恋の結末
アップルは陸橋の上にした。
手すりを掴まえ、下を覗いてみる。
眼下は高速道路になっており、転落してしまえば死は免れない。
彼はふっと視線を空へ向ける。
日が傾き、空はオレンジ色になっていた。
「剛力、きみは弥生を愛している。もし僕がいることで板挟みになり、悲しんでしまったら、僕は耐えられない」
人通りが全くないため、彼の独白に気づくものは誰もいなかった。
「弥生と幸せになってね……僕はずっと、天国で君を見守っているから」
青い瞳から涙を流し、手すりによじ登る。
そして祈るように手を組み、そこから飛び降りようとした。
そのとき。
背後から何者かが着ているコートの引っ張り、彼の自己犠牲を防いだ。
誰だろうと思った彼が振り返ってみると、そこには剛力の姿があった。
走ってきたからか、息を切らし、額には汗を浮かべている。
「間一髪だったようだな」
「剛力……」
名前を呼ぶと彼は優しくアップルの両肩に手を置いた。
狼の如き黒い瞳が、金髪の少年を捉えて離さない。
「俺のために死のうなんて、バカなことを考えたもんだな。そんなことをしても、俺は喜ぶことはねぇ」
「剛力は弥生のことが好きなんだよね。僕はただ、君達の仲を裂きたくなかっただけだよ」
「かもしれねぇな……でも、俺はお前に生きていて欲しいと思っている。それに――俺にとってはお前もハニーお嬢さんも、どっちも負けねぇぐらい大切な存在なんだ」
脆いアップルの体を愛おしく抱きしめる剛力。
その抱擁が、彼にとってどれほど嬉しかったかは想像に難くない。
通常、二股をかけるのは女子からはいい印象を抱かれない。
しかしながら、弥生は心の底から剛力を信頼し愛していたため、アップルと付き合うことも承諾した。
こうしてアップルは、ずっと思いを秘めていた男の愛を手に入れることができたのだ。
終わり。