ボッチな冒険者はやらかす
俺がこの世界に紛れ込んで五年が経とうとしている。
この世界に来た時は一五歳だった小僧も元の世界では成人と言われる年齢だ。
まぁ、この世界では一五歳で成人となるので今となっては大した問題じゃない。
それよりもだ。
俺はこの世界に紛れ込んで冒険者として活動しているんだが、なぜか周りの視線が辛い。
と言うか、目を合わせてくれない。
粗暴な行いの者が多い冒険者達でさえも俺とは目を合わせようとはしない。
ギルドの受付嬢達も何故か小刻みに震えてオドオドしながら直接俺とは目を合わせてくれない。
解せぬ。
確かに俺がこの世界に紛れ込んで真っ先に確認したチート能力。
それは有った。
ネット小説やラノベだけのものかと思っていたが俺にも有ったのだ。
生憎、ステータスは無かった、鑑定やアイテムボックスなんかのスキル自体も存在していなかった。
俺が持っていたチートってのが何かというとゲームで言うところのバランスブレイカー以上の絶対的な攻撃力と防御力。それと魔法への全適性だった。
当時一五歳だった俺ははしゃいだ。いや、はしゃぎすぎたかも知れない。
なんせ、最初の一年で冒険者ギルドで最年少で最短で最高ランクまで上り詰めてしまったくらいに。
一人でゴブリンのコロニーを殲滅すること数回、何百ものオークの集団を一人で殲滅。
数十年に一度と言われる魔物の大量発生を一人で鎮圧したりと若さに任せてやりたい放題してしまった。
今は反省してる。正直やり過ぎたと思っている。
なのでその後の四年は出来るだけ目立たないようにひっそりと依頼をこなす日々を送っている。
なのに、、、それなのに。
人の噂も七五日と誰が言ったのだろうか?俺の評判?悪評?は未だに衰えを知らぬみたいで、未だに俺を恐怖の目で見てくる。なのに目を合わせてくれない。
活動拠点の街を変え、国を変えてもギルドで受付をする時にバレてしまう。
魔力の波長で個人を識別するギルドのシステムを恨めしく思う。
そんなわけでどこへ言っても俺は一人でボッチだ。
飯を食う時も一人。依頼を受けるのも一人。
パーティ推奨の依頼も特例で一人で受けて完遂した。
当然、彼女の一人も出来やしない。
娼館?そんな度胸があったら性奴隷を複数人買って奴隷ハーレムでウハウハやってるだろう。
正直、冒険者ギルドで細々働かなくても良いくらいに金は貯まっているんだが、ほら、ラブストーリーは突然にって言葉があるので、そんな僅かな期待を胸に今日も俺は依頼を受けるわけだ。
けして勤労大国日本の影響を受けている訳ではないはず。
今回の依頼は東の森に居ると言われるストライプバードのクチバシを取ってくる事だ。
コイツはシマ模様の鳥で、大きさは軽自動車くらいの大きさだ。なんかこれだけでファンタジー。
性格は非常に臆病で、デカイくせに動きは素早く、捕獲は困難を極める。
熟練の冒険者でも一ヶ月程森にこもってやっと一匹捕獲できるかどうかってくらい。
ちなみに俺はストライプバードの生存圏に入って五分で完了。
足元には三匹のストライプバード。
依頼では一対のクチバシで良かったのだが、ついつい多めに捕獲してしまった。
さぁ、帰ろうと思った時にそいつは現れた。
災害級指定されている、双頭の犬、オルトロスだ。
体長はでかくトラック程の大きさでライオンのようなたてがみを持っていて、そのたてがみ一本一本と尻尾が蛇になっている。なに?こいつキモい。
犬なのはまぁ良い。どちらかと言えば俺は犬派だから。でも爬虫類はダメだ。虫はもっとダメだけど。
敵意丸出しで俺を睨みつける双頭の犬。
どうしたもんかと考えてるとオルトロスが驚異的なダッシュ力で俺に接近してきた。
俺が考えている時に急に向かってくるものだから、つい反射的に向かってきたオルトスの頭を叩いてしまった。
「キャウン!」
完全に犬っぽい悲鳴を上げて十メートル程吹っ飛ばされたオルトロス。
俺は警戒しつつオルトロスに近づいていくもオルトロスが起き上がることも、動くこともなかった。
どうやら頭を叩いた時に脳みそが急激な運動にシェイクされてそのままお亡くなりになったようだ。
俺はため息を一つ吐き出し余計な荷物が増えたことに頭を抱えた。
その後、なんとかオルトロスを引きずりつつ、依頼の品であるストライプバードのクチバシを小脇に抱えて街に戻った俺を見て街は半パニックになるとともに、俺の悪評がまた一つ増え、俺のボッチが更に加速するのだった。
解せぬ。