表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の異世界ハーレムがチート娘ばかりで、そろそろBANされそうです。  作者: EZOみん
第一章 ハーレムは一日にして成る。そう異世界ならね!
21/47

第二十一話 しかばねは、返事がないのがお約束

「うわあああああっ!?」


 通路は俺達を乗せたまま、恐ろしい速度で急斜面を滑り落ちていく。

 俺はハナをかかえ、必死に地面にしがみついた。


「あー、ジェットコースターみたいですねぇ。いや、サーフィン? スケボーでしょうか」

「んなこと、言ってる場合かーっ!!」


 どこか力のぬけた笑いを浮かべるハナに言い返す。

 たまたま上手いことバランスが取れているから、振り落とされずに済んでいるが、こんなことがいつまでも続くわけがない。


 ここは異世界だが、神話の中ではない。

 早い話、奇跡は起きないのだ。

 

 ということで、必然的にそれは起きた。


 斜面の途中にあった隆起に激突。

 亀裂だらけの通路はばらばらになり、俺達は勢いよく放り出されてしまった。


「――!!」


 声にならない声を上げ、糸の切れたタコのようにくるくると回転しながら飛ばされる。


 まずい、ハナはどこにいるんだ?

 あいつはまだ、身体が――――でも、霊体だし、この場合――いや、とにかく、落下の勢いを止めないと――どこかに手を――どこかって、どこだっ!?

 

 思考の断片がめまぐるしく駆けめぐる。

 なにかいい手はないかと、脳がクロックを最大に引き上げ、打開策を探しているのだ。


 そして、結論。打つ手なし。


 物理法則はいつだって冷徹で公平であり、誰も特別扱いはしてくれない。

 俺は落下速度を保ったまま、谷底へと墜落してしまった。



   □



 ああ、これはダメだ。

 あらがいようのない実感が心を麻痺させ、ぎゅっと瞼を閉じてしまう。

 俺は吸い込まれるように地面に激突し――

 本当に、深々と吸いこまれてしまった。


「――えっ?」


 背中側が柔らかいもので包まれ、急減速がかかる。

 目を開くと俺は白い壁に覆われていた。

 上の方に黒い穴が小さく見える。


 なにか――柔らかいものにめりこんでいる?


 ちゃんと状況を理解する間もなく、今度は加速がかかる。

 止める術はやはりなく、俺は上空へ打ち上げられてしまった。

 数メートルも上がってから、また落下。

 さらに二度弾んで、動きは止まった。


 よくわからない。

 わからないが、助かったようだ。


 周囲は一面青白く、ぶよぶよしたゼリーのようなものに覆われていた。

 どうやら谷底の最深部はこれで満たされているらしい。


 見上げてみたが、通路があった辺りは視界に入らなかった。

 相当深いところまで落ちてきてしまったようだ。

 さすがにこの場所から直接這い上がるのは現実的ではないだろう。


 まずいな、ここからどうやって合流場所まで行けばいいのか、見当がつかないぞ。

 そもそも合流場所へつながる道があるかどうかすら、わからないのだ。


「――うげ、なんだこの臭い……?」


 どうやら臭いのもとはこのゼリーのようだ。妙に生臭く、粘ついている。

 お陰で無事だったのだが、こいつはひどく(いと)わしい感じがする。


 ここに長居したくない。ここからなるべく早く離れるべきだ。


 見れば、谷間の斜面に大きな穴がぽっかり口を開けている。

 ハナを見つけたら、あそこへ上がれることにしよう。


 そのあとは……まあ、あとのことは、あとだよな。


 俺は問題を華麗に先送りにした。やれることから片付けるしかない。

 まずはハナを探すことだ。


「ハナ? おーい、無事かーっ?」


 何度か叫んでみたが、返事はなかった。

 あちこちを見回しながら、歩き出す。


 俺達は一緒に落ちたんだから、そんなに離れた所にはいないと思うのだが……。

 お、向こうにメイド服らしきものが――


「って、めりこんでるじゃねぇか!」


 俺は駆け寄ろうとしたが、足をとられて転がり寄るような形になってしまった。

 くそ、ぶよぶよして歩きにくすぎるぞ、ここ。


 仰向けに倒れたハナは気絶しているようだ。

 見れば、下半身はゼリーの中へ飲みこまれようとしていた。

 すでに顔の近くにもじわじわとゼリーが迫っている。

 俺はぞっとした。


 これは、単にハナの自重で沈んでいるんじゃない。


 ゼリー共が動いてハナを捕食しようとしているのだ。

 もう間もなく口が覆われ、呼吸すらままならなくなるだろう。


 かろうじて上に出ていた手を引っ張る。

 しかし、ハナの身体はがっちりと捕らえられたまま。

 俺の力では少しも引き離すことができなかった。


「なんだ、このぶよぶよ野郎……っ!」


 ハナの意識は戻らないが、苦しそうなうめきを上げた。

 すると、鎌首を上げたゼリーがその口元を塞ぐように被さろうとするではないか。

 おいおい、冗談じゃないぞ!

 俺はとっさに先端をつかむ。

 驚いたことに、ゼリーは身をくねらせ、俺の手から離れてしまった。


「――逃げた?」


 もしかして、俺に触れるのを嫌がっているのか?


 ハナの顔に掌をあてがい、そのまま首元の方へ指先を滑らせていく。

 ゼリーはやはり、身をくねらせ、ざわざわと後退した。


「やった! よくわかんないけど、いけるぞ! ハナ、待ってろ!」


 引き剥がすそばから、ゼリーは再度彼女を捉えようとにじり寄ってくる。

 まるで陣取りゲームだ。


 しかし、ここでかかっているのは得点ではなく、ハナの身柄そのものだった。


 俺はハナに密着し、両手両足を駆使して作業を続けた。

 はたから見れば、抱きついて全身を撫で回しているようにしか見えないだろうが、俺は真剣だった。俺にはこいつの所有権を主張する動機がたっぷりあるのだ。


 ハナの顔色は蒼白で、紫色になった唇が細かく震えている。

 くそっ、一刻も早く引き剥がさないとまずいぞ。


 疑う余地のない確信に急かされ、俺は作業に没頭した。

 数分後、ようやくハナを取り返すことができた。

 油断すると死角からゼリーが伸びてきて、ハナを捕まえようとしてくる。

 こいつらに構っているときりがない。


「性質悪いな、まじで。そんなんじゃモテないぞ、お前ら!」


 自分のことは棚に上げて吐き捨てると、俺はハナを背負って歩き出す。

 小柄で軽いとは言え、一人分の体重が加算されているせいで、足の沈み込みが激しい。まるで深い泥の中を歩いているかのようだ。


「タ、ケ――」

「お、気がついたか。なんとか無事だったみたいだぜ、俺達」

  

 異議があるのか、弱々しく首を振るハナ。

 彼女が指す方向を見ると、ゼリーの柱が生えつつあった。もりもりと隆起して見上げるような高さに成長すると、枝のように手が伸び出す。


『イ――イヒ、キキ……キィ』

『ヒ……ヒ! ヒア――ン、キキ』


 軋むような奇怪な声を上げながら、いくつもの柱が立ち上がっていく。

 伝わってくるのは、強烈な飢え……いや、渇望か。


 こいつらは求めている。取り込みたがっている。


 あまねく生命を、己へ取り込み、一体化させてしまいたい。

 奴らが求めるものは、ただそれだけのようだった。

 特にハナへの執着は空恐ろしいほどだ。


 では、俺は? 俺に向けられているのは――恐れ。

 恐怖と嫌悪、そこから生じた殺意。

 存在を否定し、排除しようとする強い意志だ。


 ちょっと待て。さすがにハナとの差が大きすぎないか、これ。


 餌として捕食するなら、俺と彼女にさほどの違いがあるとは思えない。

 ゼリー共がなんでそんなに俺を嫌うのか、さっぱりだった。


 あんな奴に好かれたくないし、無論喰われたくもない。

 そのはずだが、俺はなんとなく不満を覚えた。


 まあ、いいさ。

 そっちがその気なら、もっと嫌われるようなことをしてやるぞ!

 と、俺は固く決意した。


 もどかしく足を動かしながら、ゼリー柱の間を縫って進む。

 そうする間にも、柱は目ができ、足が生え――ほどなく一人前の怪物と化すと、ゆっくりと動き始めた。やばいやばい。急がないと、まじでやばい。


「――っしゃ、やっとたどりついた! ざまあみろっ!!」


 俺はゼリーから足を引き抜き、谷間の斜面へと這い上がった。

 

 だが、ほっと一息つく暇はないようだ。

 振り向けばゼリーの怪物はどんどん増えている。


 こいつがそんなに欲しいのか。

 でも、ダメだ。こいつは渡さないぜ。

 

 俺はハナをしっかりと背負い直すと、斜面を登って駆け出した。

ご愛読ありがとうございました!

よろしければ、ブクマ、評価など、ぜひぜひお願い致します~。


そして――予告ッ!!


次回『好きな子でするタイプ』 で、ビアンカとフローラのどっちを選んだんだ? ん?


明日、1/16の更新予定でございます。

お楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ