凶悪顔故の哀しみ
その時、アップルがふたりの間に割り込んできた。
不動の拳が彼女に炸裂する直前に、彼はにこっと優しい微笑みを浮かべる。
すると、たったそれだけで不動の動きがピタリと止まったのだ。
彼の拳はアップルの目と鼻の先で制止している。
「貴様、なぜ俺とハニーに間に入る。俺の拳を食らってもいいと言うのか」
「……どうして、こんな事をするの?」
「何ッ!?」
「僕はね、弥生を殴っても変わらないと思う」
「どうしてそう思うのだ」
「きみの心は今、深い哀しみで満ち溢れている。人を愛したくても愛せない、感情の起伏が薄いために誤解されやすく、相手に親切にしても外見のせいで怖がられる。とても寂しい……きみの心がそう言っている」
アップルは自分の胸の前で腕を組み、半泣きの瞳をウルウルとさせた顔で彼を見つめる。暫く三人とも無言であったが、ここで不動が拳を降ろし、どこか遠い目をして口を開いた。
「俺は幼い頃から、生まれ持った凶悪顔のせいでずっとひとりだった。顔が怖いという理由で女子はおろか男子さえ近づいてくれなかった――俺の孤独は年月を経つにつれて大きくなり、愛してくれるものがいないその悲しみから強くなる事を選んだ。だが、本当はずっと誰かに愛して貰いたい故の強がりだったのかもしれぬな……」
彼の顔からは眉間の皺がなくなり、険しさから一変し、まるで別人のように穏やかな顔になるとハラハラと涙を流すと、ニヒルに微笑み言った。
「これからは、たとえ怖がられても皆に優しく努めよう。そしてハニーにアップル、そんな俺の心に光を取り戻してくれて、ありがとう」
彼はふたりに感謝し、自分の家へと帰って行く。
その後ろ姿は、今までとは違い、怒りや殺気ではなく確かな優しさと自信を持ったものだった。