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7話 要塞都市バルハラン

 フローズの魔法によって森の大半が消滅したことにより、エルとユリカはすぐにグレイブ達を発見して合流することが出来た。


「さっきのって精霊魔法の一種ですよね! あんな大規模な魔法誰が使ったんですか!?」


 森の大半を消滅させるほどの大規模魔法、さらにはそんな強力な魔法にも関わらず自分とユリカを巻き込まないよう調整された完璧な術式。エルは素直に驚いていた。


「フフフ。さっきのは僕の魔法さ」


 自分の手で髪をなびかせながらフローズが名乗り出る。


「フローズさんだったんですか。すごいですね、どういう術式組んでるんですか?」

「仕方ない。可愛い後輩のために特別に教えてあげよう。あれはだね──」

「おいエル、フローズの話は長くなるから聞くのはバルハランに着いてからにしろ」

「あ、はい」


 シュンと肩を落とすフローズ。


「それよりそんなに敵は強かったんですか? 随分怪我されてるみたいですけど……」


 ミーシャは全身傷だらけのエルをまじまじと見ながら尋ねた。


「あー、これはですね、ユリカの必殺技の最大の欠点である──」

「それ以上喋ったら次は本当に殺すわよ」

「ご、ごめんなさい」


 幼い少女の声とは思えないドスの聞いた声を出すユリカ。


「なんだお前ら! 暫く見ないうちに随分と仲良くなったじゃねぇか!」

「グレイブにはこれが仲良くなったように見えるわけ?」

「まぁいいじゃねぇか! とりあえず死者の森サイレントフォレストも無事に抜けれそうだしさっさとバルハランに向かおうぜ」

「そうですね。そこで失神してる大臣二人を早く起こして出発しましょう。ここ寒いですし」



 一同は氷の世界へと変わってしまった死者の森サイレントフォレストをあっさりと抜けると、そのままバルハランへと向かった。

 道中で何度か魔物とも出くわしたがどれも下級のゴブリン系の魔物ばかりで、エル一人で何の苦もなく倒すことができた。

 そして日が沈み始めた頃、ついに一同はバルハランへと到着した。





「ここが要塞都市バルハラン……」


 エル達の目の前にそびえ立つ100m近くある巨大な壁。

 その壁には10mほどの間隔を開けて縦に砲台が設置されており、それが都市をぐるりと囲んでいる。

 まさに要塞と呼ぶに相応しいその迫力に思わずエルは息を呑んだ。


「なんだエル、お前バルハランに来たことないのか?」

「はい。デルタガルドに来る前までずっと小さな村にいましたし、在学中は何か特別な事でもない限りはデルタガルドから出してくれませんでしたので……。グレイブさん達は来たことあるんですか?」

「あいつらは俺と仕事で何度か来たよ。俺はまぁ、このバルハラン出身だからな」

「そうだったんですか。てことはこの国最高の戦力を誇るバルハラン軍にいたとか?」

「さぁどうだっけなー……てかそんことより酒だ酒! 酒が俺を待ってるぜ!」


 そんな事を叫びながらいち早く馬でバルハランの門を抜けて走っていくグレイブ。

 門番はそれを呼び止めようとしたが、大臣がそれを制止させる。


「貴様等はここで解散してよい。後は我々の仕事だ。また明後日のこの場所で会おう。今度は遅れるなよ」


 大臣達は第二王女のエヴァが乗る馬車を引き連れてバルハラン城へと向かっていった。


「なーんか結局王女様の顔見れなかったわねー、第二王女って公の場に全然姿見せないから顔見てみたかったのにー」

「仕方ないだろ。それよりグレイブさんどこいったんだ?」

「どうせどっかの酒場でしょ。ねぇミーシャ、あたし達の泊まる宿ってもう手配してあるの?」

「はい。すでに準備してあります。私に着いて来て下さい」


 ミーシャに連れられて宿へと向かうエル達。

 そんな中でエルはバルハランの町並みに目を奪われていた。


 至る所に店を構える武器屋や防具屋。

 すれ違うほとんどの人間が何かしらの武器を装備しており、中には歴戦の勇者のような傷だらけの男や鎧に身を包んだ騎士の格好をしている者もいる。


「話には聞いてたけど本当に強そうな人ばっかりなんですね」

「ここは国の中でも軍事に秀でた都市ですからね。デルタガルドみたいな商業を中心とした都市とは全く違いますよ」

「へー、なんかこうワクワクしてきますね!」

「そうですかね? でもまぁ男の子はこういうところが好きなんでしょうね。私にはよく分かりませんが」


 基本的に剣や槍などの武器を使っての肉弾戦を得意としないエルであったが、道行く人を見ていると体の内側から自然と男の本能のようなものが湧き上がってくる。

 それは強い者へ憧れ、エルは目をキラキラさせながら活気あるバルハランの町に目を奪われていた。


「着きましたよ」


 エル達は宿に着くと、荷物を部屋に置き、各々自由に行動を始めた。

 ミーシャは宿で荷物番をするということで待機、フローズは子猫ちゃん達が待っていると言ってすぐに宿を飛び出し、ユリカも買い物に行ってくるといい出掛けていった。


「エルも町を見てきたらどうですか?」

「んー……でも俺が行ったら……」

「私は平気ですよ。町に出かけるついでにグレイブでも探してきてください。多分この宿のこと知らないでしょうし」

「わ、わかりました」


 結局エルはミーシャの言葉に甘え出掛けることにした。


「そういえばエルに言っておくことがありました」


 宿の扉の前でミーシャががエルを呼び止める。


「?」

「エルは今20歳ですよね?」

「そうですけど」

「なら私はまだ18歳なので敬語とか使わないでいいですよ」

「いや、でも一応先輩ですし」


 ちなみにエルはユリカの事は先輩ではなく子供だと思っている。


「そんなの気にしないでください。それに敬語ばかり使われると私とキャラが被ってしまいますからね」

「わ、わかりま──分かった」

「はい。ではいってらっしゃいませ」

「行ってきます!」



 こうしてミーシャの見送りでバルハランの町へと出たエルはさっそく町の中心街に向かった。

 目的は武器屋や防具屋の見物と自分の体に使えそうな魔法道具の調達。

 そして何よりユリカの手によってボロボロにされた変えの服だった。


 中心街に着くと、そこは夜にも関わらず活気に満ち溢れていて、多くの人が行き交っていた。

 道端で大道芸をする人や露店を出している商人、武器屋には屈強な男達が集まっており、かなりの賑わいを見せている。


「まずは服屋だな。流石にこの格好じゃ恥ずかしいしな」


 所々穴の空いている服を見ながらそう呟くと、エルは遠くに大きく服屋と書かれた看板を見つけそこに向かう。


「なんか黒っぽい服とかあればいいんだけど……ってあれもしかして」


 店の近くまで来たエルの視界に入ったのはユリカだった。

 ユリカは何やら店の前をぐるぐると歩き回っており、何かを悩んでいる様子であった。


「んー、んー、よし! 頑張れあたし!」


 何かを決意したのか店の中に入っていくユリカ。

 それに気付き女性の店員が近寄ってくる。


「何かお探しでしょうか?」

「え、えーと、今流行ってるあの下着を……」

「流行ってる……あぁ! あれですね。こちらへどうぞ」


 下着売り場へと連れられるユリカは、心無しかいつもの偉そうな態度とは違いどこか萎縮しているようである。

 そんなユリカに店員は持ってきた下着を見せた。


「こちらですね。今バルハランの劇場で子供達に大人気の超魔法少女ポプラポプラをモチーフにした──」

「そ、それじゃない!!! あたしが欲しいのはスイーツ下着商会の新作!!!」

「あ、これは失礼致しました! し、しかしですね……」

「なによ! あるなら早く持って来なさいよ!」


 若干涙目で叫ぶユリカ。


「えーと、お客様のサイズではそれに合うものが……」

「──!? も、もういいもん!!! こんな店潰れちゃえ!!!」

「お、お客様!?」


 顔を真赤にしてユリカは店を飛び出していった。


(む、酷い……)


 目の前で起きた目を覆いたくなるような光景。

 とりあえずエルはそれを見なかった事にして買い物を済ませることにした。

 元々あまり所持金を持っていないエルは、自分の趣味に合った安物の服を何着か選んで買う。


 服屋での買い物を済ませ、武器屋でも見て回ろうかと思いながら中心街をうろつくエルであったが、そんなエルの目の前を突然女の子が物凄い勢いで走り去っていった。


「うわっ、危なっ」


 思わず仰け反るエル。

 一体何事かと女の子の方を向いてみると今度は二人の鎧を来た大柄な男達がエルの前を通り過ぎ、女の子を追うように走り去って行く。


「追われてるのか……?」


 ここでエルは考える。

 このシュチュエーションはかなりチャンスなのではないかと。


「必死に逃げる女の子……追いかける野蛮な男達……そこにさっそうと現れる謎の男……いけるっ!」


 閃いたエルはすぐに動き出した。

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