毒者たんはタグを見ない
「ふ、ふゎぁぁ!返事がきたぁぁぁ!!」
ベッドの上に横になり、真新しいスマホを驚きの表情で見詰める一人の女の子。
プライバシー保護のために本名や詳しい容姿の描写は避けるが、彼女の事は仮に『毒者たん』と呼ぶ事にしよう。
毒者たんはこの春進学したばかりの高校一年生で、最近、念願の自分のスマホを手に入れてネットの海を漂っていた。
スマホを買ったその日から、毒者たんはLI○Eで友達とお喋りしたり、○ーチューブで動画を見たりして楽しんでいたのだが、先程ツイッ○ーで好きな芸能人にコメントをした所、なんと返事が返ってきたのである。
遠くの世界に住んでいると思っていた憧れの人から、自分個人に直接連絡があったのだから、毒者たんの喜びが振りきれてしまうのも当然の話であろう。
「――ハッ、惚けている場合じゃない。返信……そう、返信しなきゃ」
ふと我に返り、『これからも応援しています、頑張って下さい!!』と更に返事を送る毒者たん。
しばらくすると『いいね!』のマークが付いて、相手がその返事を読んでくれた事が分かる。
「んんーーーーーーー!!」
ベッドの上で、ゴロゴロと喜びに悶える毒者たん。
服がめくれておへそが見えたりもしているが、特にそれを気にしたり指摘する存在は誰もいない。
毒者たんはしばらくの間そうして喜びを噛み締めた後、ようやく我に返ってアプリを閉じる。
今までは両親のスマホを借りていたのでこんな事はできなかったし、親に知られるのが恥ずかしくて見れなかったサイトなんかも、今では自分専用のスマホがあるので見放題である。
マンガやアニメ、小説やTVゲームでは味わう事の出来ない楽しさに、毒者たんがついついハマってしまうのも仕方のない事だった。
そんな毒者たんが、最近特にハマっているのはネット小説だ。
元々毒者たんはマンガや小説などが好きな方で、毎月のお小遣いの内の少なくない額がそれらに消えおり、そのため、いつもどれを購入するのか吟味した上で決めていたのだが、なんとネット小説は無料なのでどれだけ読んでもお金がかからない。
今まで読んでいた小説やマンガ、果ては大好きだったあのアニメの原作までもがこのサイトで読めると知った毒者たんは、のめり込むようにネット小説を読んでいった。
毒者たんが使用しているこのサイトは、誰もが簡単に投稿する事が出来るため、その作品の質はピンキリで玉石混淆であると言わざるを得ない。
そんな中ネット初心者の毒者たんは、順当に書籍化している作品から読み始めているようだった。
商業用として販売されるような作品に、そうそうハズレは無いはずなので、賢い選択だと言える。
そうして毒者たんが次に手を出したのは、結構長めのタイトルの作品で、何かを変換して異世界で無双する感じの良くある転生物の作品だった。
しかし、読み進めていく内に毒者たんの表情が固まり、段々と赤みがさしてくる。
一体、どんな内容の小説を読んでいるのだろうか?
【――妙なところで水を挿してくれる。さすなら仲直りセックスでも挿し合って――】
「あ、あぅ、あぅ……」
そのあまりにも直接的な表現に、言葉を失くす毒者たん。
そういった事に興味を持つお年頃なのか、それともただ真面目なだけなのか、毒者たんは顔を真っ赤にしながらも小説を読み進める。
【――呪いを解くためにはおぬしの尻穴に、わしの解呪棒を挿し込まなければ――】
「お、お尻!!そんな、でも……えぇ!?」
想像を超える世界に、思わず声を上げてしまう毒者たん。
もはや毒者たんの顔は茹でダコのようになっており、脳のキャパシティを超えてオーバーヒート寸前だ。
【――猛烈なアタックに押し切られてしまい、ベッドの上で抱きしめ合い、俺の股間の性剣は――】
そして、とうとう爆発した。
「もう、なんなんですかこの作品は!?エッチです、いかがわしいです!バカー、バカーー!!男の人は、みんなこんないやらしい物が好きなんですか!?不潔です!」
感情に任せて感想欄を文字で埋めていく毒者たん。
「これで少しは反省して下さい!……えい!」
そう言って毒者たんは、最後に送信確認ボタンをポチッと押したのだった。
【一言】
『こんな卑猥なもの載せて、バカなんですか?』
毒者たんは、こうして毒者としての道を歩き始めたのだ。
――毒者たんが読んだこの作品の作者は、実は『紳士』といって、いつも表現がギリギリな事で一部の界隈では有名なセクハラ作家である。
作者もそれを自覚しており、しっかりと『下ネタ』のタグを設定してあったのだが、ネット初心者の毒者たんがそれに気が付くはずもなく、今回の被害に遭遇する事になった。
なお、毒者たんが感想を送ったこの作品は、あまりにも表現がギリギリ過ぎたため、運営の警告を食らって削除されている事をここに記しておく。
※紳士先生の検閲済。