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06


「それじゃ行ってきまーす!」


「気を付けるんだよタテイス!」


「はいよかーちゃん」


 そんなことを言うかーちゃんは珍しいなと、少し考えてしまった。細かいことは気にしないタテイスも赤いコアの四足機械を見てから少し考えすぎているのかもしれない。


「でも探検してくるって言ったらいつも言われるよなー」


 ふと目の前の坂の上で停止しているオトマタに目がとまる。あれはタテイスの家のオトマタで、それなりに物を乗せて坂を進むことができる。車輪と足を組み合わせているので行ってみれば四本足なのかもしれないけれど、勝手に動いたりはしないし、使うのにも人の補助がいる。

 タテイスはそのまま振り返った。屋根の上で上の階層とつながる装置の歯車を回しているオトマタがいつも通り無表情で手を動かしている。…といっても、あれがオトマタかどうか今ではよく分からない。箱に腕だけ生えた機械だったものに、とーちゃんが面白がって頭部と顔を作ったのだ。それこそ丸い部品を目や鼻に見立てて貼っただけの顔は、なんとも言えない無表情になっている。

 あの四足機械はオトマタと呼んでいいのか、そもそも人以外の生き物を見たことがない自分たちが機械の…


「おわっ」


「…っ」


 気配を察知し振り返って変な声を出して飛びのいてしまった。


「に、ニラセ…」


「…ご、ごめんね驚かすつもりはなかったよ…」


「…お、驚いてないぜ…」(ニラセは声を出さないで驚けるのかあ…)


「どうしたの、珍しく考え事…?」


「あ、うん…」


 さっきまでタテイスが睨んでいた二体(一体?)のオトマタはまだ屋根と坂の上にいるので、それらを指さしながら自分の考えていたことをニラセに説明した。



「でなー、オトマタってさー」


「…あれニラセなんで笑ってるの」


「…笑ってないよ、だって珍しいから…」


「笑ってるじゃん」


「…うん」


 説明しながら自分でもおかしくなってきた。


「これってコルが考えることだよな!」


「え? …うん」


 コルはよくこんなことを考えている。コルのトクイブンヤだ。


「でも俺たちも考えていいよなー」


「…うん!」


 でも自分たちもよく混ざってその話をする。みんなで考えれば何かが分かるはずといつもワクワクしている。


「カンナを迎えに行こうぜー」


 普段なら真っ先に集合するタテイスが中々来ないので、ニラセは心配して様子を見に来てくれたのだろう。次はカンナとも合流だ。


「タテイス様が心配をかけた!」


「…大丈夫」


「ニラセー…」


 この場合はどう答えるとかっこいいのかの説明をニラセが受けながら、二人は見慣れた入り組んだ金属の階層を歩き始めた。



* * * *



「あ、外で待ってるじゃん。おーいカンナー!」


 段差に座り遠くを見ていた(?)カンナは、二人に気付くとすぐに立ち上がって走ってきた。


「ごめんごめんちょっと遅れた」


「ごめん…」


「ニラセちゃんはタテイスの様子を見に行ったんでしょ、それならオッケーだよー…」


「…?」


 語尾が徐々に小さくなりカンナが妙な顔をしているのでタテイスも妙な顔をした。


「別に何もなかったよカンナちゃん…」


「そうー?」


「…??」


 二人が中身の分からないアイコンタクトとジェスチャーで瞬時にやり取りをしたので、


「このタテイス様が遅れた理由を一から話してあげよ…う?」


「もー、そうじゃない方が面白いかもしれないのに。聞くけどね、タテイス大将。」


「カンナちゃん…」


「ごめん私ちょっとしつこいねニラセちゃん…。とりあえずわっかで喋ろっか」


「おーう」


 "わっか"とはちょうど四人くらいで内側を向いて座れるような大きさの輪型の金属部品だ。何の部品だかわからないし、しばらくみんなで考えてみてもこれだけ大きい部品はこの辺りでは使われていなかった。とすれば『キノウク』で作られたものかもしれない。でもなんで捨てられているんだろう? ここに持ってきたんだろう? まだ謎を残しているイスというのはみんなで考え事をするのに良い場所になった。大小様々な金属部品は彼らが住む近くにこうして点在し、生活に溶け込んでいる。

 話はタテイスが遅れた理由に戻る。聞いてみると何のことはない、コルも含めてよく話すことだった。珍しくタテイスが考え事というのはカンナひとりで笑ってしまったが、カンナ自身もさっきまで遠くを見て考え事をしつつあったとフォローした。


「赤いコア、不思議だよね」


「うん、今まで見たことないもんな」


「緑のコアも赤くなるのかな? 赤いコアを緑にできるのかな…?」


「む、さすがニラセ先生、面白いことを考えるなー」


「私まじめに考えてるよー…」


 思えば三人で偶然コルとウノさんが下へ降りていくのを見かけて…


「やっぱりコルくんも呼んで何か探してみようよ」


 わっかに座り話していても尽きないモヤモヤに、カンナが立ち上がる。


「そういう結論になったもんな!」


「うん…!」


 見かけて、二人とインデちゃんで探検をするならタテイスたちは邪魔をしない方が良いのではないかと話し合った。でもそれは仲間外れみたいで良くないし、そうやって三人で悩んでいたことをコルに話したら事態は上手くまとまった。好きな時に好きなように調査隊を組むこと。でもみんなで何かする方が楽しいのでそれができるならそうすること。結論はそうだ。


「じゃあコルくんのところに行こ!」


 タイミングのあった三つのレッツゴー。



* * * *



 コルは工房の外に出て、金属片に片足をかけて何かを磨いている。ちゃんと仕事をしているのを見て少々関心する三人だが、タテイスは相変わらず、


「おーいコルー」


 と大声で遠くから呼んで手を止めさせた。



「よし、ちょっと待っててすぐに準備してくる!」


「仕事はいいの?」


「大丈夫、…、ぃー…」


「親方優しいし、何とかかんとかだから?」


「…って言ったのかな…?」


 くるりと振り向き工房の中へ消えるスピードはとても速い。それからすぐにいつもの軽い工具入れを付けて戻ってきた。


「お待たせ! どこに行こうか?」


「考える時間がなかったぜ」


「うーん、どうしよう…」


「…」


 あっという間に調査隊の準備をしたコルが生み出した時間が淡く過ぎようとした時、一人が三人の注目を集めた。


「…あのね、私一つ気になることがあって」


「なんでしょうニラセ先生」


「タテイスくん先生はやめて…」


「はい…」


「えっとね、」


 赤いコアを持った生き物のような機械は"どこを"目指して歩いていたと思うか。ニラセは皆に意見を聞いた。


「人じゃないみたいなんだよね、僕が管理棟に入った時もぜんぜん反応しないですれ違っちゃったし」


「私たちが囲んだ時もそうだよね、上の方に行こうとしてたから、私たちの家…?」


「途中で止めちゃったからなー」


 唸る一同。ところが、三人ともすぐに「もしかして」という顔をした。


「コアのあるところ?」


「かもしれないよな?」


「かもしれない!」


 管理棟にはコアがある(というかほぼすべてのコアはそこからこの辺りの全体に行き渡ったという認識だ)が、あんな感じで堅そうな建物で堅そうに守られている。ぽっかり空いた真ん中の大穴は管理棟以外には物が無く、巨大な何もない空間となっている。しかし上に登っていけば皆が生活している空間があり、コアがある。あの変な機械がそんなに賢いとも思えないし、コアが例えばあれの食べ物になるとは思えないけれど、おぼろげながらそんな考えが全員の頭に浮かんだ。


「私もコアかもしれないって考えていたの」


ニラセは話を続ける。


「それでね、コア置き場って、覚えてる…?」


「えぇーっと、あ…!」


「覚えてるぜ!」


「ふむー……」


「コルくんは覚えてない…?」


 ひとり考え事風のリアクションをするコルに、ニラセが心配そうに聞く。


「ううん、さすがニラセ、コアって何なのかをもう一回考えに行こうってことだね」


 コルには先に言おうとしていたことが伝わっていたようだ。ニラセはこっそり嬉しそうにした。


「ってどういうことだ…?」


「私も分かった!」


「カンナ教えてくれー」



 ずっと前に探検にいった場所の一つに、コア置き場と名前を付けたところがある。この辺りの家が立ち並ぶ場所を上下にではなく、横へ横へ進みキノウクより更に進んだ場所にそれはあった。そこでは本来であればどこかでエネルギーを生み出して生活を支えているはずのコアが様々な状態で放置されている。しかも大人が警備をしている様子が無く、四人にとって絶好の探検場所だったのだ。

 動いていない(光も消えている)コアは珍しく、しかも手に取れるとあれば。コアとは何かを再度考える良いチャンスになる。あの四足の動く機械が本当にコアを求めていたのか、緑のコアは赤くならないのか、そんなことが分かるかもしれない。


「さっそく出発だ!」


 タテイス大将の号令のもと、今度は四つのレッツゴー。



* * * *



 入り組んだ複雑な階層構造をしたコルたちの家が並ぶ区画を出て、四人はコア置き場を目指す。コア置き場はキノウクを超えてさらに先へ進んだところにあった。キノウク、カンリトウ。機能区と管理棟は同じ系統の建物(群)であり、中々馴染まないその名前には違和感が潜んでいるように思えた。

 ニラセは以前にウノさんと一緒にハーブを貰いに行ったことがある。機能区には管理棟にいるような重苦しい格好の人間が多くいる。そしてニラセの両親はもちろん多くの大人が“働く”ということをしに機能区へ向かう。生活に必要なものはそこでほぼ手に入る。水などの無くては困るものこそ自分たちの家の近くまで共有されているが、管理棟で扱っているコアを除いて多くのものが何やらがっちりとそこへ集められている気がしてしまう。


「私がハーブって呼んでいるこれ、ニラセちゃんはどう思う?」


 ウノさんはそう質問した。ニラセだけはタテイスが渋い顔をしてカンナが複雑な顔をしたハーブティーがすんなりと飲めたのだが、ウノさんが聞いているのはそういうことじゃないと分かった。


「これが何か、ということでしょうか?」


「うーん…私もうまく言えないんだけどねー、えーっと…」


 例えばこれは本物のハーブではないとして。では本物って何だろう。これはどこから取ってきたのだろう。管理区で貰えるものって、ここで手に入るものって、一体何だろう。

 ウノさんはニラセの疑問を全てちゃんと聞いてくれたし、時に鋭い(言葉は優しい)見方でニラセの考え事を助けてくれた。一人で考えるよりも二人以上で考えた方が先へ進めることを実感しながら、ニラセはこの時に感じた管理区への感覚をよく覚えておこうと思った。それはみんなで話す例の違和感と無関係ではないものだった。



「おーいニラセー遅いぞー」


「あ、ごめんタテイスくん…」


 タテイスの声で辿っていた記憶にいったん栞を挟んで、歩くことに意識を戻す。


「ニラセちゃんの考え事だよ、邪魔しちゃダメ」


「置いていかないから大丈夫だよ」


「キノウクのことかー?」


 フォローしてくれる二人と、意外にも自分の考えていることを見抜いているタテイスが少し先で立ち止まって待ってくれていることが頼もしい。タテイスはまた機能区に乗り込もうかと提案し、今はコア置き場でしょとカンナが突っ込む。コルはコルで彼の考えを一瞬視線に込めて、機能区の方向を見ている。

 ありがとう、大丈夫、進もう。最初の言葉はいつにもましてちょっと声が小さくなってしまったが、三人ともちゃんと聞いてくれていた。

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