触らぬ神に祟りなし
不動仁王。
それは、ハニーが最も恐れている男の名であった。
彼は彼女と同じ南斗十字星学園に所属している高等部二年である。
百八十七センチに九十キロという恵まれた体格を生かし、柔道部、空手部、レスリング部を渡り歩き、それぞれの主将を倒している猛者である。
彼はストイックな性格で、般若のような凶悪顔であるためその強さも相まってクラスメートからも避けられていた。そんな彼の噂を耳にし、可哀想という同情から彼の力になろうとしたものの、彼と絡む事で誤解が生じ、カップル扱いされてしまったのである。
ハニーはその認識の違いを解こうとしたものの、それがますます恋人疑惑に拍車をかけるようになってしまった。それ以来、不動は彼女に対し強い怒りを抱き、事あるごとに鉄拳をお見舞いしてやろうと、彼女が行くところどこへでも追いかける復讐鬼と化していた。その話を聞いた剛力は、自らの頭を押さえため息を吐く。
「お嬢さん、それなら俺に相談すれば、ここまで問題が拗れる事はなかったのではないですか」
「うん、ごめんね」
金髪碧眼の美少女は、俯きがちに呟く。
と、その時店の扉が開いて、凄まじい殺気を放つ人物が入ってきた。
茶色の長髪に猛禽類の如くするどい瞳、赤のカンフー服を着て威圧感を放出するその男こそ、ハニーの因縁の相手である不動仁王だった。
「やっと探したぞ、ハニー=アーナツメルツ!!」
「ふ、不動くん……」
彼女は睨みつける彼を見て、顔が青くなる。
すると剛力は振り向き、不動に向かって言った。
「ハニーお嬢さんから話は聞かせて貰ったぜ。不動、どうやらお嬢さんを苛めたいそうだな。だが、そう簡単にお嬢さんを渡す訳にはいかねぇな。
俺が相手になってやる」
剛力がボクシングのファイティングポーズを構えると、不動はニヤリと笑う。
「どうやら、少しはできるようだな。その構えを見ればわかる。いいだろう、お前の相手をしてやるとしよう」
ふたりの間に火花が散り、誰も介入することができない激しい闘いの幕は――
「君達、店が壊れたら困るから、喧嘩は外でやろうね」
アップルの父により外で切って落とされた。