#019 鋭いな
理子視点で展開します。
「イヤになるくらいのいい天気だ。待ち合わせ場所に失敗した気がする」
今あたしは、綾乃になった碧と最初に会った公園にいる。
買い物に行くための待ち合わせなんだけど、綾乃と綾花がまだなので二人を待っている。
一番先に来ていたのは、やっぱり碧になった綾乃。体は変わっても、待ち合わせの時間よりずっと早く来る性格は変わらないようだな。今は九時五十分。
十時の待ち合わせを三十分遅く伝えていたのに、あたしより先に来てるんだから驚くよ、ホント。希美はあたしとほとんど同時だったけど。
「暑いよねー。この暑い中で碧ちゃんはどれくらいいたのか気になるけど、聞くのが怖いから聞かない。あ、来たよ」
振り返ると、綾花が手を振りながら歩いてきた。
「お待たせー。あやが選んだ服ぜーんぶ嫌がるから、準備に時間かかっちゃった。遅くなってごめんねー」
言いながら公園に設置されている時計を確認する綾花。あたしもつられて見ると十時ちょうどを指していた。
「だってスカートとかワンピースしか出してくれないから。スカートは制服だけでいいよ。もうあんな思いするの・・・」
最後の方は聞き取れないくらい小さい声だったけど、言いたい事はわかった。かなりショックだったんだ。あれ。
「それでカラパンとTシャツにしたわけね。カーデ追加するだけでかなり違うな」
色違いの同じ服装で揃えるのは昔からだけど、今もそうするってことは、綾花にはやっぱり、今の綾乃も綾乃なんだな。
「カーデはワンピに合わせたかったんだけど、綾乃が嫌がるがらカラパンにしちゃった。悪くないでしょ?」
悪くないどころか、めちゃくちゃかわいい。
「うん。凄くかわいい。カーデっていろんな着方できて、印象も凄く変わるから便利だよね。あ、碧ちゃん大丈夫?」
碧の肌が少し赤くなっているのに気づいた希美が、
「碧ちゃんが心配だから移動しない?」と言ったので、碧の火照った体を冷せる場所を探しながら移動することにした。
とりあえずってことでヤックにやってきた。ヤックだったりヤクドだったり、地域で略称が変わるヤクドナルド。シェイクやソフトクリームが安いのでよく来るけど、最初からここで待ち合わせにしとくんだった。エアコン効いてて快適だし。
「碧ちゃん元気ないけど平気? 暑さにやられた?」
「ごめんなさい。ちょっと考え事してただけ……」
「そう? 無理しないで、気持ち悪くなったらすぐ言ってね。はい、シェイク」
代表で注文してきたバニラシェイクをみんなに配る希美。
注文は代表がするもんだよな。数人のグループで来店して別々に注文して、カウンター前からどかない連中は蹴飛ばしたくなるよ。
「それとね、みんなにプレゼント。碧ちゃん左手出してっ」
差し出された左手首に何かを付けた。あれはブレスレットかな。
碧、綾乃、綾花ときて次にあたしにも付けてくれた。
碧に黄緑色、綾乃には青色、綾花に緑色、あたしと希美は赤色。
あと二本、オレンジ色の物もあったのは芹佳たちのかな。
「青と緑は同じ色 なんてのがネットにあったから、碧ちゃんたちのはそれにしちゃった。みんなそれぞれのイニシャル入りだよ。三人のイニシャルがAなのは作ってて気づいたけど、すごい偶然だね」
言われてみれば、三人のイニシャルはAだ。双子の綾乃たちは当然としても確かにすごい偶然だと思う。
「これってストラップの?」
「うん。これ作った余りでなんとなく作ったんだけど、役にたったよね。ってお店混んできたし、そろそろ移動する?」
席はまだ空きはあるけど、レジ前が混んできたので、シェイクを飲み干して店を出た。
ドラッグストアと百円ショップで買い物したあと、今日のメイン、ファッションセンターしまうまに到着。
ホントは水着も買いたかったけど、碧と綾乃が嫌がったので、下着と服を少し買って終わりにした。沖縄に行くのに水着がないなんてつまんないと思うけど、嫌がるのを無理強いするわけにもいかないから仕方ないな。
帰る途中でカバンに入れてた携帯が鳴り出したので取り出すと、友美からのメールだった。
“今芹佳と一緒だけどちょっと会える?”
希美にまだ時間あるか聞いてみたら大丈夫と頷いたので、ウタックスでいいかな? と返信する。
すぐに“おっけー”と返事が来たので、綾乃たちと別れて来た道を戻り、カラオケウタックスに向かって歩きだした。
「男と同じ部屋にするって、どーゆーことなのって話なの。説明してくれない?」
受付を済ませて部屋に入った途端、早速芹佳の発言はこれだった。まあ、予想してたけど。
「あの小木曽くんってなに? 誰かのカレシなの?」
そうきたか。
「違う違う。同じ中学出身だけど、あたしの彼氏じゃないよ。もちろん希美も違う」
「じゃ、なんで私たちの部屋にするなんて言ったの? あり得ないじゃん」
「でもさ、芹佳反対しなかったじゃん?」
「そんなの田所先生が認めないって思ったからじゃん。OKするなんて先生もあり得ない」
「「まあ、確かに意外だった」」
芹佳以外が同時に呟いて、思わずみんなの顔を見渡してしまう。
「綾乃が男だめなの忘れたの? そうじゃなくても着替えとか寝る時に困るじゃん。友美も嫌でしょ?」
「うーん……他の男子だったら絶対反対してたと思うんだけど、小木曽君はなんか大丈夫なのかなって思って。あ、会うのは初めてだよ。だけど前から知ってる気がしたし、この人なら安心してもいいかなって思えたんだよね。なんでかわかんないけど」
鋭いな、友美。
「それに綾乃も嫌がってなかったし、綾花も賛成してた流れだったから、害がないなら私は別にいいかなって」
「なにそれ。反対してるの私だけ?」
「そう、かな?」
「あーもう、わかった。でも事故でも着替え見られたらすぐ出てってもらうからね」
「碧ちゃん今すっごい悩み抱えてるから知らない人の中に入れたくなかったの。相沢さん、ありがとう」
「芹佳でいいよ」
名前で呼び合うことが決まったら、希美がブレスレットを芹佳と友美に付けてあげてた。早く渡せて良かったと喜んでいる。
場の空気が軽くなったので、あれいけるかな? ちょっと聞いてみるか。
「友美たちは水着買った?」
「買ってないよ」
「よかったらこれから買いに行かないか? せっかくの沖縄だから海も楽しもう」
さっきは綾乃と碧が嫌がったので買わなかったけど、希美も買いたかったらしい。水着も買って揃えるものは全部揃ったし、楽しみだな沖縄。
帰宅してお風呂に入ったあとで芹佳にメールを送っておいた。
“さっきはありがとう。碧なら信じてもいい奴だから安心して”と。
返信で“綾乃が嫌そうにしたらすぐ追い出すからね”と書いてあったけどその心配はないな。今の碧は綾乃なんだから他人がイヤがる事は絶対にしないし。
今の綾乃はホントの綾乃の気持ちも体も大切にしているし、それこそ自分の事よりも気にかけている。とりあえずだけど芹佳が納得してくれたのは大きいと思う。
「……友美の鋭さには驚いたな……」
思わず独り言が漏れてしまった。




