ゴブリン村にて
どうやら気を失ってから1日も眠っていたようだ。
俺は改めてダンジョンの状況に変化がないことを確認した後、席を立った。
これから森に行って日課の畑仕事を行ってからしばらくは様子見をするつもりである。
一応この下水道では衛生環境は悪いものの延々と生活排水やゴミが流れてくるので昆虫や小動物がなかなか減らない。そのためそういった生物を絶滅しない程度に狩っていけば人間に見つかるまでにある程度安全にダンジョンを成長させることができるだろう。
また狩れなくてもダンジョン内にモンスター以外の存在がいればその存在から少しづつDPを得ることが出来るので、それまでは静かにモンスターを増やして戦力を整えるつもりだ。
森エリアに入ると、そのまま迷うことなく木々の間を通り抜ける。
いろいろなオブジェクトを配置したり、森の水源に栄養豊富なタブレットを放り込んだためか、以前よりも自然が豊かになっている気がする。
動植物も順調に繁殖しているし、外界では珍しい薬草や鉱物などが採取出来るようになったことでダンジョン内であるにも関わらず人間にとってある種理想的な土地となっていることが皮肉である。
ある程度歩いていくと柵に囲まれた畑や果樹園、その脇の粗末な村が見えてきた。
俺がその村に近づいていくと村から一人の子供が走って近づいて来た。
「貫サマオハヨウゴザイマス。」
「ああおはよう。すまない、今日は寝過ごしてしまったようだ。」
「イエイエお気にナサラズに。既に訓練と農作業ハハジメテオリマス。」
「ん。とりあえず畑の様子を見てくるから、ゴブ助は自分の仕事に戻ってくれ。」
「御意ニ。」
今俺と会話しているのはゴブリン村の村長に就任したゴブ助である。
彼は大柄な子供ほど慎重であっるが俺の配下唯一のホブゴブリン・リーダーであり、なかなかの知能と戦闘能力を誇っている。
元々ゴブリンは成長が早い種族である。しかしスケルトンの訓練や不思議な栄養に満ちた泉の水を摂取していたためかこのゴブリンたちの成長は普通よりも早い。
繁殖によって生まれた第二世代以降のゴブリンは皆第一世代よりも発育が良く、体格もいい。またゴブリン・ファイター、アーチャー、ライダー、ファーマーなど進化したものも多く俺はこれからのダンジョンの主力はこうしてタブレットなどを多用して早急に進化下モンスターを配備しようと考えたいた。
「おはよう。皆。」
「「「オハヨウゴザイマス!!」」」
其処には30匹近いゴブリンが農作業に従事していた。
基本的に一部のオスや多くのメスたちがこちらに配属されている。
ちなみに80匹ほどのオスは今ゴブ助やスケルトン達と共に村の広場で訓練している。
(オスに対してメスが少ないなあ。DPを使ってメスを増やそうかな。メスの負担も大きいし、なにより人口・・・ゴブ口?の増加に制限が掛かってしまう。)
彼ら彼女らは進化に伴い、知能も格段に向上している。
相変わらず顔はブサイクな緑色のサル顔だが慣れれば愛嬌があるし、なにより下水や湿地エリアにいる連中と比較してグロくない。
このダンジョンにおいて彼らこそが癒しだろう。
それから素人知識ながら自分の知る限りの知識を農作業エリアのリーダーであるゴブリン・ファーマーのゴブ雄に伝える。
彼が進化するまでゴブリンにファーマーという派生がいるとは思っていなかったので本当に驚いた。ゲームでもファーマーなんて見たことがない。
ちなみに通常のゴブリンよりも体格がよく、筋力もかなり高い。
また作物の成長に補正が掛かるというスキルがあるため、彼にはこのエリアの責任者を任せている。日増しに収穫量が増えているのでまだまだゴブ口を増やしても行けるのではないだろうか?
「じゃあゴブ雄、転作についてはこのくらいでいいかな?俺も専門家ではないからよく知らないんだよ。」
「ありガトウゴザいます。とても勉強にナリマス。」
そう言うとゴブ雄はペコリとお辞儀をして、そのまま流れるような動作で美しい土下座に移行する。
「おいおい!?何でいきなり土下座するんだ!?それは謝罪の最上位系だって教えたろう?今は別の謝罪の場面じゃないだろう!?」
「アア、つい。」
「つい!?」
何故かゴブリンの間では土下座がブームになっている。
先日悪ふざけで教えただけなのだが、彼らの琴線に触れるナニカがあったのだろうか?
「・・・じゃあ俺は訓練を見に行くから昼時にでもまた野菜や果物を取っておいてくれ。」
「了解シマシタ。」
そうしてまたゴブ雄は流れるように土下座を行った。
俺はそれをあえて突っ込まず広場に向かった。
広場にいくとゴブリン達とスケルトン達が武器ごとに別れて訓練を行っていた。
粗末な手作りの棍棒、剣、斧、槍、弓矢であるが、中々様になっている。
まだまだ通常のゴブリン達は拙い気もするが、ファイターなどに進化したものたちはかなり上達している。おそらく今戦うとステータスが高い俺といい勝負なのではないだろうか?
スケルトン達も通常のスケルトンはゴブリンと大差ないが、下水道で倒した人間から作成したスケルトンは何故か強力な進化体が何体か混じっていた。スケルトン・ファイター、ソーサラー、アサシン、クレリックなどが居りそれぞれかなり強力である。
スケルトンは死体から作成する場合、元々の死体によって強さが変化するらしい。
大ムカデとか程度にやられたので期待していなかったのだが、相当強い奴が油断でもしていたのだろうか?まあ損はしていないので気にはならない。
むしろスケルトン・クレリックって明らかに矛盾している存在が混じっていることが問題である。クレリックはクレリックでも生前信仰していた神に代わって邪神とかを信仰しているために自滅しないのだろうか?
ある程度訓練風景を確認したあと、今度は集団から少し離れたところでマンツーマンで模擬試合をしているゴブ助と赤黒いスケルトンのもとに近づいていった。
他のスケルトンと違い赤黒い骨で構成されており、革鎧と黒い靄をうっすら纏っているスケルトン、スパルトイを眺めてみる。ゴブ助もかなり高い身体能力と技術を持っているのだが明らかにスパルトイの動きが別格である。
何せ一歩も動かず片手で全力のゴブ助を圧倒しているほどだ。
調べてみると、生前かなり強い存在をスケルトンにした場合で、更に何かしら強い絶望なり負の感情を抱いていた場合のみ発生するモンスターらしく、ステータス的にはただのスケルトンよりも全ての面で優っている。また生前の戦闘技術を色濃く受け継いでいることが多いらしく、この個体に関しては剣技に加えて初歩ながら多彩な魔法まで習得しており、間違いなくこのダンジョンではトップクラスとなるであろう。
俺はそれからしばらく訓練風景を眺めたあと、農業エリアに戻り畑を耕し始めた。
その日はそのまま畑仕事とゴブ雄との農作業トークに花を咲かせ、何事もない一日が過ぎて言いった。
そうやって平穏な一日を過ごした次の日、このダンジョン初の侵入者がやってきた。