#024 嫉妬
んー、髪がべたつく。
砂浜でパラソルの影の下にいた時は、風が心地よくて、理子にイジワルされた事以外は何も気になることは無かったんだけど、海からホテルに戻るために歩いてる今、潮風に吹かれていたからなのか、髪がべたっとするのが気になって仕方がない。早く部屋に戻ってシャワー行きたい
「碧さん、ちょっと相談したいことがあるんですけど、いいですか?」
何だろう?
「ホテルの部屋に戻ってからのがいい?」
「ううん。芹佳と友美が戻って来ちゃうとダメだから、人がいない所の方がいいです」
人がいない所……
「あ、ホテルのすぐ横に川があったから、川に添って歩いてみる? みんな海しか気にしてないから、山の方に歩いて行けば誰もいないと思うし、川に沿ってたら迷う事もないと思うし」
川を遡ってしばらく進むと、池のような所に着いた。
山の赤土がむき出しの所は、池の水と混ざってぬかるんでる感じだけど、コンクリートで舗装されている所から出ないようにすれば大丈夫。
ここまで舗装されてるって事は、誰かがここにいるのかもって思ったけど、今は誰もいないみたい。
「ここなら大丈夫かな? 相談って何?」
「この前みんなで買い物行った時、希美さんがボクの代わりに下着を買ってくれたじゃない?」
「うん」
「……ぅー……」
あれ? どうしたんだろう?
「男の子の下着って、あれだけなの? なんて言うか、その……お願いわかって」
んー、あれだけなの? って桐生が買ったのはトランクスだったよね? あれだけなの? て……あ、そっか。
「ブリーフもあるけど」
「それと希美さんが買ってくれたのは……どっちがいいの? あれってなんて言うか、ぅー……」
「あ、大丈夫。言いたい事わかったから。無理に続けなくて大丈夫だから」
きっと穿いてて落ち着かないって言いたいんだよね? 女の子のパンツって包み込んでる感じだけど、トランクスはあれだし。
「落ち着かないって事だよね?」
うわ、赤くならないでよ。僕まで恥ずかしくなって耳まで熱くなっちゃったよもう。
たしかにこんな話し、友美や芹佳には聞かれたくないよね。
「僕はもう持ってないけど、試してみたいなら旅行から帰った時にでも僕が買って……」
「それはダメ。絶対やめて」
うわっ、途中なのに凄く拒否られたよ?
「ごめんなさい。だってほら、レジの人に男の子の下着つける人って思われたくないから」
そんな風に思う人いないと思うけど。桐生は普通に買ってたし。
「あ、ボクが自分で買えばいいんですよね。今まで通りに」
そうだよね。今までずっと買ってたんなら平気だよね。
!?
「それって、僕達がこうなる前に買ってたのを買うって事じゃないよね?」
「え? そうですよ」
「だめ。それはやめて。危ない趣味の人って思われちゃうから。買うだけでも怪しい人に思われちゃうのに、そんなの穿いてたら……だからやめて。お願いします」
女用の下着を身につける男をどう思うか、考えてみたのかな。少し考えたような沈黙の後、ごめんなさいだって。
「ボクも買い物とかに慣れるようにしたいので、旅行から帰ってからでいいので、付き合ってください」
「おいテメー、ふざけんなよ」
突然後ろから怒鳴り声が聞こえて、僕達は焦った。僕達の話しを聞かれた?
振り返ると理子の隣の席の……あ、名前なんだっけ?
「西高の奴が手ェ出してんじゃねーよ。付き合ってください、だあ? 何告ってんだよ」
付き合ってください、の所しか聞いてなくて告白だと勘違いされたんだ。
よかった。聞かれたのがそこだけで。
って全然よくない。真っ直ぐ碧に向かって行き、胸ぐらを掴んだ。
「ぃゃ」
「女みたいな反応してんじゃねーぞ、テメー」
碧がガクガク震えてる。あわわ、助けなきゃ。
僕が動き出すのと、その人が動き出すのが同時だった。
碧が前に引っ張られて直後、後ろに突き飛ばされた。
ドゥボ
突き飛ばされた碧に押され、僕は前に倒れ池に落ちた。
広いだけで水は十数センチくらいに見えた池の底は泥で、その泥が柔らかく深い。手をつくつもりで伸ばした手を飲み込んだ。
肩近くまで泥の中。手が埋まったので立ち上がれないし、埋まった手も動かせない。
このままだと息もできないから顔を上げなきゃ。
息をするために顔を上げようとすればするほど体が沈んでいく。
苦しい。助けて。
「ダメです。上に抜けようとすると、もっと沈んじゃいます。動かなければ沈まないので、碧さんも綾乃さんも動かないでください」
小夜ちゃんの声が切迫してる。僕達二人この泥の中なのかな?
動かなければ沈まないって言われても、そろそろ息が、限界、苦し、い
「力を抜いて、ゆっくり顔を左に向けてください。そうしたら息ができるようになります。ゆっくりで大丈夫ですから」
小夜ちゃんに言われた通りに、ゆっくりと顔だけを左に向けていく。
「もう大丈夫です。今なら息ができます」
ゆっくりと鼻から空気を取り込む。泥の匂いがする。息ができる。よかった。
「私が急いで理子さんたちに知らせてきます。動かなければ大丈夫なので、待っててください」
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「綾花ごめんな。まだ痛いか?」
「少しだけ。でも大丈夫」
「あれはヤバいわ。綾乃、じゃなかった、碧は無知すぎる。教える事がまだまだ沢山あるな」
「肘だけじゃないでしょ? 胸は大丈夫?」
胸がどうした?
「理子は気づかなかった? あの時、綾乃が咄嗟に伸ばした手が、綾花の胸引っ掻いたから」
「あ、希美さんは見てたんですか?」
うん。と希美が頷く。あたしは気づかなかったよ。あれの破壊力に完全にやられてたな。
綾花は後ろを向いてセーラー服を捲り上げ、胸の方にも絆創膏を貼った。
「綾花、あたし達を呼び捨てにするのをまだ慣れないか? さっき理子さんどいて、で、今も希美さんって」
綾花はそれには答えずに苦笑いをかえすだけ。
「理子さん、綾乃さんと碧さんを助けてください。まだ予定日じゃないのに死んじゃう。早く助けに来てください」
突然現れた小夜ちゃんが間髪入れずに叫びだした。
これはただ事じゃない。先生を呼んだ方が良さそうだ。
今日の先生の部屋は……
先生の部屋に行きドアを叩く綾花。ノックではない。綾花の取り乱しぷりはなんとも言えない。演劇部のセットのドア程度なら叩き破りそうな勢いだ。
ドアを開けたのは田所先生じゃなかった。私達を見た先生は部屋の奥に向かって、生徒が訪ねて来たぞと言っている。
「ジョンお願い、一緒に来て」
希美が部屋の中に向かって叫ぶ。
「のんちゃん、今は他校の先生と生徒。その呼び方はやめ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないの。早く来て。碧ちゃんたちが危ない」
小夜ちゃんに案内してもらいながらあたし達はホテルの駐車場を抜け、山へと走る。
「はあはあ……あの、さ……はあはあ、小夜ちゃんまで走らなくても、はあはあ、道が別れてるとこで進む道、はあはあ、教えてくれてもいいよ」
あ! と声を残して小夜ちゃんが消えた。
直後、先回りして分岐路に現れ左手を伸ばす。あたし達には右へ行けって事だね。
しばらく走ると前から走ってくる人がいた。あいつだ。
あたし達に気づいたのか立ち止まり、大きく両手を振りだし、すぐに踵を返し来た道を戻っていく。
あいつと小夜ちゃんの案内で着いた先は池?
その中にお尻の方から落ちたのか、胸から下と膝から上を泥に沈めた碧と、お尻と耳だけを残して沈みかけてる綾乃が見えた。綾乃が危険だ。
綾花が戸惑うことなく池に入って行く。
一瞬で腰まで泥に沈み、身動きが取れなくなったようだ。
それからどうなったのか覚えていない。
気がつくと三人とも助け出されていて、綾乃の顔に付いた泥を落としている綾花も、前半分と腰から下は泥だらけだ。碧のワイシャツも綾乃と綾花のセーラー服も、白だからもうダメだろ。
それに綾乃はホントに危ないとこだった。
あいつ絶対許さない。
駐車場近くまで戻ると、泥まみれの三人と先生に気づいたホテルの人が、大慌てでプール用のシャワー室へ案内してくれた。
プールは男用のシャワー室の改装中とかで閉鎖されていたけど、念のためにと、女用のシャワー室にも改装中の看板が立てられた。
女子を先にと綾乃達をシャワー室の中へ通してくれる。そんなことは予測済み。ホテルの人が看板を取りに行ってる間に、希美に頼んで碧を先に入れといた。
碧と先生を一緒にする事は出来ないもんな。
結局後でバレたけど、確認しないで女子を入れたのはホテル側の落ち度と言うことになって、騒ぎにはならなかった。それも予測済み。二人に謝って隠密に片付けたいだろうからな。
みんなで部屋に戻って少しすると綾乃が倒れた。直後に碧まで。
その事で二人を病院に連れていくとかの大騒ぎになったけど、希美が先生を説得して様子見って事になった。
それにしても希美と先生が従兄弟だったとは知らなかったな。
二人が倒れた原因も後になって小夜ちゃんが教えてくれた。
その理由は綾花も希美も知っていた事に、ちょっと嫉妬してしまう。
二人が意識を取り戻したのは、夕食の時間が終った後になってからだった。
気がついたら連絡するようにいわれていたので、希美が携帯電話で連絡すると、田所先生と校医の先生が部屋に来て、脈や体温などを診て、大丈夫だと判断された。
先生が部屋を出る時にホテルの人が来て、じゅーしぃとかいう沖縄風雑炊を持ってきてくれた。あたし達誰も夜食べなかったから気を使ってくれたらしい。
このじゅーしぃ、同じ呼び方でも炊き込みご飯と雑炊があるらしい。初日の夕食で食べたのは炊き込みご飯の方だったな。帰りかけた先生も一緒になって頂いた。
じゅーしぃを食べてしばらくすると芹佳が船をこぎだした。
碧達が倒れた後、泣きながらあいつに掴みかかっていって、こっちはこっちで大騒ぎだったよ。
泣き疲れた後のこの温かいご飯が眠気を誘ったんだろうな。
友美が手を引いて布団まで連れていくと、すぐに深い眠りについたようだ。
「小木曽君、ちょっといいかな?」
芹佳に布団を掛けた友美が振り返り、膝立ち状態で数歩進んで、四つん這いになった。
まさかキスするつもりじゃないだろうな? そう思わせるくらい、顔を近づけた。
#22からここまでが1話になる予定でした。
リアルの問題から書く時間がなかったりして間があきすぎるので分けることにしました。結果よかったかも?
一話のボリュームではないですよね、これ。
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