#002 理子の部屋
「ここがあたしの部屋。さ、入って」
言いながら部屋に入っていく理子。僕達も後に続く。
「んじゃ、碧はこっちで綾乃はこっち」
部屋の小さなテーブルを挟んで、僕たちは向い合って座らされた。理子はベッドに腰掛ける。
暫く続く沈黙の時間………
「死神ちゃんも。そんなとこにいないで、こっちに座りなよ」
理子の視線の先、ドアの前に小夜が立っている。左手でポフポフとベッドを叩きながら小夜に声をかけた。
小夜が座ると理子が立ち上がった。
「飲み物取ってくるから。その間に何でもいいから話してなよ」
言いながら理子が部屋を出て行く。ドアを開けたままなのは何か意味があるのだろうか?
残された僕たちは、何を話せばいいのかわからずに沈黙が続く。僕は時々「あ、あの…」と言うのが精一杯で、後の言葉が続かない。
気まずくて部屋の入口を見ながら願う。理子早く戻って来て…。
願いが通じたかのようなタイミングで理子が戻って来た。紙コップと雨印コーヒーの一リットルパックを持っている。
理子がそれを注いで僕達の前に置く。小夜にも渡そうとする。小夜は受け取らないで首を小さく横に振った。
「私達はこの世界の物に触れることができないので……」
理子は肩を小さく竦めて、それを一口飲み、テーブルに置いた。そして言う。
「もう一回魂を抜いて、本来の体に戻せば解決するんじゃないのか?」
小夜が顔を理子に向け、小さく言った。
「二回魂を抜くことはできないんです。そうすると本当に死んじゃうから。次にそれができるのは本当に命日になる時だけなんです」
「そうか」
また続く沈黙。僕は理子が注いでくれたコーヒーに手を伸ばす。目の前の僕もそれを飲んだ。甘い。少し気持ちが落ち着いてきた。
「じゃ、このまま生活していくしかないって事だな。まずお互いの情報交換したらどうだ?」
言われて気づく。そう言えば僕たちはお互いの事を知らないままでした。
僕たちはお互いを見つめる。先に話し出したのは目の前の僕でした。
「ボクは北村綾乃です。東高の三年一組で、双子の妹が三年二組にいます。妹は綾花です」
「僕は小木曽碧。西高三年一組。一年一組に妹の悠が通ってるんだけどそんなに仲は良くないかな?」
コーヒーを一口飲み、話を続ける
「まあ、完全に口聞かないって程じゃないけど、必要な時にだけ会話するって感じ。悠からは碧兄って呼ばれてる」
静かにコーヒーを飲みながら僕達を見ていた理子が口を開く。
「そう言えば二人共妹がいたんだっけ。ここに呼んで事情を話たほうがいいな。それと…」
残ったコーヒーを飲み干し、再び
「こっちの碧…ああ、いいや。ややこしいから外見で呼ぶわ。綾乃の方はあたしが助けることができるからいいとして、碧の方を助けてくれそうな友達、誰かいないか? 何があっても裏切らない、信頼できるやつ」
そう言って理子が僕を見る。数人の男友達の名前を出すが、全て首を横に振られた。
「あのなあ…中は綾乃で女の子なんだよ? ここで味方になってくれそうな人って言えば女子に決まってるだろーが」
それもそうだ。誰かいたかな? と暫く考える。状況を詳しく話しても理解してくれて、綾乃さんの味方になってくれて信頼できる女子…ん!?
「桐生とか?」
僕が真っ先に思いついた女の子の名前を出す。桐生希美。やはり同じ中学の出身で、僕が理子と友達になる切っ掛けを作ってくれた子。理子をみんながリコと間違えて読んだ中でただ一人ミチコと読めた子。それが切っ掛けで理子と親友になったらしい。結局、ミチコと呼び続けたのは彼女だけだったんだけど。
「いいね、希美なら信頼できるし心強い。あたしが希美を呼び出すから、二人はそれぞれ自分の妹を…そうだな、駅前のコンビニ、ミニステップに呼び出してよ。希美と合流したら迎えに行くから」
言いながら理子が携帯を取り出し、希美に電話を掛ける。僕は悠に、綾乃さんは綾花さんに電話してミニステップへ来るように伝える。綾乃さんはすぐに電話を切ったので簡単に誘えたらしい。僕は数分のやりとりをしてやっと電話を切る。
「二人共OKかな?」
僕達は頷く。
「さて、と。迎えに行くから二人はもう少し情報交換してなよ。死神ちゃんもそこで待っててな」
小夜が頷くのを確認すると理子が僕達を見つめる。少し悩んだ様子を見せた後、今度は部屋を出るとドアを閉めた。