初めての侵入者 前編
「侵入者が現れました。数は30。人数の増加はなくなりました。」
「ついに来たか。前回は元々下水道にいた人間だったからな。今回はダンジョン化して初めての侵入者だ。果たして下水道に用があるだけの連中か。それとも此処に気づいた、もしくは疑っている連中か・・・」
下水道の映像は見ることは出来るだろうか?
「コアよ。下水道の様子を見ることはできるだろうか?」
「侵食が完了しており、完全踏破達成済みのため表示できます。表示致しますか?」
「頼む。」
コアに告げると中空にSF映画に出るような少し透けたウインドウが表示される。
ウインドウには下水道のMAPに何種類かの光点が浮かんでおり、どうやら侵入者とモンスターの位置を表しているようである。
侵入者の光点を選択し、映像を表示させると其処には様々な格好の男女が映し出されていた。
『全員着いたようだな。各自装備を確認後、手はず通り探索を行え。』
映像の中でリーダー格らしき中年男性が指示を出している。
その指示が終わると同時にウインドウの中の侵入者は各々黒っぽい服に着替え出している。
細部は微妙に違うが皆うす暗い色の革鎧とタイツを組み合わせたような服を着込んでいる。どうやら同一規格の装備のようだ。
「・・・きな臭いな。」
おかしい。
最初は冒険者か浮浪者かと考えた。
しかし30人以上という大人数から、次に大規模な下水道の清掃とか調査などを目的としたアントリム正規の警備員のような連中かと考えた。
しかし映像に映っている連中は明らかにカタギではない。
そもそも正規の連中ならばこそこそ下水道内で着替えないし、あんな上等そうな装備は警備員どころではない。
あれではまるで軍人、しかもテレビとかで見る特殊部隊のようではないか。
「全モンスターは下水道から退避して2階層以下で配置について警戒しろ。湿地を見つけて入ってくるまでは絶対に手を出すなよ。」
すごく不気味だ。
嫌な予感しかしない。
危険だが少しでも情報を集めなくては・・・!
「コアよ、侵入者を常に補足して映像を出してくれ。後は・・・アメーバーと大ムカデ数体で連中を襲撃させろ。あくまで偶々下水道内で発生したとしてどのくらいの数なら怪しまれない?」
「アメーバーは下水道のような水分、栄養が豊富な場所ならそこまで珍しくありません。大ムカデも同様ですが、通常は群れず単独で動くため集団で襲うと怪しまれる恐れがあります。」
「では大ムカデは単独か2匹位で何度か襲わせてみてくれ。アメーバーは繁殖しすぎて余っているから怪しまれない程度に好きに使ってくれ。」
「了解しました。」
それから侵入者たちは1組6名で5組のパーティに別れてそれぞれ別ルートを進みながら下水道内を探索し始めた。
しばらく見ているとコアから準備が出来たという報告を受けたので、俺はさっそく一番弱そうなパーティとリーダー格がいるパーティを襲撃させてみることにした。
「なにこれ怖い。」
それぞれ大ムカデ2匹づつ奇襲させてみたがリーダーの方は索敵でもしていたのか奇襲前に察知されて逆に奇襲されてやられてしまった。弱そうな方も奇襲して動揺はしていたようだが傷一つ負わずに即やられてしまった。
・・・あれ、思ったよりコイツラ強くねえ?
普通小説とかでは最初は新米冒険者とかそこらの村人とかがダンジョンにやってきて
俺のダンジョンTueeee!!とかの展開じゃないのか!?
あ!少なくともそこらの村人が下水道の奥まで来ねえわ。HAHAHA!!
俺は予想が外れたことで既に冷静沈着なマスターという仮面が剥がれており、頭が真っ白になった。
俺はそのまま何もできずに侵入者たちの様子を見ているといつのまにか小一時間が経過しており既に下水道の6割近くを踏破されてしまっていた。
現在は5組のうち3組は途中合流して未だ探索していないエリアを探索している。
また他の2組は探索済みエリアをさらに入念に探索しており、遂にその2組に湿地帯への入口を見つかってしまった。
ドキドキしながら様子を見ているとどうやらこの2組は馬鹿なのだろう。
全員湿地帯に降りてきた。
普通1チーム上に残ってリーダーに報告とかするだろうに。
彼らの間抜けっぷりを見ていると落ち着いてきた。
よし、ここからはクールな荒川貫様のターンだぜ。
俺は冷静さをなんとか取り戻して指示を出す。
「湿地帯に侵入者だ。最初は身を隠して囲め。連中が入口から離れたら入口前に陣取って逃がさないようにしろ。」
どうやら連中の中にクレリックがいるらしく、全員にバフらしき魔法をかけている。
全員に掛け終え遂に奥に進みだした。
湿地帯はスネまで達する水と泥に覆われている。
また薄い瘴気の混じった霧に覆われ視界が悪く、アメーバやローパー、大サソリなどグロ御三家に加えてその進化形達も配置されている。
ここに生息しているモンスターも以前放り込んだタブレットの影響か普通の同種よりも体格が一回り大きくなっている。(※アメーバーは通常よりも色艶がいい)
おそらくこれなら湿地帯の連中もただでは済まないハズである。
俺はそう思いながら残りの3組の現在位置を確認しつつ、侵入した2組を迅速に対処することにした。
「どうやら下水道の連中は以前の未踏破エリアの方へ向かっているらしいな。あそこは毒ガスで視界も悪いし、チャンスか?スケルトンを大群で送って、いやスパルトイも送り込んで・・・」
「侵入者を3名撃退しました。」
「侵入者を1名撃退しました。」
「侵入者を2名撃退しました。」
「侵入者を3名撃退しました。」
「んん!?」
突然のアナウンスに慌てて湿地帯を見るとモンスターの大群に囲まれて食われている連中が映し出されていた。
それは想像の何倍も凄惨な状況で、生きたまま貪られたり溶かされたりされているようだ。
よく見ると湿地帯にはかなりの数のローパーや大ムカデが焼け焦げて倒れており、ほかにも潰されたり、切り裂かれているものも多くいる。
どうやら少し目を離した隙にモンスター達が襲いかかったようだが、下水道と同じようにサクッと返り討ちにあったようだ。
おそらく円状に固まって外周に位置している前衛が時間を稼いで中心付近の後衛魔法使いが炎で焼き殺したものと思われる。
ただ彼らにとって誤算だったのがその進化形であるアシッドアメーバーや骸殻ムカデによる襲撃、そして泥の中に潜伏していたジャイアントローパーによる後衛の無力化に対応できなかったことだろう。
結果、一瞬でバランスが崩れて、ローパーに捕縛された後衛以外は既に肉片であったり生きたまま食われている。
「お、オエエ!?」
端的に言うとグロい。
グロすぎる。
しかしこのままだとせっかく生きたまま捕まえた連中も食われてしまうので、
俺はえづきながらもモンスターたちに指示を出す。
「待て!?その三人は殺すな!迎えにゴブリンを送るからそいつらに渡すんだ。ほかの連中はそのままそこで隠れておけ!すぐにまた追加が来るからそいつらを食え。」
その後捕縛者をゴブリンに引渡し、生きたまま捕まえたジャイアントローパーにはご褒美として林檎を与えた。
「ゴブ助は今村にいるのか・・・。えっとすまないがお前の名前は何だ?」
「ゴブ作です、マスター。」
「彼らから装備を剥ぎ取って逃げないように捕縛しておいてくれ。ああ一応言っとくけどあとで尋問するから殺すなよ?ああ後俺はしばらく侵入者の対応で手を離せない。可能なら名前とか連中の目的とか聞いてみてくれ。」
「了解しました。」
「暴れるだろうから多少の怪我は許すけど、絶対に殺したりするなよ?」
「了解しました。必ずや命令を遂行致します。」
「任せた。」
このゴブ作は他のゴブリンと違い、喋りも滑らかで言葉遣いからも知能の高さが伺える。
この侵入を無事解決できたらもう少し話してみて取り立ててみるのもいいかのかもしれない。俺は再びコアに命じてスパルトイと他何体かのスケルトンを呼び出し、下水道へと向かわせた。