07
「インデちゃん、お散歩に行こー」
昨晩は何やらあれこれ考えそうになったけれど、いつもと変わらずにぐっすり眠ることができた。インデちゃんも変わらない様子で起こしてくれて、朝のあれこれをテキパキとこなしている。
簡単に食事と身支度を済ませると、その日は出かけることにした。外へ出てお店のドアを閉めて「ごめんなさい今日はお休みです」と告げるプレートをかける。ウノのお店にはウノの作る飲み物と軽い食事を楽しみに何人かのお客さんがやってくる。来る日もあれば来ない日もあるので、このプレートも自分が見ていないところでお客さんに謝っているのかもしれない。よしよしと撫でる代わりにプレートに触れてやる。インデちゃんが自分も、とでも言うかのようにちょっと頭の角度を変えて前傾姿勢になったので、思わず笑顔になった。
ウノが店を構える場所は家が密集するこの辺り金属階層の中では比較的人の住む建物が少ない方だ。というのもそこが階層の高い位置にあるからで、たどり着くためには入り組んだ構造に点在するハシゴや階段、ともすれば人工ではない(多分…?)段差や不思議な形の金属の道を越えて行かなければならないからだ。逆にウノが皆のいる場所へと向かう時は階層の下へ下へと降りて行く。コルたちが住んでいる辺りまで降りてくれば、中心の大きな穴を軸に暮らしやすい空間が広がっている。歩きやすい階段とスロープはもちろんのこと、よく人が通る場所にはコアの動力を活かした昇降機もあり、特殊な金属地形に目いっぱいの対応策が講じられている。それら全体が遠目に見ると中心の大きな穴に沿って螺旋を描いている様子は時々ウノを不思議な気持ちにさせた。階層の上から降りてくる機会が多いだけに、余計にそう感じてしまうのかもしれない。
そんな不思議な気持ちが顔にどう出ているのか分からないけれど、自分についてくるインデちゃんは時にダイナミックに全身の技巧を活かして躍動する姿を見せてくれた。一番身近にいるウノでさえ拍手をしてしまう機能を秘めていることが素直に頼もしいが、それよりもインデちゃんの思いやりが嬉しかった。
「コルくんたちいないみたいだねー。探検に行っちゃったって」
インデちゃんが頷く。一足遅かったみたい。“わっか”という名前の付いたよく彼らが集まって話し合いをするという大きな輪型の金属に座り、どうしたものかと考える。インデちゃんは最初すぐ隣にいたけれど、わっかの反対側まで移動して話し合いの体勢を取ってくれた。
楕円の上半分のような丸っこいフォルム。頷くときは首は無いので器用に少し後退しつつ実は細かい可動部のある上半身(?)を稼働させ僅かに曲げることで、前傾姿勢から頷きを十分感じ取れるような仕草を…などとはウノは考えず、かわいいかわいいインデちゃんの顔をしばらくぼーっと眺めていた。丸いパーツが目、数少ない継ぎ目の横線は口で、なんとも愛らしい表情になっている。
そのままうとうとしそうになったところで、インデちゃんがやんわりとウノのカバンを指さしていることに気が付いた。
「あ、そうだったね!」
カバンには考え事をしようと思って持ってきたものがあった。