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【第4話:魔力結晶】

 眩しい朝の光を浴びてから、幾ばくかの時が流れていた。


 不意に頬に当たる冷たい感触に意識が少し呼び戻される。


「ん……? 一瞬意識が飛んでいたようだ……そこはかとなく眠い……」


 気合いを入れればオレの体は3、4日程度徹夜しても大丈夫なはずなのだが、ただただ魔物が現れるのをじっと待っているのは中々に辛い。


「ここ最近受けた依頼の中で一番きついかもしれん……」


 オレは一人愚痴ったあと改めて周りに目を向ける。


 苔の生えた古びた祠は、まるで時の流れなど止まっているかのように静かにそこに佇んでおり、遥か昔にここに建てられ、長い時月を魔力乱れを鎮めるという役目を忠実に果たしてきた。


 それはオレがここに張り込んでからも変わりなく……つまりは何も起こっていなかった。


「暇だ……オレはこのままここでお爺さんになるのだろうか」


 自分で言ってても馬鹿だなぁと思うような馬鹿なことを呟きながら、オレはそれからさらに数刻の時が流れる間、調査依頼と言う名の睡魔との戦いを続ける事になるのだった。


 ~


 もう魔物の異常行動など起こっていなかったって事で報告してしまおうかとぼんやり考え始めた頃、それは突然現れた。


「待ちに待った魔物さんの登場なんだが……」


 オレの視線の先、祠の向こう側に現れた魔物の名は、


戦士蟻(ウォリアーアント)か……」


 身の丈1.5メートルに迫る巨大な赤みがかった蟻の魔物だった。


「これはまた判断が難しいのが現れちまったな」


 戦士蟻(ウォリアーアント)自体はそこまで珍しい魔物ではない。

 Dランクの冒険者でも何とか倒せる程度の強さだし、観察する限り今の所は特別おかしな行動は取っていない。


 しかし、ここには本来生息しているはずがない魔物だ。

 正確に言うなら、この辺りの魔力乱れからは発生しないはずの魔物なのだ。


 その発生しないはずの魔物、戦士蟻(ウォリアーアント)が既に三匹にまで増殖している。


 今回の調査目的である魔物の異常行動というわけではないが、普通に異常事態だ。


 このまま観察していると村に被害が出る可能性が高い。


「この村での生活は案外気に入っているんだ。悪いがこのまま放置しておく事は出来ないな」


 調査依頼としては失敗扱いになるかもしれないが、まぁこれは見過ごせないだろう。

 それに調査依頼はまた明日やり直せば良いだけだ。


 オレは意識を戦闘モードに切り替えると、鞘ごと愛剣を腰留めから抜き放って戦士蟻(ウォリアーアント)に向けて詠唱を開始する。

 ちなみに杖代わりに使うだけなので、鞘を左手で掴んで剣の柄頭(つかがしら)の部分を敵に向けている。


≪黒を司る(けが)れの力よ、我が魔力を(にえ)荊棘(いばら)となりて怨敵(おんてき)を貫け≫


 ()()オレの状態で唯一使える属性魔法である黒魔法。


 その中では比較的初歩の魔法とされている黒き荊棘で敵を貫くその魔法が、オレの魔力を贄にして具現化されていく。


咎人(とがびと)荊棘(いばら)


 オレの詠唱完了と共に戦士蟻(ウォリアーアント)に向けた愛剣の先に小さな黒い魔法陣が現れると、影すらも飲み込む漆黒の荊棘が飛び出し、一匹の戦士蟻(ウォリアーアント)の頭を音も無く貫いた。


「良し!」


 オレは小さな声でそう呟く。


 仲間に警戒を促す擦過音を出す事さえ出来ずに崩れさるその様子を確認すると、続けて二匹目の戦士蟻(ウォリアーアント)にも同じ運命を辿ってもらう。


≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に荊棘となりて怨敵を貫け≫


咎人(とがびと)荊棘(いばら)


 再度放たれた漆黒の荊棘は、先ほどの光景の焼き直しのように寸分違わず戦士蟻(ウォリアーアント)の頭を穿ち、その活動を止める。


 しかし、その仲間の最期は残った一匹に見られていた。


「しくじったな。勘付かれたようだ」


 今度はそう呟くと、オレは立ち上がって向かい来る戦士蟻(ウォリアーアント)を迎え撃つ。


 ギシギシと堅牢な顎を強調しながら迫りくるその迫力は中々のものだ。

 セナなどびびって腰を抜かすんじゃないだろうか? などとどうでも良い事を考えながら、今度は剣本来の持ち方で柄を握って一閃する。


「ギシャァ!?」


 オレに噛みつこうとした戦士蟻(ウォリアーアント)のその一撃は空を切り、掻い潜ったオレの愛剣の横薙ぎの一閃を喰らって呆気なく吹っ飛んだ。


 虫系の魔物はしぶといので油断は出来ないが、鞘ごと振りぬいた今の一撃で胸のあたりが完全にひしゃげている。さすがにここまで破壊すれば、もう大丈夫だろう。


「はい、おしまい。魔力結晶取ったら一旦戻るか」


 純粋な魔力の乱れから生まれた魔物は、倒して暫くすれば元の魔力となって霧散する。

 その魔力で形成されていた魔物が霧散する際に残していくのが魔力結晶だ。


 この魔力結晶は冒険者ギルドが討伐証明として買い取ってくれる。


 魔力結晶の買取価格は国によって定められているため、ほとんどの冒険者は冒険者ギルドに売却しているが、稀に専属の冒険者を雇っている商人などに直接買いとってもらっている者もいる。

 勿論オレは専属契約などしていないので、冒険者ギルドに買い取ってもらうつもりだ。


 ちなみにその買い取られた魔力結晶は、魔物除けの結界の維持や各種便利な魔道具の魔力源として重宝されており、オレが昨日使用した結界石も手持ちの魔力結晶の力で発動させていた。


 「さぁ、さっさと戻ってサクナおばさんに報告するか」


 ~


 オレは魔力結晶を回収した後、念のためにイレギュラーな魔物が他にも発生していないか辺りを一通り調査してから村への帰途についた。


 結局、森狼(フォレストウルフ)を1匹討伐しただけで異常はみられなかったが、オレは何かの胸騒ぎを覚えて足早に村に向かう。


 そして村の近くまで戻ってきたその時、何だか村が騒がしい事に気付いたのだった。

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