初めての侵入者 中編
そこは以前中国のようだ、と感じた汚染区域であった。
おそらく地上のアントリムの研究所からの様々な薬品や得体の知れない物質が多く廃棄されているであろう場所で以前見た時と同様人一人浸かるほどの深さで赤や緑の原色色をしている水が溜まっており、水面から同じような色の蒸気が上がっている。
今回スパルトイをリーダーとしたスケルトン軍団を送り込んだため問題ないが、ほかのモンスターでは生命力に優れたアメーバーといえども長くはもたないと思われる。
「しかしそんなエリアにどうやってアイツ等は入ったんだ?スケルトンでもないとこんな所保たないと思うんだがなあ。」
試しにコアに聞いてみるとどうも何かしらの魔法により毒を無効化し、さらに壁近傍の水深の浅い場所に沿って侵入者は奥へ探索に行ったようだ。
どうやらこの世界の魔法は自分の予想以上に色々なことができるようである。
未だに魔法についてよく知らないが、今回湿地帯で捕虜を得ることができたのは本当に幸運だったようだ。
今回の件が終わったら生き残るためにも絶対研究しようと貫は心の中で決意していた。。
「スパルトイ、スケルトン達を指揮して侵入者を倒せ。人数は18人。みんなお前ほどじゃないが中々の手練のようだから注意しろ。特にリーダー格は同格と思って動いてくれ。」
貫からの指示を聞いてスパルトイ達はカッカッカと顎骨を鳴らして陣形を組む。スケルトン・ファイター2体を前衛、アーチャー、ソーサラー、クレリックそれぞれ一体が後衛、中央にスパルトイという形である。
また周囲には隊列を組んだ粗末な槍を装備したスケルトンが10体、少し距離があけたところにアサシンも潜んでいるというこのダンジョンの全スケルトン種を投入した陣形である。
「・・・最悪やつらのバフが解けるまで時間稼ぎをしろ。お前たちと違って毒ガスで奴らはダメージを負うからな。一番注意するのはお前達の全滅と奴らを逃がすことだ。」
寛は指示を出し終え、PCチェアに座りながら、ウインドウを注視する。
無意識に吹き出た汗でいつのまにか貫の手は濡れていた。
彼は考える。
自分の名前はスパルトイ、固有名はなく種族名だ。
自分は半月ほど前にダンジョンマスターの手で生み出されたモンスターだ。
埋め込まれた知識によると、自分はマスターによって殺された侵入者の遺体を元に作成されたらしい。
スパルトイ自身、おそらく自分の元になった侵入者は並以上に有能で、また何かしらの強い想いを残して死んだのだろうと考えていた。
なぜなら自分は生み出された時から並のスケルトンを凌駕しており、すぐにスパルトイという上位種族に成ることができたのもそれが理由だと彼は考えていたからだ。
彼はこれから始まる戦いで自分の力を振えることに高揚していた。
さて、マスターの命令を受けて出来るだけ静かに水位の浅い部分を進むこと約30分。
ようやくかなり奥の方に灯りが見えてきた。
どうやらやっと侵入者に追いついたようだ。
マスターからは手練ばかり18人、しかも様々な職業のものが集まっているため、人数以上に手ごわい相手になりそうだ、という情報を得ている。
どう攻めれば効果的だろうか?
そんなことを考えているとふとスパルトイは脳裏にいくつもの言葉がよぎる。
『囲めばいい。』
『先制で奇襲。全力で敵の柱であるクレリックを殺す。』
『それだけでバフが切れれば勝手に敵は毒に侵され死ぬ。』
『同時に複数の手段を講じろ。』
生前の記憶だろうか?
初戦闘にも関わらず、何度も繰り返したかのように、いくつもの手段が思い浮かんでくる。
きっと生前と大してやっていることは変わらないのだな。
その事実にスパルトイは哂い、同胞に指示を出した。
『準備はいいか?』
丁度指示を出し終えたところでマスターから念話が届く。
そういえばマスターには殺されたはずなのに不思議と憎しみがわかない。
親のような存在だからか?生前の自分と今の自分はやはり別人だからだろうか?
『位置情報はこちらから随時伝える。俺は戦闘については素人だからな、戦闘指揮は現場のスパルトイに任せる。頼んだぞ!』
己が仕えるマスターの「頼む」という言葉。
その声を聞いてスパルトイは言いようのない歓喜に包まれた。
もしかしたらマスターによる刷り込みなのかもしれないが、そんなものは彼には関係なかった。
『・・・ああ!上級冒険者といってもしがないチンピラだった俺が、まるで!物語に出てくる騎士のようじゃないか!!』
【闘技 剣閃】【フレイム】【負のオーラ】
スパルトイの黒い炎の奔流を纏った剣閃が、アーチャーの射った矢が、ソーサラーの放った黒い塊が侵入者の一団に突き刺さる。
同時に水中を潜行していたスケルトン10体が侵入者を挟んで反対側の水面から飛び出させ挟み撃ちにする。
『まずは想定通りの始まりだ。
だが敵は強力、油断はしない。
ダンジョンに勝利を。』
スパルトイは炎にも負けない程の速度で壁を駆け上がり、呪文を唱えるクレリックを唐立割りにしながら集団中央に降り立った。
レゾロネン帝国 暗部 第3師団 団長 セルシル
それが現私の肩書きと名前だ。
私が団長を務めるレゾロネン帝国 暗部 第3師団は市井に紛れて情報を集め、分析し、時には要人の暗殺することを主任務とする非公式の集団である。
そんな私たちが何故この研究都市アントリム地下下水道の探索任務を行っている
かというと約半月ほど前に起きた異常な事件が発端となっている。
その事件とは約半月ほど前に諜報任務により研究都市アントリムに潜入していた部隊と連絡が取れなくなったことである。しかも何の前兆もなく、また同様のことが帝国だけでなく他国の、しかも同時に複数の国の諜報機関に対して起こったため、緊急性の高い任務として私たちが派遣されたのだ。
任務を言い渡されて、まず私を含め団員全員がそれぞれ別の立場でアントリムに入り、表向きの生活と調査を並行して行ってきた。
その結果として、どうやら各国の諜報部隊は下水道を拠点にしていたもの、下水道に入ったものが消息を絶っていることが判明したのだ。
本国への報告の為、連絡員を地上に残し、私たちは下水道内に降りて来たのだが・・・
ふと頭に浮かんだ益体のないことを振り払い、暗闇の奥を望む。
周囲には私と年齢も性別も違う男、女、若者、子供、老人、一般市民、チンピラと様々な種類の人間が自分と同じような装備を着て辺りを警戒している。
ちなみに私は今年でもう37になるが、そこそこ長い赤髪を後ろで結び自分で言うのもなんだが20代半ば程にしか見えない中性的な容姿をしている。
我ながら見事に威厳のない容姿だなあと思った。
この集団に紛れる分には問題ないが、できれば私の隣を歩いているゼスのように威厳が欲しかったな。
ゼスは厳つくどうみても堅気に見えない外見をしており私と違い威厳がある。
そう威厳があるのだ。私と違って。
羨ましいかぎりだ。
さて現在私たちは下水道の探索を順調に終えて、遂に最奥エリアまでやって来た。
そこは地上の研究施設から垂れ流れる謎の廃液により色とりどりに汚染され、生物の住める環境ではなかった。
正直任務に関係ないのではと感じたし、帰りたいとも感じたのたが、正式な任務という義務感からしぶしぶそこの探索を始めた。
事前に【状態異常耐性】【エアークロス】などの魔法をかけて廃液の毒素や何かしらの毒素を含む空気を風で遮断しつつ奥に進んでいると、どうも私達の背後を何かが追ってきているようだ。
私たちの通った経路上に隠密性の高い【探知】の魔法を仕掛けていたのだが、常に一定の速度で反応を返してくるので間違いなくほかの生物を狩る捕食者のような存在だろう。
他の国の諜報員か、知能が高い強力なモンスターか、それともそれ以外の何かなのか、いろいろな可能性を考慮しつつ、その何かを迎え撃つため仲間にしか見えない角度でハンドサインをだそうとした瞬間、
ゴウ!
「散会!」
膨大な黒い炎が突然背後から襲ってきた。
咄嗟にゼスが散会を命じたが間に合わなかった最後尾2人がまず炎の巻き込まれ視界から消えた。
次に矢や闇の魔法が後ろ側の飛んできたがこれはクレリックの守りの魔法とタンク役の戦士職の団員によって防がれた。
私はこの時点で即座に後衛職を部隊の中心に配置し、それを前衛職で囲んで守るオーソドックスな戦法を取った。もちろん足の速い者には牽制役として敵を引っ掻き回すように指示を出すつもりだったのだが、どうもその必要はなかったようだ。
ズシャア!!
炎が過ぎ去った次の瞬間、黒い霧を纏った錆色のスケルトンがクレリックを唐竹割りにしながら部隊の中心に降り立つ。
セルシルは嫌な予感を感じながらも、自らの剣に魔力を纏わせて、その錆色のスケルトンに斬撃を放った。
上手くまとまらないので、今度文章を直します。