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第1話「巫女さんするのも結構大変なんだよ」

 想像してみよう。なんでも叶える存在がいたとして――



 それは人間なのだろうか、某漫画にでてくるようなでかい龍なのだろうか。



 くだらないや。そう思った私、中山明菜は今日も職場へ自転車を走らせてゆく。




 鳥取県鳥取市の鷲峰山、その麓に私の働く職場がある。


挿絵(By みてみん)


 私は神社に仕える巫女の仕事をしている。



 神社といっても田舎の神社だ。巫女の仕事といってもアルバイトだ。



 私は神社に参りにくる参拝客へ彼らの願いが叶うよう、神事を行うというものだ。神事といっても、鈴のついた玩具を振って祈祷するぐらいのことだ。ときに古楽器を弾けば、よくわからない芝居をしたりすることもある。



 ここにくる参拝客もごく少数で限られている。熱心な信仰高き恒例、いや、高齢のお婆ちゃんたちばかりだ。



 願いといっても、宝くじがあたりますようにとか、息子と仲直りできますようにとか、果ては腰痛が治りますようにとかいう年寄りにありふれた願いばかり。



 これを叶えるべく、私は必死で真剣な祈祷を振る舞う。最初はあまりにも可笑しくて吹き出しそうになったが、今では難なくこなせるようになった。



 とある参拝客に随行する年配のヘルパーさんから「明菜ちゃん、キレがでてきたね~!」と成長を称えられるが、余計なお世話だ。ちと黙れと思う。



 思えばこの巫女の仕事も老人福祉の延長のようなものである。



 そして信じられないことに、この神社、365日で通常運行だ。私の他にもう一人巫女さんがいるが、現役高校生で週2のアルバイトだ。しかも休むことも多々あり、ほぼ私がこの神社のレギュラーを張っているといっても過言ではなかった。



「明菜ちゃん、お疲れ! また明日もお願いね!」

「ありがとうございました」



 日給4千円の手渡しで私は主な収入を得る。しかしそれだけで生活をまかなっているワケではない。私は一旦自宅に戻り、準備を整えると夜の街へ繰り出した。



 週末の夜はクラブの店員として働く。クラブの店員といっても、水商売とかのそういうヤツじゃなくて、音楽を夜な夜なかけている系のクラブだ。



 無論、これまでに男達から言い寄られることはたくさんあった。



 でも私は相手にすることもなかった。そもそも異性に興味なんかがなかったというか何というか。でもこんな私でも元カレがいた。



 今ステージで歌を歌っている彼だ。歌というかラップだけど。彼は地元鳥取を拠点に活動を展開している所謂ラッパーという奴だ。ここのところ羽振りが良いらしく、いつもステージの周りで私よりも若い男子や女子が彼を取り巻いている。



 私は彼と別れて以来、ほとんど口をきいてない。



 私と彼が付き合っていたのは高校時代のことで、彼はサッカー青年であった。しかし怪我をしたのがキッカケで自暴自棄になり、周囲との関係も悪くした。



 それで別れた。と、言えば簡単にわかる話だろう。



 それが年月を経て、再びこんな所で再会するのだから人生は摩訶不思議だ。



 しかし幸いなことが1つあった。彼は私のことを覚えていないのだ。



 ラッパーになってから、色々なことがあったのかもしれない。高校を中退して東京にでたと聞いたが、今は今で彼女もいるらしいし、彼の中の私は彼の黒歴史とともに消えた。まぁ、それでいいのかなって、今では思っている。



 ラッパー「Joke」のライヴが終わった。今日のトリは全国でも有名なアーティストが務めるということで、彼はすぐにバーカウンターにやってきた。



「姉ちゃん、ウィスキー水割り頼む」

「はーい」

「なぁ、アンタどこかで会ったことないか?」

「へ?」

「いや、いいや。俺は記憶が飛んでいるからなぁ」

「まだ一口も飲んでないのに(笑)」

「そうじゃないよ。これのせいさ」



 彼はそう言うと、小さな手鏡を私に差し出した。



「それさ、東京の占い屋さんから買ったモノだけど、何でも○○を忘れるから、○○を叶えてくださいって話しかけたら、何でも叶えてくれる鏡なのだってさ」

「やめてよ。嘘くさい。子供騙しじゃないのだから」

「本当だよ。現に俺は何故かすごく、覚えている筈のアンタを思い出せてない」



 そう言うと彼はグラスに入ったお酒を口にした。



「俺はそいつのお蔭で色んなモノを手にした。何もそんなに苦労せずして。でも、何だろう? すごく空虚になったのさ。メジャーデビューの話もきたのだけど、蹴ってしまってよ。ははっ!」

「もう、ほんとにやめてよ。全然笑えない。そんな物いらないよ」



 私は彼に手鏡を返そうとした。しかし彼はその眼差しを真剣なものに変えて、手を表に広げてみせた。



「いらないなら、どこかに棄ててくれ。嘘か本当か試しにやってみたいならば、やってくれればいい。何なら俺のことを忘れるとかで試してみろ。もしもこれが上手くいけば、こんなに美味しい話はないだろ?」

「私は…………」



 私はアンタと付き合っていた、そう言おうとしたが言えなかった。本当に彼は特殊な理由で私のことを忘れているようにしか思えなかった。




 私は結局、彼から譲って貰った手鏡を自宅に持って帰った。興味がわかない訳がない。だが怖さを感じるのも本当だ。



「上祐猛と付き合っていたことを忘れさせてください。替わりに明日からもする巫女の仕事がもっとやりがいのあるものになりますように」



 結局は興味本意が勝ってしまった。



 私は寝る前に子供じみたまじないをしたのだ。



「馬鹿馬鹿しい」



 そういってベッドへ横になった私は明日の事なんて知る由もなかった――



∀・)読了ありがとうございました!3日連続で投稿していきます!神様、仏様、夢学無岳様の企画参加作品でございます!主観に囚われず、客観的にも囚われずでお楽しみください(笑)

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