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3話 怪しい依頼

「というわけでこれが俺達正義の執行者イルミネイトの全メンバーだ! お前にはこれからビシビシ働いて貰うからな!」


(一体何がどういうわけなんだ……今のところ変人にしか遭遇してないぞ。いや、メイド姿ということを除けばミーシャさんだけはまともそうではあるけど)


 ほんの数分の自己紹介でこのギルドのメンバーは変人ばかりだと判断したエルであったが、頭に大きなコブを作る威厳の欠片もないギルドマスターことグレイブが真剣な表情で話すのでとりあえず頷いておく。


「それで今日からお前もこのギルドのメンバーとなるわけだが、今のうち何か聞いておくことはあるか?」

「そうですね……具体的にこのギルドって普段何してるんですか? 確か活動内容には魔物の退治とかペットの捜索まで幅広くやってるみたいなこと書いてありましたけど」

「良い質問だ。依頼人からの頼みは何でも断らず受けるぞ。困ってる人を老若男女問わず、迅速にスマートにカッコよく助けるのがヒーローだからな!」

「なるほど……」


(かなり心配になってたけどギルドの活動はわりとまともっぽいな。確かに困ってる人を助けるのがヒーローの本分だ)


「ちなみにここ最近はどんな活動を?」

「最近か……ミーシャ! 俺達の最近の活躍をエルに教えてやれ!」

「ここ一ヶ月何もありません」

「……あー、そういえばそうだったな。なら今後の依頼予定を教えてやれ!」

「白紙です」


 …………


「つまりそういうことだ」


(やっぱり心配だ)


「というか先月の給料私まだ貰ってないんですけど。払う資金がここにないのは分かっているので自腹で払ってください」

「あー! それあたしも貰ってなーい!」


 文句を言うミーシャとユリカ。


「あーもううるせぇな! そんなに給料欲しいなら依頼人連れて来いや! 俺だって今月金稼げなかったらアンナにぶち殺されんだよ! それにヒーローなら見返り求めずに働けってんだよ!!!」


「見返り求めないでどうやってあんた生活するつもりなんだい?」


 逆ギレするグレイブの言葉に被せるようにギルドハウスの入り口から突如現れたエプロン姿の綺麗な女性。


「ア、アンナ……どうしてここに……?」


 アンナと呼ばれる女性は部屋をゆっくりと見渡すと、ギロリとグレイブを睨みつけた。


「あんたまた酒飲んでたわね」

「い、いや違うんだ! 俺じゃなくてこいつらが飲んでたんだ! なぁそうだろミーシャ?」

「がっつり飲んでました」


 ミーシャの言葉を聞き益々鋭くなるアンナの目つき。


「おいミーシャ! 裏切った──」


 グレイブの言葉はアンナの放った拳がその顔にめり込むと同時に途切れた。

 そしてアンナは倒れたグレイブを引きずりながら出口へと向かう。


「いつも悪いわね、うちの主人が。このアホにはあたしからしっかり言いつけておくから」


 そう言い残し去っていくグレイブとアンナ。

 残されたエルはその光景をただただ眺めていた。


「今のは一体なんですか……?」

「あれはグレイブの奥さんのアンナさんです。まぁいつものことなので気にしないでください」


(あの人結婚してたのか……)


「そういえばあなたはいつからここに来れそうですか? もうすぐ魔法学校も卒業だと思いますけど」

「そうですね……来週の卒業式が終わればいつからでも」

「では卒業式が終わり次第ここに来てください。それまでになんとか依頼の一つでも取ってきますので」

「分かり……ました」


 こうしてエルはこの日から正義の執行者イルミネイトの正式なメンバーとなった。

 正直なところ心配な要素がありすぎで自分でもどうしたらいいのか全く検討もつかないエルだったが、ヒーローを目指すギルドなのだから変わり者が多いのは仕方ないのかもしれない。

 そんな風にエルは自分を無理やり納得させることにした。


「帰ったら体の調整し直すか……」



 ◇



 魔法学校グロリア学園の卒業式。

 そこでエルは首席として答辞を任され、とりあえず無難な言葉を選んで考えた文章を読んでその場を切り抜けた。

 そして無事に式も終わり、エルとネイトは二人で学生生活の思い出話に花を咲かせていた。


「なぁエル、お前本当にその正義の執行者イルミネイトとかいうギルドに入るつもりなのか?」


 話の最中にネイトは心配そうにエルにそんな事を尋ねてきた。


「おうよ。お前も知ってるだろ? 俺がヒーローに憧れてるってのはさ」

「そりゃ知ってるけどお前の話聞く限りかなり不安定なギルドじゃねぇかそこ? 仕事もろくにない上に変人だらけだしさ。お前ならもっと良いとこいっぱいあるだろ?」

「そりゃ確かに変なところもたくさんあるけどヒーローを目指してるってのは本当みたいだしさ。それにヒーローを目指してるギルドなんて他にないだろ、だからとりあえずは頑張ってみるさ」

「まぁお前が良いならそれでいいんだけどさ。んじゃ俺も困ったことあったらお前んとこに依頼でも行こうかね」

「いつでも来てくれよ。なんたってヒーローは困ってる人を見捨てたりはしないからな!」


(そう。俺は別に名誉が欲しいとかお金が欲しいとか安定が欲しい訳じゃない。困っている人を助けるヒーロになりたいんだ)


「んじゃうちの店にもたまには遊びに来てくれよ! 俺が店主になって早々に店潰すわけにはいかないかんな!」


 エルはネイルと別れると、その足でギルドハウスへと向かうことにした。

 学校の寮を出てギルドハウスの一室を借りる予定であるエルの荷物はすでにギルドハウスに送ってあるので荷物は特にない。


 エルは今日から始まる新生活に少しウキウキしながら人気のない道を進んでいった。



 ◇



「喜べエル! 久々にでっけぇ仕事が入ったぜ!」


 ギルドハウスに着いたエルを待っていたのは、嬉しそうにそう叫ぶグレイブだった。

 

「そ、それは良かったです」

「いやー大変だったぜ。でもな、お前が今日から正式にこのギルドで働けるってんでギルドマスターとして何か仕事を持ってこないと思ってだな──」

「取ってきたの私なんですけど」


 不機嫌そうに呟くミーシャ。


「いいんだよそんな細かいことは! つーかユリカとフローズはどこ行った? 今朝から見かけてねぇが」

「ユリカはまだ寝てます。フローズはどうせ成功もしないナンパにでも行ったんでしょう」

「あいつら……せっかくの大仕事だってのに仕事に対する誠意が足りねぇ!」

「ツッコミ待ちですか?」

「とりあえずユリカ起こしてこい! フローズは……まぁどうせそのうち帰ってくるだろ」


 グレイブに言われユリカを起こしに行くミーシャ。


「それで仕事ってどんな内容なんですか? 初めての仕事で全く勝手が分からないんですけど」

「あー安心しろ! 今回の仕事はお姫様の護衛っつー単純なもんだからよ」

「護衛ですか……結構重要そうな依頼なんですね」

「だから言ったろ? でっけぇ仕事だってよ! 金もたんまり頂けるぜぇ、ヒッヒッヒ」


(この人本当にヒーローを目指しているのか? ネイルにはああ言ったけど結構不安だぞ……)


 そんなエルの心配をよそに悪そうに笑うグレイブ。

 その時、二階からユリカを連れてミーシャが戻ってきた。


「おはよー。もう朝なのー?」


 パジャマ姿で目を擦りながらミーシャの手に引かれて階段を降りてくるユリカ。

 その姿はどう見ても母親についていく小さな女の子である。


「おせーぞユリカ! もう朝どころか昼過ぎだボケ!」

「んんー。ご飯はー」

「ミーシャが作った飯がそこあんだろ、それ食いながら話聞いとけ」

「んー」


 適当に返事をして椅子に座るユリカ。

 それを確認してグレイブは仕事の内容について話し始めた。


「そんじゃ人数も揃ったとこで今回の仕事について説明すんぞ。今回の仕事はバルハランに向かうお姫様と大臣達の護衛だ。この仕事はデルタガルドの上層部からの依頼だから結構な額の金も出る!」

「えっ! ほんと!」


 金、というワードに先程まで眠そうにしていたユリカが一瞬で目を輝かせる。


「あぁほんとだ。出発は明日の朝。バルハランまでなら夜には着くだろう。そんで一日バルハランで俺達は待機して、お姫様達の用が終わったらそのまま帰り道を護衛して終了! そんだけだ」

「結構簡単そうじゃない! それでいくら貰えるの?」

「300万ギルだ。道中の働きによっちゃもっと貰えるかも知れねぇぞ」

「300万!? うそ!」

「どうだ? こんな良い仕事中々ねぇぜ」


 300万ギルという大金にグレイブとユリカはテンションを上げていく。

 そんな二人をミーシャは呆れた顔で見ていた。


「まぁそんな美味しい話でもないんですけどね。というかそんな大事な仕事がこんなしょぼいギルドに回ってくるわけないじゃないですか」


 ミーシャの言葉に眉をひそめるグレイブとユリカ。


「最近この辺に強力な魔物の群れが徘徊しているって噂は聞いたことありますよね?」

「あ、それ俺知ってます。確か竜クラスの魔物のボスが手下を引き連れて商人や旅人を襲いまくってるって話ですよね」


 エルは今デルタガルド内で噂になっている魔物の群れの話を思い出して口に出した。


「そうです。名のある騎士達は皆他国との戦争に出向いてますし、大規模ギルドはその噂を恐れてこの仕事を断っています。それで私達がこの仕事を請け負う事が出来たというわけですが、まぁ多分バルハランまでの道中でその魔物の群れとの遭遇は避けられないでしょうね。目撃情報も道中近辺からのものがほとんどですし」


 上手い話には裏がある。

 確かに考えてもみればデルタガルドの要人の護衛を名も知れていない小さなギルドに依頼するというのがおかしな話なのだ。


「美しい花には棘あるってことだね」


 突然話に割り込んできたのは、いつの間にか帰ってきていたフローズだった。

 フローズは何故か口にバラを咥えながら、エル達から見て斜め四十五度の角度を作って話を始めた。


「今日僕が町で出会った子猫ちゃん達もそうだったよ。最初は可愛い顔して僕に近づいてきたのに食事をしたら何事もなくバイバイさ。でもまぁそんなつれないところがまたいいんだけどね。でもね、僕は思うんだ。その子達だって──」

「要はまたたかられたんですね。分かりましたから話に入ってこないでください。フローズが来ると話がややこしくなります」


 ピシャリと言い放つミーシャに少しだけ肩を落とすフローズ。


(皆フローズさんには厳しいな。ちょっと可哀想になってきたぞ)


「とにかく魔物の群れがどんだけいようが関係ねぇだろ。俺達はカッコいい正義の味方であり強いヒーロー目指してんだからな! それに今回はこいつもいる。そうだろエル?」

「はい! 任せて下さい! どんな敵が襲ってこようと俺の魔法でカッコよく退治してお姫様を守りぬいてみせますよ!」


 急に自分に話を振られて少し驚いたエルだったが、自身満々にそう言って胸を叩いた。


「てーわけだ。それにこの仕事取ってきたってことはお前だって俺達なら出来るって確信があんだろ?」

「まぁそうですけど……」

「だったら何も問題ねぇ! エルの入った新正義の執行者イルミネイトの初仕事だ! 上手く成功させて俺達の名をこの国に知らしめてやろうぜ!」


 こうしてエルは正義の執行者イルミネイトのメンバーになって初めての仕事に赴くこととなった。

 内容はデルタガルド第二王女、エヴァ・アナスタシアの護衛任務。

 エルのヒーローへの第一歩が今始まろうとしていた。

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