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僕とボク  作者: ドク
9/24

#009 制服

悠からの呼び出しメールを受けた僕たちは、歩いて指定された場所に向かっている。寝る前に綾花さんの携帯電話にメールの受信があって「十時に小木曽家集合だって」と言われたからなんだけど。


綾乃さんの体で外に出るのはすごく緊張する。昨日はそれどころじゃなくて気にならなかったけど、昼前の明るい時間だと時々感じる視線がつらい。綾花さんが持たせてくれたトートバッグを無意識に握りしめている。綾花さんは僕のよりちょっと大きなトートバッグを肩にかけている。


「すぐ帰れるなら何も持たなくてもいいんだけど、時間かかりそうなら必ず持っていくこと!」


そう言いながらハンカチやポーチ2つにポケットティッシュ、携帯電話を詰めて渡してくれた。少し小さめのポーチは「今日はいらないと思うけど念のため」とか言っていた。何が入っているんだろう?


出かける時にカバンを持つのなんて登校時くらいなので邪魔だなと思っていたんだけど、緊張をいい感じで緩和してくれる。

暑さと緊張で噴き出る汗をハンカチで拭っていたら綾花さんに怒られた。


「そんなゴシゴシしないで、押し当てるようにして吸い取らせるの。そんなことしてたら肌傷めて赤くなっちゃうし、メイクしてる時とかだと、汗拭く度にメイクし直す事になるよ」


仕方なくペチペチやってたらすごく面倒くさい。慣れるしかないか、と思いながらハンカチを仕舞う。




一日ぶりの我が家に到着。長い旅行から戻って来た錯覚を感じながら玄関のドアノブに手を伸ばす。


「綾乃っ綾乃っちょっと待って」


「何?」


「なに? じゃないでしょ。他人の家にいきなり入るの? 最初はこれでしょ」


インターホンを押しながら綾花さんが言う。そう言えば昨日、理子にも同じこと注意されたような。


「はいはーい、いらっしゃい。あら、かわいい姉妹ね」


出迎えたお母さんが僕達を招き入れて、リビングのソファーで座って待つように言いながら冷蔵庫へ向かう。「おっまたせー」の声に振り向くと悠と理子と桐生が入ってくる。が、全員なぜか高校の制服を着ている。


「な、何?どうしたの?」


問いかける僕を無視して、悠が綾花さんを見る。目が会うとニヤッと笑って頷いた。それに綾花さんも頷いて返し、携帯電話の受信メールを僕に見せる。



from:悠

本文:明日の日曜日、九時に小木曽家に集合!

   綾花さん達は綾乃さんにバレないように

   学校の制服を持って十時に来てね

   


「うん。で?」


「着替えて」


綾花さんがトートバッグから出した紙袋からセーラー服をニ着取り出し、一つを僕に渡す。


「はい、これね」


「意味がわからない。僕が綾乃さんの制服を着るって、サイズが合わな……あ、体は綾乃さんだから合うのか。……ってそうじゃなくて僕がセーラー服を? 無理無理。何の罰ゲームなのこれ」


「罰ゲームって、綾乃は明日から毎日それを着て学校いくんだよ。一人だけ制服だと嫌だと思ったからあたし達も制服持って集合したんじゃないか。碧だってもう着替えてるよ」


みんなの後ろに隠れるように、西高の、僕の制服を着た綾乃さんがいた。

綾乃さんが少し震えてる。やっぱり恥ずかしいのかな?


「いやいやいや、女子が男の制服って割りと着れるけど男が女子の制服を着るなんて無理すぎるよ」


「「「女の子でしょうがっっ」」」


うおっ。綾乃さん以外の全員の声が重なる。お母さんまで……

でも、確かに明日から学校が始まる事を思えば“これ”を着る練習も必要なのは事実な訳で。


「着替えはお風呂場の脱衣所使ってね。綾花さんは…その…碧兄と一緒に着替えるの嫌? 一人ずつ交代で着替える?」


「ううん。アヤは一緒でも大丈夫だよ。変な目で見る人じゃないってわかったから安心してるし。でも、碧さんが嫌なんじゃないかな?」


問いかける悠に、綾花さんは笑って答える。耳まで赤くなってるのが自分でもわかるくらい顔が熱い。僕は交代で着替えたいと言ってみたものの、理子と桐生に却下された。諦めて綾花さんと脱衣所に向かう。


綾花さんの着替えを見ないように背中を向けてデニムパンツを脱ぎ、スカートに足を通した。


「なにしてるの?」


呆れてるような声が後から聞こえる。

何ってホックを止めようとしてるんだけど。答える前に腕を捕まれ半回転させられ、綾花さんと向かい合う。


「スカートはこうやって横でホックを止める」


そう言いながら左横でホックを止めファスナーを上げてくれる。ズボンのように前で止めるものだと思ってた。


「制服のスカートはサイドファスナーって言って横にくるの。アヤが着替えるのを見て着方覚えてね。朝は忙しいから手伝ってあげられないからね」


そういいながらセーラー服の横のファスナーを開いてシャツを脱ぎ、頭からかぶる。服の中に入った髪を外に出してファスナーを締め、裾を軽く引っ張って折り目や皺を直す。

僕も手間取りながら着替える。伸びない服を頭からかぶるのはキツイ。

なんとか着替え終わり、僕も髪を服の外に出すとリボンを渡された。これはどうすれば?


「襟のここんとこの下にスナップがあるからそれで止めて、最後に襟とリボンの形を整えて着替えは完了。着替える時に髪が乱れるから、ちゃんと櫛かブラシで髪も直してね。手櫛でもいいけど」


綾花さんもリボンを付け、ポニーテールにセットした後、僕の髪もポニーテールにしてくれた。なるほど。女子の着替えは大変なんだね。体育の後女子が戻ってくるのが遅い理由がわかった気がする。



「「「うわー、やばいくらいかわいい」」」


リビングに戻った途端、悠と理子が感嘆の声をあげる。


「それで、どっちが綾乃?」


桐生が目を丸くして呟いたので、僕が小さく右手を上げる。


「全員の写真が取りたい」という桐生の言葉に賛同したお母さんがデジカメを持ってきて、綾乃さんが僕の肩に手を回すように指示して数枚の写真を取る。なんだかすごく恥ずかしい。

よく撮れた一枚を悠が携帯電話に取り込んで全員にメールで送信する。


「あら、あなた達携帯電話は取り替えていないのね」


届いたメールの画像を見ていたら、僕が持っている携帯電話を見てお母さんが言った。

そういえば、理子の部屋でお互いの妹を呼ぼうという話になった時に交換してそのままだ。これが自然だと思っていたのもある。綾乃さんと相談して結局そのまま持ち続けることにした。友達から掛かってきた時に話が合わなくて困ることになるより、話が終わってからメールで送信した方がいいって結論になったからなんだけど。

声が違うのは電話のせいにしちゃえばいい。てか僕は変声期後でもそんなに声が変わらなくて、電話だと女の子に間違われることも多かったので、そんなに困ることはないと思う。


それからは歩き方、(元々外股じゃなかったけど歩幅が広すぎると注意された)椅子に座る時の動作、落とした物の拾い方等など、生活のちょっとした行動の修正が必要なとこの指導を受け続ける。

その後昼食でも食べ方にちょっと注意された。一口が多すぎとか何でもどんぶり風にするなとか、女の子っていろいろ大変だね……


「ここもあなたの家なんだから時々は顔見せにきなさいよ。綾花さんも一緒にね。理子さんも希美さんもニ人の力になってあげて頂戴。みんなが集まりたくなったら、いつでもここを使っていいからね」


行動の修正テスト試験官役になったお母さんから妥協点をもらえたので、解散することになった。


僕達を玄関で見送るお母さん。桐生は「碧ちゃんともうちょっと話がしたいから」と言って残り、僕たちと理子は先に帰る事にした。“碧ちゃん”かあ……。僕達より一時間早く集合してずいぶん馴染んできたんだなあと思う。


「綾乃さんのことお願いします」と言ってドアを閉め、僕たちは歩き出す。

帰りは私服にしたいと言ったのに、全員一致で却下されたので、小木曽家を出た僕達三人は制服のまま。


それにしてもスカートって歩きにくい。少しでも風が吹くと「わわわっ」と叫んでスカートを抑えてしまう。理子と綾花さんは平気そう。不思議に思って聞いてみたら危ない風と大丈夫な風があるらしい。


「感覚で覚えるしかないからおもいっきり捲られて体感で覚えてけ。その時近くにいた男どもが喜ぶぞ」


笑いながら理子が言う。

……絶対嫌です!




「今思ったんだけど、西高チームと東高チームに分かれてるね。制服だから放課後っぽいしクレープでも食べながらちょっと休憩しよう。綾乃の実技テストも兼ねて」


理子の提案に綾花さんが目を輝かせている。クレープなんて食べるの初めてなのでちょっと楽しみ。今まで友達と遊びに出かけても誰一人食べたいなんて言わないから、興味はあっても食べる機会がなかったんだよな。


「アヤはキウイチーズケーキクリームにストロベリーソース」


「あたしはベリーベリーカスタードにキウイとマンゴー」


なっ…何かの呪文ですか? まさか注文の時点でこんなに難易度高い食べ物だったとは…。店員さんが僕をじっと見つめる。余計焦って注文が決められない。

焦る僕を見て理子と綾花さんが後で笑ってる。そ、そんなに挙動不審ですか?

結局、注文に困った僕の代わりに綾花さんが注文してくれた。


「ミックスフルーツチョコクリームでいいよね?」


店員さんが三人分の生地を焼き始め、手際よくトッピングしていく。ニ分もしないうちに僕たちは受け取る。

僕が注文に悩んでる時間の方が長かった……。

近くのテーブルで食べようってことになって移動すると、ニ人が荷物を一旦テーブルに置き、スカートの後ろを撫でながら座り、膝の上にバッグを置く。僕もそれを真似してみた。

僕と綾花さんが並んで座り、理子は僕の正面に座っている。


「クレープの注文でどんだけ時間かけるんだよ。優柔不断すぎ」


「だよねっ。右上指さしたと思ったら左手で左上指して、右手で下指したって思ったら左手で下指して。アレこレユカイって曲の振り思い出しちゃった」


それって涼しい春でも憂鬱ってアニメだったっけ。あの振りに似てたから後でニ人が笑ってたのか…なんか恥ずかしい。

初めてなんだからしょうがないじゃないかといいながら一口かじる。あ、おいしい。


「綾乃幸せそうに食べるねー。この包み紙の水玉模様に猫っぽいのがあるんだけど見つけられた?」


どこだろ? そう言いながらクレープを持つ手を伸ばして探そうとする。


「ぱくっ」


………え!?


「これも美味しいね。てか綾乃簡単にひっかかりすぎ。ほら、アヤのも一口食べていいよ。キウイがないとこね」


そういって差し出されたクレープにかじりつく。もちろんキウイを狙って。


「あー綾乃キウイはだめって言ったじゃん」


「仕返しに遠慮なんてしないよーだ」


僕達のやりとりを見て理子が声を出して笑ってる。周囲からもクスクス笑う声やかわいーという声があがってる。知らない人が見ると普通に双子の姉妹がじゃれてるようにしか見えないんだろうな。


「綾乃しっかり女の子してんじゃん。綾花も大丈夫そうだから安心だよ。食べ終わったら解散しようか」


結局僕と綾花さんはぎゃぁぎゃぁ言いながらクレープの争奪戦を繰り広げ、「もう交換しちゃいなよ」と呆れた声でいう理子の呟きでようやく終戦した。


「それじゃまた明日学校でな」


理子と別れて僕達も家に向かって歩き出した。一日制服で遊び続けた結果、スカートにもだいぶ慣れたし、危ない風と大丈夫な風もだいたいわかってきたと思う。

それでも、明日からの学校が不安です……

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