#003 妹たち
理子視点で展開します。
部屋を出る時に、ドアを開けたままにするか閉めたほうがいいのか、一瞬考えた。でも、この二人なら別にドアを閉めていても大丈夫だろう。
そう思い、あたしは部屋のドアを閉めて家を出た。先ずは希美との待ち合わせの場所に向かう。
綾乃と碧が入れ替わる。そんなことってあるはずないと思う。でも、綾乃と待ち合わせの公園で「リコ助けて、僕」と言われ、中学の時の友達だった碧を思い出した直後、それまで誰もいなかったはずの綾乃の隣に女の子が現れた。なぜあの時碧を思い出したのか、あたしでもわからない。それに、それまで姿が見えなかった女の子が突然視界に現れたというのに、それに驚かないあたしもどうかと思う。
まあ、見えた直後に立ち上がり、ペコリと頭を下げられたことで、綾乃に意識がいっていたために気づかなかったのだとその時は思った。でも、今思い返せば、あの時までは確実に『存在していなかった』と断言できる。
それに、足は数センチ地面から浮いていたし、影もなかったのだから不可解なところだらけだというのに、その時は気にもならなかった。綾乃…あ、碧か…? とにかく死神ちゃんの失態の話をあっさり信じることができたのは、それがあったから。かな…
それにしても、あの時の違和感は何だったのだろう。綾乃も自分のことを「ぼく」といっていた。それには慣れていたはず。だけどあの時、その「ぼく」の言い方に違和感があって碧の顔が浮かんだ。あたしの事をリコと呼んで、自分の事を“ぼく”と言っていたのは碧だけじゃなかったはず。なのに何で碧を思い出したのかな? あの死神ちゃんが何かやったのだろうか?
「まあ、部屋に戻ったら二人の声を意識して聞いてみるか…」
考えながら歩き、無意識に呟いていた。
「あっ! お~い、みっちこ~」
希美が手を振りながら歩いてくる。あれ?
「待ち合わせ場所って私の家の近くじゃん? どうせなら理子の家の方向に歩いたほうが早く合流できるかなって」
そっか。それでこっちに向かって歩いてたんだ。さすが希美。
「急に呼び出してごめん。あと二人、駅前のコンビニで待ち合わせてるんだ」
「ふ~ん。誰?」
「東高の友達の妹と、碧の妹。あ、でも碧の妹は会ったことないんだよなあ」
会ったことがないのに待ち合わせって何? なんて言いたそうな顔をしたけど、私が知ってるから任せて。なんて言ってくれたので、そっちは任せよう。
「で、何の用? いつも誘ってくれる時って先に用事を言うのに珍しいよね?」
「ん………ま、詳しいことはあたしの部屋で話すよ。とりあえず二人と合流しよう」
コンビニに着くと希美が店内に入り、雑誌の立ち読みをしてる女の子に話しかける。
「あの子が碧の妹か」そう思いながら店内を見渡す。入り口脇の軽食スペースで、ポテトを食べてる綾花を見つけて近づいた。
丁度食べ終わったようで、ゴミを捨てるとこだった。希美達もこっちに来る。
「わたしに何か用ですか? 碧兄が電話で呼び出してきて、迎えに来た人についてきてなんて言ってたけど」
不機嫌さを隠さずに、はっきりと嫌そうな顔と口調で言う。兄妹で仲がそこまで悪いのかと思ったら、寝起きらしい。なるほど。あたしも寝てるところを電話で起こされて、突然そんな訳のわからない事を言われたら機嫌悪くなるな。妙に納得する。
「まあ、なんて言うか、ちょっとした非常事態だな。詳しい事はあたしの部屋で話すから一緒に来てもらえる? 三人の強力がどうしても必要だから」
綾花と悠、そして希美が不思議そうな顔をする。とりあえずコンビニを出て歩き出すと希美が話しかけてきた。
「ねえ理子。その非常事態って私も関係すること? 悠は碧に呼ばれて、綾花さんはお姉さんに呼ばれたてのはわかったけど、私は関わりないよね?」
「んー…。悪い希美。歩きながら話せることじゃないから後でいいかな? 部屋でちゃんと説明するから」
困ったような表情を一瞬だけ見せ、希美が頷く。そして悠の隣にいって何か話している。直後、あたしの隣に来た綾花が何かを言いたそうにしていたが、結局何も言わないまま並んで歩く。
「ここがあたしの家。親はいないから気にしないで入っちゃっていいから。はいスリッパ。飲み物用意するからちょっと待ってて」
飲み物は……麦茶でいいか。ちょうど冷えてるし。
冷蔵庫からニリットルのペットボトルを取り出し三人のところに行く。
「あたしの部屋はこっち」
三人を連れて部屋のドアを開ける。部屋の中の碧と綾乃はあたしが出かける前と同じ場所に座っている。
ん? 死神ちゃんはどうした?
部屋の中に見当たらない。あたしがぼ~っと立ってても意味がないので気を取り直して三人を部屋に入れる。さすがに六人も集まると狭いな…