完全踏破
最近ダークソウル2で忙しくて、投稿できなかった。
むしろ「呪縛者」というボスが強すぎるのがいけないと思う今日この頃・・・
ザックザックザック
「ふう、大分畑らしくなってきたなあ。」
クワを畑に突きたて、貫は顔を上げた。
首に巻いているタオルで額の汗をぬぐい、擬似的に太陽の光を再現しているダンジョンの天井を見上げ呟く。
今貫が畑仕事に精を出しているのは、当初設置した森の部屋、であった場所である。
そこは初期の20倍まで拡張し、小川や丘、岩場などのオブジェクトまた繁殖した動植物達により既に別物となっている。
もしも何も知らない人間がこの部屋を見たら、ダンジョンの壁を見ない限り室内と気づくことはないだろう。
何故、森が大森林にレベルアップしているのか?
その理由は、ダンジョンを解放して17日目、つまり貫のような例外を除けば三期生のダンジョンが一斉に解放される日に遡る。
「うん、うん、順調にダンジョンも森も成長しているな!他のダンジョンもついに明日開放される。最悪このダンジョンも発見される恐れがあるけど、なんとか最低限の戦力は揃えられたし、あとは継続して目立たないようにして出来るだけ発見を遅らせるよう頑張ろう!」
貫はPCに映し出される自分のモンスターたちの数に満足していた。
現在、自分のモンスターは
・アメーバー 600匹
・大ムカデ 450匹
・ローパー 300匹
という大群に成長しており、一匹一匹は弱いものの数に物を言わせればよっぽどのことがない限り負けることはないだろう。
またつい先日新たなモンスターを生み出すことに成功した。
・ボーン 20P
生物の骨をベースに魔力や瘴気が集まって発生するモンスター。
アンデットであるため、眠らず休まず恐れず戦い続けることができる。
骨だけであるため、多少非力だあるがその分敏捷性が上がっている。
ベースになった骨により能力が変化するが、ほとんど影響は受けない。
知能は子供程度で日光に対して凄まじい脆弱性を持つ。
※ベースになる骨がある場合は5Pで生み出すことが出来る。
・ゴブリン 8P
亜人族に分類されるモンスター。
身体能力、知能ともに子供程度の雑魚モンスターであるが、意外と手先は器用である。
繁殖能力が高く、人間やほかの種族のメスとも生殖が可能である。
その為、よく初心者冒険者の登竜門として間引かれる哀れなオ存在。
そう新しいモンスターはこの2体。
ボーンはおそらく先日下水道内で倒した浮浪者の遺体から生まれたモンスターだろう。
ゴブリンは緑色の皮膚をした猿みたいな奴で、ある日PCを見ると生み出せるようになっていた。
俺は即座に下水道内で発生したボーン12体を森に呼び寄せ、また同時にゴブリンを雌雄で5体ずつ召喚した。
とりあえず感想としては、あのグロモンスターたちと比較して全然まともということである。なぜならボーンは骨なので不気味ではあるものの、ネチャネチャもウニョウニョも
していないので精神衛生上問題ないし、ゴブリンも猿みたいなので貫にとっては唯のキモカワマスコット程度の感覚である。
よし!まともに見れるこいつらには、前々から考えていた計画のために協力させて、とりあえずゴブリン達には自分たちの住処を作らせて繁殖と訓練を中心に育成しよう。
食料に関しては、タブレットを大量に使用した泉の水で育ったせいかこの森は恐ろしく成長が早い。果実も大きく、採取しても数日でまた生えてくるので問題ないしな。
後はボーンは俺の護衛とゴブリン達の教官をやってもらおう。
ボーンは不眠不休で動けるっぽいし、畑の開墾や夜間にでも外部の森から小動物とか運び込んでもらって森の整備とかやらしても良いかもしれない。
(ダンジョンの入口は最低1箇所設ける必要があるが、複数も受けることは可能である。)
「お前たち、よ~く聞いてくれ。ゴブリンはまず自分たちの住処を作るんだ。食料は自由に取っていいが、取りすぎるなよ?そしたら繁殖や訓練をして過ごしてくれ。
ボーンはゴブリン達を鍛えてくれ。時間は後で決めるんで、後は・・・森の整備や畑の手入れを手伝ってくれ。OKか?」
ゴブリン達はギャッ、ギャっと頷き、ボーンたちはカッカッカッカッと顎を鳴らして了解?の意を示し、彼らはそれぞれ森の中に進んでいく。
本当にグロくないモンスターを仲間に出来て良かった。
貫はそんな彼らに感謝しながら、また畑仕事を再開しようと鍬を振り上げた瞬間――
「アメーバー257匹、大ムカデ200匹、ローパー92匹死亡しました。」
「ファッ!?」
突然のインフォメーションに腕からクワがすっぽ抜け、近くにいた不幸なボーンの頭蓋骨をかち割った。
貫は急遽散会させたばかりのゴブリンたちとボーンたちを呼び戻し、コアにモンスターの大量死亡について情報収集を行った。
「どういうことだ!?なんでイキナリそんな大量にモンスターが死ぬんだ!?敵か!?」
「いいえ昆虫、小動物を除いて侵入者は確認されません。・・・モンスターたちは下水道エリアの北側、未踏破エリアに入った群れが死亡した模様です。下水道エリアの為、詳細は確認できません。」
「一斉に死んだのに、侵入者じゃない?毒を持った虫とか居るのか?」
「不明です。」
毒。
古今東西、どんな強力な生物も小さな動植物の毒に死ぬことは多々ある。
蛇然り、蜘蛛然りである。
この世界ではどうなのか知らないが、毒というのは割とありえるかもしれない。
なにせこの下水道は不衛生な上に、上の研究都市から青とか赤とかよく分からない色の
薬品が大量に排出されているのだ。それらが化学反応を起こして猛毒が発生していたとしても不思議ではない。
おおかた凄いスピードで餌を食い荒らしながら、モンスター共が毒か何かが発生しているエリアに突っ込んだのだろう。
貫はある程度説得力のある結論を思いつき、少し落ち着きを取り戻した。
たが落ち着いてさらに思考すると、今度は早急に調査が必要なのではないか?と感じた。
もし毒ではないナニカが原因ならば、下手すると自分にも被害が及ぶかも知れない。
貫は少し考えたあと自分の部屋に戻り、ある物を引っ張り出す。
そしてそれをボーンに渡し、調査を命じた。
暗くジメジメした下水道内をボーン2匹とその前を移動するアメーバー1匹の計3匹が移動していた。ボーンの内1匹はハンディタイプのビデオカメラ(何故か防水仕様)を手に持ち、手製のアンテナのようなものを背負っている。
もう一体は懐中電灯を持っており、己のマスターのために進行方向を照らし出していた。
あの後、貫は部屋の中に死蔵してあったビデオカメラなどの機器を引っ張り出してボーンに装備させた。貫は下水道内の現状を知りたかっが、下水道内は汚く毒の危険性も考えられたので、毒のきかないボーンを調査員に仕立て上げて画面越しに現状を確認しようと考えたのだ。
脱線するが、何故このような物があるかというと貫には色々なものを通販で買って興味をなくすという悪癖があるためである。ちなみに今回ビデオカメラと一緒に引っ張り出されたアブトロニックやプロテインなどのトレーニング用品現在はゴブリン達に渡されてたりする。
ジャバジャバ
水をかき分けてボーンたちは進む。
「画面良好。骨男もう少しカメラを高く上げてくれ、・・よしよく見えるぞ。そのままで頼む。」
貫は画面越しに骨男(ボーンに命名)達に指示を行い、画面に映し出される下水道内の様子を確認する。最初こそ汚い下水道であったがしばらく進んでいくと死骸や汚物など有機的なゴミが少ないことに気づく。おそらくモンスターたちが餌として食べているのだろう。
なんとなくエコだな、と貫は考えていると徐々に水や空気の色が赤や緑など原色がかっていった。
「まるで中国じゃないか・・・。地球なら一発でマスコミに叩かれてるレベルじゃないか。中国かよ・・・。」
そのまま更に北の未踏破エリアに進んでいく。
進んでいくと徐々に先行していたアメーバーの動きが鈍くなっていく。
どうやら生命力に優れているアメーバーでも影響を及ぼすほどの重度の有害地域のようだ。
どうやら開けた場所に出たようだ。
水深もこの先は人間が完全に沈むほど深くなっており、貯水池のようだ。
そこは様々な原色がマーブルのようになっており、貫のモンスターたちの死体が其処ら中に浮かんでいる。道案内のアメーバーも弱っているのでどうやらココが問題のエリアのようだ。
貫はアメーバーに退避を命じると、骨男達に調査を命じる。
そこは水深の深い貯水池となっており、東京地下にある水路のように太く巨大な柱が何百本も立っている。それだけ巨大な柱が立っているのにも関わらず全く狭く感じないのは恐ろしく広い空間だからだろう。
天井付近には配管が何本も突き出ており、そこから様々な色の排水が出てくる。
希に固形物というか、鉱物や死骸のようなものも流れ込んでくる。
「これは酷い。」
貫はその光景を見てドン引きしていた。
これは酷い。
水も空気も得体の知れないものに汚染されており、自分のダンジョンより凶悪なのでは?と真剣に感じてしまった。
またこの世界は公害という概念がないのだろうか、てか今までよく問題発生しなかったな研究都市ェなどと現実逃避してしまった。
「これは下水道内の北側は調査できないな。アメーバー達は他のエリア探索に回して、ダンジョン内の整備に力を注ぐしかないなあ。」
貫は頭を掻く。
本来はこの下水道全域を網羅して更にモンスターを大群にする予定であったのだ
しかし、こんな「環境保護?何それ?美味しいのwww」のような状況では立ち入ることすら難しい。
貫は予定が狂ったことに凹みながらこういった危険区域を避けて可能な限り繁殖させること、そしてゴブリンなど他のマシなモンスターを増やしてダンジョン内を整備しようと方針を変更した。
これが現在から1か月前、ダンジョン開放の前日の話である。
ダンジョン開放の当日はモンスターを配置し警戒していたが、侵入者などなくいつも通りの一日であった。
ただ掲示板を覗くとこの一日で50を超えるダンジョンが落ちていた。
第三期生ダンジョンの総数から見ると少ないように感じるが、まだ発見されていないものや派手にやりすぎてこれから上位の冒険者がやってくるようなモノもあることを考えるとこれから一気に第三期生ダンジョンは振るいにかけられるだろう。
実際今日までで少なくないダンジョンが既に落とされている。
また掲示板で外部に調査に出たDM、通称【詐欺】さんによると外は新しいダンジョンが続々と発見され冒険者やそれに付随する技術、流通など活発化しているらしい。
まあ貫は冒険者に発見されず、下水道内の大量に沸いてくる生物たちでDPを稼いでいるのでそこまで焦っておらず、この1ヶ月間情報収集やダンジョン内の整備に尽力していたが。
「・・・だけどそろそろ潮時だろうな。」
貫は難しい顔になる。
つい先日侵食が完全に進み、下水道内の状況をダンジョンコアによって把握できるようになってしまった。更に下水道内にてモンスターたちによる全域踏破が達成してしまった。
それ自体は喜ばしいし、今後の事を考えると下水道内の状況が分かるのは好ましい。
問題なのは【完全踏破】。
そう完全踏破である。
汚染によってモンスターの進行を妨げられていたにも関わらず、踏破してしまったのだ。
その為、徐々にモンスターたちが下水道内の生物を食い尽くし、現在は当初に比べてDPの上がりが少ない。単純に繁殖や生存のためならばモンスターたちも汚物などを栄養にして可能だし、自分やゴブリンも現状は森の恵みで可能なのだがDPの供給が滞るのは死活問題である。
更に下水道のダンジョン化で判明したことだが、どうも定期的に浮浪者と思って撃破していたのが各国の密偵や裏の人間だったようで、そんなある程度腕が立つであろう人間全てをモンスターたちが大群で蹂躙してしまったのだ。
近くダンジョンが発生したことがバレる、いや既に疑いくらいは持っているだろう。
「戦力もDPも十分ある。そろそろ活発に動き出すか・・・。」
貫は考える。
もう既にダンジョンを隠すなんてことは不可能だろう、と。
ついでダンジョンを本格的に造り変えなければ、自分も他のDMみたいに殺されてしまう。
今が今後の命運を決める岐路なのだろうと、と。
何より現状の戦力、新たに進化したモンスターの大群ならば数の暴力とエゲツナイ特性で勝てると踏んだ。
貫はクワをゴブリンに預けて自分の部屋に戻る。
そしてそれから僅か1日でダンジョンを作り変えた。