油断大敵
公園に駆け付けたアップルとヨハネスが目の当たりにした光景、それはボロボロになり倒れ伏している剛力の姿だった。愛する人を袋叩きにされたアップルは、哀しみのあまり息を飲む。ショックで動けない彼とは裏腹にヨハネスはすぐさま彼の元へと駆け寄り、反転させて胸元に耳を当て、続いて首筋に人差し指と中指を当てて脈を確かめる。
「剛力は、大丈夫?」
「心臓の鼓動と脈は正常だよ。ただ、骨がどうなっているかはわからないからむやみに動かさない方がいいね」
負傷してはいるものの、剛力が生きていると知ったアップルはほっとした。
だが、その安堵も次の瞬間には、戦慄に変わった。普段は物事を達観し動じない彼がなぜ恐怖を感じたのか。それは、不動仁王が鋭い目つきでふたりの前に現れたからである。けれどヨハネスは怯えるどころか笑みを浮かべて言った。
「君が不動仁王だね」
「そうだ。だが、それがどうした? そこに倒れている男の敵打ちにでも来たのか」
その問いかけに、ヨハネスは高い笑い声を上げる。
バカにされたと受け取った鬼神は、吠え声を出してヨハネスに拳を見舞うが、驚くべき事に彼はそれを受け止め、倍はあろうかと思われる不動の巨体を柔道の一本背負いで放り投げたのである。
敵は慌てて間合いを取るが、我が身に起きた出来事に呆然としていたが、剛力と対峙した時とは違い、やや落ち着いた声で訪ねる。
「お前は何者だ?」
「君の胸に聞いてみればわかるよ」