第十九話~イケメンとロリコンと~
今回いつもの半分位です。申し訳ないっす。思い付かなかったっす。
──琥太郎は、ホログラムに表示された中継映像の座標を頼りに移動をしていた。
「ここらへんだよな……?」
──そう言って辺りを見渡す琥太郎。しかし、人影は見つからない。
うーん。しっかし広すぎやしませんか、この学園。
ランク戦って銘打ってはいるが、これじゃあまともな戦闘なんてそもそも出来ないんじゃないか?
それに、上級生と当たった場合、余程その上級生が弱いか、自分が強くなければ唯の餌にしかならないんじゃ……。
──そんなことを考えている琥太郎に近寄る人影が。
「もしかして、君が御笠琥太郎君かな?」
ッ!? 後ろを取られた。一体誰が……? 声からして男だろう。
──琥太郎は突然背後から声を掛けられ、咄嗟に振り替える。
「──ッ!!」
──瞬間、目が潰れると、本能が錯覚した。
そこには、絹で紡がれたかのような、豪奢な金髪を爽やかにそよがせ、絵画の中から飛び出したかと思う程造形の整った顔に、白い歯をキラリと輝かせ微笑む、背の高い貴公子が居た。
「どうかしたのかな?」
「………!?」
目、目がぁぁ! ……何だこのイケメンは!?
イケメン過ぎて後光が……光輪が見える……!!
……ハッ! そうだ、返事をしないと。
「ど、どうも……確かに俺が御笠 琥太郎ですけど……?」
「良かったぁ、人違いじゃなくて」
──そう言ってキラリと白い歯を輝かせながらニカッと人懐っこそうな笑みを浮かべる。女子がこの笑顔を見たならば、狂喜乱舞することだろう。
「あのぉ……どちら様で?」
少なくとも俺にはこんなイケメンに話し掛けられる様な覚えは無いのだが……?
「あぁ、すまない。僕の名前は氷室・E・ルーク。ルークって呼んでくれると嬉しいかな? よろしく、御笠琥太郎君」
「はい、よろしくお願いします。ルーク先輩。俺の事も琥太郎で良いです。それより、ルーク先輩はハーフなんですか?」
「ん? あぁ、そうだよ。日本人の母に、イギリス人の父親がいるよ」
「それじゃあ、その髪は地毛って事ですか?」
「そうだけど?」
なるほど。だから違和感が無かったのか。……にしても、名前も格好いいなこの先輩。俺なんて名前負けしてそうなんだけど……。
──琥太郎がルークの髪の毛に興味を移している時。
「あれっ? 先輩? 僕が二年生ってこと琥太郎に言ったっけ?」
「言ってませんよ」
「じゃあなんで僕が先輩って分かったのかな?」
「えっ、普通にネクタイの色から先輩だなって思っただけなんですけど……」
「あっ……そう言うことかぁ!」
──花を咲かせたような顔で納得するルーク。
この人って、もしかして天然なのか?一体今までのその笑顔で何人の女性を堕としてきたんだ……?
ネクタイの件もあるが、何より無意識の内に光が……目がっ……。
──若干眩しそうにしながら、琥太郎は質問する。
「それで、結局俺に何のようなんですか?」
「あ、それはね、僕の所属してる【クラン】に、君を招待するためだよ」
「クランって言うと、クエストとかを受けるチーム的なものですか?」
「そんな感じかな。君の戦いぶりを見て僕は君を勧誘しようと思ってね」
「でも勧誘って、まだ"勧誘期間"じゃないですよね?」
「そうだよ。だけどね、今回のランク戦の上級生の主な目的は、自信の所属している【クラン】に誘う一年生を視察する事なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。【クラン】の実績は成績にも影響するからね……なるべく優秀な人材を何処のクランも確保したいんだよ。勧誘期間って言っても無差別に勧誘して【クラン】の質が落ちてしまっては意味がないからね」
「そうだったんですね」
──ふむふむと頷く琥太郎。
「で、どうして俺の戦闘を見て勧誘しようと思ったんですか?」
そもそも、俺が戦った相手は殆どが一年生だったはずだ。それに二年生とも戦ったが、あれは見定める為では無さそうだった。
「ふふっ、「どうして?」って顔をしているね」
「そんな分かりやすい顔でした?」
「"へのへのもへじ"の様な顔をしていたよ」
「えぇ!?」
へのへのもへじっ!?……一体俺はどんな顔をしてたんだよ……。
「まぁ、そんなことより」
「"そんなこと"で済まされちゃうんですね……」
「僕や他の上級生からは、さっきの動きだけでも、君が十分強いって事が分かるんだよ」
「え? スルーですか……?」
「だから、もしよかったら僕の所属しているクランに入らないかい?」
「……」
この人、話聞かねぇぇぇ!!
天然が極まってるよ!! ここまで無意識に自我を押し通してくる人初めてだよ!!
──心の中で、激しいツッコミをする琥太郎。しかし心の中での事なので、外には伝わらない。
「そうか……簡単には入らない……そう言うことだね?」
「──え?」
「わかった!! じゃあ今から、戦おう!!」
「──はい?」
突然何を言い出すんだこの人!?
てか、何処をどう"分かった"らいきなり戦う事になんだよ!?
「もし僕が勝ったら、君には僕達のクランに入ってもらうよ!」
「何か勝手に話が進んでるぅぅぅぅ!?!?」
「もしも僕が負けたら……君の言うことを何でも聞くよ!!」
「滅茶苦茶要らねぇぇぇぇぇ!!」
せめて可愛い女の子にしろよ! "イケメンに何でもお願いできる権利"とか、男の俺に何のメリットもねぇよ!!
「じゃあ、行くよッ!!」
「えっ!? ちょ、ま──」
──琥太郎の言葉は、激しい金属音に掻き消えた。
「──ッ!!」
「へぇ、中々やるね? 今ので決めたと思ったんだけどなぁ」
俺は、いつの間にか先輩の手に握られていた、両刃型CCAによる、右方向から迫る下段の切り上げを、何とか滑り込ませた刀型CCAで防いでいた。
「いきなり過ぎませんか、先……輩!!」
右腕に沿うような構えから、相手の押し込みを利用し身体を反転させ、今度は此方から斬り込む。
「じゃあ、琥太郎君は態々相手の準備が整うのを、黙って見てるのかい?」
俺の上段からの斬り込みを、返す刃で難なく防ぎながら、先輩は続ける。
「僕はいつも思うんだ……今の学園のやり方じゃあ、強い団員は育成出来ないって、ねッ!!」
先輩は、両刃の剣身を左へ傾け、俺の刀をいなすと、遠心力を使って、俺の首を跳ねようとする。
「ったく、容赦ねぇ…なぁ!!」
その斬撃を身体を仰け反らせて回避すると同時に、そのままの勢いで、後ろに下がり、先輩との距離を取る。
「……殺す気かっ!?」
「? 当たり前じゃんっ」
うわぁお!!
こんなに笑顔で"殺す"って言われたの、ボク初めてっ♪
「──て、洒落になんねぇよ!!」
「ふふっ、その調子なら、まだまだ行けそうだねっ!」
──ルークが剣を構えながら言います。その姿に、一部の隙も無いことを、その身体から発せられる、声のトーンとはかけ離れた気迫が伝えます。
「……上等ですよ……こうなったら、とことんやってやりますよ」
「……ふふっ、くくく、ははははは!!」
──突然笑い出すルーク。その顔は正に、喜色満面。
「全く、この学園には、戦闘狂が多いなぁ」
──そう呟く琥太郎も、隠しきれずに口角が上がっています。どちらも戦闘狂に違いありません。
「さぁ、そろそろ本気で行こうか」
「そうですね」
そう言うと、俺と先輩は揃えて声を上げる。
「「身体強化!!」」
◇◇◇◇◇
「──やー!!」
皐月様の小さく可愛らしい拳が、男子生徒の鳩尾にめり込む。
「ギャァァァァ!!」
そう叫びながら、男子生徒が飛んでいく。ハッ、気安く皐月様に近づくからだ、この愚か者めが。そして、何と尊いお姿なのだ。
今、我々はその光景を茂みから観察させていただいているのだ。
皐月様の尊い、そのお姿を。
「やはり、皐月様の笑顔は尊いな……」
「ふっ、当たり前だろう。あの笑顔はこの世の全ての笑顔の頂点に君臨している」
流石No.2。皐月様の事を分かっているな。
「いや、だがしかし、戦っているときの凛々しくも儚いお姿も尊いとは思わんかね?」
「確かにNo.3よ、戦闘中のお姿も尊い。しかしな、やはり笑顔の時こそが最も尊いとおもうのだが?」
皐月様は、やはり笑顔こそが、最たる武器なのではないだろうか。
「いや、しかしNo.1。迫り来る者共をその華奢な身体で凛々しく、気丈に戦うお姿にグッと来るものが無いのかね!?」
「──クッ!……いや、だが、しかし……」
確かに、戦うお姿も尊いのは分かっているのだ。グッと来るものがあるのは間違いない。だが……。
「全く、何を下らないことで争っているのだ」
「「どういうことだッ、No.2!! 貴様、それでも"皐月様にお菓子をあげ隊"の会員かッ!!」」
全く、何が下らないだ! 皐月様のお姿の何処が最も尊いかを議論しているのだぞッ!
それ即ちこの世の神秘を解明するに等しい行為であろうッ!!
「全く、何も分かっていないな。皐月様のどのお姿が最も尊いだと? ふっ、そんなもの決める必要などない」
「なんだとッ! 貴様、皐月様を侮辱するのかッ!!」
「そうだッ!! それでも男かッ!!」
こやつは人間か? 一遍原子レベルから生まれ直した方が良いんじゃないか? 今我々は、嘗て無い倍率を誇る、"皐月様拝謁権"に当選し、同胞達の思いを背負ってここに居るのだ。貴様、その思いを侮辱しようと言うのかッ!!
「そもそも、根底から間違っているのだ、貴様等はな。いいか? 皐月様のどのお姿が最も尊いのか、ではない。皐月様が最も尊いのだ」
「「──ハッ!!」」
その時、衝撃が全身を駆け巡った。そして、悟ったのだ。己の過ちを。
「No.2……確かに私達が間違っていたようだ。そうだ、何処が尊いのではない。皐月様だからこそ、尊いのだな……」
「あぁ……我々はいつの間にか、大切な事を見失っていてようだ」
全く、これでは他の会員に示しが付かないではないか。
会員No.1であることを誇りとする私が、なんたる体たらくなのだ。これはきっと気が緩んでいたに違いない。
「No.1、No.3よ。何を落ち込んでいる。我々にそのような暇はないはずだ。我々は皐月様の尊いお姿をこの一眼レフに納めなければならない。それに、我々は紳士だ。紳士たるもの、何時如何なる時でも、紳士でなければならない。我々は幼女を見守る紳士であろう?」
あぁ……そうだった。そうであったな。我々は紳士だ。紳士がいつまでも落ち込んでいてはいけない。それでは紳士を全うすることが出来ない。皐月様のお姿をこの目に、一眼レフに納めなければならない。
「……すまない、少し弛んでいてようだ」
「……あぁ、紳士としてあるまじき行動だった」
「ふっ、分かれば良いのだ。……さぁ、紳士の責務を全うしようでないか」
「「Yesロリータ!! Noタッチ!!」」
気高き変態紳士。
近寄りたくないですねw
思い付いたんです。しょうがないのです。