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僕とボク  作者: ドク
8/24

#008 帰宅(綾花編)

綾花視点で展開します。

理子さんに見送られて、これからどうしたらいいのか考えながら、家に向かって歩き出す。


時々ちょっとしたケンカをしたこともあったけど、それでもずっと仲が良かった綾乃が、姿だけの綾乃になって、全くの別人になってしまった。

理子さんと買い物に行くと言って、楽しそうに出かけた綾乃だったのに……なんでこうなったんだろう。


本当に大変なのは二人なんだとわかってるんだけど、今までみたいに一緒に服を買いに行ったり、遊びに出かけたりできなくなるのかななんて思うと、すごく悲しいし寂しい。


「悩み事がある時は何か甘いものがあると落ち着くし、いい考えが出やすいよ」


綾乃とケンカして落ち込んでいた時、理子さんが言ってた事を思い出し、何か買って帰ろうと、コンビニに立ち寄る。飲み物の棚に行くと無意識に雨印コーヒーを取る。理子さんのお気に入りの飲み物で、さっき部屋のテーブルに置いてあったのもこれだったなぁ、なんて思ったら、つい笑ってしまった。これを買って帰ろう。






「ここが家です。中古住宅ですけどね」


言いながら玄関の鍵を開けて中に入る。碧さんは緊張した感じで固まってしまっている。


「入らないならドア閉めちゃうよ?」


慌てて入ってくる碧さん。何も知らなかったら綾乃にしか見えないんだよね。ま、体は綾乃なんだけどね。





平屋なのでそんなに部屋数も少ないのと、元々ほとんどケンカもしないのもあって、綾乃と二人同じ部屋を使っている。家の中を軽く案内した後、部屋の前にきて、ドアノブに手を伸ばす。なぜか緊張してしまって、深呼吸してドアを開け、碧さんを先に部屋に入れ、続けて入ってドアを閉めた。


ドアを閉めた瞬間、不安と恐怖に襲われた。部屋の中でいつも楽しく談笑していた毎日が、突然終わってしまった現実に気づく。膝ががくがくと震え、立っていられなくなり、その場で座り込んでしまう。


「あの……綾花さ…」


「うるさいっっ!」


反射的に叫んでしまう。自分でも驚く程の大声だった。


「お願いだから…話しかけないで。……少し………気持ちの整理をさせて」


いつの間にか泣いていたみたいで、視界が滲む。目尻にたまった涙を人差し指で拭いながら、震える声を絞り出す。さっきとは逆で小さな声しか出なかったけど、碧さんには聞こえたみたいで「ごめん」と小さく返事が聞こえた。


少しの間を置いて立ち上がり、着替えを取り「顔洗ってくる」といって部屋を出て、シャワーを浴びる。


いつもより熱めのお湯を浴びてなんとか気持ちを落ち着かせる。それでも気休めにしかならない。深く溜め息を吐いてお湯を止め、脱衣所に戻る。脱衣所兼洗面所の鏡を見て思う。綾乃の裸を見られるってことは、あやの裸見られるのと同じなんだよなあ……はぁ。


それでもお風呂に一生入らないなんてことはできないし、次は碧さんにシャワーだけ浴びてもらおう。シャワーならすぐ出られるしまだマシだと思う。




「はい、着替えはこれね。シャワーだけならすぐに出られるでしょ? 早く行ってすぐ戻って来て」


部屋に戻り、タンスから着替えの服と下着を取り出して碧さんに渡しながら言う。耳まで真っ赤にして着替えを受け取った碧さんがお風呂場に行った。





遅い。あれから三十分も経つのにまだ部屋に戻ってこない。まさか変な目で綾乃の裸見てるんじゃ。もしそうなら数回引っ叩いてやる。そう思いながらお風呂場に向かう。

脱衣所に入ると碧さんがブラウスに手をかけたまま固まっている。


「あれ? またさっきと同じ服を着たの?」


「………」


「………?」


暫く沈黙した後……


「まだ……なんか……服を脱げない。綾乃さんの裸見るみたいで悪いみたいで……」


「?………!ぷっ。あはははは!」


何を言ってるのか理解するまで数秒かかった。でも、理解してから可笑しくて吹き出してしまう。

綾乃の裸を見たがるどころか、すごく気にかけてくれてる。大切に思ってくれてる。それがわかってまた笑ってしまった。綾乃、この人本当に綾乃の体を大切にしてくれるよ。心配いらないかも。心の中で綾乃に、そして自分に言い聞かせる。


ずっと抱えてた不安な気持ちも和らぎ、碧さんに髪の洗い方とケアの方法を教える。真剣に聞いていて時々質問してきて、それなりに理解した様子なので脱衣所を出ることにした。

まだ躊躇してる碧さんに「一緒に入る?」と聞くと「けけけけッこうデス」と言い返された。がんばれ碧さん……ぷぷっ




それからしばらくして碧さんが部屋に戻ってきた。ドライヤーで髪を乾かしてあげた後、ヘアアイロンの使い方を説明しながら実際にやってあげる。「女の子って大変なんだね」なんて言いながら使い方を聞いている。


「あ、そうだ。ちょっと電話していいかな?」


時計を見た碧さんが問いかけてきた。どこに電話するのかなと思ったら。


「もしもし、お母さん…………」







本当のお母さんにニ人に起こったことを説明して、自分と入れ替わってしまった綾乃の助けになって欲しいとか伝えている。この人本当に優しい人だね。だけどこんな話信じてもらえるのかな? いい人通り越して心配になるよ。

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