表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の異世界ハーレムがチート娘ばかりで、そろそろBANされそうです。  作者: EZOみん
第一章 ハーレムは一日にして成る。そう異世界ならね!
23/47

第二十三話 誰かを待ちながら

 裂け目は狭かったが、幸いにも下方向への奥行があった。

 俺はハナを抱え、壁に背中をこするようにして裂け目を降りていった。

 

 上から掘り返されているせいで、どんどん石や土塊が降ってくる。

 四、五メートルも降りると裂け目は終わり、空洞が広がっていた。

 

 ほとんど真っ暗でよく見えないが、先は行き止まりのようだ。

 

 怪物達はまだ諦めていない。

 数体がかりで着実に固い地面を掘り進んでいる。


 この調子だと、あと数分で極めてまずいことになるはずだ。

 

 ハナは俺から離れると、おぼつかない足取りで空洞の端までいき、壁をひっかきはじめた。


「一人分の穴を掘ります。タケル様はそこに隠れてやり過ごしてください」

「――なんだって?」

「大丈夫ですよ。連中、バカっぽいから、わたくしを捕まえれば、タケル様のことはたぶん忘れてしまいますよ」


 そんなことはわからないし、それじゃ、お前はどうなるんだ。

 反論を阻止するかのように、ハナは叫ぶ。


「なんとか、します! 間に合わせます! だから、お願いですから、ハナの言う通りにしてください!!」


 岩盤ではないとは言え、こんな土壁を素手で掘るのはさすがに無茶だ。

 だが、ハナは掘るのを止めない。

 猛烈な勢いで手を壁に突き立て、少しずつ掘り崩していく。

 

 だめだ、ハナを止めないと……いや、止めたって意味はないんだ。

 必要なのは、打開策だ。

 どうにかして俺が打開策を見つけなければ、ハナの気持ちを踏みにじるだけになってしまう。

 

 だが、どうすればいいんだ?

 ここにはなにもない。誰もいない。

 

 なにも、誰も――

 

「――ハナ、待て!!」


 俺はハナを羽交い絞めにして、壁から引き離した。

 とたん、勢いよく振り払われて俺は転倒してしまった。

 一ミリも余裕のない表情でハナは怒鳴った。

 

「邪魔しないでくださいっ!! もう時間がないんですからっ!」

「痛ててて……だから、待てってば。見ろ、あれ」

 

 俺は奥側の壁を指した。

 最初は暗くて見落としていたのだが、なにか大きな物体があった。

 なかば壁に埋もれているが、滑らかな金属で覆われた鎧のようなモノだ。

 

 放棄されたオーガスレイブだろうか。

 

 いや、違うな。形状からして、こいつは別物のように思える。

 近くに寄って見ると、全体的に暗い色で塗られており、表面はざらついていた。

 ところどころ、鮮やかな白とオレンジ色のラインが入っているようだ。


 武骨な工業製品然としていたオーガスレイブに比べると、芸術品のような手作り感があった。間違いなく、人工物だ。どうしてこんなところにあるんだろう?

 

「こんなガラクタ、あっても仕方ないです! ハナは仕事に戻ります!」

「待てってば。わからないけど、まるでこれは新品みたいだぞ」

「例え新品でも、動かせなきゃ、意味が――」


 急に息を飲むと、ハナは言葉を途切れさせた。

 同時にTシャツの裾がくいくいと引かれる。

 

――子供?

 

 いつの間に現れたのか。

 俺とハナの間にちんまりとした女の子が立っていた。

 背丈からすると、せいぜい小学校の四年生くらいだろうか。

 普通ならまだ保護者が必要な年齢だ。


「――、――?」

「え? ああ、困っているんだけど」

「……タケル様、その子がなにを言ってるのか、わかるんですか?」


 ハナにしてはおずおずした調子で聞いてきた。

 どういう意味だろうか。ちゃんと『知っている』言葉だぞ。

 かなり小声だけど、ハナにも聞き取れるはずなんだが。

 

 またくいくいと裾が引かれる。

 

「――。――、――?」

「力をあげる? 契約したら、あの怪物を倒せる力を俺にくれるって?」


 女の子はこっくりとうなずく。


 青白い肌、薄い青の瞳。

 ウェーブがかった髪はくしゃくしゃに乱れ、地に届きそうなほど長い。

 簡素な服は汚れ放題で、あちこちがほつれ、破れている。

 

 茫漠とした表情からは、感情を読み取ることができない。

 この子からは、ほとんどなにも伝わってこなかった。

 

 小波一つない、凪のような心だ。

 

 虚無や無感動ではない。

 むしろ情緒の欠片とでも言うべきものが、心の裡にたっぷりと蓄積されているのを感じる。驚くほどに、たっぷりと。


 ただ、なにかが足りていないのだ。

 だからせっかく持っているものをきちんと組み上げ、感情として表現することができていない――そんな風に思えた。


 いや、だけど、ほんの少しだけ動きがある。

 ゆったりとしてるが、明確な方向性のある、とてつもなく大きなうねり。


 渇望だ。


 この子は、強く誰かを求めている。

 海のように大きくうねる渇望だけを抱えて、ここで待っていた。

 ずっと、待ち続けていたのだ。

 ()()を。

 

「――?」


 どうする? って聞かれても、こちらに選択の余地なんてない。

 このまま怪物に喰われるのだけは勘弁だ。


「タ、タケル様……この子、おかしいですよ。やばいと思います」

「なに言ってるんだ、今さら。こんな所にこんな状況で、突然現れたんだぞ。おかしいに決まってるだろ」

「――えっ? いや、はい、そうですけど」


 ハナは目をぱちくりした。

 うわ、まじでたぬきそっくりだな、その表情。

 これは言わない方がいいかな。きっと憤慨するに違いない。


「まじでたぬきそっくりだな、その表情」

「たぬーっ!? ま、また言いましたね……! どうしよう、やっぱり殺すしか……?」


 いかん、つい誘惑に負けてしまった。

 ハナは面白いなぁ。緊迫した状況のはずなのに、思わず笑ってしまう。


「――、――?」

「あ、ああ、悪い。わかったよ、契約ね」

「ちょっ、ダメですよ、タケル様! やばいですって」


 ハナが慌てた様子で止めに入ってきた。

 いや、やばいのはわかっているぞ。全然、情報が増えてないじゃないか。


「――、――。――、――!」

「えっ? 今だけ? 俺だけにご案内する、特別なご契約?」


「――! ――、――!! ――!?」

「そ、そうか。お得だな、それは。申し込んでもいないのに、当選していたなんて知らなかったぜ。そんなに倍率が高かったのかー。なら、せっかくだし、契約を……」

「だ、騙されてるぅぅぅーっ! 絶対、騙されてますよ、タケル様ぁっ!!」


 物凄い勢いで突っ込むハナ。

 まったく落ち着きのない奴だ。俺は苦笑してたしなめた。


「大丈夫だって。ネズミ講じゃないって、パンフにも書いてあるそうだし」

「いや、めっちゃネズミでしょ、それ! チューチューじゃないですか、明らかにっ!!」


「でも、特典として魂のステージが二階級特進するんだぞ?」

「アセンションプリーズ! だーかーらっ、詐欺(カモ)られてますよ、タケル様っ!!」


 後ろで大きな音がして、俺達が降りてきた裂け目が崩れてしまった。

 土煙の向こうに、怪物の青白い手が見える。


『イイイイ、イヒ、イヒヒッ!』


 連中は興奮した叫びを上げ、あと一息とばかりにどんどん土を掘り返している。

 さすがにもう猶予はない。

 俺は女の子に向かって右手を差し出した。


「わかった、契約するよ。条件は俺達を助けてくれること、でどうかな」


 こっくりと女の子はうなずく。

 ばしんっ、と空気が鳴った。

 俺の右手に幾筋もの細い裂傷が生じ、血が滴る。


 ぞろり、と青黒く長い舌が伸び、己の頬に飛んだ血しぶきを女の子は舐め取った。


 急に息が詰まった。

 心臓に沢山の棘が刺さったような、身動きの取れない痛み。


 黒い血が、俺の肉体に流れ込んでくる。 

 唐突に発生した激痛に、俺は膝を折ってしまう。


「タケル様っ!? ――お前、なにをしたぁっ!!」

 

 胸倉をつかみ上げられ、初めてハナに気づいたように視線を合わせ、その子は笑った。


『イイイ――キ、ヒヒヒヒッ!!』


 女の子の声が怪物そっくり――いや、そのものだったことに、俺はやっと気づいた。

ご愛読ありがとうございました!

よろしければ、ブクマ、評価など、ぜひぜひお願い致します~。


そして――予告ッ!!


次回『パワー、それは力』 解き明かされる、水素水の秘密!(嘘)


明日、1/18の更新予定でございます。

お楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ