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僕とボク  作者: ドク
12/24

#012 自業自得

綾花さんと並んで家に向かって歩いている。歩調が不規則で歩きにくいはずなのに、僕に歩調を合わせてくれる。すごく時間をかけて家に着いた。家に入るなり部屋に行き、そのままベッドにうつ伏せになる。


「綾乃? もう寝ちゃう?」

「・・・」

「制服……皺になっちゃうから着替えよ?」

「・・・」

「髪ほどくね。おやすみ」


保健室で結い直してもらったポニーテール。

綾花さんは僕の髪をまとめていたゴムを優しく外し、机の上に置いて部屋着に着替え、部屋を出ていった。

ドアが閉まる音を聞いたところまでは覚えてる。その後いつの間にか眠ってしまっていた。




……やの……て。


……あやのおきて。


「ねえ綾乃、朝だよ起きて?」


綾乃さんの声で目を開く。目が腫れてるみたいで重いし視界も狭い。帰ってきてすぐ寝ちゃってそのまま朝を迎えてしまったんだ……。


「ねえ、起きて」


「休みたい。今日休ませて。お願い」


綾花さんは黙ってベッドから離れて机に行き、時間割表を見ながら教科書やノートをカバンに入れていく。

準備が終わると僕の手を引いてリビングに連れ出し、レトルトのお粥をレンジで軽く温めて僕の前に置いた。

……食べたくない。


「少しでもいいから食べて。食べたら行くよ」


食欲はないけど数口食べて手が止まる。

もう食べられないってわかってくれたみたいで、お椀にラップをして冷蔵庫に入れた。


「それじゃ行くよ」


そう言って僕の手を引き、リビングから連れ出した。










学校に着き、一組のドアの前で大きく深呼吸をしてゆっくりドアを開ける。


「綾乃おはよー」

「おっはよー綾乃」


挨拶してくれるみんなにおはようと返しながら席に向かい、心配そうな顔で見てくる理子にも、おはようと挨拶をした。


「今日は休むんじゃないかって心配してたけど、良かったよ来てくれて」


心配かけてごめんなさいと謝ると、謝らなくていいよと笑顔で言ってくれた。


「よお、綾乃。今日は何色のチェックのパンツか見せてくれよ」


理子の隣に座ってる男子がこっちを見て言う。

こいつだ。きっと、こいつ。


「ボクのパンツがそんなに気になるの? 昨日はボクに謝りたいって言ってたって聞いたけど、朝一番の言葉がそれなんだ?」


ボクはその男子を睨みながら言う。理子はその男子を蹴ろうとしてたのをやめてボクを見て、やっぱりだめだったかと呟いた。


あ、もうバレた。さすが理子だなあ。

アヤが頷くと理子は大きく溜め息を吐いて隣の男子を睨みながら言う。


「綾乃は今日休んで正解だったかもな。このバカの言葉を聞かなくて済んだんだから。それで綾花、綾乃はどんな感じだった?」


家に帰ってすぐ、着替える気力もないままベッドに倒れ込んでそのまま、朝まで寝込んでしまったことを話すと、あの男子が項垂(うなだ)れた。


「ホント男子ってバカだよね。好きなら優しくすればいいだけなのにねー」


「こんなことされた女子が自分の事を好きになってくれるなんて思ってるのかな? そんな事絶対ないのにね。嫌いになってくだけなのに。ホント男子ってバカだよね」


アヤたちの話を聞いてた友美と芹佳が、その男子に(さげす)んだ視線を送る。


「綾乃をあんな状態にしたのが誰か調べたくて来たんだけど、こんなに早くわかってよかった。言いたいことがあるからよく聞いて」


あ、いつの間にかクラス全員がアヤたちを見てる。


「これからはもう綾乃に近付かないで。席が近いのは仕方ないけど、休み時間になったらどっか行ってよ。それに絶対話しかけないで。もちろん挨拶も禁止。自分がなにをしたのかわかってるよね?」


少し間をとったけど、なにも言いそうにないから言葉を続ける。


「下着を見られるってそれだけでイヤなのに、教室に戻ってきたらどんなの穿いてたとか言いふらされてるって、どんな気持ちになるかわかる? 夜ご飯も朝ご飯も食べられないくらいショックで寝込んじゃった人に、朝一番でよくあんな事を言えるよね、無神経すぎ」


あ、クラスの女子全員が頷いてる。この男子は女子全員を敵に回したね。全員が綾乃の味方になってくれるかわかんないけど、この空気は心強い。


「みんなも、この男子が綾乃に近づかないように守ってもらえたら嬉しいです」


立ち上がってペコリと頭を下げると「任せとけー」とか「わかったー」と声が上がる。


明日は綾乃を登校させるけど、無理してそうな感じだったら連絡してください、と、理子たちにお願いして、二組の自分の席に向かった。









==========


綾花が出ていった後の教室内は、結託した女子団の変な気迫で包まれている。


綾花は凄いな。完全に碧を綾乃として受け入れているみたいだ。


それにしても……

隣の席でへこんでいるこいつは少し哀れだな。


芹佳と友美が言っていたように、このバカが綾乃を好きだったのは女子全員が気付いていた。気づいていなかったのは綾乃本人だけだったはず。と言ってもこいつが好きだったのは()()()綾乃なわけなんだけど。


綾乃がクラスの男子の名前を覚えなくなったのは、こいつが原因だ。


友美が言うように好きなら優しくすればいい。だけどこいつは綾乃が嫌がる言動を続けた。その度にこいつから綾乃をガードしたのがあたしと芹佳と友美の三人だった。

それからよく話をするようになり、誰に対してもさん付けだった綾乃に「呼び捨てにしなきゃこれからは守ってあげないよ」といたずらっぽく言う友美。


もちろん冗談で言っただけなのに、綾乃は青ざめて「頑張るから見捨てないで」と声を絞り出した。あまりの顔色の変わり様と震えながら泣き出す綾乃に、そっち系は冗談でも言っちゃダメだと、あたし達の固い約束になった。友美も気に病んでしまって、あの時は大変だった。


あたし達の努力をよそに、こいつは綾乃にちょっかいを出し続ける。そして綾乃は男子をさけるようになってしまって数日後、あたし達を呼び捨てで呼ぶようになった。そして徐々に男子の名前を呼ぶことがなくなっていった。


それでもこいつは綾乃の気を引きたいのか、ちょっかいを出し続ける。そして先週の席替えで綾乃の隣に座りたがっていたけど、後の席の人が変わってくれるわけもなく、しかたなくその前、あたしの横で綾乃の斜め前の場所で妥協した。念願の綾乃の近くに席を取れたのに一週間でこの結果。自業自得だから同情はしないけど。


それにしても綾乃と綾花(あおいたち)は完全にお互いを受け入れたな。碧と悠(あやのたち)はどうなんだろうか……

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