第十八話~ランク戦・2~
今回解説チックです。
それから、前わ話を修正しました
──ランク戦開始より、三時間が経過した。
『皆さん!頑張ってますかー?実況の高橋です。覚えてますか~?』
──突然響く高橋アナの声。その声は、学園生徒が互いに蹴落とし合い、しのぎを削るランク戦の最中とはかけ離れている。
『どうも~、峯麓っス。……というか、「頑張ってますかー?」って他人事みたいじゃないっスか?』
──余りにも呑気な高橋アナに、峯麓さんも声に呆れが含まれている。
『え?だって他人事じゃないですか?私、参加してませんしね』
『あ、そう言えばそうっスね?どうして参加してないんスか?』
『それは……』
──突然黙り込み、顔を俯せる高橋アナ。
『な、なんスか……?』
『それは……旨味がないからですッ!!』
『──はい?』
──突然意味の分からないことを叫ぶ高橋アナ。そして、峯麓さんを含めたこの放送を聞いている者は一部を除き、みな同じように思っているだろう。「なに言ってんの、コイツ?」──と。
『いや、だから旨味がないんですって』
『いや、だからその意味がわからないんスけど?』
『えー』
──子供の様な反応をする高橋アナ。
『いや、「えー」じゃないっスよ。何処に旨味が無いんスか?ランクが上がればそれだけ特典も豪華になるんスよね?それに、ランクが上がればそれだけ開拓団での将来も明るくなるんスよ?』
『確かに、それはとても魅力がありますが、私が目指しているのは前線ではなくそれをサポートする受付嬢なんです。私には才能がないんです。だから人一倍努力を重ねてきました。けど、足りなかったんです。私には、圧倒的に足りなかった。勿論、才能が全てではない事も分かってるんです。でも足りなかった。そんな時に私は出会ったんです。所謂"運命の出会い"ってやつですね』
──今までの陽気さは何処へやら。今の彼女にはお気楽さは無く、その瞳には力強い意志が宿っていた。
『え……なんか急に回想入ったんスけど?』
──10分後。
『──という訳で、私は任務に赴く方々を支える受付嬢になりたいんです。……すみません、こんなところで話す無いようじゃなかったですよね。こんな腹黒──』
──頬を掻き、はにかみながら話す高橋アナの声を唐突に峯麓さんが遮った。
『──そんな事ないっスッ!!』
『わっ!?』
──突然峯麓さんに手を両手で掴まれ、動揺する高橋アナ。よくみると、峯麓さんの目元が潤んでいる。
『素晴らじい"っス"!!感動じだっス"!!絶対叶えてくださいっスッ!!』
『は、はいっ!』
──峯麓さんに手をブンブンと振り回されながら、返事をする高橋アナ。
高橋アナの話を要約すると、「とある人物を見習って、自分の才能を諦めて、裏方で皆さんを支えて誰かの玉の輿に成りたい」と、言うことだ。
本人はそれを踏まえて腹黒い話をしてすみません、と謝ろうとしたかったのだろうが、峯麓さんにはそうは伝わらなかったようだ。
『分かりましたっ! 分かりましたって! 一旦放送切りましょう?すいませーん! 放送切りまーす!』
『う"う"ぅ……っ! 感動したっスよぉ"……本当に頑──』
──そこで放送は切れた。
「……なんだったんだ?今のは」
──そう呟いた琥太郎の台詞は恐らく、放送を聞いていた全生徒の心を代弁していたであろう。
「にしても、暇だなぁ……」
──彼は今、学園内の第三演習場近くの広場のような所にいる。本来であれば目立つこの場所に居る琥太郎は格好の獲物なのだろうが、近くには誰一人として人がいなかった。
「いくらなんでも広すぎないか、学園って」
──こんなことを言っては居るが、琥太郎が生徒と対峙していないのには、もう一つ、理由がある。
それは──琥太郎を恐れているのだ。琥太郎はランク戦開始時に一年生と二年生を瞬殺している。一年を捻ったのはまだよかった。だが、二年生の方は不味かった。琥太郎が倒した二年生は学園内でも有名な不良の一人で、風紀を正すと宣言しておきながら、学園生から金銭を巻き上げるなどの行為を平然と行う生徒であった。しかも、普段はランク戦に真面目に参加していないが、その実力はBランクに相当する実力者の為、中々止めることができないでいた。そんな猛者に不意討ちされたにも関わらず、まるで赤子を捻るが如く沈めた琥太郎に生徒達か警戒し、近寄らなくなったのだ。
「あーあ、誰か居ねぇかなぁ……。なんで誰もいねぇのかなぁ?」
──まぁ、本人に自覚は無いようだが。
「んー、このままじゃ昇格出来ないし……」
──すると突然、琥太郎の頭に豆電球が灯った。
「あ! そうだ! 生徒手帳(腕時計型)の中継機能で人の多そうな所を探せばいいじゃん!!」
──まるで世紀の大発見をしたかのような雰囲気を醸し出し始めた。しかし彼は知らない、学園内の大多数の生徒がそれを当然のように行っていることに。
「よしっ! 思い立ったが吉日だ! さぁて獲物を探しますかね?」
──そう言ってホログラムの中継画面を展開し、人の多そうな場所を探し始める。画面に今いる現在地と人口密度のたか居場所の両方を展開し、距離を比べてみる。
しかし、琥太郎は「これで、見つかるだろう」と、安直に考えていた事を後悔することとなる。
「What!?」
──思わず流暢な英語が飛び出す。
それもそのはず。なんと、琥太郎を中心とする半径数キロ圏内に人が全く居ないのである。
「何でこんなに人がいないの?? 俺、泣いちゃうよ?」
──ここで彼に希望が芽生える。今まで人の反応がなかった場所に、人の反応が出現したのだ。ただし、
「おおっ! 人の反応が有った! ……ん?てか、この人もボッチやん……」
──一人だけだが。そもそも、何故突然現れたかを普通考えるが、
「うーん、一人かぁ……まぁ、でもいっか。居ないよりマシだしね。二年生だったら昇格チャンスだし」
──なにせ琥太郎は細かいことを気にしない男だ、悪く言えば大雑把なだけだが。そんな彼は案の定、戦えさえすればよしっ!と、反応の現れた方角へ歩み始めた。
◇◇◇◇◇
ー雅也Sideー
「う……く……そ、がぁ……」
最後に怨み文句を残して、一年生の男子生徒が倒れた。
「ふぅ、これで何人目だ? 幾らなんでもこの人数はおかしいだろ」
そう言って俺は後ろを向く。
そこには、俺が倒した十数名ほどの男子生徒がひれ伏していた。
「相手が弱いからまだなんとかなっているが、このままだと体力がもたん。……俺もまだまだだな」
ランク戦が始まってから数時間が経った。その間俺が倒したのは一年生15人、
二年生7人、
三年生2人、
の計、24人だ。流石にエンカウント率が高過ぎる気がするのだが……。
「今のポイントが6400だから……まだEランクか。まぁ、ボチボチ、と言ったところか」
出来ることならDランクまで上げたいのだがな。このままでは間に合いそうにないな……。
「それに、いまだに色彩魔術を使う程の相手が居ないと言うのもな……」
数が多いのは悪くはない。だが、質が悪すぎる。
おおよそこいつらはまだ実力無い新入生に狙いを定め、集団で潰して回っているのだろう。
戦法と言えば聞こえは良いが、そのうえで俺に惨敗している当たり、こいつらの面目も丸潰れだろう。加えてランク戦は学園のそこかしこに中継用ドローンが飛んでいる。こいつらの醜態はしっかりと記録されているだろうな。
「このような輩ばばかりなのだろうか、この学園は……」
「そんなこともないと思うけどなぁ~」
ゾクリ、と背中に悪寒が走ると同時に。
俺の正面からそんな言葉を掛けられた。
「ッ!!??」
「うわっ! すごい反応速度だね?」
そう言われて初めて自分が数メートルも後ろに下がり、ゲイ・ボルグを構えていた事に気付いた。
じっとりと冷汗が頬を伝う。
何時から居た?
気付いたら目の前に一人の女生徒が居た。
漆の様な黒髪を左右で結い上げるという、少々独特な髪型をしている。
背は高めで、均整の取れた体つきをしており、その非常に良く整のった顔からは、何処か期待する様な感情が見て取れる。まるで散歩がてら寄ってみたかの様に制服を着崩しており、スカートからスラリと長い脚が見える。ネクタイの色からどうやら三年生の様だ。
特に異常な部分は見られなかった。だからこそ異常なのだ。
生徒同士が覇を競うランク戦において、散歩に行くような出で立ちで、出歩ける訳がない。
周囲の警戒は全く怠っていなかった。
だが気付かなかった。……違うな、気付けなかったのだろう。あの距離まで近づかれ、声を掛けられるまで。
いや、そんなことより何故声をかけた?声を掛けずに俺を倒せば良かっただろう。
一体何が目的なんだ?
俺は女生徒から目を離さないよう集中力する。一瞬の隙が命取りに為りかねない。
「そんな怖い顔でジロジロ見ないでよぅ。もぉ~、エッチ~」
そう言って頬に手を当て、身体をくねらせがらケラケラと笑う女子生徒。
思わず額に青筋が浮かび、ゲイ・ボルグを握る手に力が入る。
ふざけているのか?
いや、実際そうなのだろう。彼女と俺との間には、それほどの実力差がある。
今もにやけながら身体をくねらせているが、そこに一部の隙もない。
「うんうん♪ ちゃんと力量の差を理解してるね。それで尚も負けるつもりは無いって顔してる……。うんうん♪ そこお姉さん的にポイント高いぞぅ!」
思わず顔が引き攣る。
女生徒じゃなかったら今すぐあのにやけ面をぶん殴ってやりたい。
俺は怒りを堪え、女生徒に質問する。
「それで俺に何のようだ。声など掛けずにやればよかっだろう」
「むぅー。察価値なのは良くないぞぅ! お姉さん的にポイント低いぞぅ!」
「何であんた基準でポイントをつけられなきゃならないんだ?」
「女の子の言うことにあれこれ言わないの! 今のお姉さん的にポイント低いぞぅ!」
「どうでもいい。用件は何だ」
「そんなに睨まないでよぅ……お姉さん泣いちゃうよぅ?」
ヨヨヨ……と、擬音が聞こえて来そうな素振りで泣く振りをする女生徒。
「……」
「わ、わかったってば! だからそんなに刺々しないでよぅ……」
「……なら、とっとと言え……」
「唯単に、将来有望そうな一年生を視察しに来ただけだよぅ……これで満足? お姉さん的にテンション駄々下がりだぞぅ……」
「視察……?」
どういう事だ? 何故視察をする必要があるんだ?
「おおっ「どういう事だ?」って顔してるぞぅ?……ふっふっふっ……そんなに気になるなら仕方無いなぁ。特別だぞぅ?」
……ここまで人を小馬鹿に出来る人間を初めて見た。
「それはっ!……」
そこまで言うと女生徒はいきなり口でドラムロールを始めた。
「どるるるるるるるるるるるるるるるるる……」
「……」
今の俺はさぞかし間抜けな顔をしていることだろう。
「……るるるるるるるrっ!! ……いっっっつうぅぅぅ……」
あ、舌噛んだ。……やらなければいいだろうに……。
「……はぁ、早く言え」
「うぅ……それはね、【クラン】のメンバー確保の為だぞぅ」
「クラン? それは何だ?」
「ん? まだ教えてもらってないの? 可笑しいぞぅ……? 今はいいや。それじゃあこのお姉さんが直々に教えてあげようじゃないか!今のお姉さん的にポイント高いぞぅ!」
「いいから続けろ」
「はい……」
こんなのに一々付き合ってたら、時間がいくらあっても足りん。この手の輩は存外推しに弱いのだ。
「まず【クラン】について教える前に、【パーティー】について教えちゃうぞぅ。
【パーティー】は最低二人~最大10人までのチームでクエストを行ったり、任務を行う部隊の事だぞぅ。【パーティー】は同じ【クラン】のメンバーや、他の【クラン】のメンバーとも自由に組んだり、解散したりすることが出来るぞぅ。
【クラン】は最低10人~25人で組むんだぞぅ。そして、クランは一クランに一つ、クラン名を決めることが出来るぞぅ。因みに、クランは一度入ると最低三ヶ月は脱退出来無いから慎重に選ぶんだぞぅ。【クラン】では、通常では受ける事のできない特別な大規模クエスト【レイド】を受けることが出来るぞぅ。【レイド】は後で説明するぞぅ。」
ふむふむ、つまり【パーティー】は誰とでも組める小さな【クラン】と考えれば良さそうだな。
【クラン】最低三ヶ月の【パーティー】の集合体か。
「【クラン】では、その規模に応じて、一つの【クラン】に一棟ク【拠点】が与えられるんだぞぅ。所謂"部室"の拡張版だと思えばいいぞぅ。そして、【クラン】には一つ金庫を与えられていて、そこにクエストで稼いだ報酬などを入れておけるんだぞぅ。
それから、【クランランキング】って言うのがあって、そのランキングで上位に入ったクランには、報償金が入るぞぅ。で、そのランキングは三種類あるんだぞぅ。
一つ、【クラン討伐ランキング】
二つ、【クラン所持金ランキング】
三つ、【クランポイントランキング】
この三つが【クランランキング】になるぞぅ。
一つ目と二つ目は分かると思うけど、三つ目の【クランポイントランキング】は、その【クラン】に所属しているメンバーの総合ランクポイントを競うものだぞぅ。何処の【クラン】が強いのか迷った時は、だいたい三つ目のランキングを見ればいいんだぞぅ。……ここまでわかった?」
「妙に説明チックで非常に分かりやすかったぞぅ。…………ッ!!」
しまったッ!「ぞぅ」を聞きすぎてつい口調に出てしまった……気を付けねば。
「そうかぁ……分かりやすかったのかぁ……えへへ///」
どうやら気付かれてはいないようだ……良かった。
それにしても、皮肉を込めたつもりだったんだがな。
「ふふん♪……それじゃあ続きに行くぞぅ」
「……まだ続くのか?」
「そうだぞぅ?」
これ以上話すことなどあるのか……?
「……まぁいい、続けてくれ」
「? ……了解だぞぅ!
次は【クエスト】関連の説明をするぞぅ。
まず【クエスト】は主に、下級、中級、上級の三段階に別れていて、私達学生が受けられるのは"Sランカー"を除いて下位クエストか、中級の中でも比較的安全なクエストだけなんだぞぅ。これは、正規の団員ではない私達を守る事の他に、正規団員の仕事を取らない様にするためなんだぞぅ。
いくら学生でも、正規団員より実力のある学生も中にはいるんだぞぅ。そう言う学生に仕事を取られないようにするための措置なんだそうだぞぅ。」
そういうことか。確かに正規団員より実力で勝っているからと言っても所詮は学生、責任問題などもあるのだろう。
「因みに、ランクがCランク以上になると、"二つ名"学生付いたり、【指命クエスト】を依頼されることがあるんだけど、【指命クエスト】は私達学生はないぞぅ。それに"二つ名"が付くって事は実力を認められたって証明にもなるんだぞぅ!」
"二つ名"か……ある程度の指標になりそうだな。
「次は【レイド】と【フルレイド】について説明するぞぅ。
【レイド】は一つにつき、一つクランが受注可能なクエストの事だぞぅ。【レイド】の内容は基本的に超大型の魔物や、魔物の群れを殲滅するのが主だぞぅ。まぁ、基本的に学生の私達は受けることが出来ないから、余り気にしなくてもいいんだぞぅ。
次は【フルレイド】だぞぅ。
【フルレイド】は一つにつき、そのクエスト発生時点で参加可能な全ての【クラン】が強制的に参加して対処するクエストだぞぅ。【フルレイド】の内容は【ラグナロク】や、【カタストロフ】中でも特に危険な魔物の討伐が主なんだぞぅ。これも学生は基本的に受けれない……というか、【クラン】の中でもランキング上位の団体しか受注出来ないんだぞぅ。
受けれないのに、何故説明するのだろうか……。まぁ、【ラグナロク】やら、【カタストロフ】だったか。受けるかとはないと思うが、危険なことだけはわかった。
「ついでに魔物のランクも説明するぞぅ。
魔物のランクは上から、
ー禁忌ー
【ラグナロク】
ー特級ー
【カタストロフ】
【ディザスター】
ー上級ー
【パンデミック】
【エンダー】
ー中級ー
【デッド】
【バッド】
ー下級ー
【ハザード】
【リスキー】
9つのランクに分けられてるんだぞぅ。
私達学生が受けられるのは【リスキー】~【バッド】までなんだぞぅ。
それから、クエストをクリアすると、学生の場合は正規団員と比べて金額は落ちるけど、ちゃんとした報酬。それからランクポイントがもらえるんだぞぅ。だからジャンジャンクエストを受けて、ジャンジャンクリアするといいんだぞぅ。
そして、そうなるための近道が【クラン】なんだぞぅ!!
ソロでのしあがっていくのはとても時間がかかるんだぞぅ。だから【クラン】の自分よりランクが高いメンバーと一緒に自分の適正ランクより上のクエストを受けてレベルアップを計るんだぞぅ。以上で説明終わりだぞぅ。ご静聴、ありがとうなんだぞぅ」
「あぁ、とても分かりやすかった、ありがとう」
「て、照れちゃうぞぅ///」
「その上で疑問なんだが」
「ほぇ?」
「結局なんで俺を視察に来たんだ?」
そう、そこがまだ判らない。結局何故来たかを説明してないからな。
「あっ……わすれてぞぅ……説明がメインになってたぞぅ……」
「馬鹿なのか?」
呆れても物も言えんな。いや、馬鹿と言ってるか。
「うっ……」
「……早く説明しろ」
「りょ、了解だぞぅ……実は私も【クラン】に所属してるんだけど、いま、メンバーが不足してるんだぞぅ……だから早い段階で有望そうな後輩を視察してたんだぞぅ」
そういうことか。……というか。
「始めからそれを言えば今までの説明は要らなかったんじゃないか?」
「……」
「おいおい……」
馬鹿なのか?馬鹿なのだろう。生粋の馬鹿に違いない。
一番だし重要な所をすっぽかすとは……。
「……それで? 他に何か言いたいことはあるか?」
「あ、そうだったぞぅ! ランク戦が終わったら、"勧誘期間"が始まるぞぅ。その時になったらまた先生から説明されると思うけど、私達【クラン】に所属してる生徒が所属してない生徒を勧誘出来るんだぞぅ。勿論その期間内でも、期間外でも自由に出入りは出来るぞぅ」
「つまり?」
「君、うちの【クラン】に入らない?」
なるほど、それが本命か。