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恋愛相談①

ヨハネスとアップルは、何故か洒落た喫茶店に来ていた。

どうして彼らが喫茶店に入店したのか疑問に思う読者のために解説しておくと、実はヨハネスが「悩みを相談するには喫茶店で話した方が一番すっきりする」と提案したため、そこで話す事にしたのである。彼らはふたり用のテーブル席に向かい合って腰かける。

早速話が始まるかと思いきや、ヨハネスの腹がぐう~っと音を立てた。

その音を聞き、恥ずかしそうに彼は腹を抑えて、


「話の前に、僕お腹空いちゃったから、何か注文してもいいかな?」

「うん、いいよ」

「ありがとう」


彼は可愛らしく微笑んだ後、数分間メニューと睨めっこをしていたが、注文する料理を決めたのか席に備え付けてあるプッシュホンを鳴らす。

すぐさま男性のウェイターが飛んできて、彼に何を注文するのかと訊ねる。アップルは内心、彼がどんな食べ物を注文するのかと興味津々であったが、ヨハネスの口から飛び出したのは驚きべき発言であった。


「このページのメニュー、全部ください」

「ぜ、全部ですか!?」


店員は彼の答えに目を丸くし、思わず会計表を落としそうになる。

けれど何とか平静を保ち冷や汗を流しながらも、諭すような口調で告げた。


「これだけ注文すると相当な額がかかりますが、よろしいのですか」

「お金はたくさん持っていますので、心配しないでください」


彼はニコッと笑ってコートのポケットに収納してある財布を取り出し、中身を見せた。中には万札が二十枚以上入っており、子どもがなぜこれほどの大金を持ち歩いているのかと不思議がりながらも、店が儲かるのであればいいと考えを改め、彼の注文を承諾した。

彼が去ると、そのやりとりを静観していたアップルが小さな声で言う。


「ヨハネスくん、そんなに頼んで大丈夫なの? 食べられる?」


彼の問いかけに、ヨハネスはパチッとウィンクをして答えた。


「それは、メニューが到着してからのお楽しみだよ」


結局、ヨハネスはその発言通りに注文した品をたったひとりで完食してしまった。それもただ食べきったのではなく、実に美味しそうに笑顔で平らげたのである。その食べっぷりにはアップルだけでなく、他の客や従業員達も皆仰天している。

しかし彼は周りの様子などどこ吹く風でマイペースにナプキンで口の周りを拭うと手を合わせて、「ご馳走様」を口にする。彼がこの喫茶店で食べたのは、サンドイッチ三人前、フライドポテト六人前、チキンのから揚げを五皿にワッフルを八皿、ロールパンを三十個、ぜんざいとカキ氷とパフェを合わせて十杯、コーヒーのお替りを十五回に加え最後にドーナツを四十五個であった。

これほどたくさんの料理(しかも高カロリー)を食べたのだからさぞかし腹はパンパンに膨らんでいるのだろうと彼の腹を見てみると、全く膨らんでいる気配はないのである。

もしかすると食べるふりをして下に落としているのではないかとも考え、彼の足元を覗いてみたが、食べ物はロールパンの一かけらでさえこぼれてはいない。

つまりそれは、彼が本当に料理を胃袋の中に収納した事を意味する。

あの華奢な体のどこにそんなに大量の食糧が入るのか彼は考えてみたが、どうなっているのかは本人に訊かない限りわからない。けれどそれを今聞くのはよくないと思い直し、今は本題である剛力に失恋した話を聞いて貰おうと考えた。

ヨハネスは無言で穏やかな笑みを浮かべて、胸の前で腕を組んで話し出すのを待っている。彼の全身から漂う安心感のようなオーラに、彼は重い心が軽くなったような気がした。


「ヨハネス、あのね、実はさっき――」


アップルは涙をぽろぽろ流しながらも、事の一部始終を話した。

彼は黙ってそれを聞いていたが、彼が話終わったのを確認すると、開口一番こう言った。


「まだ、可能性はあるよ。だって、本人から面と向かって振られていないもの」

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