに――


 俺がそんな風に悔やんだのは、ずっとあとのこと。

 

 実際、異常事態が起きた瞬間には、なにかを思う余裕などないのだ。


「きゃああああっ!? ちょ、ちょっと、なに――」


 隣にいる来美の悲鳴さえもよく聞こえない。

 部屋の中には猛烈な突風が渦を巻いているのだ。

 

 通学鞄やクッション、コンビニの買い物袋がふわりと浮かび上がり、飛び回りはじめた。

 

 いくらなんでも、風だけでこうなりはしない。



 ポルターガイスト。



 悪霊の仕業としてはまだかわいい方だ。

 だが、自室でやられる人間にとっては迷惑極まりない。

 

 俺が家具を増やせない理由が、これだった。


 壁に衝突した炭酸飲料のペットボトルが、来美目がけて飛んでくる。

 俺はとっさに彼女に覆いかぶさった。


「痛てっ! くそっ、なんか今日は一段と荒れてやがるな」

 

 肩に激突したペットボトルはさらに高く舞い上がった。

 

 ポルターガイストは毎日起こるわけではない。

 起きない時は、しばらく平穏が続くこともある。

 

 特にここ半年はほとんど発生していなかったので、つい油断していたのだ。


 ちょうど飛んで来た自分のトランクスを引っつかみ、俺は素早く足を通した。

 さすがにこの状況で下半身丸出しは危険すぎるぜ、色々と。


 しかし、風の音がすごいな。まるで犬が唸っているみたいだ。

 俺は真っ青な顔をした来美を抱き寄せた。


「た、たけるん、これって……」

「騒々しいけど、大丈夫。そんなに危険はないよ。長くは続かないはずだし」


 とたん、風速がいきなり上がった。

 風鳴りも一層激しく――いや、これはもう明確に犬の声じゃないか?

 

 すぐ近くに大型犬が複数いて、俺達を威嚇しているように感じられる。


「ねぇ、これ、本当に大丈夫なの!?」

「ごめん、これはもうダメかもわからんね」

「たけるん、しっかりしてよ!! バカバカバカ!」


 恐怖から逃れたいのか、来美は顔をうずめるように俺にしがみつく。


 吹き荒れる風は今や耳を(ろう)するほどだ。

 それに重苦しい唸り声が混ざっている。

 

 おまけに漆黒の不気味な影が、いくつも周囲をぐるぐると駆けていた。


 まるで、どころの話ではない。

 猛り狂った犬の群れに、本当に取り囲まれているとしか思えない。


 どうする? 今までこんなことはなかった。

 このままでは俺だけでなく、来美までひどい霊障を受けてしまうのでは――


 ところが、なんの前触れもなく風はすうっと弱まり――唐突に途絶えた。


 宙に浮かんでいた物がどさどさと床に落下する。

 

 同時に犬の声も、不気味な影も消えてしまった。

 耳に届くのは、街の遠い喧噪だけだ。

 

 窓から差す月明かりと街灯が、静まりかえった空間へ淡い光を投げていた。



 ポルタ―ガイストはやっと終息したらしい。



 俺と来美は抱き合ったまま、へたり込んだ。

 どちらからともなくへらりと笑い合い、一転真顔になる。

 

 俺達は深々とため息をついた。



   □



 すっかり暗くなってしまった。

 俺は手探りで電灯のスイッチ紐を見つけ、明かりをつけた。


 部屋は散らかり放題になっていたが、もともと物が少ないので大したことはない。

 母さんの写真も無事だ。

 

 ただ炭酸飲料のペットボトルはたっぷりシェイクされてしまった。

 しばらく開けない方が賢明だろうな。


 明るくなったおかげか、来美も安堵したようだ。


「びっくり、したぁ! お、終わったんだよね、これ?」

「ああ、たぶんね。いつも通りなら、次に起こるまで最低三週間は空くはずだ」

「いつもこんな目にあってんの!? たけるんが、よく具合悪そうにしてるわけがわかったかも」


 ふと足元に目を落とすと、俺のスマホが床に転がっていた。

 しまった、ふだんは用心して鞄にしまっておくのに。

 これは新聞配達のバイトをして買った大切なスマホなのだ。

 慌てて拾い上げて確認したが、幸い壊れていなかった。


 吹き乱された髪を手ぐしでざっくり整え、来美は深呼吸をした。


「もうー、めっちゃ怖かった。ここ、まわりに霊が全然いないから安心してたのに、実は完全にお化け屋敷じゃん! VRとかのアミューズメントパークみたい」


 笑顔はやや弱々しいものの、来美はもう気持ちを立て直しているようだ。

 俺は本気で感心した。


「すごいな、お前。ショックで泣き出すかと思ってたよ」

「うちも見えるし、それなりに怖い目には遭ってきたからね。でも、めっちゃ、すごかったぁーっ!」


 言って、来美は脱力した。


「はぁ~あ。たけるん、それじゃ……」

「ああ、帰るんだろ。送っていくよ」


 腰を上げかけた俺を来美は強引に引き戻した。

 両の掌で俺の顔を挟むと、唇を合わせてくる。

 

 歯を割って滑り込んでくる舌の動きは荒々しく、技巧の欠片もない。


 出るところは過剰に出ているが、引き締まった身体が細かく震えている。

 やはり相当堪えたのだろう。当たり前だよな。

 俺は彼女の背をゆっくりさすった。


 しばらくそうした後、来美はすねたようにつぶやいた。


「ばーか。あんなことがあった後じゃ、家に帰っても怖くて寝れないじゃん」

「え、ええと……だから?」

「だからぁ、続きしよ? 泊まってもいいっしょ?」

「ええっ!? お前、この部屋怖くないのかよ!」

「だって、しばらくは大丈夫なんでしょ? パパもママも毎日帰りが遅いしさ、うち一人で自分の部屋にいるとか、そっちの方が無理」

「それなら、他の友達のところとか……」


 俺が逃げ腰なのが気に喰わないのか、来美は俺をにらみつけた。


「今夜はたけるんとやりたいのっ! みんなにもそう言っちゃったんだから!」


 おお、なんてマーベラスな女性だろうか。

 俺は深く感動した。

 彼女ならもしフラグがへし折れてもガムテープでぐるぐる巻きにして、無理やり補修してしまうだろう。

 やはり永遠の愛を誓うべきだ、半年くらい有効の。


 ただそれはそれとして、俺には応じられない事情があった。


 あのポルターガイストは、俺に憑いている悪霊達の仕業なのだ。

 漆黒の不気味な影ども。

 そして、それ以外のさらにおぞましいなにかもいる。

 

 ずっと昔から、俺はあいつらに取り憑かれているのだ。

 どこに行っても逃げられない。なにをやっても祓えない。

 

 ひょっとすると、地縛霊ならぬ人縛霊(じんばくれい)なのかも知れない。


 俺はまだ若いし、身体的には健康だ。

 しかし周囲の人間に比べて顔色が悪く、疲れやすい。

 

 それは悪霊に生命力を吸われ続けているからだ。


 どうにか改善したくて色々な武道やスポーツをやってみた。

 だが、あまり効果はなかった。

 運動で肉体面は丈夫になっても、根本的な生命力は強化できないようだ。


 特にポルターガイスト現象を引き起こされた後は、ひどい脱力感に襲われる。

 気力をごっそり削られ、精根尽き果ててしまうのだ。


 ぶっちゃけ、その状態では勃つものも勃たない。

 俺としても極めて残念なのだが、こればっかりは仕方ない。


「えー、そうなの? たけるん、かわいそう」

「って、人が説明している最中にトランクスに手を突っ込むなっ!!」

「でもぉ、優しくこすこすしてたら、ガッチガチになったよ?」

「へっ?」


 俺は慌てて股間に目をやった。

 いつの間にか、しかるべき部分はしかるべき状態にリカバリー済み。

 トランクスの合わせ目を割ってコンニチワしているではないか。

 ハローワールドかな?


「たけるん発音、変。Hello worldっしょ?」


 ごく簡単な単語ではあるが、さらっとネイティブっぽい発音でこなしやがって。

 いや、今はそれどころではない。


 一部だけならまだしも、俺は全身まるっと元気いっぱいだった。

 もちろんいいことではあるのだが……今日は、なにかがおかしい気がする。


 気がするのだが、物事には優先順があるはずだ。


 そして今、なにを最優先とすべきなのか。

 諸君に申し上げるまでもないだろう!

 

 男には絶対にやらなければならないことがある。

 もしやれなければ、泣き崩れてしまうこともあるのだ!


 なによりも来美がその気なのだ。

 しかるべき部分もスタンバイオーケーだ。

 

 これを俺の都合でほごにしてしまうことは、許されないことではなかろうか。


「言わば人道上の危機だな。うむ、捨て置けん。じゃ、そういうことで続きを……」


 だが、その決断は遅すぎた。

 俺の部屋はもう異界に侵食されはじめていたのである。

本日の更新はここまです。ご愛読ありがとうございました!

よろしければ、ブクマ、評価など、ぜひぜひお願い致します~。


そして――予告ッ!!

 

次回『バ〇サンで除霊はできない』 ※ルパン風タイトルコールをご想像ください。


明日、12/30 22~23時頃の更新予定でございます。

お楽しみに!!

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