話の通じない男
「ハッ」
「フンッ」
不動とヨハネスの裏拳が激突する。
ふたりの拳は交差し合い、互いの頬に命中する。
だがリーチが長い分、不動のパンチの威力が大きくヨハネスはよろめく。
けれど彼は体勢を崩しながらも、空いている手で不動の顔面にパンチを当てようとする。しかし、敵の鬼神はそれをソフトに受けとめ彼の右腕を掴むと、まるでハンマー投げのように自らの体を軸にして回転を始めた。腕を掴まれているヨハネスは回転による遠心力により、次第に地面から足が離れていく。彼は猛烈な勢いで振り回されながらも、不動が何をしようとしているのかを察した。
「お前は遠くへ飛んでいけーっ!」
叫び声と共に彼がパッと手を離すと、体重の軽いヨハネスはまるで円盤のように空中を浮遊し、生えてある大木に激突すると意識を失い動かなくなってしまった。
倒れたヨハネスを一瞥し、彼はゆっくりとした足取りでハニーとアップルの座っているベンチへ足を進める。本来ならばここで逃げ出してもおかしくはない。だが、ふたりは逃げようとしなかった。それは、彼と対決を意味しているのかそれとも恐怖で動けなくなっているだけなのかは、彼には分からない。ふたりの間を挟んで寝かされているのは、彼が先ほど倒したばかりの剛力徹。彼は目覚める気配はない。
不動はアップルではなく、私怨の募るハニーを目を細めて睨む。
「弥生=ハニー=アーナツメルツ。立って俺と闘え」
「……不動くん、ごめんなさいっ」
彼女は指示通りに立ちあがった刹那、いきなりぺこりと頭を下げた。
「私のせいでクラスメートに誤解されてしまって、本当にごめんなさい!」
米つきバッタのように平謝りする美少女に不動が取った行動。
それは――
「詫びの言葉など不用! 俺に恥をかかせた償いは命を以って償うがいいいいっ」
鬼のような大男は唸りを上げる鉄槌を、容赦なくか弱い少女に振り下ろす。
「きゃああああああああああああああああああああああああああっ」
ロリ声のハニーの恐怖の叫びが公園内に響いた。