第一話 故あって、ぼっち
ビッグサイトはコミケで盛り上がっている頃合いかと思いますが。
ここ北の大地よりひっそりと連載スタートします!
ひとまず、これから四話まで連続更新致します。
以降、基本的に第一章の終了までは毎日更新の予定です。
よろしくお願いします!!
俺はやばいモノが見える。
悪霊、怨霊、魑魅魍魎。
姿は様々で、どう呼ぶべきなのかはよくわからない。
まあ、要するにお化けだな。
断っておくが、見えて楽しいことはなにもない。
どいつもこいつも、恨みつらみがねじくれて凝り固まったような感じ。
はっきり言って、極めて性質が悪い奴ばかりなのだから。
悪霊なんだから当然だろって?
まあ、それはその通りだ。
だが、連中はどこにでもいるんだよ。
十分も歩けば、ほぼ確実に遭遇する。
まったくいない場所を探す方が難しい。
結果、四六時中出くわしてしまい、生活全部が悪霊に振り回されるのだ。
かんべんして欲しいぜ、本当に。
どうせならちょっとおませで涙もろい、ヴィクトリア朝メイド服をさらりと着こなす眼鏡っ子(の霊)にでも行き逢ってみたいものだ。残念ながら、今のところ当たりくじを引けないでいるのだが。
まわりの人間にはソレが見えない――
自分は異質なのだと理解できたのは、幼稚園の頃だった。
おかげでずいぶんと損をしてきた。
例えば学校で新しいクラスになったとしよう。
ここで心機一転、
「俺、幽霊が見えるんだよ」
などとカミングアウトしようものなら、どうなるか。
ぽかんとされたり、ドン引きされたり、爆笑されたりはまだいい。
冗談のふりをして、ごまかせばいいだけだ。
心配そうに「お前、大丈夫か?」と言われ、心療内科やカウンセリングを勧められるのは、けっこうつらい。
困るのは、きちんとこちらの話を最後まで聞き、深刻な顔で「実は僕もなんだ……!」とやらかす阿呆だ。
その手の輩は仲間判定は成功したと思いこむ。
するといきなり饒舌になってネットで読んだ怪談だの、前世の記憶だの、転生前のスキルだの、怪しげな儀式のやり方だのをまくし立ててくるのだ。
まあ、気持ちはわかるよ?
マニアックな趣味だけに、リアルで仲間は見つけにくい。
ついにねんがんの同好の士を見つけたぞ、ヒャッハーとばかりに浮かれる気持ちはわかる。
オタクはオタクで群れたいのもわかる。
わかるが、俺はそうじゃないんだ。
こっちも途中までは、
「あれ、もしかして、お前も見えてる?」
と期待しちゃうから、脱力することこの上ない。
中でも最悪だったのは中二の冬だ。
どこかで俺の噂を聞いたのか、すげえ綺麗で清楚な感じのお姉さんが現れた。
ちょうど進路に悩んでいた時期で、大変親身になってくれた。
だが、ほどなく宗教の勧誘がはじまったのだ。
わかっていながら色香に迷い、俺はついつい深みに……。
いや、この話はやめておこう。
男には触れられたくない古傷の一つや二つはあるものなのだ。
膝に矢を受けてしまったようなものなのだ。
霊のことは、なにも話さない。
誰とも最低限のつき合いにとどめ、なるべく一人で過ごす。
やはり、それが正解だ。
そうやって生きていくしかないのだろう。
あまりに異質なものは、受け入れてはもらえないのだ。
でも、誰か――
誰か一人くらいはいないのだろうか。
俺と同じモノが見える人。
俺と同じ悩みをもっている人。
俺と一緒にいてくれる人。
そう思わずにはいられなかった。
結局、俺は性懲りもなく、あやふやな話を頼りに怪しげな者に会いに行ってしまうのだった。
かすかな期待と大いなる失望を繰り返し、やがて地元の公立高校へ進学。
その頃には俺はすっかりぼっちを極め、すれた性格になっていた。
なっていた――はずだったのだが。
□
放課後を告げるチャイムが鳴った。
帰宅部かつぼっちの俺に、この後の予定などない。
無課金プレイを貫いてきたスマホゲームも、このところ行き詰っている。
暇だし、たまには本屋にでも寄ってみるかな。
などと考えながら立ち上がった時、ふいに肩をたたかれた。
「やっほー。んじゃ、一緒に帰ろっか♪」
茶髪、ネイル、着崩した制服。
我が校の校則はゆるいのだが、ちょっと行きすぎだろ。
さすがにノーメイク……いや、リップはつけてるっぽい。
左肩にひっかけたリュックはあからさまに指定外。
さらに、よくわからんキャラのチャームがこれでもかとぶら下がっている。
恐らくスマホの液晶はひび割れているだろう。
一目でギャルとわかる、大変わかりやすいJKギャル。
クラスでも目立つ女子の一人、磯部来美だった。
「来美、あとで報告よろしくぅ!」
普段来美とつるんでいる三人のギャル仲間が、ちらりと俺に視線を投げた。
含みのある笑いをして、彼女達はそのまま教室を出ていく。
来美は俺をじっと見つめ――やがてふきだした。
「きゃはははは! なんて顔してんの、久万内ぃ」
「俺の顔はどうでも……よくはないが、この際いい。それよりもさ」
「ん? あ、名前呼びの方が好きだった? ええと、確かあんたの名前は、た、た、た……たぬき君だっけ?」
「違うわ! 久万内たぬきってどんな名前だよ!」
クマなのかたぬきなのか、わからないじゃないか。
なんとなく仲良くしそうなコンビだが。
「あー、思い出した。たけるだよね? 久万内武」
「そうだけど、そうじゃなくてだな」
「じゃあ、たけるんって呼ぶね。うちは来美でいいよ、たけるん」
「ああ、そう……じゃなくて! なんで一緒に帰るんだよ。そんな約束してないぞ」
話が一つもかみ合わん。
強引に主導権を奪うしかないようだ。
しかしこの娘、目がでかいなー。
まじまじと顔を見たことがなかったから、気づかなかった。
そしておっぱいもでかい。
遠目でもわかるので知ってはいた。
だが、間近だと圧がすごいぜ。
こいつが真のボインか……!(感嘆)
いや、それはともかく。
「やだもー、怒ってんの? クラスメイトのお茶目くらい、さらっと受け流してよ。男の子でしょ?」
「おっと、それセクハラ発言ですよ」
「なにそれ。じろじろ、人の胸を見る奴に言われたくないんですけど」
いかん、バレていた。
「ええと、その、ってかだな。怒っちゃいないが、意味がわからない」
「えー、なんで? たけるん、頭悪いの?」
頭が悪いのはお前だーっ!
と、怒鳴りたいのをなんとかこらえる。
俺はひっそり暮らしたい。
他の生徒もいる場所で、悪目立ちはしたくないのだ。
「だから、約束してないだろ? 俺は初耳だぞ、一緒に帰るとか」
からかわれているのだろうか?
もし罰ゲームとかでやらされているとしたら、最悪だ。
だが来美の表情は明るく、なんだか楽しそうに見える。
いっそ浮かれていると言ってもいいほどだ。
おかげで俺の困惑は深まるばかりだった。
「ああ、それね。そっか、だよねー。いやー、わかる。まじわかるわー」
うんうんとうなずく来美。
そんなにわかられても困るんだが。
つーか、わかるならやらないで欲しい。
第一、俺と来美はクラスメイトではあるが、属する階層が違う。
今まで挨拶すらろくにかわしたことがないはずだ。
なのに、なーぜー?
歯でも喰いしばらなくちゃならんのか。
「ま、細かいことはいいじゃん。さ、行こ、行こ」
「俺は行かないぞ。そんなにしてまで」
「なに言ってんの? とにかく、いいから、いいから」
「よくねぇ! だから、行かないんだってばよ!」
「あー、それ忍者の漫画でしょ? 知ってる、知ってる♪」
来美は俺の腕をぐいとつかむ。
思えばこの時点で、もう決着はついていた。
俺がどうあらがおうと最後は自分が勝つ。
彼女はそれを知っていたのだ。
ギャル=巨乳説。
漫画とかアニメとか見ている限りでは間違いないはず!