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僕とボク  作者: ドク
23/24

#023 悪いのは僕?

「なにこれ」


注文した料理が届くと僕達は絶句。

僕の前にあるのは豆腐が入った豚汁みたいに具の多いみそ汁。それもどんぶりで。

それにゴーヤチャンプル、普通サイズのみそ汁そしてご飯、ご飯、ご飯。

他のみんなもおかずが違うだけで、目の前には……


ご飯単品百五十円に対し、みそ汁四百円という値段に疑問を持つべきでした。

どんぶりみそ汁とご飯がセット、ゴーヤチャンプルとみそ汁とご飯がセット、それにご飯単品を注文した事になるみたい。こんな量は綾乃さんになる前の僕でも食べきれない。


「あんた達やーさしてるんだねー、これサービスしとくサー」

 (やーさしてる=お腹すいてる)


これだけでも凄い量なのに、おばちゃんの善意で更に沖縄そばの麺の焼きそばまで追加されちゃった。どうしよう。


「ごめんなさい。ボクたち、みそ汁がこんなに大きいって思ってなくて。ご飯も別と思って注文しちゃって」


「やたん? 大丈夫よ。食べきれなかったら持ち帰りしたらいいサー。汁だけ食べてチャンプルーとご飯は持ち帰りしてよんなー食べなさい。焼きそばは先に詰めておくサー」

 (やたん?=そうなの? よんなー=ゆっくり)


おばちゃんは持って来た焼きそば二皿を隣のテーブルに置き、調理場に引き返すと、輪ゴムと持ち帰り容器を持って来て焼きそばを詰め始めた。なんかごめんなさい。

そのテーブルで一人、食事中の人にもごめんなさい。


「くゎっちーさびたん。またゆたしく」

(ごちそうさま。またよろしく)


「あー、やさ。あったー、かみかんてぃするはずやぐとぅ、かまらんむん、わんがだすさ」

(作者より:ここの訳はあとがき部分へ書きます。最後にあとがき部分で確認してください)


その人はささっと食べ終わり、意味のわからない言葉を残して出ていっちゃった。

食べてる横でそんなことされると落ち着かないよね。ごめんなさい。

……あれ? おばちゃんはここにいるし、あの人お金払ってないような? おばちゃん気づいてない?


「すいません、今の人お金……」


「月初めに一万円置いていくサー。タクシームッチャーやぐとぅ時間ネーランんでぃ、メーナチサーラナイ」

(タクシードライバーだから時間が無いって言って、毎日あくせく)


意味がわからなくて困っていると「あんた達ナイチャーね?」 と言われた。

ナイチャーって沖縄県外の人って意味だったよね、確か。


あ、あれ使ってみよう。


「であるわけさ」


僕がそう言うと、おばちゃんは笑いながら標準語で言い直してくれた。それでも時々、方言が混ざってたけど、前後の流れから何となく意味はわかった。



それよりもこの量。

結局僕達は、みそ汁を食べきるだけで精一杯だった。

おばちゃんがみそ汁を“食べる”と言ったのは今ならわかる。

沖縄のみそ汁は食べ物です。それだけでおかずです。




「あ、綾ッズ発見!」


食堂を出て適当に歩いていて、見つけた公園で休んでいると、手を振りながら歩いてくる女子のグループがいる。

教室で僕……じゃなかった、綾乃さんに気づかったり、那覇空港で理子に話しかけてた子の班だよね。十人って事は二班で行動してたのかな?


「理子ンとこ、センセーに電話してないの? 全然連絡がないって怒ってたよ?」


「たはは、ちょっと忘れてた。気づいて電話見たら着信すごかったわ」


「理子らしいよねー。綾乃が忘れるのは意外だけど」


笑いながらその子が携帯を鞄から取り出すと、ちょうどアラームが鳴り出した。アラームを止めてそのままどこかに電話を掛けてる。


「センセー、約束のラブラブコールだよー。今、理子と結奈達の班と一緒でーす。これで電話するのは最後だよね? はーい、かわりまーす」


そっか。もう十二時過ぎてたんだ。

差し出された携帯を理子が受け取って、少し話しをして電話を他の子に渡した。あの子が結奈さん?


あと一時間で自由時間終わっちゃうんだなあ。何してたんだろ、僕達。


「ねえ、理子達どこかお昼食べられるトコ知らない? ずっと探してるんだけど、見つからないんだよね」


ちょうどよかった。さっきの食堂でお持ち帰りになった料理を食べてもらっちゃおう。


「すっごい量だね。どうしたの? これ」


「入った食堂で注文方法を間違えた結果、こうなった。里沙達に会えて助かったよ」


里沙さん、ね。マークなしだったから、さん付けで呼んでたんだよね? 


「ごちそーさまー。ヤックと松野家しか見つからなくて困ってたんだー。これ、いくらだったの?」


あ、僕がそんな事を考えてる間に、食べ終えた里沙さんが財布を取りだしながら聞いてきた。


「お金はいいです。僕達も食べきれなくて持ち帰りしたので。あ、でもお箸つけてないから安心して」


実は大量に持ち帰りになった料理はタダになった。完食できたみそ汁以外の全てを容器に詰めて会計レジに行くと、おばちゃんがビニール袋に入れながら「一人四百円もらおうね」と、みそ汁の代金しか受け取ってくれなかった。だから、みんなからもお金取れないよ。


「そーなんだ? 食堂のおばちゃんって、お残しは許しまへんで~って言いそうだけど、持ち帰りさせてくれるんだね」


食堂のおばちゃんってそんなイメージ? よくわかんないけど。


「みんなはこの時間なにしてたの?」


「軍人さんが脅してきて天ぷら食べてたら裸になった」


「なにそれ?」


芹佳の説明わけわかんないよ。それに軍人さんは別に脅してきてないと思うし。

理子が軽く説明すると、みんながいた所は雨が降らなかったみたいで不思議がってた。

きっと、里沙さん達がいた所と僕達がいた所の間に、晴れと雨の境目があったんだよね?


「でも、そんなにびしょ濡れになる雨降ってたんだ。無害な人だったから良かったけど、危ないよ。まあ、そこの男子はわからないけど、理子がいるから安心かあ」


「あのな、あたしをなんだと思ってる?」


「最ッ強の護衛!」


即答する里沙さんの言葉に全員が爆笑した。

力は女子平均よりちょっと強いだけなんだけど一瞬怯んでしまう。そんな迫力があるので、中学の時は理子を怒らせてはいけないと、男女問わず生徒達の間では有名だったもんね。


でも、理子の事を恐れていたのは本当に一部の生徒で、女子の大多数からは慕われていた。

理子が怒るのは誰かが嫌がらせを受けているのを見た時だけだったから。

今の僕も理子には何回も助けられたし、彩乃さんもそうだよね、きっと。


里沙さんも理子の事を理解しているから言えるんだよね。現に理子も笑っているし。


みんなの笑い声に釣られるように、理子の携帯電話が鳴り出し、少し遅れて里沙さんと結奈さんの携帯電話が鳴り出した。

三人がそれぞれ携帯電話を確認してる。


「学校からのメールだよ。コザ運動公園駐車場にすぐ向かうように。だってさ」


え? と言う事は、自由時間もう終わり?

携帯電話を取り出して時間を確認すると、まだ三十分あるけど、移動時間を考えてこの時間なのかな?


……結局、自由時間は何をしたのかわからないまま終わっちゃったんだ。凄く残念。


メールを確認してすぐに、理子がもらった名刺を見ながらタクシーを呼び、そのタクシーで三班に別れて移動することにした。

最初に結奈さんの班に乗ってもらって、僕達は最後に乗ったんだけど、全員が移動するのに二十分もかからなかった。


僕達が到着してしばらくすると全員が集合したので、待機してたバスに乗り込んで、近くのインターチェンジから高速道路に入る。


今日の宿泊地になる名護市が次の目的地みたい。

移動途中に米軍基地が見えたり、青くきれいな海が見えたりして、バスガイドさんの話しや突然始まったカラオケ大会をなんとなく聞きながら車窓から景色を見て過ごしていると、退屈することなく名護市に着いたみたい。高速道路から一般道に出て数分で、今日の宿泊先になるホテルに到着。


バスを降りる時に、また理子が部屋割りを書かれたカードを受け取ったので僕達もカードを覗き込む。今日の部屋は八〇五ね。

今回は僕達の班が先に部屋に行くことになったので、碧も一緒に部屋に入れた。


「さーて、小木曽くんは先にこっち。絶対出てこないでよね、着替えるから」


芹佳が碧をバスルームに押し込んでドアを閉めちゃった。閉じ込めたんじゃなくて着替えたかったんだね。

……!

え? 着替え!?


「せ、芹佳、ちょっと待っ」


急いで芹佳を止めようと振り向いたけど遅かった。カバンから出したブラを手に「どうしたの?」と言いたそうな顔してる。僕の事を綾乃さんだと思ってるから警戒してないんだ。僕がここにいたらだめだよね。


「僕もバスルームに行くから、着替えるのちょっと待って」


「わっ、ダメ。そこ小木曽くんがいるんだよ」


「じゃあ外出とくから」


「うわっ、余計ダメ。廊下に誰かいたら着替え見られちゃうじゃん。もうびっくりさせないでよね」


「ぁおい落ち着けって」


理子にまで怒られた。

着替えるって言われてブラ持ってるの見ちゃったら、落ち着けないよ。ここに居ちゃいけないって思うよ。僕だってびっくりしたんだよ。


みんなに背中を向けて、カバンから携帯電話の充電器を取り出しながら、早く着替え終わるのを待ってるのに、かわいいとか色がいいとか似合うとか、そんな話しで盛り上がってる。

お願いします。早く終わってください。


「綾乃ー、見て見て。かわいいでしょ、これ」


やっと着替え終わったんだ。安心して振り向くと、芹佳と目が合った。


「ちょっと。着替え終わったんじゃないの? 何で下着なの」


「なに言ってるの? 水着だよこれ」


びっくりしたよ、もう。

かわいいでしょとか言われてもよくわからないし。

水着って言われても、下着にしか見えないよ。


「びっくりさせないでよ。下着かと思っちゃったし。でも芹佳勇気あるよね。僕は絶対むり。ニキビとか」


「……はい?」


うわっ。芹佳の目が冷たい。


「綾乃かなり焦ってたし、ただの言い間違いだよね。ニキビとビキニ。それより、そろそろ小木曽君出してあげない?」


「あ! 忘れてた」


友美に言われて、芹佳がバスルームのドアをノックしながら「もういいよー」と言うと、ゆっくりドアを開けて出てきたけど、なんか様子がおかしい?


「いいって言ったのに、なんで芹佳は下着なの?」


「もう、小木曽くんまで? 下着じゃないよ水着だよ、み・ず・ぎ。……なんか、そんな事言われると恥ずかしくなってきた」


あ、そっか。下着だと思って驚いたから様子がおかしかったんだ。芹佳は理子の後ろに隠れて、Tシャツを着だしたよ。


「もうびっくりしたぁ。でも芹佳すごいね。ボクは絶対むり。ニキビとか」


碧の発言後、まるで時間が止まったかのように静かになったけど、数秒後に理子の笑い声に釣られる感じでみんなも笑い出した。


「二人して同じ反応するなよな。おまけに同じ間違いするし。あー苦しい。綾乃達、頼むよ」


みんなが楽しそうに笑う中、僕達は顔を見合せ溜め息。

イヤミのない笑いだからまだいいけど。







着替え終わった僕達は、ホテルの近くにあるビーチに移動して、マリンスタッフさんから簡単に注意点の説明を受けた。


僕と綾花と碧は制服なので、海に入らないでパラソルの影に入る。

海ではバナナボートに乗った芹佳が、きゃーきゃー騒ぎながら笑ってるよ。怖いのか楽しいのか、どっちなんだろう。


「ひゃわっ、なななな何!?」


突然後ろから制服の襟を引っ張られて、制服の中に何か冷たい物が入れられた。


「やっ、ひぅ、取って取って早きゅ」


「ただの氷だよ。服をバサバサやってれば落ちるんだから。あれ? やば、キャミの中に入ったか」


綾花がキャミソールの中に入った氷を取ってくれたけど、突然服を引っ張られたのと、背中を伝う氷の冷たさに驚いて腰が抜けてしまって立てないので、ビーチマットに座ったまま、横に来た理子の方に顔を向け、見上げて睨み付けた。


理子の顔が少しずつ赤くなり、右手をグーにしてプルプルしてる。怒らせちゃった? 


「だめだ。限界。彩乃。覚悟。いいな」


飛びかかって来る。

怖くて目を閉じ、殴られる衝撃に身構えるけど、腰が抜けて座り込んでいる僕が、立ってて飛びかかってくる理子の力に抗うことなんて無理だった。


「きゃー、痛い。痛いって。理子さんも綾乃も早くどいて。おーもーいーー」


理子は殴りかかって来たんじゃなくて抱き付いて来た。

でも勢いに押し倒されちゃったんだよね。隣に座ってる綾花を巻き込んで。


謝りながら僕の手を引いて立たせてくれたけど、またペタンとその場に座り込んでしまった。また腰が……うう。


「左肘が痛い。血は出てないけど、擦って赤くなっててヒリヒリする。もうっ、今のは綾乃が悪いんだからね」



「え? なんで僕? イタズラされて押し倒された僕じゃなくて、悪いのはリコ……理子なのに……」


ついリコって言っちゃって、睨まれて慌てて言い直した。理子怖い。


「今のは綾乃が悪い! 女のあたしでも耐えられなかったんだからな。綾乃、絶対あれは男にやるな。襲われても文句言えないよ。それより綾花は大丈夫か?」


触ったり服が擦れたりしなければ平気みたいなので、理子と部屋に戻って絆創膏貼る事にしたみたい。

先に部屋に戻ってるって伝言頼まれたから、友美達待ってなきゃいけなくなっちゃった。

僕たちもいつまでも浜辺にいてもやることないし、戻りたかったのに。


しばらくして友美達が休憩に戻ってきたので聞いてみたら二人も戻るって。簡易シャワーで潮と砂落としてから行くから先に行っててって言われたので、僕と碧と小夜ちゃんの三人で先に戻ろうかな。

この下に本文中に載せなかった訳を書いています。登場人物と同じように知らないままの展開を望む方は、これよりスクロールしないようにご注意下さい。






















「あ、そうそう。あの子達食べきれないはずだから、残してしまった分はオレが払うよ」


なぜこの人は他人のお会計まで気にかけたのでしょうか?


その理由は少し先の投稿分で。

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