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3話「四人ぼっちの出兵」

 きれいな三日月が浮かぶ夜空の下、村の外に向けて五人の兵士が走っていた。誰も顔は恐怖でゆがんでおり、ペースも考えないままがむしゃらに走っている。


「おい、アダムベルトはいいのかよ! 置き去りだぞ!」

「うるせぇ、あんなヘタレに構ってられるかよ! 今は自分の身を守るのが最優先だろうが!」


 一人の兵士の叫び、先頭を走っていた兵士が答える。彼らはギルベルトと共にこの村にやってきた兵士たちだ。リサによって気絶させられた一人を除いて全員が我先にと村の入り口に向かっている。


「早く、このことを城主様に伝えないと、大変なことに……っ!」


 だが、入り口が見えたところで、先頭の兵士が急に足を止める。後続の兵士たちが思わずぶつかりそうになり、悪態をつく。


「おい、あれなんだ?」


 兵士の指さす方向は、村の入り口だ。ギルベルトが乗ってきた白馬が繋いである。愛馬が汚れるのを嫌った彼がそこに繋いでいたのだ。だが、指しているのはそっちではない。


 入り口の中央に、一人の男が立っていた。


 2メートルは越えそうな体躯に、金色に輝く鎧を身にまとっている。顔は引き締まり、口は一文字に閉じながら、まっすぐにこちらを見ていた。手には、斧と槍を合体させたような独特の武器を持っている。


 彼の放っている威圧感に思わずたじろぐ。だが、彼の横を通り抜けなければ、村からでることができない。


「おい、どうするんだよ?」

「どうするもこうするも、いくしかないだろ!」


 一人の兵士がそういうと、まっすぐに駆けていく。男のことを伺いながら、ビクビクしつつ近づいていく。その光景を、他の兵士たちも固唾を飲んで見守っている。

 男は、あくまでも無言を通した。なにも言わず、動いてすらいないのに、近寄りづらく感じる。兵士は、ゆっくりとその横を通り過ぎていく。そして、足が一歩、村の外にでたとき、ようやく安堵する。


 しかし、それが彼の最後だった。


 仁王立ちだった男は持っていた武器を両手でつかむと、横に振るった。風切り音と同時に、その兵士の胴体はまるで紙のようにたやすく両断される。なにが起こったのか理解もしないままに彼は死んだ。

 宙を舞った死体が、大地に落ちていく光景を、兵士たちは戦慄と共に見つめていた。目の前の惨劇に、言葉さえもでない。


「我が名は、呂布」


 静かに、男は名乗る。それは、同時に宣告であった。


「参る」


 貴様等を、殺すという。


 呂布は飛んだ。2メートルはあろうかという体躯が、まるで羽でも生えているかのように頭上を舞う姿を、兵士たちは見つめることしか出来なかった。


 二人目は、袈裟切り。悲鳴を上げる暇もなかった。


 そこで、ようやく兵士たちの悲鳴が上がる。逃げまどう兵士たちを、呂布は容赦なく追う。その光景はもはや狩りですらなかった。まるで雑草を刈り取るかのようにたやすく、残りの兵士たちも討ち取られた。


「……」


 返り血によって真っ赤に染まった鎧と顔。討ち取った兵士たちの首を回収してから、彼は夜空を見上げた。三日月が輝く空、それを見つめる瞳に灯るのは歓喜に近い狂気。


「戦いが、始まる」


 呂布は、猛獣のような笑みを浮かべる。



 立ち上がった信長の姿を、周りを囲んでいる村人たちは戸惑いで受け止める。彼の言葉を信じるか、信じないかで判断がつかないといったところか。


「本気なのか、オダ」


 最初に声をかけたのはモードレッドだ。まっすぐな視線が彼を捉える。水のように透き通っている青い瞳は、まるでこちらの全てを見透かしているようにも見える。


「本気だ」


 恐れずに答える。出来るのかどうかは正直なところ、わからない。戦略ゲームぐらいの知識がない自分がどこまで届くのかも。


 けれど、託された願いを無碍にすることだけはできない。


 信長の眼差しを、モードレッドは見つめる。ひるみそうになる気持ちを必死にこらえると、彼はニカっと笑顔を浮かべた。


「いいぜ、気に入った!」


 叫んでいるかのような大声で、彼はそういうと彼の肩をたたく。痛いくらいの衝撃に思わず顔をしかめる。


「お前の本気に、俺も乗せてくれよ」


 差し伸べられた手、信長は最初、それの意図が分からなかった。けれど、彼の顔を見つめ、理解する。


「ああ、頼りにしているぞ、モードレッド」


 手を握り返す。それは、同士になった証。二人の男は互いに不適な笑みを浮かべる。


「これからの話はとりあえず後だ。……まずは、彼を静かな場所で眠らせてあげないと」


 振り返り、冷たくなったマオの姿を見つめる。信長として生きる、その人生をくれた老人に感謝の念を込めながら。


 コボルト族の葬式がしめやかに行われた。大きく掘られた穴の中に遺体がおかれ、その隣に枝切り用のナタと、生前に彼が愛用していた品物が置かれている。


 リサによれば、コボルト族のあの世は大地の下にあるらしい。深い地のしたには沈まない太陽と枯れない果物の木が生えており、永遠の春が続いている世界がある。生きている物は全てそこに行く。しかし、死んだコボルトは魂だけなので、物を持っていけない。なので、肉体と果物を採るためのナタ、そして愛用していた物品を地面に埋めて届けるのだと言う。

 最後に村人たちに見守られながら土がかけられる。場所が分かるように少しだけ土が盛られるだけの簡素な墓だ。墓の上に何かを立てるのは、魂が肉体を取り戻す邪魔をするので禁止されている。


「……オダ、これからどうするんだ?」


 葬儀が終わり、一段落ついたところでモードレッドが訪ねる。彼の言葉に対する答えを村人たちも求めているのか、一斉に視線が信長の元に集まる。注目が集まるのはまだ得意ではないが、逃げるわけにも行かない。


「やることは多くある。足らない物もな。兵力、物資、武器、甲冑……そしてなによりも、情報と時間だ」


 戦いに勝つためにもっとも重要なのは情報だと信長は考えている。いかに多くの情報を集め、不測の事態が起こらないように対処し、万全の状態で戦いに向かうか、だ。


 だが、情報を集める時間はない。先ほど逃げ出した兵士によってこの村の反乱は相手に知られるだろう。討伐部隊もすぐに出されるはずだ。それに対してどう防衛するかが問題だ。


 先ほどの兵士たちの装備は軽量であり汚れも少なかった。おそらく、彼らがの拠点とこの村はそれほど離れていないのだろう。


「俺たちの反乱が相手に伝わって討伐部隊がくるまでにどれほどの策を用意できるか、だ」


 討伐部隊、の言葉に村人たちがざわめく。無理もない、つい先ほどまで帝国に隷属していたのだ。そう簡単に気持ちが切り替えられるのは少数だろう。


 やはり、ここは一度、村を捨てるべきかまで考えたとき、


「その心配は必要ない」


 全身を血に染めた呂布が現れる。その姿に、思わずギョッとする村人たち。信長も心臓が飛び出そうになるも、なんとか表情には出さない。


「リョフ! お前、今までどこに行ってたんだ!」


 対して、モードレッドは気にもとめることなくこれまでの不在を咎める。彼の言葉に、リョフは手に持っているものを掲げる。瞬間、村人たちから悲鳴が上がる。


 それは、5つの首であった。


「これは、さっき逃げ出した兵士……?」

「俺が、討ち取った」


 淡々と呂布は告げる。信長は血塗れの男だけではなく、初めて生首を見たせいで気絶しそうであった。顔を少し青くしながらも、なんとか正気を保つ。


「よくやった呂布、これで時間に余裕が出来る」


 信長は今にものど奥から逆流しそうになるのをこらえながら、にやりと不敵そうに笑う。呂布が逃げ出した兵士を討ち取ったことで彼らの反乱はまだ帝国にしられることはなくなった。少なくとも討伐部隊が来るのを遅めることはできる。

 しかし、油断は出来ない。彼らの帰りが遅いことに相手が気づけば動き始めるはずだ。その前に、信長たちが動かねばならない。


「少ないけれど時間が出来た。なら、後は情報だ……」


 彼が見つめるのは、一人の男。先ほどの騒動でただ一人逃げ遅れた、兵士の姿。



 激しい頭痛に苛まれながら、アダムベルトは目を覚ました。鈍器で殴られたかのような激しい痛みが脳内をかけ巡っており、意識を整えるのを邪魔する。


「目覚めたか、アダムベルト」


 名前を呼ばれてまだはっきりしない焦点を向ける。最初、自分の上司であるギルベルトかと思った。だが、焦点が定まっていくことでそれが過ちであることに気づく。


「お前は……誰だ? 俺はいったい?」


 そこで初めて、彼は自分が縛られていることに気づいた。鎧も全てはがされており、下に着ていた質素な服が見える。


「これは! なにが、どうなって」


 自分の現状に困惑する彼に、信長はあるものを彼の元に放り投げた。重い音を響かせて落ちたそれに、アダムベルトは顔面蒼白になる。


「ギ、ギルベルト、様……?」


 転がっているのは、恐怖の顔に歪んだまま硬直しているギルベルトの頭部だ。すでに血は抜けきり、白くなっているものの、腐ってはいない為に判断は容易だろう。


「そんな、ギルベルト様が……」

「そいつだけじゃない」


 信長はそういって遠くに固めて置いてあった他の兵士たちの首を指さしてみせる。アダムベルトの喉の奥から短い悲鳴がこぼれる。


「生き残ったのが自分だけだと分かったか?」


 手に持っていた剣を引き抜き、喉に突きつける。彼の顔はすでに顔面蒼白で、何かを言おうとして言葉にならずにパクパクさせてから、言葉を絞り出す。


「た、助けてくれ」

「ダメだ」


 即答だった。一瞬で彼の表情が絶望に染まり、手が震え始める。死という恐怖に彼が十分に怯えてから、信長は続ける。


「ただし、貴様の行動次第では命を助けてやってもいい」

「ほ、本当か」


 彼の見せた条件にアダムベルトはすぐに飛びついた。一度落としてから、希望を見せる。そうすれば、人はたやすくそれに飛びつく。信長は内心で笑う。


「な、何をすえばいい?」

「情報だ」


 必死に悔いてくる相手に対して、信長は簡潔に答えた。何のことかわからずに呆ける相手に、続ける。


「貴様の知っている帝国の情報を全て話せ。そうすれば、お前の命だけは助けてやる」


 信長の言葉に、アダムベルトは躊躇う。彼とて馬鹿ではない。帝国に敵対する相手に対して情報を与えることの危険性ぐらいはわかる。間違いなく、それは帝国に災いを呼ぶ。



 ―――アダムベルトは帝国首都ゼウスにて商店を営む両親の元に生まれた。幼い頃から計算に長けており、同じ年齢の子が足し算を理解する頃には、九九を暗記していた。

 そんな彼のことを、両親も誇っており、周りの親たちに彼のことをよく自慢したものだった。しかし、それでも彼は両親の店を継ぐことはなかった。否、出来なかった。


 彼は、次男だった。


 帝国は強い身分制度があり、農民に生まれたものは農民に、商人に生まれたものは商人にしかなれない。そして、同時に世襲制度も強い。家業を継ぐのは長男と決まっており、次男以下にはその権利がない。

 彼がどれほど兄より優秀であっても、彼にはそれが出来なかった。自由があるといえば聞こえはいい。だが、それは同時に彼には食い扶持がないと同義だった。

 新しい仕事を始めるには帝国の厳しい監査をくぐり抜けなければならないし、莫大な資本金もいる。残念ながらそんなものは持ち合わせていなかった彼はごくごく平凡な手段を執った。


 兵役である。


 軍隊に志願すれば衣食住は保証される。また、無事に定年を迎えれば帝国に奉仕したとして多少の減税もある。貴族の若者にイビられる苦痛はあるものの、彼のように手に職を持たない次男坊にはこの手段しかなかったのだ。

 まだ、彼のように体が健康なものは軍隊に志願できるだけマシである。体に障害があるもののような軍隊に必要な健康を持たぬ者は、軍隊にも着けず、惨めに乞食をするしかなくなる。


 生きるために、人並みの生活を送るために軍隊に入った彼にとって、帝国への忠誠心などは、命の重みに比べれば限りなく無いに等しかった―――


 結局のところ、アダムベルトは全てを答えた。帝国に対する忠義よりも命を大事にしたのもあるが、同時に彼らの力を持ってしても帝国に勝てるわけがないとも考えていたからだ。彼の知っていること程度で、帝国を倒せるわけがない、と。


「お、俺の知っていることは全て話したぞ!」

「……」


 声を震わせながら叫ぶアダムベルトに信長は無言で答える。彼の脳裏に最悪の想像が浮かぶ。考えてみれば、相手が約束を守るかどうかはわからないんだ。情報を聞くだけ聞いて、殺されるかもしれない。


「……モードレッド、解放しろ」


 彼の最悪の想定だけは免れた。信長はゆっくりと剣を鞘に戻し、それにあわせるように、モードレッドが手に持っていた剣で彼の縄を断ち切った。蒼白だった顔色にようやく血が戻ってくる。ふらふらと立ち上がり、周りを見回し、誰も危害を加えないことを理解してから、脱兎のごとく駆けていく。

 彼の足音が聞こえなくなるのを待ってから、信長は口を開いた。


「必要な情報は手には入った。モードレッド、呂布、行くぞ」

「行くぞってどこにだ」

「決まっている南砦だ」


 アダムベルトの言葉が正しければ、彼らがいるコボルト領には4つの城が十字に配置されている。十字の上、もっとも帝国に近い北に位置するのがコボルト領を支配する領主の城だ。そして防衛の要になるのが中央の城になりそこから東西南に、拠点の砦がが建てられている。

 信長たちがいる村は南砦が管轄としており、ギルベルトやアダムベルトもそこからやってきたのだという。


「行くのはいいが、勝算はあるのか?」


 モードレッドの言葉に、信長は笑顔で答える。


「もちろんだ。モードレッドと呂布の力があれば、南砦ぐらい容易に落とせる」


 余裕すら感じさせるその言葉に、村人たちにどよめきが広がる。彼の言葉が本当なのか、嘘なのか判断しかねている、と言ったところか。無論、彼も言葉だけで信じてもらえるなどと言う甘い事を言うつもりはない。


「俺はかまわない、が……リョフはどうなんだ」


 モードレッドはそういって呂布を見つめる。彼の顔はそれでも微動だ似せず、感情を一切感じさせない鉄面皮だ。数秒の時間を要してから、彼は答える。


「異論はない。俺も力を貸そう」


 簡潔な答えだった。まるで機械が吐いたかのような無機質な言葉に、信長とモードレッドは多少の戸惑いを感じる。信じていいのかどうか、判断に困る。


 だが、悩んでいる暇はない。必要な情報を得た以上は、後は時間との戦いになる。


「ならば、行くぞ。時間が惜しいから、作戦は道中で伝える」


 信長はそう言うと入り口へと足を向ける。モードレット、呂布もその後に続く。


「待ってくれ!!」


 だが、一人の男の叫びが彼らの足を止める。信長が振り返れり、目に入ったのは。


「……タケル、か」


 先ほどの青年、タケルだった。音が聞こえるほど拳を握り、口を横一文字に噛み締め、瞳には決意の光がともっている。


「俺も……俺も連れていってくれ!」


 すがりつくように彼は叫んだ。その姿を、信長は冷徹な瞳で見つめている。


「じいじは……マオ長老は俺の祖父だった、仇が打ちたいんだ! だから」

「ダメだ」


 だが、冷たく拒絶する。にべもなく断られて、タケルは怒りとともにくってかかる。


「何でだ、弓ぐらいだったら俺にだって扱える!」

「そういう問題じゃない」


 激高していく彼に対して、信長はあくまでも冷静に答える。


「俺たちがこれから行うのは喧嘩じゃない。殺しあいだ……お前に、人を殺す覚悟があるのか?」

「それは……」


 思わず口ごもる。当然ながら、彼には人を殺した経験など無い。


「覚悟がないならここにいろ。じゃないと足手まといだ」


 信長も彼の気持ちが分からないわけでもなかった。肉親を二度も殺された辛さと怒りがいかなほどのものなのかはわからない。

 けれど……否、だからこそ、覚悟がないままつれていくことはできない。


「俺は……」


 タケルは迷いを見せる。戦いという名の殺しあいが、自分にできるのか、できないのか。誰かを殺すということを考えるだけで、手が震えそうになる。


 怖い、けれど。


 帰ってきたときに、冷たくなっていた両親の姿、目の前で殺された祖父の姿。そのときに、何もできなかったという無念と悔しさ。


「俺は……っ!」


 答えはもう心の中にある。

 

 リサの持っていた弓を拾い上げ引き絞る。周りが反応するよりも早く、矢を放つ。放たれた矢はまっすぐにギルベルトの生首の眉間へと突き刺さった。


「覚悟ならある……俺は、相手が帝国だったら情けも、容赦もしない、絶対に!!」


 力によって押さえつけられてきた悲しみと屈辱、誇りを失い、大切な者を奪われ続けた者の魂の叫び。


「奪われたものはもう戻らない。だけど、奪われたままで、生きていくことなんか、できない……っ!」


 一矢報いるだけで、満足なんかできない。仇を打っただけで納得などできない。相手の全てを破壊するまでは。


 タケルの返答を聞いて、満足げに頷いた。まさに彼が求めていた答えを、彼は答えたのだ。だから、笑う。口の端をつり上げて、悪魔のようにおぞましい笑みで。


「よく言ったタケル、着いてこい」


 彼の言葉に、無言で頷く。しかし、その顔に浮かぶ覚悟だけは変わらない。


「ま、待って、兄さんがいくのなら私も……!」


 思わず、リサも腰を上げる。だが、それに対して信長は厳しい返答を返す。


「お前はダメだ、リサ」

「どうして、覚悟なら私だって……!」

「貴様が着たら、誰がこの村を守る?」


 彼の言葉に、リサはハッとする。


「まだこの村の危険がなくなったわけではない。お前は万が一の為に残り、緊急の時は村人を率いて逃げろ。決して、戦うようなまねはするな」

「……わかった」


 頷いて肯定を返す。それを確認してから、信長は再び歩きだした。


「理解できたのならいい。いくぞ、モードレッド、呂布、タケル」


 タケルを新しく加えた四人はゆっくりと歩き出す。その姿を、リサは最初は心配そうに、胸の前で手を組みながら見送った。




「優しいんだな、オダ」


 村をでて暫くして、モードレッドが穏やかな声で言った。周りは深い森に包まれており、通りやすいように切り開かれた道を一歩踏み外せば獣すら嫌う険しい道だ。

 夜空に浮かんだ三日月だけが、貴重な光源だ。馬を引いている呂布の目立つ金色の鎧も、この暗さの中では流石に目立たない。


「何のことだ」


 信長の姿は先ほどのTシャツGパンの姿ではなく、アダムベルトら兵士が着ていた鎧を着込んでいる。動きやすいように軽装になっているとはいえ、運動不足の体には少し辛い重さだ。

 一方で、その横に並んでいるタケルはギルベルトの使用していた質の良い鎧を身につけている。とはいえ、弓を射る関係で全てを身につけているわけではなく、兜と胸当ての一部、そして聞き手の右腕には何もつけず、左肩に肩当てを付けただけの最低限の装備に止まっている。


「とぼけるなよ、さっきのリサという女の子の話だよ。彼女を残すのが万が一の時のためにってのは嘘なんだろう?」

「え、どういうことです?」


 モードレッドの言葉に、タケルが訪ねる。


「考えてみろ、まだ帝国には俺たちが反乱を起こしたことは伝わっていないはずだ。捕まえた兵士以外は全員殺しているだろ」


 現在のところ、コボルトの村が帝国に反旗を翻したことを知るのはあの村の住人と、逃がした兵士だけだ。


「でも、あの逃がした兵士が城に到着したらバレますよね?」

「だから、そうならないために俺たちが向かってるんだろう」


 彼は未だに沈黙を保っている信長のほうを見つめる。沈黙を保ってはいる者の、この場合、沈黙は肯定しているようなものである。

 実際、モードレッドが言ってることは正しい。彼らが急いでいるのは敵が迎え打つ準備をする前に叩くためであり、それが成功すればあの村に危害が向く前に解放できるはずだ。


「あの女の子を戦いの場に出さないために、あえて嘘ついたんだろう? 違うか?」

「否定はしない。だが、これからの作戦に必要なのは数じゃない、少数の精鋭だ」

「そういえば、まだ作戦を聞いてないが、どうやって四人だけで城を落とすんだ」

「ああ、今から説明する。全員、足を止めずに聞いてくれ」


 信長はそう言うと、城を落とすための作戦を三人へと告げる。それを聞いた反応は各自それぞれ違った。


「む、むちゃくちゃだ……」


 タケルはその作戦内容に顔を青白くさせている。


「これは作戦って言うか、綱渡りの上に力押しというか……」


 内容の酷さにモードレッドは呆れていうようだが、その口元は楽しそうに笑みを浮かべている。


「……」


 対して、やっぱりというかはやりというか、呂布は眉一つ動かさなかった。


 それぞれの反応は、呂布をのぞけばおおよその予想通りとも言えた。おそらく信長が同じ立場なら同じような反応を返すだろう。それぐらい、彼の考えた作戦は酷いものだ。


「綱渡りの上に力押し、か。否定はしない、こんな作戦、戦略と呼ぶには程遠い」


 自らの言葉で、作戦が稚拙であることを認める。だが、そうしなければならない理由もある。


「だが、コボルトたちの中で戦えるものはまだ少ない。無理に戦場に連れ出せば、無駄な死を呼ぶだろう」


 彼らの中にはまだ帝国に対する恐怖が心に残っている。そんな状態で戦わせても、足が竦み一方的に殺されるだけだ。万が一勝てたとしても、多大なる犠牲を出してしまう。


 彼らに必要なのは、可能性を信じること。


 帝国に対して勝てるかもしれないと言う希望を与える事だ。そのためには、まずは信長たちが劇的な勝利を飾らなければならない。そのための、少数人数の精鋭によって、攻城戦。全ては、この一戦にかかっている。

 決して無謀な戦いではない。先ほどのギルベルトたちの反応を見るに、帝国の人間は支配するのが当たり前で、反逆されることを考えていない。それが、最大の油断となって付け入る隙になる。


「無理無謀は承知の上だ。だが、それでもモードレッド、呂布の二人がいれば不可能ではない。だからこそ、この作戦を選んだ」

「ずいぶんと買ってくれるじゃないか」

「不安か?」


 信長の挑むような言葉に、モードレッドは浮かべている笑みを崩さない。


「ハッ、俺を誰だと思ってるんだ。円卓の騎士の中でも最強の男だぞ。たとえ龍がきても倒してやるさ。お前はどうだ、リョフ!」


 一切、ブレない自信を見せつける。それに対して、話を降られた呂布は、彼らに顔を向けるでもなく答える。


「敵の数など関係ない。己の武で切り開くのみ」


 ただ、簡潔に答えた。言葉には恐れも不安もなく、当たり前の用に言い切る姿は、頼もしい。


「タケル、お前は戦場に不慣れだ、さっき言ったように動いて決して無理はするな」

「ああ、わかってるよ。俺もここで死にたくはない」


 何でもないように言っているが、その腕は少し振るえているのを信長は見逃さない。一応、安全な役目を与えいるものの、それでも危険は尽きない。唯一の不安要素とも言える。


「でも、この作戦、あんたもかなり危険を伴うけど、大丈夫なのか?」


 タケルが心配そうに訪ねる。彼の言うとおり、ある意味では信長が一番危険な役割を担うことになる。だが、迷いはない。たとえそれが、一時の感情による勢いだとしても。


「舐めるな、この程度、天下統一に比べれば生ぬるいわ」


 右手を握る。そこには、まだ落ちていないあの人の血が残っている。もう、暖かみは消えてしまったけれど、託されたものは残っている。


(ここから、始めよう……逃げ続けた人生を終わらせて、新しい人生を始めるんだ)


 固い決意を、胸に秘める。


「生ぬるい、か。頼もしいな、あんたは」


 その姿を、どこかまぶしそうに見つめる。まるで、先ほどあった時とはまるで別人のようだと感じながら。だけど、頼もしいことに代わりはない。


「信じてるぜ、オダさん」


 何気ない、言葉だった。だけど、それは信長の頭を一瞬でも真っ白にするほどの衝撃だった。


(しん、じてる……)


 彼が両親に渇望して、結局得られなかった信頼という言葉。それを、今日あったばかりの青年が、自分に向けて言ったという事実を、一瞬理解できなかった。


「……どうした、オダさん?」

「いや、なんでもない。なんでも」


 思わず、外れそうになる織田信長という仮面をあわてて取り繕う。そうでもしなければ、喜びの感情がおもわず出てしまいそうだった。


「そろそろ、城が見えてくる頃だ……全員、気を引き締めろ!」


 信長の号令に、全員の顔が引き締まり、戦いへと挑む戦士へと変わっていく。すでに森の入り口は見えており、城らしきものも姿を現している。


「行くぞ、目標、南砦っ!」


 今、たった四人だけの攻城戦が始まる。

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