ダンジョン開放
癒しのある毎日
次の日の朝起きるとよく知らない称号を入手していた。
入手条件を見て納得したが、今回はDPが増えていなかった。
残念ではあるが、どの程度かわからないものの食料の供給率が上がる称号を
得たのはこれからのことを考えると喜ばしいことだ。
「とりあえず現在の状況はどうなっている?」
PCを立ち上げながら、コアに質問する。
「現在アメーバーが150匹、大ムカデが70匹、ローパーが28匹です。」
「順調だけど、昨日のあれが増えてるのか・・・。DPがもうないんだけど何か入手する方法は?」
「ダンジョンの早期解放によるボーナスもしくはクエストクリアの報酬で入手できます。・・・あなたはクエスト【モンスターを繁殖させる】をクリアしたため50DP得ました。」
「お!増えた!早期解放ボーナスとかあるのか。しかし50DPはまだ心もと
ないなあ。」
いつのまにかDPを入手していたのは良い誤算だがまだまだ足りない。
なぜなら冷蔵庫の食料ももってあと2日分しかない。
正直ダンジョン云々前に餓死するかもしれないそ、これ。
その後、俺はシャワーを浴びて森の部の様子を見に行った。
森の部屋は1辺2km程の正方形をした部屋で、様々な樹木が生えている。
森の中央部付近に昨日配置した林檎の木とかもあるらしいので、まずは食料を確保してからこれからの事を考えよう。
「うおお、本当に森だな。凄いな・・・。」
そう森に入って30分ほど歩いているが、本物の森と全く同じだ。
直接見ていないが、そこかしこから生き物の気配を感じる。
森林セラピー?というのだろうか。
昨日の地獄絵図で荒んだ心が癒されていく気がする。
しばらくの間、貫は地球でも滅多に見ることのない美しい景色を楽しんでいた。
SAN値を回復しながら森の中央部まで来ると林檎の木が群生しているエリアに
着いた。
「おおお・・・!!」
そこには特に美しい光景が広がっており、貫は後にこう語る。
「――そこは数多くの林檎の木が立っており、甘く爽やかな匂いが香っていた。
暖かい日差しの下、リスや小鳥などの小動物や蝶などの虫が生き生きと活動
しており、少し離れた小川では豚と思わしき生き物が水を飲んでいる。
まるで物語に出てくる理想郷のようだった。」
貫は地球では見ることのなかった美しい風景に知らず知らず涙を流していた。
しばらくその風景に目を奪われていると、ふと林檎エリアの奥に一際立派な林檎の木が立っていることに気づいた。それはほかと見比べても一回り以上大きく、赤く大きな林檎の実がいくつも生っている。
なにげに根元に「たぶれっと」と刻まれているが、貫はこの時気付かなかった。
「凄いな・・・。」
貫はおもむろにその大樹に近づいて手を伸ばし、林檎を一つ捥ぐ。
林檎は表面をシャツで軽く拭くと、赤く輝いてルビーのようだ。
貫はそのまま林檎を口元に持っていき、齧る。
シャリッ。
「・・・・・・・う―――ま―――い―――ぞおおおおおお!!」
貫の目と口から光が溢れ出す。(※イメージです)
それは今まで食べた林檎とは明らかに別物であった。
ひと口食べた瞬間、芳醇な甘味と酸味、爽やかな風味が口いっぱいに広がる。
体中に活力が溢れ、気分が高揚する。
その時、貫は涙を流したまま、急に笑い出した。
新しい環境に放り出されて知らず知らずに溜まったストレス。
グロい召喚モンスターによるSAN値の減少。
今まで気にしないようにしていた殺すこと、死ぬことへの恐怖。
そして初めて見る人々の想像だけに出てくるような生き生きとした森への感動や
素晴らしい林檎の味への喜び。
もしも貫が調整を受けていたらここまで精神に負担を掛けなかっただろう。
だが現実は林檎をきっかけに貫の脳裏に色々な感情が溢れ出し、遂に何かがリミットブレイクしてしまった。
「決めた。絶対ダンジョン守る。この森守る。俺ウソツカナイ。」
リミットブレイクして、テンションがおかしくなった貫は大樹に頭を下げて、
もう二、三個林檎をもぐと、懐に抱えて部屋に戻った。
それからの貫は異常といっても差し支えない勢いで熱心にコアや掲示板から情報を収集した。
ある時は有用そうな情報はメモを取り、またある時はダンジョンの構成をスケッチして何通りも考えたりと貫は貪欲にダンジョンを考える。
例えばある時、掲示板にダンジョンの立地条件の重要性に関する記事を見てからはこの世界の情勢にも目を向けた。
ダンジョンにとっての立地条件とは「侵入者がよく来る。」ということである。
他にも「強すぎる敵がいない」「ダンジョンの強化もひつようだが、ある程度餌になるよう甘い蜜も必要となる」など追加事項はあるが究極的にはこの「侵入者がよく来る。」ということが必要事項である。
貫は熱心に世界情勢を確認するとともに、ダンジョンの構成、入り口の設置箇所の条件などを確認していった。
その過程で貫はひとつの都市に目を付ける。
【研究都市 アントリム】
今更ながらではあるが、この世界【ヴァルガンス】はいくつもの国家が存在する。
といっても小国家、中国家は数多くあれど大国と呼ばれるものは4つしかない。
地球のユーラシア大陸とほぼ同じ位置にある【ラクア】大陸
その西に位置する【レゾロネン帝国】、東に位置する【リヴァネ王国】、その2国の国境付近南側に位置する【宗教自治区フェルラー】
また地球の南北アメリカ大陸にあたる【フィクローブ大陸】の【レキリン共和国】の4つである。
それらの国家の細かい歴史などは割愛するが、現在【レゾロネン帝国】と【リヴァネ王国】の2大国の勢力はほぼ同等で周辺の小国たちが取り巻きのように点在しており、地球で言うソ連とアメリカの冷戦のような状態となっている。
また【宗教自治区フェルラー】は一応【リヴァネ王国】の1都市ではあるが実情は完全に独立国家の様相で、独自の戦力及び宗教的影響力を【ラクア】大陸全土に持っている。
しかしそれも強大ではあるが、2大国と比べればとても独立を維持できるものではない。
それを可能としているのが多くの【異世界人】の存在である。
彼らはフェルラー内の古代神殿の転移陣が不定期に起動し、召喚されるモノたちである。
彼らは全員この世界にない技術や強力な力を持っているため、フェルラー内では
高待遇を受けており、フェルラーは彼らの力を取り込むことで2大国と勢力を均衡させている。
まあ裏話をいうと彼らも要は「異世界の活性化」の為に【管理者】によって呼ばれているのだが、彼らは自分の役割を知らないまま召喚されている。
最後に【レキリン共和国】
ここはいくつかの国家の集合体で構成されており、ほかの3国に比べても頭ひとつ飛び抜けた勢力を誇る。
ただ海を挟んでいるため、今のところ【ラクア】大陸に対して何か行おうと考えていないようだ。単に国家同士の権力闘争とかでそんな余裕がないだけかもしれないが。
さて肝心の【研究都市 アントリム】
ここは元々【レゾロネン帝国】と【リヴァネ王国】の2大国の間に挟まれていた
【エルウリ】という小国が存在した。
その国はこの世界に呼ばれた【異世界者】の一人が建国した国でかつては魔法の
研究が盛んだったらしい。
しかし戦乱の中、王族は一族郎党全滅してしまい、現在は2大国の中心に位置するため、「平和のシンボル」「技術交換」という名目で様々な研究を行う(裏ではお互いの技術をしらべ合う)【研究都市 アントリム】に生まれ変わった。。
貫は最後にもう一度自分のプランを確認する。
そしていくつかのクエストをクリアすることで得たDPを確認し、ダンジョンの解放を行う。
「入り口は【研究都市 アントリム】の地下下水道中央部、タイプは侵食型だ。同時に湿地帯の部屋を2階層、森とこの部屋を3階層として作成。」
「・・・準備完了しました。早期開放となりますがよろしいですか?」
「・・・少し待ってもらっていい?」
準備や事前調査をしっかり行っていたがやはり不安のようだ。
貫はもう一度掲示板などを見たあと、林檎を齧って、落ち着く。
「格好つかないなあ、俺。 それではダンジョン開放!」
高らかに宣言したあと、【ヴァルガンス】にダンジョンがまたひとつ誕生した。
ダンジョン開放後、貫はまずPCを立ち上げ、DPを確認した。
「隠しクエスト【早期解放】をクリアしました。残り日数×100のDPを支給されます。解放日17日前の解放の為、1700P支給されます。」
かなりのDPを得た。
やはり危険はあったが早期解放はクエスト扱いだったようだ。
かなりの高収入・・・なのか?早期解放の危険度を考えるとそうでもないか?
貫のダンジョンは侵食型と創造型の混合で一種の特殊型である。
メリットとして一階層は低コストで大規模のものを作成することが出来、また2階層以降は創造型のメリットをそのまま得ることが出来る。
そこだけ聞くと侵食型と創造型の良い所どりのようだが、もちろんデメリットも
存在する。
まず不完全な侵食のため、1階層に関してはダンジョンとしては中途半端なものとなってしまっている。
その結果、ダンジョン内の変更も出来ないし、多少頑丈になっているが壁など破壊されたらそのままである。また本来ならばダンジョンマスターはダンジョン内を監視できるのだが、1階層に関しては監視が出来ないため侵入者が来ても察知できない。
それらのメリットとデメリットが極端なダンジョンを作成するため、貫はそのデメリットを補うために、人に見つからない、されど人に近い場所を探した。
しかしそんな都合のいい場所は見つからず、貫は何日もPCにかじりつき探した。いい場所を見つけても他のマスターが既にダンジョンを設けていたり、何かしらの問題があり、設置できないということが多々あった。
それでも探し続け、いい加減心が折れ始めた頃、貫は遂に理想の立地条件である
【研究都市 アントリム】の地下に広がる天然の迷路、地下下水道網を探し当てたのである。
「2階層から全モンスターを1階層に移動して自由にしていいぞ。いやローパーは1体だけ残って下水道から入ってくる生き物を倒せ。他の奴らは絶対に地上に上がって人に見つかるなよ。」
2階層から繁殖して大群となったモンスターたちが下水道内に這い出ていく。
彼らはここ数日湿地帯に餌がなくなり、更に貫によって共食いを禁止されていたので飢えに飢えていた。
その結果、這い出ていくスピードは凄まじく、即座に下水道内にいたネズミや虫の断末魔の鳴き声が聞こえてくる。
「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
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「侵入者を撃退しました。DP、経験値が入ります。」
コアで聞いた通り元々下水道内にいた生き物たちは侵入者扱いのようだ。
仮に普通の森でこんなことをやった場合、強い生き物などごまんといるのでうまくいかないし、弱い存在だけ倒しても生態系が狂ってすぐに人間に気づかれる。
しかし下水道ならば汚いが汚物等で栄養は豊富なので虫やネズミなどいくら殺しても湧いてくる。
それに殺しすぎてもおそらく直接見られなければ上の人間に気づかれることはないだろう。
人間も好き好んで来ることもないだろうし、塵も積もれば何とやら、ダンジョンが十分成長するまで稼がせてもらおう。
「すごい勢いで増えていくな。」
貫はそう呟きながら、椅子から腰を上げるとジャージに着替えて森に出る。
森の中をしばらく歩き、小川の上流で貫は足を止める。
そのまま中空を見ながら呟く。
「オープン」
声とともにPCのデスクトップ画面が空中に浮かぶ。
なんどか試行錯誤しているうちに気づいたのだが、ダンジョン内ならばどこにいても操作できるらしい。
「ここに泉を設置、魚を各種、番で召喚。他にも森の生態系を再現するために各所に動植物を召喚できるか?おまかせで。」
「可能です。」
「じゃあDP2000P以内で可能な限り頼む。」
「1999P使用しました。」
「OK。続いて泉にライフタブレットを4個、魔力タブレットを5個使用。」
「完了しました。」
「更に湿地帯の泉にも瘴気タブレットを2個ずつ使用、んで1個待機中のローパーに使用。」
「完了しました。」
「とりあえずはこれで終わりだ。もし人とか侵入したら報告してくれ。小動物とかは知らせなくてもいい。」
「了解しました。」
そういうと貫はDPを使用して生み出したクワなどの農具を装備すると畑を耕し出した。