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4話 王女様の護衛

 エヴァ・アナスタシア王女の護衛任務当日の朝。

 デルタガルドの門の前には一際大きな馬車が止まっていた。

 そしてその側で会話をする身なりの良い男が二人。


「それにしてもまさかあんな弱小ギルドに護衛を任せることになるとはな」

「仕方ないでしょう。城の騎士を連れ出すにも名のある騎士達は皆戦場。それにあの第一王女様も許してはくれまい……」


 そんな事を話しているのはデルタガルドの大臣であるマルコスとヒブリ。

 彼等は護衛を依頼した正義の執行者イルミネイトが来るのを待っていた。


「しかし遅いな。もう約束の時間はとっくに過ぎているが……」


「おーい! 待たせたなー!」


 大声で手を振りながらこちらに近づいてくる男を見てため息をつく二人。


「遅かったではないか!」

「いやぁ悪い悪い! こいつが中々起きなくてよ」


 そう言ってグレイブはエルの背中ですやすやと寝息を立てるユリカを指差す。


「というか何で俺がこの子の事運ばないと行けないんですか?」

「そりゃあ俺は面倒だし、フローズはヨダレが服に付くの嫌がってんだから仕方ねぇだろ。これも新入りの宿命だよ」


(ヨダレ……まじかよ……)


「ところで俺達が護衛するお姫様ってのはどこいんだ?」

「エヴァ様は馬車の中だ! 貴様ら如きがエヴァ様を間近で拝見するなど図々しいにもほどがあるぞ! それよりも早く馬に乗らんか!」

「へーいへーい」


 エル達は用意された馬に乗り、出発の準備を整える。


「だからなんで俺の馬にこの子乗せないと行けないんでしょうか?」


 エルは自分の馬にもたれ掛かるように眠るユリカを見ながら文句を言う。


「だってユリカの身長じゃ鞍の足掛けに足が届かねぇだろ? まさかお前ユリカにビビってんのか?」


 楽しそうに口元を歪ますグレイブ。

 確かにエルはユリカにビビっていた。

 しかしそれは出会った初日に勢い良く吹き飛ばされた事を考えれば当然といえば当然である。


(爆弾抱えてる気分だ……)


「それじゃあしゅっぱーつ!」


 そう言って意気揚々と先頭を走りだすグレイブに文句を言いながらついていく大臣達。

 今回の仕事で護衛するのはデルタガルド第二王女のエヴァ・アナスタシアと大臣が二人。それに馬車を引く使用人二人とその馬車の中に王女と一緒にいる侍女の合計6人。

 彼等をバルハランまで送り届け、無事このデルタガルドまで連れて帰るところまでが仕事である。


 馬車の前方をグレイブ、左右にはフローズとミーシャ、そして後方はエルとユリカがそれぞれ守ることとなる。

 大臣達もグレイブの隣で周囲に警戒しつつ、一同は果てしなく続く草原を進んでいく。



 バルハランに向けて馬を走らせ始めてから暫くした頃、エルの馬に乗っていたユリカが目を覚ました。


「あれぇ、ここどこ?」

「昨日グレイブさんが言ってたバルハランに向かう途中だよ。それにしてもよくこんな揺れる馬の上で呑気に寝てられたもんだな。とりあえずこれで歯磨いで顔洗っとけ」


 エルはギルドハウスから持ってきた歯ブラシと水をユリカに手渡す。

 ユリカはシャカシャカと音を立てて歯を磨きながらエルに話しかけた。


「ほーいえは、はんでヘルはへいひょうなひにはほうふはえるほ?」

「悪い。何言ってるか全く分からないから話すのは歯磨き終わってからにしてくれ」


 ユリカは歯を磨き終えて口を濯ぐともう一度エルに尋ねた。


「えっと、なんでエルは詠唱無しでも魔法使えるの? グレイブが魔法陣も詠唱もなく召喚魔法使ってたって言ってたけど」

「あー、それはちょっとだけ体を弄くってるからな」

「体を?」

「そう。例えば魔法を使うために必要な魔力ってあんだろ? 俺の場合その魔力が普通よりかなり多いから自分自身で制御できないんだよ。だから体の中に魔力制御区ってのを作っていくつかに分けてんだ。そんでそこから必要な時に必要な分だけ魔力を放出してるってわけ」

「ふーん。魔法は詳しくないんだけどそれで簡単に魔法がポンポン使えちゃうの?」

「まぁそれだけじゃちょっと難しいけどな。詠唱や陣無しで魔法を使うには色々方法があんだけど俺の場合は自分の神経に魔力回路を組み込んでて、そこに色んな魔法の術式を記憶させてんだ。だから術式の組んである魔力回路に魔力を送ればその記憶させてる術式が発動して魔法が使えるってわけ。他にも──」


「意味分かんないからもういいや」


 得意気に話すエルの話をつまらなそうな顔して中断させるユリカ。


(なんだよ、今からが面白いところだったのに……)


 自分の研究成果を全て話せずに肩を落とすエルだったが、ここで一つの疑問が沸いた。


「待てよ……ユリカは魔法使えないのか?」

「もちろん使えないわよ」

「使えないって、それじゃ戦闘はその怪力だけで戦うってことか?」

「まぁ流石に武器は使うけどね。ほら」


 そう言ってユリカは青い水晶玉のような小さなものをポケットから取り出してエルに見せる。


「魔法石か……これは召喚魔法か?」

「そういうこと。この中にあたしの相棒の雷鳴瞬光モウメントレイが入ってるの!」


 ドヤ顔でそれを自慢するユリカ。


「へぇ、カッコいい名前じゃん」

「でしょ? そのうちあたしの必殺技見せてあげるわ」


 必殺技、それを聞いてエルはあることを思い出した。

 正義の執行者イルミネイトの加入条件であるカッコいい必殺技を持つ者という項目。

 それが加入条件である以上、ギルドの全員がカッコいい必殺技を持っているということになるのだ。


(うーむ、グレイブさんとユリカはなんとなく大規模破壊系の技なのは想像つくがミーシャさんとフローズさんは全く想像がつかないな。今度聞いてみるか)

 


 ◇



 それから馬を走らせること数時間。

 途中で昼食を取りつつ一行が辿り着いたのは巨大な森の入口であった。


「ここがあの死者の森サイレントフォレストか」


 死者の森サイレントフォレスト

 そこに入った人間は二度と出られないと言われる魔の森。

 その巨大な森には多くの強力な魔物が住むとされており、決して人間が足を踏み入れては行けない第一級危険エリアの一つである。


「おい貴様! ここはバルハランに行く道中には関係ないはずだぞ!」


 大臣の一人マルコスは、そんな危険な場所へ自分達を引き連れてきたグレイブに大声を上げて怒鳴る。


「そんな怒鳴るなって、地図見る限りじゃここ通り抜けた方が近道なんだよ」

「ふざけるな! 多少時間がかかろうとエヴァ様の安全が第一に決まっておろう! 早く引き返すぞ!」

「あー、そりゃよした方が懸命だと思うぜ」


 煙草の煙を吐きながらニヤリとグレイブが笑う。


「あんたら気づいてないのか? 昼過ぎくらいから俺達の後つけてきてる魔物の群れによ」

「なに……?」

「結構な数だぜ。まるで俺達をこの森に行かせたがってるみたいな動きしてやがる」


 自分達の後を付いてくる魔物の群れ、その存在に正義の執行者イルミネイトのメンバーは随分前から全員気付いていた。


「まぁこんな感じになるような気はしてたんだけどな。ミーシャが取ってくる仕事がまともな依頼なわけがねぇもんな」

「失礼ですね。ならたまには自分で取ってきたらどうですか」

「俺はそういうの苦手なの」


「おい! その魔物の群れというのはどれほどいるんだ!?」

「んー、まぁざっと500ってところか。雑魚ばっかみてぇだけどな」

「ご、ごひゃくだと!? どうするんだ!!! このままでは──」

「心配すんなって。こういう時のために俺達に依頼したんだろ? エル、ユリカ、任せても大丈夫かー?」


 軽い口調でグレイブはエルとユリカに聞く。


「任せて下さい。演出含めてカッコよく片付けますよ」

「面倒くさいけどおっけー。その代わりあたしの取り分増やしてよね!」


「そんじゃ後ろは二人に任せて俺達は先へと進みますか」

「先ってこの森を進むのか!?」

「当たり前だろが。んな心配しなくてもお前らは俺達がしっかり守ってやるから安心してな」


 そう言って森の中へと進んで行くグレイブ。

 ミーシャとフローズも後に続く。


「くそっ! もしもの事があったら責任は取ってもらうからな!!!」


 グレイブ達が森の中へと入って行くと、エルとユリカは馬から降りて後ろを振り返った。


「さてと。そんじゃあやるか」


 エルの声に合わせて二人の前の地面がボコボコと動き始める。

 そしてそれは次第に動きを早め、そこから次々と緑色の生き物が這い出してきた。

 出てきた生き物はゴブリン。下級の魔物である彼等はヨダレを流しながら二人に目を向ける。


「グレイブさんの言ってた通り500体くらいだな」

「ハァ、あたしゴブリンて見た目キモイから苦手なのよね」

「ならさっさと片付けちまおうぜ。俺は右半分やるからユリカは左半分頼む」

「おっけー。この機会にあたしの必殺技もしっかり見といてよね」


 敵はゴブリンの大群。

 エルにとってはかつて無いほどに多くの敵を相手にすることとなる。

 しかしエルは不安や恐怖など一切感じていなかった。


(多勢に無勢! こういう場面こそヒーローに相応しい!)


 エルとユリカが自身の武器を召喚するのを皮切りに戦いは始まった。

 細かい設定


・魔法学校グロリア学園

 元々はレシニア帝国が魔法を扱う者を戦争の兵士として使うために設立した全寮制の学校である。

 しかし、魔法を扱う人間よりも、強力な魔法の術式を組み込んだ兵器の方が優秀であったため、今では魔法学校を卒業した者の多くが兵器開発や商品開発系などの研究者の道へ進んでいる。


 入学者のほとんどが魔法に対する優秀な適性を持っているが、1年生から4年生までの約200人の生徒の中で魔物と戦闘を行える者は片手で数えられるほどであり、魔法の用途が本来戦闘向けでないことが伺える。

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