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05


「それでそれで?」


「でっかいやつはいなかったの?」


 カンナとタテイスの質問攻撃。


「いなかった…探す前にすぐに見つかっちゃったんだよー」


 かっこよく答えられないコルは少々凹む。

 何かすごいものを見つけて帰ればヒーローになれたのに…と三人の友達に囲まれながら思うコル。ウノさんとインデちゃんとなぜか居合わせた友人たちと合流したコルは、ウノさんのお店に集まっていた。情報を整理するためだ。


「あ、でもさ、管理棟の中にもあの機械が一匹いたのを見たんだ。管理棟の人が追いかけてる感じだった」


「管理棟の人から逃げてたってこと?管理棟の中であの機械を作っていたんじゃないの?」


「そこが難しいんだよね…」


 コルはちらっとニラセに視線を送る。


「…逃げていたのなら、そういうことだと思う。管理棟と変な機械は仲間じゃなくて…外に人がいなかったのも変だし、何か起きているのだと思うけれど…」


「難しー」


 こういう時に頼りになるニラセも流石に考えがまとまらないようだ。タテイスがうなった後、四人とも黙ってしまった。 少しの間、四人とも考えることに集中するのと、目の前の「見慣れないもの」に目をやるのとを繰り返した。ずしりと重みはあるが子供が一人で抱えられるくらいの金属の箱は赤い光を鈍く宿している。


 そう、収穫がなかったわけではない。管理棟の前で崩れた機械が持っていた赤いコアと、ウノさんたちが止めた機械の赤いコア。二つの赤いコアはしっかり持って帰ってきた。これもこれで、はてなマークをいくつも生み出している。

 ウノさんはどうだろう。ウノさんは自分たち4人とは少し離れたところに座り、インデちゃんと赤いコアを眺めながら考えてくれている。考えがぐるぐるしてぼんやりとし始めた辺りで、子供たちは頼るように少し大人のウノさんを見て、

 …彼女が寝ていることに気付いた。



* * * *



 インデちゃんは何か知っていると思うのだけど…。赤いコアとインデちゃんを交互に見て、あれこれと考えを巡らせる。巡らせている…。


「ウノさーん…」


「は、はい! はい」


 ウノさんはテーブルに預けていた身体をぴょんと起こすとそれなりに弁明した。


「大丈夫です大丈夫です。」


「オレたちもちょっと疲れたもんなー」


「今日は帰ろうか?」


「カンナにさんせー」


「うん…」


「そうだねー…そろそろ良い時間かも」


 意見がまとまると、四人は帰る準備を始める。とはいってもカップを集めるくらいだ。


「ウノさんありがとうございましたー」


「ましたー」


「ご馳走様でした」


「お粗末様でしたー」



「あら、コル隊長いかがいたしましたかっ」


 三人の友達が先に店の外へ出たのに、コルはドアの方を向いたまま一瞬立ち止まっていた。ウノさんが声をかけてくれたが、いかがしたのか自分でもハッキリしない。


「うーん、何でもない、また明日!」


「はい隊長!」


 パタリとお店のドアが閉じた。


「コルーはやく帰ろうぜー」


 駆け足でみんなの元へ。



* * * *



 タテイスはその場で身を屈めると両手を交差させた。


「コルくらえ! タテイス様必殺…」


「いてっ」


「もーやめなよ」


「…」


 カンナが止め、ニラセはそれとなく眺める。いつものようなやり取りをしながらいつものように円の縁に沿った坂を降りていく。金属の小さな家と、家だったものと、壊れた何か。ハシゴや階段の間にそれらが時間の幅をごまかすように点在し、やや窮屈な生活空間を当たり前のように構成する。


「…コル?」


 背の高さと同じくらいの細いハシゴをめんどくさがって飛び降りたタテイスがコルに声をかける。コルはいつもより大人しくなっていたようだ。


「あ、うん。ちょっと考え事してた」


「お、いつでも聞くぜ」


 さっきまで必殺技をコルに向けていたタテイスが少し態度を変える。カンナもニラセも歩きながらいつの間にか聴く姿勢を取っている。

 コルたち四人はこの話題になると少々真剣になるのだ。誰かが話せば他の三人が同じように真剣に話を聞き積極的に意見交換をする。この話題。どうやら自分たち子供だけが感じている、世界への漠然とした違和感について。


「もうすぐ暗くなるけど、これってどういう仕組みなんだろう」


 コルの質問は三人にとっては変な質問ではなかった。


「でっかいコアがずっと遠くで光ってて、それが付いたり消えたりするんだろ?」


「私もそう聞いたよ」


「私も…でも見えないよね…?」


「そうなんだよねー」


 朝と夜と呼ばれるものは確かにあるのだけど、そもそもそれさえ仕組みが怪しい。大人たちは一応の答えをくれる。四人とも同じ答えを聞いている辺り、適当なことを言っているのではないようだが、それにしても…。


「また遠くまで行ってみよっか?」


「いいね」


 そんな違和感を共有し、答えを探しに行ける仲間がいるのはコルにとって頼もしいことだ。


「まだ地面から離れられないでいる」という言葉がふと頭に浮かんだ。


 工房の師匠がいつだったか言っていたんだっけ。



* * * *



「ねえインデちゃん」


 高めにセットしてある椅子と丸い小さなテーブルにもう一度体重を預けながら、横向きの視界でインデちゃんを呼ぶ。インデちゃんは向きを変えウノの質問を待った。ウノも体を起こした。インデちゃんはしばらく赤いコアを見ていた。下の方、真ん中穴の方角も時々見ているようだ。


「インデちゃんはやっぱり何か知っているの?」


 すぐに返答はなかった。金属でできた表情が変わるわけではないけれど、答えに詰まっているように見える。


 やや時間をおいて、答える代わりにインデちゃんは短く格納された細い金属の腕を伸ばした。さっきまで子供たちと自慢のジュースが囲んでいた赤いコアを指さしている。見ていて、と言うかのように。


「あら」


 インデちゃんがコツンと軽く触れると、コアが赤い光を増した。四角い小ぶりな金属の箱から淡い光が漏れる。この世界のそれほど種類の無い多くのものを動かすコアのエネルギーを象徴する光。赤い色であることを除いて、疑いもなく見慣れた光。

 再度インデちゃんがコアに触れると、今度は光が消えた。きっと長時間光らせていてはいけない事情があるのだろう。


「インデちゃん、ありがとう」


「インデちゃんは私の考えていることが私が喋らなくても分かるのかもしれないけど、声に出して喋るね」


 インデちゃんは頷いた。いつも真剣に聴いてくれる。この手の話をする時は特に。


「赤い色じゃなくて、私たちが普段使っているコアのことは良く分からないよ。コルくんが私にしてくれたお話、この世界にはちょっと変だなーって思うことがあるってお話しは、きっと正解なんだと思う。私や子どもたちはラッキーで、それは期限付きなのかもしれないけれど、その「変な感じ」に気付くことができるんだよね。それでね、インデちゃんもきっとコアと同じ、特別な枠の中にいる。…あ、インデちゃんは変じゃないよ!」


 インデちゃんが腕を曲げ頭に乗せて変なポーズをした。思わず笑ってしまう。


「気にしていない、ってことだね!」


「それでね、インデちゃん…」


 近いうちに、何かが今まで通りではなくなってしまうかもしれない。黙っていても伝わってしまう気もするのに、インデちゃんもそう感じていると思うのに、それは言葉にしなかった。


「今日はもうおやすみしましょー」


 インデちゃんはウノと一緒に眠る。金属なので最初はひやりと冷たいが、ウノが小さいころから試行錯誤をして一緒に寝ている。布団をかけてくっついて温めていれば暖かくなるはずと試したり(すぐにウノが寝てしまってどうなったのか分からなかった)、インデちゃんが座った姿勢(脚部を折りたたんで胴体を床に付けた状態)のまま布団をかけたりとあれこれ工夫した。

 たまにインデちゃんはそういう気分なのか窓の外を見ているのを布団から見ながら眠ることもあるけれど、今は大抵手をつないで布団に入っている。不思議とインデちゃんは熱と安心感を生み出すことができる気がしていて、これも正解なのだと思っている。だってすぐに冷たくなくなるし、一度も不安で眠れなかったことが無いのだから。

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